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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   秋の暑さに④

「当然。その為に一年から入ってたんだもの」


 胸に手を当てて自信満々そうに語る飛鳥。まだ結果は出ていないけれど、飛鳥のスペックと人気なら当選は確実だろうな。

 幼なじみなので、飛鳥のことはそれなりに知っているつもりだから言えるけれど。基本的に真面目な良いやつだ。たまーに、暴走して訳のわからないことをする時もあるけれどあの部長に比べたら可愛いものだ。


 ん? あの部長?

 誰のことをいま考えた?


「あんたは借り物競走に出るのよね?」

「ん、ああ、そうだ」


 その考えは、飛鳥の質問によって中断された。

 直ぐに思い出せなかったということは、そこまで重要な記憶でもないのだろう。


「アリスは何に出るの? 大縄跳びは団体じゃない。個人も一つくらい出るんでしょ?」

「アリスは縄跳びだけだぞ」

「へー、行事には積極的に参加しそうなのにね」

「体力の問題で、複数競技は難しいっぽい。本人は参加したがっていたけど先にマスターが先生に連絡してて駄目になった」


 むしろその連絡がなければアリスは可能な限り競技に参加していただろう。

 それを聞いた飛鳥は、はっとしたように手を口に当てていた。


「そういえばそうね、配慮不足だったわ。そ、そういえば鈴音! 鈴音はどうなの?」


 話を変えようと少し大きめの声を出す飛鳥。俺もこの話はそこまで続けたいものではないので、飛鳥の質問に答える。


「鈴音は――」


 まあ、これは説明するより見た方が早いだろ。

 競技のプログラムが書かれたプリントを取り出す。

 そして、指で数個の種目を指差した。


「これ以外全部に出る」

「……え?」

「これ以外全部だ」

「……あ、へー。鈴音らしい、わね? 道理でこの時間に話しかけてこないと思ってたわ」


 明らかに信じられず動揺している様子だけれど、話しているうちに自分の中で折り合いを着けて納得した感じだった。


 疑問と理解を同時に行うというなかなかの高等テクニックを疲労してくれる。


 飛鳥はプリントから顔を上げてグラウンドを一見する。そこでは無限の体力を持った鈴音が元気一杯に駆け回っていた。

 アリスは縄跳びでこの様子だというのに……。


「同年代でも凄い差だな」

「二人が極端なだけよ」


 仲の良い二人の根本的な体力の差に俺たちは苦笑いを浮かべていた。



ーーーーーーーーーーーー



「いってて……。まだ痛むな」


 部室に向かう途中、廊下で筋肉痛に襲われている肩をぐるりと回す。


 一昨日の体育祭で、普段運動しない俺の体は限界を超える動きを強いられてしまった。結果として情けないことに振り替え休日は筋肉痛で外に出れず、二日目の今日もまだ残る違和感に悩まされている。


 体育祭でも色々と面倒ごとに巻き込まれたから、多分俺は疲れた人ランキングがあれば上位三人に入るとは思う。誰かに労ってもらいたい。


「こんにちは優作さん。何か変な歩き方ですね?」


 そんな俺に子供のように高い声で話しかけてきたのは、担任であり部活の顧問でもある串木野いちき先生だ。


 身長も一回り小さいので串木野先生と話すときは顔を下に向けなければならない。

 小動物のような人なので男女問わず可愛がられている。本人は子供扱いに否定的だけれど、正直仕方ないだろうな。


「体育祭の後遺症です。実は、肩を動かすと痛みが走るんですよ。……もう、長くはないかも」

「ふええ!? 病院には行きましたか?」

「冗談っすよ。軽い筋肉痛です」

「むー! 大人を騙したんですね! いえ、今のは私が馬鹿でしたね! 悔しいです……」


 がっくりと肩を落として項垂れる。

 うん、可愛い。

 保育園児と一緒にいるみたいだ。


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