スーパー仕事抱え込みガール②
本当にこの二人は仲がいいな。
間にいる鈴音はキラキラした目で二人の勝負を見つめている。
「いきますわよ、デュエル!」
それが二人の開戦の合図。
料理研究会と茶道部。互いの意地をかけての決闘がいま始まる……!
「ぶぇええええん! 先行ワンキルですわー!」
「うふふ。札がよかっただけですよ」
十五秒くらいで終わった。
山川は自信満々に提案したカードゲーム勝負だったけど、知覧の方が遥かに経験者だったようでカードを触る手つきから違っていた。おまけに運も味方したようで、手札に揃ったら勝つという特殊勝利のカードを何か色々なカードを使って直ぐに揃えてしまったのだ。
「今月も私の勝ちですね」
「ぐぬぬぬ! 覚えてなさいですわ! 来月はまた他の勝負を挑むので覚悟の準備をしておきなさい! ごめん遊ばせー!」
そう言って負けて涙目になった山川は足早に部室から去っていった。
部室のドアを勢いよく開けようとして、建て付けが悪く重いので手を痛めていたけれど。
「あいつはよくもまあ、いつもあれだけの元気があるな」
「そこが節子の良いところだよ」
「うんうん! 一緒にいると元気になるもんね!」
アリスと鈴音が二人して頷く。
山川があれで人気者なのは裏表のない性格だからだろうな。
「今月もありがとうございました。飛鳥さんも頑張ってくださいね、応援しています」
知覧がそう言って俺の背後に話しかける。
その時初めてもう一人部室にいたことに気がついた。
「ありがとう、助かるわ」
「うお、飛鳥いたのか。何してるんだ?」
飛鳥は部長席に座ってこの状況を歯牙にもかけずにパソコンを弄っていた。
今も話ながら、カタカタとこ気味良いタイピングを続けている。
「んー、もうすぐ生徒会選挙が始まるでしょ。今はその準備中。色々と書かないといけないものが多いのよ」
俺が尋ねて初めてパソコンから手を離す。そして、猫のように机に両手を置いて体を伸ばしていた。
「大変そうだね……。なにか手伝えることある?」
「あ、そういえば応援演説があるでしょ! あれ私やるよ!」
アリスの言葉で思い出したように鈴音が手を挙げる。
応援演説ってあれだよな。立候補した人が公約みたいなのを読む前に、その人の長所みたいなのを全員の前で発表するみたいな。
俺だったら頼まれてもやりたくない役割だ。
「あー、ごめんなさい。もう決まっちゃってるのよ」
「え、そうなの?」
鈴音が首をかしげると、近くにいた知覧が頷く。
「はい。私が飛鳥さんの応援演説をさせていただくことになりました。力不足は承知ですが、全力で取り組ませていただきます」
どうやら知覧が飛鳥から任されたらしい。
なるほど、確かに知覧なら適任かもな。頭も良いし、何より国語が得意そうだ。原稿もかなり質の高いものになるだろう。
「そっかー……、じゃあ私は陰ながら応援するよ!」
「それは大っぴらにしても良いから……」
鈴音もそれを理解していた。
いつもなら少しくらい抵抗しそうだけど、今回はあっさりと納得して身を引いてくれた。
「飛鳥でもそんなに疲れるくらい大変なんだね」
「うーん、まあこれだけじゃないのよ? 色々と仕事や頼まれ事が多くてね」
「何か手伝えそう?」
「いいのよ。私が好きでやってることなんだから」
アリスの指摘どおり、飛鳥は少し顔色が優れない。
昔から一人で無理をするようなことがあったけど、今回は部活の仲間として助けになれるなら協力したい。
目の前でしんどそうな人を見捨てるほど、人間的に腐ってはないんだし。
「あ、飛鳥さん。仮ですが応援演説の下書きが出来たので拝見してもらってもいいですか?」
「速いわね。見させてもらうわ」
予想どおり仕事が出来る知覧は、A4くらいのプリントを飛鳥に渡していた。
「それにしても、知覧がこういうのに協力するって珍しいな。お前人前に出るの嫌いじゃなかったか?」
それまでにこやかに笑っていた和風少女は、俺の一言に少し不気味な笑顔を浮かべた。
「まあ、それはそれですよ。今回飛鳥さんが当選したら、茶道部の部費を上げてくれるそうなので。あと、来年の春に新入生用の部活紹介ポスターを良い場所に配置してくれるとのことでしたから」
「お前、物で釣ったのか」
「ふ、綺麗事じゃ人な上には立てないわ! 使えるものは使うのが賢い生き方よ!」
流行りの悪役令嬢かのように声高らかに飛鳥が笑う。
汚職政治家って多分こんな感じで生まれていくんだろう。
あれ? そういえば、こいつ入学当初は俺の不真面目を矯正するとか言ってたよな?
オカ研との関わりで大分毒されたみたいだ。
アリスがそんな飛鳥を少しだけ頬を膨らませて細目で見ていた。
「私、飛鳥に投票するのやめようかな」
「私もです」
「俺もだ」
「ごめんなさい! 今回だけです、見逃してー!」




