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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
序章・アリス
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   記憶探し②

「んで、学校に知り合いはいたか?」


 屋上の他の場所とは違う独特の空気間を味わい、脳が普段とは違ってリラックスモードになり始める。流石にこれ以上怠けると後の作業に響くのでアリスに話題を振る。

 アリスは少し残念そうに目を細めた。


「いなかった。全員を見てはないけど、半分くらいは教室も回ったよ」

「そうか……。じゃあ、明日で全員見れるんだな」

「単純計算ならね。この学校は変に濃い人が多いから、人探し中につい観察しちゃう人がいる」

「変な奴がいたのか?」

「うん。授業中に早弁してたと思ったら、急に塩気がないとか言って味付けを始める子が一番ビックリしたかな」

「それ系か。なら候補が十人ほどいるから絞れないな……」

「大丈夫なのここ!?」

 

 それまでボーっとしていたアリスが驚いた猫のように体を強張らせた。


「ま、そんなことよりも明日で終わりそうでよかった。思ったよりも早く片付きそうだな」

「うん。でも、もしかしたら誰も知らないかも。……私がこの町の人間かも分からないし」


 そう、アリスは気づいたらこの町の駅前にいた。

 つまりそれは、他の遠い場所から来た可能性もあるということ。そうなると俺では正直お手上げだから、今は楽観的に考えそうではないと信じている。


「ま、なんとかなると思う」

「そうかな?」

「おう。そう考えてる方が楽で良いだろ?」

「……確かにね」


 アリスが少しだけ笑う。 

 少しでも沈んだ気持ちから解放されたのなら良かった。


「じゃあ、駅前行くか。どこ駅か分からないから案内してくれ」


 俺が言いながら立ち上がるとアリスは不思議そうに見つめてくる。


「ん、なんだその顔? 俺は色んな人と喋れるから、人の多い駅前でお前について聞こうと思ってな。銀髪でアリスって名前の人間は日本にはそういないだろ」


 アリスがぱあっと笑顔を浮かべたのが分かる。

 意外だが感情表現はかなり分かりやすいんだよな。そして、喜んだ顔はこの世のどの芸術作品よりも美しく一瞬目が離せなかったが、アリスには気づかれなかったので幸いだった。


「うん! ありがとう!」


 純粋な感謝の言葉と一緒に、俺はアリスと屋上を後にした。



――――――――――――――――――――――――



 町は駅を中心に栄えるとは根拠のある定説だ。

 旅行者や観光客の多い駅前は、古くは商店街、現在は高層ビルや駅と複合したショッピングセンターなんてのもあり目に見えて華やかになっている。


 この町も例外でなく駅から直で行ける大型のデパートや、徒歩二分の位置に下半分は商業施設、上はマンションになっている大型のビルもある。


「にしても、まさか中央駅とはな」


 地元の中でも最も人通りが多い場所。それが中央駅だ。

 学校から徒歩で三十分程の位置にあり大きな商店街を抜けた先にある駅で、近づくにつれて人通りも多くなったのを実感していた。

 今は駅の中でなく、外にある広場にいる。よくわからない人の銅像や市電用の駅も見える場所だ。


「うん。私も最初はびっくりした。急にこんな場所にいたから……。あと色んな人に無視されて悲しいからあまり来てない」

「そ、そいつは災難だったな……」


 どこを見ても人、人、人。

 聞き込みにはうってつけの場所だけど、アリスのメンタルも減らされやすいらしい。


「でも山元も一緒だし今日は頑張ってみる」

「おう! 俺も来たからには協力するよ」


 アリスに言うと、何故か不安そうに俺を見ていた。

 あれ、決め台詞のつもりだったんだけど。


「どうした? そんな顔して?」


 至極真っ当な事しか言っていないと思うが、周囲をおろおろと見回して最後に俺を見る。


「その、私は他の人から見えてないから声を抑えた方がいいよ。」

「あ!」


 言われて自分の行動を思い出す。そうだ、確かに周りからすれば一人で喋っているヤバい奴だと思う。

 幸いにも今はそこまで注目されてないが、続けるのはよろしくない。


「私がアドバイスするから、山元はその真似をして。私本人について聞くから、その方が会話もしやすいと思うし。人前で話しかけたら、変な人に見られるよ」


 アリスの声は他人に聞こえないので、俺は質問の内容をアリス自身に考えて貰いそれを聞くだけ。

 これなら確かに相談する手間もないし、俺の作業も単純なので楽そうだ。


「わかった。頼むぞ」


 小声でそう言って俺は人混みに入る。アリスは右側からついてきていた。


「じゃあ。まずは、あの女の子。いくよ」

「……あの子か? 気が小さそうな雰囲気だな。不安がらせることは言うなよ?」

「わかってる。ほら、行こ?」


 アリスが指定したのは年下っぽい女子。学校は違うが、アリスと年も近そうだ。

 俺はその子に近づく。

 アリスが耳元に口を近づけ小声で話しかけてきた。

 俺はそれを反復するように声を上げる。


「よ! そこの可愛い女の子!」


 一瞬驚いたように周りを見渡したが、自分に話しかけてきたのだと確信しその子は俺を見てくる。


「え、わ、私ですか?」


 恥ずかしいのか顔を真っ赤にして尋ねてくる。初々しいリアクションだ。俺の周りの女子は絶対にこんな顔しないだろう。


「そうだよ。君可愛いね。夕焼けも君ほど眩しくはないだろうよ。」

「え? は、はあ?」

「少し聞きたいんだけどアリスって知ってる? 君と同い年くらいの子がいるんだけど」

「あ、アリス?」

「知らないのかい? みんな知ってると思うんだけどなあ。君くらいの年齢ならそろそろ知る頃じゃないかい?」

「ふえ! そういう話なんですか!? す、すみません。私ちょっと用事が」

「君が必要なんだ! 君からは才能を感じる! 頼むから質問に答えてくれ!」

「ええ! う、あの、その、私なんかでいいんでしょうか?」

「君じゃなきゃダメなんだ。さあ、答えてくれって、ふざけんなあ!」


 俺は即座に地面に頭を擦り付けて土下座した。


「すみまっせん!」


 そして、立ち上がり人通りの少ない近くの路地裏に逃げ込む。


「え……? なんだったの、今の?」


 最後に少女の呆気にとられた声が耳に入った。本当にすまない!


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