第六話 バヴィンの屋敷
追記・元第三話が長すぎたので、分割しました。
その日の夜、俺は『断罪者』ノアールの姿で、不在の間に屋敷に侵入した。今は真夜中だから使用人たちは寝ている時間なはず。物静かな屋敷に入り、俺はバヴィンの執務室を調べた。
やっぱり秘密を隠すとしたら、自室に限る。
……用心深いのか不正の証拠が見当たらない。まぁ大体こんなときは秘密の部屋的なやつがあるに違いない。
<告。探知を創造しました>
流石は『サポート』さん。仕事のできるスキルだ。
「『探知』!」
魔法を唱えてみると、地下室があった。しかも、入り口は意外な場所だった。
……そう、トイレだった。
「なんちゅーとこに隠してんだよ」
『くさそうだなw』
「たしかにな……」
床のカーペットを剥がすと地下に続く入口があった。中に入り、階段を降りるとそこには薄暗い部屋があった。なかには牢屋まである。っていうか、誰かいるし。見た感じ女性のエルフっぽいな。
「あ、あの……」
「!! や、やめて……」
優しく声をかけているのに、第一声が「やめて……」とか、心傷つくわ。
なんか妙に怯えているな。俺は悪いやつじゃないのに……。
「安心して、キミを助けに来たんだ」
「! わ、わたしを?」
「それはできないな」
明らかに俺たち以外の声が聞こえた。
振り返ると、銀色の髪のイケメン、今回のターゲット、聖騎士バヴィンがいた。
「はじめましてかな?僕はバヴィン、聖騎士だよ。いやーまさかバレるとは思わなかったよ。キミはナニモンだい?」
「名乗るほどの者ではないな。お前は何をしてるんだ?」
「ん?さーね、なんだろうね。とりあえず、キミには死んでもらおうか」
そういうとすぐに抜刀し降り掛かってきた。俺もすぐに対応して受け止める。力が強い。
「へー、この一撃を受け止めるとは。これでも武器のクラスは、一応『希少級』なんだけどね。なかなか見どころがあるではないのか?どうだ、俺の部下にならないか?」
「お生憎、そういうのは間に合っているし、お前みたいな悪人の部下なんかになるわけ無いだろう」
「あ、そうか。それは残念。じゃーお前はもういらないよね」
そう言うと、さらに力を強めた。耐えるのがやっとだ。こいつ、馬鹿力すぎる。さすがは聖騎士だな。流石にまずいと思い、剣を捌いた。少し距離を離した。
ここは、一度引こう。さぁ、どう引こうか……。
<告。時空魔法より、『転移』を取得しました。宿泊地へ転移します。なお、マスターとエルフが対象者です>
お、この超希少スキル『サポート』、有能すぎるだろ。それに、エルフのお姉さんも入れるとは。流石です、『サポート』先生。
「一度退散しますか。『転移』!」
そう言うと、俺とエルフの地面が光り姿を消した。
「ま、まさか……時空魔法……しかも上級の『転移』、だと……。これは相当、手こずりそうだ……チッ」
一人残されたバヴィンは、囚えていたエルフまで転移したことに驚きつつ、静かに舌打ちをした。
・ ・ ・
俺は聖騎士バヴィンの屋敷から転移してきた。女性のエルフは突然変わった景色に驚いていた。
「えーっと、とりあえず自己紹介するね。俺はスイメイだ。わけあって偽名があるけど」
「あ、はい。先程は助けていただき、ありがとうございます。私はロキシアともうします」
女性のエルフ、名はロキシア。白い髪に身長は180cmの美女。俺の身長は186cmだから、追い抜かされそう。
「よろしくね、ロキシア」
「はい、よろしくおねがいします!」
「今日のところはもう寝よう。しっかりと休んでね」
「はい、ありがとうございます」
すごいな、さっきまで警戒していたのにすぐに打ち解けている。
その後、俺はすぐに寝てしまった。今日も相当疲れた。
・ ・ ・
昨夜の出来事から丸一日が経った。ロキシアも少しずつ慣れ始めてきた。
まだ一日しか経ってないのに早すぎる。
俺は聖騎士バヴィンの断罪方法について考えていた。あの時は準備ができていなかったとはいえ、今回は手強いぞ。とりあえず、ロキシアから色々聞いて見ることにした。
「そういえばロキシアは何故あそこにいたの?」
「私は元々エルフの森にいたのですけれど、あの男が話しかけてきて、気づいたらあの牢屋に入っていたの。あの後、ずっと暴力をふるわされた」
「そうだったのか。しかし、何故人攫いなんかするんだ?なぁ、おまえはどう思う?」
『残念ながら俺が使える魔法は断罪すべきなのか、否かだけ。詳しい内容は知らん。ただ俺から言えることは、あいつは相当闇が深いぞ。犯罪者には、罪重みが数値として出てくる。最低が0、最高が100。例外もあるがな……。お前もいつしか見えるだろうな、『裁きの魔眼」でな」
「そんなもんがあるのか」
『あぁ、ちなみにあいつの数値は100だ。相当罪深い』
「そうなのか……」
「ねぇ、スイメイは誰と話しているの?」
「え、あ、いや。ただの独り言」
『そもそも、あいつにあったときに『鑑定』しなかったのは落ち度じゃないのか』
あ、すっかり忘れてた。しくじった。
(さて、どうしようか……)
<告。聖騎士バヴィンは大罪レベルの悪人です。なので断罪スキルの1つ、『断罪障壁』が最大限に発揮されます。よって、マスターに攻撃ダメージを与えることはできません>
(え、じゃーなんの対策をしなくてもよかったのか?)
<是。その通りです>
なんだよ。考えるだけ無駄だったのか。だが、なんの心配もいらない。
断罪は3日後。その間、観光でもしようか。