秋の暑さに②
「よ! 優作!」
三限目は学年全体で体育の授業だ。
夏休みが明けて最初にある学校行事なのだが、長期休みで鈍った体を容赦なく殺しに来る。学校行事の中でも特にしんどい行事なのに暑さの残る九月ごろに行うなんていかがなものだろうか。
確実に嫌がらせとしか思えない。
そんなことを考えながら更衣室に入ると、孝宏が上機嫌で話しかけてくる。
何か面倒そうな雰囲気だったので、制服を脱ぎながら流れ作業のように会話してやろう。
「やけに機嫌がいいな。何企んでるんだ?」
「失敬な。僕だって挨拶くらいするよ」
「そこまで爽やかじゃないだろ」
「お、二人とも何しているんだ? 着替えたら校庭に行くぞ」
ピッチピチの体操服を着た大門寺まで寄ってきた。
体操服の肩部分は筋肉が浮き出るほどに肥大している。筋肉フェチの人からは絶大な支持を得そうな体型である。
「体育祭の練習は退屈だが、バックレては駄目だぞ」
「ふ、僕がそんなことするわけないだろ。今年の体育祭は僕が主役だからね!」
「凄い自信だな。何の競技に出るんだ?」
「障害物競走」
「む、俺と同じだな」
「え?」
孝宏が静かに地面に膝をついた。
基本的に運動は出来る男だけど、流石に現役の運動部。それも大門寺レベルになると勝ちの目は無いだろう。
おそらく競技で一位を取ってこれ見よがしに自慢しようとしていたっぽいけど、色々と哀れな男だ。
「一人一種目は強制だったが、優作は何の競技に出るんだ?」
「俺か? 借り物競争だ」
「え、意外……」
「そういえばそうだったな! がっはっは!」
事情を知っている大門寺が大きな声で笑った。
孝宏は別なクラスなので、競技決めの際の一悶着を知らないのだ。
「殆ど強引に決められたんだよ。主にアリスに」
「アリスちゃんに?」
首を傾げる孝宏。そうこうしている間に、三人とも着替え終わっていた。
「上赤が妙に張り切っていてな。近くの席にいた優作や鈴音が巻き込まれて、個人競技を選ばされたんだったよな!」
「ああ、確かにアリスちゃん学校行事なら何でも好きそうだもんね。目を輝かせながら決めてる姿が浮かぶよ」
「委員長の大門寺じゃなくていつの間にかアリスが仕切ってたもんな」
三人してうんうんと頷く。
アリスはクール系に見えて意外と活動的なので、学校行事は特にはしゃぐタイプなのだ。文化祭はオカ研の出店で他の生徒の出し物を見られなかったのを、少し後悔していたし。
「ちなみにアリスちゃんは何に出るの? そんなに率先したんなら二個くらい出てるんじゃない?」
「ああ、アリスは――」