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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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   天才少女の未練③


 優作と友華の二人を監視できる木陰にて。


「ごめーん……、失敗した」

「仕方ないわ。空気の読めない馬鹿のせいだから」

「あれを言われたら帰るしかないよ」

「うん、すごく気まずかったから逃げてきちゃいました」

「素が出てるわよ。次は誰が行くのかしら?」

「あ、私が――」

「僕に任せてよ!」

「孝宏? 珍しく積極的ね」

「まあね。この日のために用意したものがあるから、これで二人を恐怖のどん底に落としてくるよ!」



―――――――――――――――――――



 友華と山道を歩く。


 鈴音のゴミ袋お化けが相当効いているのか、少し先程よりも距離が近いところをついてきていた。

 山道なので安全な道といっても、少し凸凹があり歩きづらいな。


「友華。足痛くないか?」

「ん。大丈夫よ、ありがとう」


 いつもなら、お黙り前見てとっとと歩きなさい、と言ってきそうなのに感謝の言葉まで述べるとは……。

 普段が横暴な奴だから、ここまでしおらしくなると少し緊張してしまう。その、雰囲気が変わりすぎて。

 肝試しってすごい。


 ざ! 


 突然目の前の木から何かが落下してきた。


「おわあ!」

「あう」


 俺も思わず叫んでしまう。

 落ちてきたのは包帯でぐるぐる巻きにされたマネキンだった。

 び、びっくりした……。鈴音との差がありすぎるだろ。

 これを仕掛けたのは孝宏って感じがする。変なところに凝り性なのがあいつっぽい。


「ゆ、優作……」

「落ち着け、マネキンだって――はいい!?」


 振り返って友華を見ようとしたら、それよりも先に俺の腕にしがみついてきた。

 な、なんだ!? 腕に柔らかい何かが……!

 というかどうして友華はこんなことをしている! いくら怖くても、ここまでの行動をする奴じゃないはずだ!


「ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃったわ……。情けないのはわかっているのだけれど、その、腕を借りていいかしら……」

「あ、ああ。大丈夫だ」


 必死にクールぶってみたが声が上ずってしまう。

 孝宏。ここまでお前に感謝したのは初めてかもしれない。



―――――――――――――――――――――――



 二人が見える位置の木陰にて。


「ね、ねえ、あの二人何か近くない!」

「落ち着きなさいアリス。友華が腰でも抜かしたんじゃないの」

「うぃー! 皆お待たせ、大成功だ!」

「孝宏……」

「鈴音ちゃん、僕も偶にはやるだろう?」

「流石に本気すぎて引いちゃってるよ」

「もう取り敢えず批判じゃねえか!」

「まったく、あんたは少し加減しなさいよ。友華が怪我するところだったじゃない」

「うぐ! ま、まあ反省してますよー」

「そ、そんなことより山元が! 友華とくっついてる! エッチだ!」

「アリスちゃん落ち着こう?」

「う、うん。じゃあ、今度は」

「しょうがないわね……、次は私が行ってくるわ」

「飛鳥ちゃんが? 急だけど何か出来るの?」

「ええ、真の恐怖を教えてあげるわ」



―――――――――――――――――



 友華がくっついているので先ほどよりも歩くペースは遅くなったが、もう半分を超えた頃だろう。途中の曲がり角に右向きの矢印が描かれた看板があったのを確認したので道も間違えていないはずだ。

 孝宏。鈴音ときたら残す仕掛け人はアリスか飛鳥だな。


「なあ、友華」

「何よ」


 さっきから全然俺の腕を離してくれない友華。

 流石に可愛そうになってきたから、そろそろこれがドッキリだと教えよう。


「多分だけど、これは他の奴らが仕掛けてるドッキリで本当の怪現象じゃないぞ? そこまで怖がるもんじゃない」


 俺の気遣いに友華は一度視線を合わせてから目を細めた。

 何言ってるのかしらこいつ、といった感じで。


「馬鹿なのかしら? 幽霊が苦手な人間がお化け屋敷は平気なわけないでしょ? どっちも同じなのよ。暗いところで怖い雰囲気の場所で、驚かされるのならこっちの方がたちが悪いわよ。考えたらわかるでしょ、馬鹿なの?」


 こいつ、置いていってやろうかな。

 腰が抜けて満足に動けない癖に性格までは変わらないようだった。いや、何かいつもよりも生意気になっている気さえする。


「そうかよ。ま、そうなら腕はこのままでいいけどさ」

「当たり前じゃない。あなたの腕は私の物よ、掴んでないと不安になるわ」

「……」

 

 え。何こいつ。

 男を落とすテクニックでも磨いていたのだろうか。無自覚でこれを言っているのなら、相当な魔性の女になるだろう。

 現に俺の体温は嫌が応にも上昇していて――。


「お前、体調悪いの?」

「安心しろ、夏風邪だ」

「安心できないのだけれど!」

「冗談だ。さっき食ったキノコが毒ありだったんだろう」

「お前は猪なのかしら……」


 よし、冗談を言ったら少し落ち着いた。

 全てにおいてスペックの高い友華から俺に気があるような素振りをされたら、冷静さを欠いても仕方ない。


「て、あら? あれは飛鳥じゃないの」


 友華が指さした先には少し見えづらいが進路の先に、飛鳥が仁王立ちしていた。

 前の二人はあくまでも肝試しの体を保っていたのに、まさか姿を現すとは。

 あいつ真面目すぎて肝試しを知らないとか?

 いや、流石にそれはないか。ないよな?


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