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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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   天才少女の未練⑥

 山道から抜け出すと、前方にビニールハウスの置かれた畑が見える道路に出た。

 昼は田舎の和やかな雰囲気を感じられそうだけど、外灯も少なく夜は月明かりがなければ真っ暗になりそうな場所だ。


「ふう。やっとゴールだ」

「疲れた」

「……全部お前らのせいだろ」


 ジト目でアリスを見ると、知らぬ存ぜぬの顔でぷいっと横を向いた。


「優作お疲れ!」

「よ! 女の子との肝試しは楽しかった?」

「え、ねえ? 最後のアリスのマジック、なんで誰も言及しないの」


 仕掛人の三人が遅れて藪から飛び出してくる。

 全員友華を喜ばせたいとは思っていたのだろうけど、残念ながらギリギリ最後まで耐えられなかったので感想を聞くことが出来ない。

 まあ、友華のことだから素直にならないか。まあまあだったわ、とか言うのがオチだろう。


「いつから今回の話を進めてたんだよ。俺だけはぶってたんだな……」

「違うわよ。私とアリスもさっき聞いたもの、孝宏と鈴音の二人で殆ど考えてたらしいわ」

「そうだったのか。それは、残念だ」


 ということは飛鳥の趣味は本当だということか。この記憶は、心の奥底に多重ロックをかけて封印しておこう。


「何が残念なのかしら?」

「はは。なんでもないよ」

「そういえば友華ちゃんダメだったんだね。最後の最後で気絶するなんて」

「ホントだよ、アリスちゃんのマジックすごかった! あれどうやってたの?」

「鈴音、マジシャンは種を明かさない」

「かっこいい!」


 夜遅くだというのに自然とギャーギャー騒ぎ始める。

 その光景が、友華のいない俺たちの輪が妙に違和感なく感じられたのは多分全員二年生だからだろう。学校の場面の一つとして、こんなことはよくあることだ。


 これが普通の光景。


「ん、むう……。あら、ここは」


 騒ぎに気がついて俺が背負っていた友華が目を覚ます。


 そうだ。忘れていたけど今は友華をおんぶしていたんだ。


 幸いにも俺の背にのっていることに気づいて暴れることはなく、目をぱちくりさせながら周囲を見渡していた。

 今日の友華はいつもと違って子供のようだ。


 年齢的には俺たちはまだ子供だけれど友華はその中でも普段は妙に大人っぽい。

 他に影響されない性格と、知識の多さがそう感じさせる。


「友華ちゃん! ……肝試しどうだった?」


 鈴音が無邪気に、いや少しだけ不安そうに尋ねた。 

 きっといつものように、そっけない返しをされるだけだというのに。鈴音も器が大きい。

 俺の背中でそれを聴いた友華は、クールな微笑を浮かべ――。


 いや、見たこともないような満面の笑みを浮かべた。


「ええ! すっごく楽しかったわよ!」


 初めて見る友華の表情にその場にいた全員が目を見開く。

 まるで今までが我慢していたかのように、自然に出た笑顔は友華を全力で引き立てている。


 一年少し一緒にいて、初めて見るその表情に自分の心臓がドキリと脈打ったのがわかった。


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