彼の背中②拳闘士
何もない場所に生まれ
何も持たない俺が
何者かになるために
今日も明日も明後日も
愚直に拳を振るい続ける
両親の寵愛を受け
食べる物にも困窮せず
安全に暮らせる街に住み
不自由なく生活して来た奴らは
きっと俺のことを鼻で嗤うだろう
同じ気持ちを味わってみやがれ
同じ苦労を背負わされてみろ
嫉妬とも憤怒とも怨嗟ともつかぬ
心の底に沸々と湧く醜い蟠りを
拳に込めて何度も叩きつける
もしも獣人に生まれなければ
もしも教会に預けられなければ
もしも容姿に恵まれていたならば
そんな詮無い妄想に現を抜かさぬよう
己の甘さを痛みで打ち消す
牙が折れようが骨が砕けようが
栄冠を掴み取るまでは
俺はマウンドに立ち続ける
倒したければ正々堂々かかってこい
幾らでも相手してやる