第七話 王都散策
今回は、意外とまったり。
作戦実行2日前、気晴らしにロキシアは王都観光へ。
俺はルージュの姿でギルドにやってきた。
おれものんびりしたかったが、ギルドから呼び出しをくらった。
なんでこんなにのんびりする暇がないのだろうか……。
朝早くから行っているのにギルド内は賑やかだ。
俺が入った瞬間、ほぼ全員の冒険者が一斉に頭を下げ、
「「「「「「「どうぞ!お通りください!」」」」」」」
……。SSランク冒険者、やめていいかな?
そんなこんなあって、俺はカウンターへ向かった。
俺に気づいた受付嬢は慌てて奥の部屋へ駆け込んだ。
その瞬間、奥の部屋からものすごい形相で向かってくる男がいた。
しかも速い!向こうの世界ではウサイン・ボ◯トより速いんじゃね?
ってゆうか速すぎて通り過ぎたし。
「大変申し訳ないです。このミルフィード王国王都ギルドマスターをしております、ゴリアテと申します」
筋肉ムキムキマッチョ。THE・脳筋って感じ。
彼はもともとSランク冒険者だったらしく、相当の実力者だ。
「ここで話しては迷惑でしょう。どうぞこちらへ」
「わかった」
そう言うと、奥の応接室へ通された。
応接室内で出された紅茶を飲みながら、ゴリアテの話を聞いていた。
「わざわざ来てくださってありがとうございます。早速で申し訳ないですが、調査していただきたい案件が御座いまして……。その内容は『誘拐事件の調査』です。ここ最近になってから王都内や王都周辺での誘拐事件が多発してまして。そこでSSランクでいらっしゃるルージュさんに手伝って頂きたくて……。『煉爆の赤髪』ルージュさん」
「その二つ名で呼ぶのは止めていただきたい。俺も呼んでほしくてやっているわけではない。……要件はそれだけか?俺も今はある依頼を受けている。依頼の重複は禁止されているのではないのか?」
「そうなのですが、あなた以上の適任者がいないのです。ここ数年、高ランク冒険者が事件解決のために動いてくれていたのですが、次々と失踪しています。Sランクはおろか、Aランク冒険者も少なくなっているのです。なので、あなたの力が必要なのです。一応は王国の騎士団も原因究明に協力していただけるとのことなので、せめてお力添えをお願いします」
ただでさえ忙しく暇がないのに、さらに仕事が増えるのか……。
「……わかった。主力とまではいかないが、手助けや少々の荒事はやってやる。だが、俺には俺なりの優先順位があるんでね。それは了承していただきたい」
「もちろんですとも。SSランク冒険者の後ろ盾があるだけでも心強い。よろしくおねがいします」
また厄介な仕事が増えた。てか1つの依頼はもう99%終わっているようなものだ。
おれもそろそろ休暇というものがほしい。
気づけばもうお昼、午後は観光でもしようかな。
午後は王都観光にした。
初めにいたバイサスという街も大きかったが王都のほうがより大きい。
王都には区域があり、北の一角に聖騎士区、北の大部分に貴族区、南に平民区、東に商工業区、西に軍事区がある。
今向かっているのは商工業区。この国の娯楽品などの文化を知りたくてやってきた。
転生して3年間、ずっとギルドの依頼を受け続けていて、この世界の文化に触れていなかった。
第二の人生を楽しむためには、この世界の文化が必須だ!
というわけで、やってきたのはミルフィード王国三大商会の一つ、サンカラ大商会にやってきた。
入り口は大きな扉に、壁はレンガ造り。外見はキレイだ。中に入ると、明るすぎる照明のせいで目が開けられない。
ようやく目が慣れるとそこには数多くの品々がズラリと並べられていた。さすがはサンカラ大商会、すごい。
広い店内を彷徨うこと20分、ようやく遊戯コーナーに来れた。広すぎだろ、この商会。
遊戯コーナーを見廻った感想は……。うん、遊戯品が少ない。
少ない、少なすぎる。日用製品を100とおいたとき、遊戯品はたったの0.5くらい。200倍くらいの差がある。
一応、俺も商会を立ち上げているから、これからは遊戯品をメインに売りに出そう。
他にも日用品をみたが、前世で見てきたガラス製のグラスというものはなく、お皿も金属製ばかり。
価格も金属製の皿1枚で、銀貨10枚。平民の平均月給は銀貨2枚なので、お高い。
価格の高さが問題だな。
この世界の文化や常識を学ぶために来たのに、いつの間にか改善点を考えていた。
サンカラ大商会をでて、散策をする。本当にきれいな町並み。
っと思って路地裏をちらっと見てみたら、女の子が30代くらいの男3人にいじめられている。
これは男として見逃せない。
「おい、お前ら。何してるんだ」
「あ? 誰だ、お前。お前には関係ねーだろ。とっとと失せな」
「そう言って、失せるとでも思った?」
「先に言っとくぞ。怪我したくなければ失せろ。身のためだぞ」
「そう言われると益々、引き下がれないな」
「た、助けてください。お願いします!」
「チッ、余計なことしゃべるな!」
「なにやら事情があるみたいだね。そのことについても教えてよね」
「どうやら痛い目に遭わないといけないようだな。おい、お前ら。やるぞ」
「「へい、兄貴」」
そう言って、鞘から剣を抜いた。
抜剣は殺し合いを意味する。これはアウトだね。
『久しぶりの戦闘か。どうする? 一気にバッサリと切り倒してもいいんじゃないか?』
「いやいや、それじゃー完全に悪者は俺になるじゃん」
『それは確かに問題だ。じゃーどうする?』
「今回は武術だけにするよ。いい運動になりそうだし」
『それは言えてる』
相棒との会話を終え、構えのポーズをとる。
リーダー格の男が剣を振りかざしてきた。俺は横に難なく躱した。
男は、躱されたことに驚きつつ、剣をそのまま横に振った。
俺は半歩下がり、俺の目の前を通る瞬間に、肘と膝で思いっきり挟み、剣を砕いた。
「な!? ば、馬鹿な!? なぜ砕けた!?」
そりゃー俺の規格外の能力によるものだ。逆に今と同じ力でやって、砕けない武器なんてあるのって思う。
「なんだと! 兄貴の剣が砕けただと!?」
「馬鹿な、そんな訳ないだろ」
「す、すごい……」
取り巻き二人は驚き、女の子は見惚れている。
「そろそろ終わらせますか……」
そう言って、俺は『転移』を使い、男の懐に全力の900分の1の力で一発。
男は一瞬で壁に吹き飛び、気絶してしまった。
それを見た取り巻き二人は、尻もちをついて怯えだした。もはや戦意損失。しかも1人は気絶してしまった。
そして俺は気づいてしまった。もう日が落ちかけていることに。
「や、やべ。早く帰らなくちゃ!」
「あ、あの……」
俺は、女の子がなにか言っていたが全く聞いていなかった。
そしてそのまま、宿へ走っていった。
しかしあの時、何か鑑定された気がするが、そんなことは気にしていなかった。
・・・
一人になった女の子は、しばらくの間、立ち止まっていた。さっきの男性、彼が圧倒的な力を持っていることに気づいてしまった。
名前すら教えてくれなかった彼に、私は自分の能力を使ってしまった。ステータスのほんの一部が一瞬しか見えなかったが、今でも見たものが思い浮かぶ。
ステータス
名前・朧月 水明 (スイメイ) 年齢・23歳 性別・男 種族・人族
レベル・Lv195
っと。見えたのはほんの一部だけ。しかしLv195なんて数字、明らかにおかしい。この数値だけで判断すると、先程の男性は世界最強になる。
彼女はずっと思っていた。世界最強なのは、ここ最近になってから話題となっている『ルージュ』という男性だと。彼女は考えに考え、出た結論は……。
”スイメイという男性=『煉爆の赤髪』ルージュ”
ということ。
「まさか、ね。そんなわけないじゃない」
彼女は、ルージュのファンだった。自宅で彼の冒険譚を聞いたときから、夢中だった。しかもイケメンらしい。あの時から好きだったルージュさんに助けてもらったなんて、そんな夢みたいな話、あるわけない。そう考えていた。
夕日が沈む頃に、彼女がいる路地裏の前に豪華な馬車が止まる。
そこから、一人の執事が話しかけた。
「ようやく見つけました。探しましたぞ、お嬢様」
「心配かけてごめんなさい。コラン」
「いえ、お嬢様が無事ならば、それで良いのです。ところで、そちらに転がっている方々は?」
「あぁ、私にナンパしてきた人たちよ。囚えて、反省させておくように」
「かしこまりました。旦那様が心配なされております。早く帰りましょう」
「そうね、ありがとう」
「いえ、私はあなた様の専属執事でございます。当然のことでございます。それでは、参りましょうかお嬢様」
「もう、セバスったら。二人のときぐらい、名前で読んでよ」
「かしこまりました。レナ・ヴァン・ミルフィード第三王女殿下」
「レナって呼んでよ」
「かしこまりました。レナ様」
「そう、それでいいのよ。っさ、帰りましょう」
「えぇ、ではこちらに……」
そういって、彼女、レナは馬車にのり、王城へ向かったのだった。
・・・
俺は大急ぎで宿に戻るとロキシアがベッドで寝ていた。きっと遊び疲れたんだろう。
俺も早々に寝ることにした。
そして次の日、まさかあんなことがなるとは……。
まったり回とはいえ、やはり戦闘は避けられない。