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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   スーパー仕事抱え込みガール⑤

「そうだぞ仕事抱え込みガール。こうなったらアリスは止まらないぞー」

「ちょっと待ってて」

「何をする気なの!?」


 飛鳥の制止も無視して、アリスはカウンターから家の奥の方に向かってしまう。


「まあ、偶にはアリスに頼れよ。あいつは友達のためなら周り見えなくなるタイプだしな」

「あんたに言われるのも何か嫌ね。言っとくけど本当に大丈夫だから! 何も困ってないから!」

「はいはい。取り敢えず炒飯食べるからまた後でな」

「ちょっと! まだ話の途中で――」


 未だに抵抗しようとする飛鳥。

 しかし、その言葉は隣にいたマスターによって遮られる。


「飛鳥ちゃん。アリスがあんだけ言っとるんや。あんましキツイ反応せんでもらえるか?」

「ま、マスターも……。ずるいですよ、友達の親にそんなこと言われたら、逆らえないじゃないですか」

「だから言っとるんやで。ほなな」


 そう言ってマスターはひらひらと手を振りながら仕事に戻っていった。

 タイミングとしては完璧だったな。飛鳥はあんなこと言われてしまってはアリスに従うしかない。そうでないと単なる悪者になってしまうから。


 マスターも飛鳥が本調子じゃないのは気付いていただろうし、もしかしたらアリスがあの提案をした時点で今の言葉を挟むタイミングを伺っていたのかもしれない。

 普段こそふざけまくっているけれど、今回は少し真面目な感じだった気がする。気がする、だけだけど。


「本当にこの家族は……」

「いいじゃないか。そうでもしないとお前は聞かないだろ」

「そうだけどー」


 話しながら冷めないうちに炒飯を口に運ぶ。


 うん。今日も不味い。でも不思議と美味しくなってくる。

 本当にここの炒飯には変なもの入ってないのか不安になるほど、摩訶不思議な味を毎度提供してくれる。


「あんたもだいぶお節介になってきたわよね」

「そうか? 特に変わらんと思うけど」


 お節介というよりかは、このままだと飛鳥の身がもたなそうなので協力したいだけだ。一応同じ部活の幼馴染なんだし、倒れるとわかっていて何もしないのは俺自身の罪悪感を大きくさせるだけだ。


 あくまでも自分のための行動でしかない。


「変わってるわよ。少なくとも一年前のあんたなら、私にここまで絡んでくることもなかったでしょ」

「いや、前々から結構喋ってた方なんだけどな」

「話しかけるのは大体私からじゃない。あんたは人と関わることを意図的に避けてたし、だから友達も少なかったでしょ?」

「やめろ。どさくさに紛れて古傷を抉るな」


 あまりにも凄惨な過去の記憶を想起させられる。

 なんて恐ろしい奴。確かに小中と友達が多い方じゃなったけど、それでも人並みにはいた筈だ!

 えっと、三分の一人くらいはいたと思う。


「お待たせ」


 自分の胸を押さえて苦悶の表情を浮かべていると、店の裏に引っ込んだアリスが帰ってきた。

 満足そうに鼻をふんすと鳴らしながら。


「鈴音と斉場も協力してくれるって! これで部活で飛鳥の手伝いができるね」

「二人に電話してたの!? ……外堀から埋めるなんて、恐ろしい子」

「待って。俺アリスの連絡先知らない」

「山元のは、えっと、そのうち聞くね」

「どうしてだ!?」

「察しなさい!」


 アリスに詰め寄ろうとしたところ、頭を飛鳥に叩かれた。

 こいつ、年取るにつれて狂暴になってないか?


「こほん。そういうわけで明日から私たちが手伝うからね」

「ええ……」

「返事」

「はい……」


 アリスにジト目で見られて飛鳥は渋々頷くのだった。


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