スーパー仕事抱え込みガール③
「いらっしゃーい。……なんや、山元か。冷やかしなら帰るんやな」
放課後。
飛鳥と一緒にアリスの実家である喫茶店司を訪れる。
直前までアリスも一緒だったけれど、制服から私服に着替えてくるそうで裏口の方から入っていったので、入り口から来店したのは俺と飛鳥の二人だけだ。
鈴音も誘ったけれど、児童養護施設で誕生会をするらしく足早に帰宅してしまった。
「客にその態度はどうなんだ……」
「こんばんわ。アリスは裏口から入りましたよ」
「あらあ、飛鳥ちゃん! やっぱり礼儀正しいなあ! ほら、この席にどうぞ! 山元は床でええよな」
「いじめっ子か!? 俺も同じとこに座るよ!」
飛鳥と対面するように机を挟んで席に着く。
「あ、マスターいつものお願いします」
「俺は炒飯で」
「了解や! 少し待っとき!」
マスターはそのままカウンターの裏にあるキッチンへと向かっていった。
いつ見てもアリスの母親とは思えないアグレッシブな人だ。本当に。
店内には午後六時半を過ぎているのも相まってか、お客さんもかなり多かった。
まあ、大体は常連さんなのでマスターのあのような対応にも慣れていて今の俺たちのやり取りに眉一つ動かしていない。
「あいたた! ふう、少し座りすぎたかも」
「急にどうしたんだ、腰でも痛いのか?」
座るや否や飛鳥は腰をトントンと叩き始める。
老婆みたいだな――、なんて口に出したらとんでもないことになりそうだから舌先まで出掛けていた言葉をグッと飲み込み胃の中で消化しておく。
「体育祭で少し腰を痛めたのよ。普段から酷使してるから、そのツケが来たみたい。夜もずっと休まず使ってるから」
「……」
「……別にエロい意味じゃないわよ」
「なにも言ってないだろ!?」
「そういう目を向けてたでしょ! 女の子はわかるんだからね! 男子のそういう目!」
本当に言いがかりはやめてほしいものだ。
いくら高校生男子とはいえどもそこまで何でも性関連の事柄に結びつけるわけないだろ。……まあ、全く考えなかったかといわれると嘘になるけどそれはこいつの言い回しが悪い。
「さいってー。うら若き乙女の肢体をなめ回すように見ないでくれる!」
「お前ってやっぱりムッツリだよな。そんな言葉出てこないわ」
「それはあんたが阿呆なだけよ! 第一ムッツリはアリスくらいじゃない」
「それもそうだな。悪い」
「いいのよ、わかれば」
「何で私が変態にされるの!?」
いつの間にか到着していたアリスが目を丸くして驚いていた。
私服、といっても最初にであった頃の服装で白いワンピース姿だ。秋になりそろそろ寒そうだけれど、家の中は暖かいから気にならないのだろう。
「あ、聞いてよアリス。最近腰が痛くてね」
「うん、それは大変だね。でも今は私の扱いについて聞きたい」
「マッサージ頼める?」
「凄い無視するね!? いいけど!」
アリスは不満そうにしながら飛鳥の背後に立った。
本人は否定しているけど、どう考えてもアリスはムッツリだよな。たまにその片鱗を覗かせることがあるから間違いない。
アリスはおもむろに飛鳥の肩に手を落とすと、驚いたように目を見開いた。
「うわ、本当だ……。もしかして、結構全身こってる?」
「そうかも……。ストレッチもめんどくさくて怠けてたから」
「もう。飛鳥は疲れが溜まりやすいんだから、ちゃんと管理しないと駄目だよ」
整体のような会話に首をかしげる。
飛鳥は当たり前のようにアリスに肩を揉んでもらっているけど、その光景はまるでお婆ちゃんと孫。
いや、違うな。舎弟と兄貴分みたいな感じか……。
俺の気づかないところで二人がそんな関係になっていたなんてな。女って怖い。
「それでアリス、どんな弱み握られてるんだ?」
「え?」
「あんたね、どんな思考回路してたらそうなるのよ」
どうやら上下関係じゃないっぽい。
じゃあ、何でアリスは肩を揉んで……?
「アリスにはうちがある程度のマッサージ療法を教えたんや。知ってて損するものじゃないやろ?」




