放課後の断罪劇~浮気者に鉄槌を~
その光景を、俺は多分とんでもなくマヌケなツラを晒してぼけーっと眺めていたんだと思う。
意識はあった。でも思考が飛んでいた。
何も考えられなかった。
信じられないものを見たせいで。
信じられない?
信じたくないのか?
どっちだろう。
どっちもだ。
「お、お義兄ちゃん……」
「リョーくん、大丈夫?」
「悟代……歩けるか?」
両側からそれぞれ俺の腕に絡みついていた義妹の悟代里香と、幼馴染みの弥生麗美、そして視界を遮るように正面に回ってくれた喜屋武桃子先輩にかろうじて「……歩け、ます」と告げると、俺はせっかく彼女が塞いでくれた忌まわしい光景をもう一度確認すべく数歩前に踏み出した。
……ああ、やっぱりだ。
何度見ても間違いない。
俺達の前方、ほんの二〇メートルばかりの距離。
人混みの中なためこちらには気付いていないのだろう。
そこにいたのは、俺こと悟代亮二の彼女であり、『今日は用事があるから』と言っていた藍月結衣に間違いなかった。
彼女は、手を繋いでいた。
当然二〇メートル離れている恋人の俺とではない。
見覚えのない一人の男に手を引かれ、楽しそうに笑っている。
見知らぬ男と手を繋いだまま、結衣が離れていく。
呼び止めることも出来ず、俺は呆然と彼女の背中が見えなくなるまで心配する三人の声を聞きながらその場に立ち尽くしていた。
■■■
――というのが、昨日あった出来事。
どうやって家まで帰ってきたのかいまいち記憶が判然としないが、三人に支えられるようにしてフラフラと幽霊みたく帰宅したらしい。
それから数時間後、ようやく思考能力を取り戻した俺は出来る限り冷静に、徹夜で現状の把握に努めてみた。
誤解や見間違いってことはないだろう。
あれは間違いなく結衣で、俺以外の男と親しげに手を繋いで歩いていた。
ちなみに結衣に兄弟はいない。
結衣とは小学校の五年生で同じクラスになって以来のつき合いだ。
当時の彼女はボーイッシュと言うよりは男勝りで、小学校も高学年ともなると男子と女子は別れて遊びたがるものなのにそんなのお構いなしとばかりに男に混ざって野球やサッカーに精を出す、そんなヤツだった。
そんな結衣が髪を伸ばし始めたのは、中学に入ってから。
初めはぎこちなく、一人称も“オレ”から懸命に“あたし”に直し、亀の歩みのようにゆっくりと少しずつ女らしくなっていったのは、無事同じ高校に合格して正式に恋人関係になってから聞いたのだがどうやら俺のことを異性として意識し始めたせいだったらしい。
それまでずっと男友達同然と思っていた結衣のことを俺の方から意識し始めたのも、多分ほぼ同じ頃だったのではなかろうか。
元々顔の作りはやや中性的ながら充分美形に分類されるものだったし、物腰や口調が女性のソレに変わればそこにいるのはただの美少女だった。
体つきも、どことは言わないがぺったんまな板の少年体型だったものが中学の三年間でとんでもない巨峰に化けた。
里香も麗美も桃子先輩も、いずれ劣らぬ高き山々の持ち主ではあるのだが、彼女らと比較しても結衣はカップ一つ抜けている。
中学から本格的に野球に没頭し、高校でも野球部に入って真剣に甲子園を目指そうという俺と一緒にいられる時間が減っていくのが寂しくて、ただの友達のままの関係でいることに耐えられなくなったのだと、告白してくれた際に結衣は恥ずかしそうに言っていた。
そう。
男としては少しばかり情けないが、告白はあいつからだった。
ずっと俺のことが好きだった、この先もずっと好きでいる、と……そう言ってくれた結衣が、今、放課後の教室で、里香、麗美、桃子先輩の三人から睨みつけられ、青い顔をして肩を震わせていた。
「言い逃れは出来ませんよ。こうして証拠もあるんだし」
俺がぼけーっとしている間に里香はしっかり証拠写真を撮っていたようで。結衣に向かって突き出されたスマホの画面には昨日のアレがはっきりと写っていた。
「すっごく、仲良さそうだよね。うちの学校では見かけない人だけど、誰なの?」
「……バ、バイト先の、同僚。他の高校の、三年生」
麗美の問いかけに、結衣は彼女らしからぬ今にも消えそうな声でぽそぽそと答えた。
結衣のバイト先は駅前にある、この辺りでも最近では珍しくなってしまったチェーンではないレストランだ。
俺も何度か訪ねていったことがある。胸やお尻が少々窮屈そうだったけど、ややシックな制服がよく似合っていた。
結衣がバイトをしているのは、単純に家計を助けるためだ。
彼女は小さい頃に父親を亡くしていて、現在は母一人子一人で暮らしている。
貧乏という程ではないけれど『お母さんにだけいつまでも苦労させるのは申し訳ないから』と始めたバイトは、料理が好きな彼女には向いていたらしい。
『フロアでの接客はちょっと苦手だけど、厨房で料理を作るのは楽しいよ』と語る結衣は活き活きとしていた。
「彼氏が部活で忙しくてなかなか構ってくれなかったため自分はバイト先の同僚と浮気……なるほど、ありがちな話ではあるな」
桃子先輩の突き放すような物言いに、結衣の身体がビクッと跳ねた。
「言い訳、しないんですか? 浮気じゃないとか、誤解だとか」
「……」
無言でうつむく結衣に里香が舌打ちする。
釣り目がちな細面の里香は、こういった場面ではやたら迫力がある。言い訳などしようものなら即座に叩き潰してやる、という意気込みは容易に見て取れた。
普段はあまり意識したりしないのだけど、里香はちょっと……いや、かなり? ブラコンなところがある。
義兄へ不貞を働いたその恋人にいたくご立腹なのだろう。正直、怖い。
「どうして……浮気なんて。リョーくんみたいな素敵な彼氏さんがいるのに、信じられないよ……」
童顔で背も低めなためか一見すれば里香より歳下に見える麗美も、結衣を見つめる表情は厳しい。
麗美とは家が隣同士で、生まれた時からの幼馴染みだ。
世話焼きな彼女は子供の頃からまるで姉みたいになにくれとなく俺の面倒を見てきた。
だから、わかる。普段はのほほんとしている彼女が、本気で怒っているのが。
「恵まれている人間は、自分が恵まれているのだとはなかなか気づけないものさ。そうして失ってから初めて気づくんだ。自分の、愚かさに」
愛らしい名前に反して、空手、剣道、合気道、古流柔術、ジークンドー、ミャンマーラウェイ、カポエィラ、ウジュムチン・ブフ、カラリパヤット、対魔忍術を嗜んでいるためか威圧感の凄い桃子先輩の糾弾に、俺は胸中でしきりに頷いていた。
ああ、そうなんだ。
人間は自分が恵まれている間はなかなかそれに気づけないんだ。
「で、結局その同僚さんとの間には何があったんですか? お義兄ちゃんに謝罪するにせよ別れるにせよ、そこはハッキリとしてもらいたいです」
里香に鋭く追求され、結衣は少しずつ、苦しそうに、話し始めた。
「さっきも、言ったけど、彼はバイト先の同僚で……将来は調理師を目指してて、あたしも料理をするから、レストランのメニューのこととか、家で作るおかずのこととかよく話してて、何作ろうか悩んでる時なんかは相談に乗ってくれたりもして……」
お母さんが働いているので、結衣は俺と知り合った頃には既に一通り料理が出来る子だった。
見た目も言動も男勝りなのに、調理実習なんかではやたらと手際がよくて俺も含めみんな驚いたものだ。
中学に上がってからは野球部で腹を空かした俺のためにたまに弁当を作ってくれたりするようにもなって。つき合い始めてからはそれが毎日になった。
「なるほど。趣味の話をとっかかりにどんどん気を許していったというわけですか」
「……うん。あたしが作ったまかないとか、家で焼いて職場に持っていったクッキーなんかを、いつも、美味しい、美味しいって食べてくれるから、話しやすくて……」
お菓子作りも上手くて、小学校の時はそのことを男子から思いっきりからかわれたりもしてたっけ。
でも試しに一口食べてみるととんでもなく美味しくて、クラスの男子全員頭を下げて謝ったのを思い出す。
「えー。たしかに料理を作って褒めてもらえると嬉しいけど、でもちょっとチョロすぎるんじゃないかなぁ。他にはないの? 優しくされたとか」
「……髪型を変えてみたり、新しい服を着て出勤すると、『髪型変えたんだ。可愛いね』『似合ってるよ』って言ってくれたり……」
髪を伸ばしてから、結衣はしょっちゅう髪型を変えている。
正直、どの髪型も似合ってる。俺の一番のお気に入りはポニーテールだけど、三つ編みだろうとサイドテールだろうとストレートに下ろしていようとシニヨンに結っていようと、結衣は可愛い。
服だって、量販店で売ってる適当なデザインのTシャツを泥だらけにしてたのは小学生の頃までだ。
経済状況的に高いブランド品なんかとは無縁ながらも、ファッションに疎い俺の目から見たって結衣は自分に似合うものをきちんと選んで着こなしている。
「下心丸出しだな。つき合ってもいない女性の髪型や服装をやたらと褒めるなど軽薄極まりない。セクハラじゃないか」
「セクハラなんて、そんな。……昨日は、一緒に料理の食材を買いに行こうって話になって。あたしが人混みに呑まれそうになって、それで……それで、……手を、繋いで……」
今まで懸命に堪えていたんだろう、結衣の眦から大粒の涙がポロポロと零れだした。
しゃくり上げる彼女に、けれど女性陣の視線は冷たい。涙を武器に逃げるのなんて許さないとでも言いたげだ。
そもそも、結衣に逃げるつもりなど最初から無かったのだろう。
事の経緯を話し終えた彼女は泣きながらその場に膝を突いた。
「いっ、今さら……謝っても、グスッ。許してもらえるかは、わからない、けど……あたし、そんな……そこまで深く、考えてなくて……でも、亮二……あたし、あたしは……亮二、……ごめ――」
彼女が心からの後悔と、そして謝罪を口にしようとしたまさにその瞬間。
「――すまなかったぁあああああっ!!」
「へ?」
「は?」
「え?」
「――んにゃ?」
滑り込みで。
文字通り頭からスライディングを決めて。
俺は結衣に対しこれ以上は無理ってくらい深々と土下座をキメていた。
■■■
昨日結衣が見知らぬ男と手を繋いで歩いているのを見て衝撃を受けた後、俺は一晩中考えた。
今までの俺と結衣のことを。
思い出せる限り記憶を漁って、考えて考えて考え抜いた。
その結果、俺は気付いてしまったのだ。
「ど、どういうこと? なんでお義兄ちゃんがそんな見事なスライディング土下座で謝ってるの?」
「そっ、そうだよ! 浮気されたのはリョーくんなのに」
「君が謝る必要性など皆無ではないか。なのに、どうして……」
「いや、どうしても何も。……ごめん、結衣。俺が悪かった。俺はどうしようもないクズのスカタン野郎だった……! 許してくれ!!」
「……う? あぅ……はぇ?」
里香達三人に加え結衣も困惑している。
でも結衣は困惑どころか、本当はもっと前に俺に怒ってよかったのだ。
「料理……褒めて貰って嬉しかったって言ってたよな」
「う、うん……」
「……ごめんな。俺、もう何年もずっとお前に弁当作ってもらったり、休みの日は昼飯や晩飯だっていっぱい作ってもらってたのに、『美味しかった』なんて全然口にしてなかった。当たり前みたいにお前の作ってくれた料理、食べるだけだった」
最初の頃はちゃんと感想を述べていた気もする。
けれど人間、慣れてしまうとわざわざ日々の料理を美味い不味いなんて口にしなくなるものだ。
母親の作ってくれた料理に毎日『美味しかった、ありがとう』と感謝を述べる男子高校生なんて果たしてどれだけいるだろう。おそらく、殆どいないんじゃなかろうか。
そして俺は、まるで母親がそうしてくれているのと同じように結衣が料理を作ってくれるという日常を当然のものとして享受していたのだ。
自分だってバイトや家事で忙しいところを、結衣はわざわざ栄養学の勉強までしつつ野球に打ち込んでいる俺に適した料理を作ってくれていたってのに。
クッキーなんかも、先日『久しぶりに焼いてみたんだ』と持ってきてくれたのを俺はどうした?
ゲームをやる片手間でボリボリ食べて、コーラで流し込んでゲップなんぞしてた。
無論、礼も感想もおざなりに。
最悪だ。
最低すぎる。
クズじゃん。
「髪型や服装もだ。……言い訳させてもらうと、普段変えていることに気付いてなかったわけじゃないんだ。可愛いとも思ってたし、……ただ、その……わざわざそんなこと言うのも照れ臭くて、何も言ってなかった。……多分、俺のためにお洒落してくれてたのに」
かつて男勝りで、俺との関係も男友達みたいな状態から始まった結衣は自分のことを『女らしくないんじゃないか?』とずっと気にしている節があった。
そんなわけない。
誰が見ても今の結衣はまごうことなく美少女だ。
俺の自慢の彼女さんだ。
だけど、わかっていたはずなのに、俺は自分の恥ずかしさを理由に結衣を直接褒めたりは殆どしてこなかった。
『言わなくてもわかるだろ?』とか、本気で思っていたのだ。
最悪だ。
最低すぎる。
カスじゃん。
「そしてこれが一番謝らなきゃいけないところなんだが……里香、麗美、桃子先輩」
「え、なに?」
「どうしたの?」
「ふむ?」
「昨日、結衣が男と手を繋いで歩いてるのを見かけた時、俺達どんな状態だった?」
俺からの問いに、三人はきょとんと首を傾げて顔を見合わせると、
「腕組んでた」
「反対側から腕ギュッとしてた」
「背中から胸を押しつけていたな」
「ほらアウトじゃん!! 手を繋ぐのなんか全然健全に思えるレベルのアウトっぷりじゃん!!」
昨日に限った話ではない。
思い返せば普段から、俺はこの三人からの過剰なスキンシップを当たり前のものとして受け入れてしまっていた。
甘えん坊な義妹と、家族も同然の距離感の幼馴染みと、からかい上手な先輩とのごく普通のコミュニケーションとして。
しかし昨日の出来事の後、冷静によーく考えてみたのだ。
俺は結衣が俺以外の男と手を繋いで歩いているのを見かけただけでこの世の終わりみたいなショックを受けた。
じゃあ、結衣は?
普段から仲の良い女性陣に囲まれベタベタされて楽しそうにしてる俺を見て、結衣はいつもどんな気持ちでいたのだろう。
相手は義妹と幼馴染みと以前から世話になっている先輩なのだからって、ずっと我慢してたんじゃないか? 俺は、我慢させてしまってたんじゃないのか?
そう考え至った瞬間、申し訳なさで死にたくなった。
俺の方が遙かに浮気クソ野郎ではないか。
最悪だ。
最低すぎる。
ゴミじゃん。
「もう二度とそんな真似しない! 麗美と腕組んだりしないし桃子先輩に『当ててるんだよ』されそうになっても回避する! 里香とはもう一緒に風呂には入らない!!」
「しょんなっ!?」
「ちょっ、まっ!!」
「なんもげぇええええっ!?」
女性陣、特に義妹が女の子が出しちゃいけない奇声あげてるけど気にしない。
俺は身体を起こすと、土下座しかけていた結衣をしっかと抱き締めた。
「……思い返せば、お前の方から告白されて、俺からは……恥ずかしくて全然口にしてなかった。……好きだ、大好きだ、愛してる、結衣ッ!!」
「あっ……あ、……あぅ、……あ……りょ、りょう、じぃ……ぐすんっ」
「今までごめん! 本当にごめん!! これからはちゃんと料理を作ってもらったら感想もお礼も言う! 髪型だって、服だって、お化粧だって、気付いたらちゃんと褒める! でもその辺は疎いので気付けなかったらすまん!! それに、それに……好きだって言う! 言いまくる!! だから、だから――ッ!!」
「あ、あたしも、あたしも好き……! 亮二のこと好き、大好き! ごめんなさい、疑わせてごめんなさい不安にさせてごめんなさい苦しませてごめんなさい!! うぅ、うぁあ~~~~ん!!」
結衣は号泣しながら答えてくれて、俺もいつの間にか泣いていた。
申し訳なくて、申し訳なさ過ぎて。
結衣が許してくれたのが嬉しくて、涙が溢れて止まらなかった。
里香と麗美と桃子先輩も泣いていた。
なにやら『チクショー!』だの『やだやだやだぁ!』だの『当ててやる! 絶対当ててやるからな!!』だのどうにも物騒な言葉が聞こえた気がするけど忘れよう。
今の俺には結衣が、結衣だけが誰よりも大切な女の子だ。
今回の件は自分の行いを見つめ直すいい機会だったんだと、そう思うことにしよう。
■■■
「はいっ、亮二。お弁当! 今日は亮二の好きなササミとキュウリのゴマ酢和え入れといたよ」
「おう、今日もありがとうな! 昼休みが楽しみだ。……それと、髪、そうやってお下げにしてるのも、似合ってるよ」
「う、うん。えへへ……ありがと♪ 亮二も、今日もカッコイイよ!」
あれから数日。
俺達は今までよりもお互いに思ったことを口に出すよう心懸けている。
おかげで周囲からは『バカップル度が上がった』『暑苦しい』『滅ぶべし』とやっかまれてるけど気にしない。
いったん堂々とバカップルぶりを曝け出してみると意外と慣れるもんだ。
あの日の詳細も結衣から全部聞いた。
どうやら本当に浮気でも何でもなく、練習試合の近い俺のために特別メニューを作りたくて例の同僚さんと一緒に買い出しに出かけ、人混みに呑まれてつんのめりそうになったところを手を引かれたタイミングで俺達に目撃されたらしい。
楽しそうだったのは特別メニューを食べる俺のことを考えてたからだとか。
え? 俺の彼女可愛すぎじゃない?
同僚さんも恋人の誕生日が近いのでそのための食材を買いに行ったのだとか。
彼女さんとはラブラブで、こちらも浮気の心配は結衣の見たところゼロだそうな。
『彼氏、彼女持ちが異性と二人で一緒に買い物というそれ自体が浮気』と言う人もいるけどさすがにそこまで制限すると人付き合いが面倒すぎる。
里香達と過度のスキンシップを控えることにはしたものの、これからも何か用事があれば二人で出かけるようなこともあるだろうし。誤解を生まないよう気をつけるべきではあってもあまり過敏になりすぎても息苦しいだけだ。
とは言え、そういう時はなるべく事前に連絡しようという話にはなった。
「そう言えば、里香ちゃんと麗美ちゃん、大丈夫?」
「ああ、いやぁ、ちょっと様子が変だけど多分大丈夫だろ」
あの日以来、里香とは一緒に風呂に入るのはやめたしベッドに潜り込んでくるのも禁止した。
耳掃除もしていないし、ゲームする時やテレビを見る時に膝の上に乗っかるのもやめさせた。というか、里香は結構背も高いし結衣程じゃないけどスタイルもいいのでここ何年かはさすがに膝の上に乗せるのキツかったんだよね、と正直に言ったらこの世の終わりみたいな顔された。女の子に体重の話はさすがに悪いコトしたか……
麗美も、窓伝いに勝手に部屋に入ってこられないようしっかりと鍵を閉めることにしたし、今まで頼りきりだった部屋の掃除や洗濯も全て断ることにした。
そしたら『せめて洗濯……パンツ! パンツだけは!!』とか意味不明な食い下がり方されたけど多分深く考えちゃいけないのだろう。
最近はうつろな目で『……パンツ……シャツ……シーツでもいいから……え、ダメ? じゃあゴミ箱の中……捨ててきてあげる。……そ、それもダメ、なの? ……ああ、あばばばば……』なんて呻いたりしてたのは見なかったことにした。
「二人と比べたら桃子先輩は流石にしっかりしてるよ」
「え? そ、そうかなぁ……あたしには先輩が一番大丈夫じゃなさそうに見えるんだけど……」
結衣は苦笑いしてるけど、桃子先輩はあの日以来俺をからかってくるようなことはなくなった。
元々自分に厳しいところのある人だったけど、最近は暇さえあれば学校の武道場に籠もって修行してるらしい。
なんでも『精神鍛錬をする。幽体離脱とか出来るようになるまで頑張る。霊体になってもなお物理干渉出来るのが最終目標』なんだそうだ。
幽体離脱って修行すれば出来るようになるんだろうか?
よくわからないが本気っぽかったので取り敢えず応援しておいた。
「まっ、あの三人もさ、恋でもして、彼氏でも出来ればきっと変わるさ」
「ア、ウン。ソダネー」
どうしてだか表情の消えた能面で棒読み気味に返されたが、一瞬のことだったし気にする程じゃないな。きっと。多分。うん。
「……結衣」
「なぁに?」
「好きだぞ」
「あたしもっ♪」
こうして一連の浮気騒動は無事その幕を下ろし、俺達はバカップルモード全開で仲良く登校するのだった。
お久しぶりです。
最近あまり執筆時間を取れずにいたのでリハビリに現実恋愛を。
年末年始にかけてもうちょい投稿出来るように頑張りたいです。