第三十四話 空腹
国王に二度怒られた次の日、ギルティの一言で目覚めた。
『腹減ったぁぁぁーーーー!!』
スイメイは、ギルティの大声(念話)で飛び起きた。
ギルティは何度も何度も『腹減った』と言い続けた。その声は念話で発しているため、周りには聞こえないが当の本人は防ぎたくても防げない。念話を切ることができないからだ。
耐えきれず、スイメイは叫んだ。
「うるせぇーー!」
『あぁ腹減った腹減った腹減った……』
叫んでも、ギルティはやめない。余程、空腹らしい。
小一時間ほど言い続け、ようやくおさまった。
「朝からうるさいぞ。朝は静かにしなさいって言われなかったのか!」
『腹が減ってしょうがないんだよ』
「いつも貰ってるだろ、俺の魔力を」
ギルティがいくら剣であっても、もとは人間。やはり腹は減る。
断罪の剣の主食は魔力。剣自体に魔力が籠もっていて、少しずつ減っている。それを補填するために、装備者の魔力をもらっている。
だが、断罪の剣には絶対に必要なものがある。それは罪。つまり罪人を殺せば、それがどんどんと溜まっていき、一定数いくと暴走を止められる。罪を食わなかったら、なりふり構わず暴れまわってしまう。罪を食らうことは、必要不可欠だ。
『罪が食いたい』
「だけど、もう今年分の罪は食ったじゃないか」
『そうだけどよ。罪ってうま味なんよ』
「はぁ……」
『魔力って味しないんだよ。ようは……欲求不満だ』
ギルティ曰く、『旨味を感じたい』っだそうだ。
スイメイも気持ちがわからない訳ではない。だが、わざわざ危険に晒すことは、なるべく避けたいと思っている。
「しかしなぁ……」
『それともお前は、味のないご飯を毎日毎日食えっていうのか!』
急に始まる説教(念話)。それはとても静かな説教だった。
スイメイとしては、うま味を食べさせてあげたいが、そう易易と罪人なんて居るもんじゃない。
悩んでいるスイメイに、ギルティが一つの提案をした。
『盗賊狩りすればいいじゃないか。冒険者で』
冒険者の依頼には、盗賊の討伐依頼が出ていることがある。確かに、盗賊は当然罪だ。
最も簡単に断罪できる絶好のチャンスってわけだ。
「確かに、それならいけるな。お偉いさんの場合は、裏で殺らなきゃいけないが、盗賊も場合は、堂々と殺れるな!」
『だろ。そうと決まれば、早速行くぞ! 冒険者ギルドへ』
・ ・ ・
軽く朝食を済ませたスイメイは、ルージュの姿に変わって冒険者ギルドに向かった。
相変わらず、朝から賑わっていた。しかし、ルージュが入るとギルド内は一瞬で静まる。まるで、怒ると怖い教師と怯える生徒のような。
ギルド内は、ルージュの歩く音しかしない。むしろ、それしかしない。音を立てると睨まれる、だから決して音を立てるなっていうのが、王都の冒険者の暗黙のルールだった。
しかし、当の本人は音のした方を向いただけであり、少々怖い仮面をつけているため、睨んでいると思われているだけだった。
当然、本人はそのことは知らず、毎度の如く申し訳ないと思いながらカウンターへ向かった。
「ルージュ様。本日はどのようなご用件で?」
「盗賊の討伐依頼をいくつか受けたい」
ルージュがそう発言した瞬間、ギルド内には驚いた声が響き渡った。
みんなの心のなかでは『まさか、あのSSランク冒険者自らが盗賊討伐をするなんて……』と思い、それと同時に『盗賊の奴ら、ご愁傷さま』っと。
「か、畏まりました! では、いくつかご用意いたします」
そういって、受付嬢は奥に行った。
カウンターで待っていたら、入り口から大声を上げる大男が入ってきた。
「下級冒険者共! この俺、グレイブ様のお通りだぜ。ほら、跪け!」
グレイブという男が開口一番にそう叫んだ。他の冒険者は渋々跪いていく。
しかし、グレイブを知らない新人冒険者が反抗した。
「そこの大男、さすがに横暴すぎじゃないか。いくらなんでも……」
新人冒険者が話している最中に、大男は腕を横に降って、冒険者を吹き飛ばした。
飛ばされた人は、なんの抵抗もなく壁にめり込んだ。
「チッ。貧弱な下級冒険者風情が、俺に指図するな。お前らは俺に頭を垂れてればいいんだよ」
そう言いながら、カウンターへ向かう。
そしてそのまま、グレイブはルージュの後ろに立ち……。
「おい、そこのお前。このグレイブ様が来ているのだ。頭を垂れろ」
と、言い放った。
しかしルージュは、ギルティと念話で会話中だったため、全く聞こえていなかった。
無視されたと思ったグレイブは、ルージュの肩を掴んだ。
「おい! ぶっ飛ばされたいのか!」
大声で叫んでも、ルージュは全く聞こえてない。ギルティとの念話に集中しすぎていた。
ついにキレたグレイブは拳を大きく振りかざし、ルージュの頭めがけて素早く振り落とした。
ルージュはすぐさま気づき、拳を右手で掴むと、瞬時に掴んだ拳ごと右手を引き、引っ張られたグレイブの腹めがけて、左手の甲で叩き飛ばした。
グレイブの体はくの字になりながら、ギルドの外まで飛ばされた。
その光景を見た他の冒険者は、拍手をして称賛した。
だが、その称賛の拍手もすぐに止まった。ボロボロになったグレイブが入ってきた。
「てめぇ。この俺様のことを殴っといて、ただで済むと思っているのか?」
「いや、その前に誰だよ。知らないよ、お前のことなんか」
「そうかそうか。ならば名乗ろうか。俺様はミルフィード王国冒険者ギルド所属、Aランク冒険者のグレイブ様だぞ。お前らみたいな低ランク冒険者とは格が違うんだよ、格が」
Aランク冒険者は、冒険者の中で一流の実力者。一般的な冒険者は、全盛期でよくてBランクといったところ。Aランク冒険者は、全体で5%もいない。
「じゃーこちらも。ミルフィード王国冒険者ギルド所属、SSランク冒険者のルージュだ。お前と同じことを言おう。お前みたいな品格も冒険者のランクも格が違うんだよ、格が」
「な! ……クッ、今日のところは引き下がってやる」
「そうしてくれ、迷惑だ」
グレイブはルージュを睨みながら、出ていった。
静まり返ったギルド内からは、再び称賛の拍手が巻き起こった。
あれ? 俺はただ、盗賊の討伐依頼を受けるために来たのに、ケンカを売られた……。
気付けば昼過ぎだった。
あぁ、腹が減った。




