異世界転生したけど、わからない。
僕は日本という国に異世界転生した。ひょんなことから前世の記憶が蘇った事で少し理解ができないでいる事がある。
それは、異世界転生物と呼ばれる創作物が人気で有る事。
もちろん、記憶が戻る前までは僕も好きだった。『魔法』『スキル』『レベル』『冒険者』に憧れたし、妄想だってした。
だけど、その世界観だけには何故か納得がいってなかったのだ。ただその理由は記憶が蘇る事でなんとなく理解した。作中ではよく『中世ヨーロッパ風』と書かれる世界観。だが、蓋を開けたらフォークやナイフ、香辛料を使う暮らし、農奴なんて無かったり、のどかだったりと、どうにも僕の前世とは違ったのだ。
まぁ、世界が違ったのだからそういう事もあるんだな。と、今では思うし感じる。
で、大学卒業と同時に僕は前世の記憶を頼りに、とある仕事を始める事にした。
それは、僕の暮らした世界の、こちらから言えば異世界の宿の再現で有る。
まぁ、魔物肉とか、そう言ったのは無理だけど……硬い黒パンだったり、薄味のスープだったり、魔道具風に見せかけた照明器具だったりと、結構楽しく準備ができたと思う。
部屋の中はできるだけ簡素に、そう前世の僕が泊まっていた冒険者御用達の宿を再現することにしたのだ。
薄いベッドマットに、布団、冷暖房器具は……考えた末につける事にした。お風呂とトイレも各部屋に異世界では高級宿屋にあったような物を作った。本来ならそんなのはなく、ベッドに小さな机と椅子で、木窓にしようとしたけど気候とか天候とか考えてやめにした。
予約もインターネットや電話予約だしね。うん、その辺は仕方ないと割り切る事にしたのだ。
世界観に浸って貰うために宿泊料も、金貨を一万円とし、その下に銀貨で千円、銅貨で百円とした表示にしたし、料理を提供する場所は一階に食堂兼居酒屋として作った。宿そのものは三階建の鉄筋製の中古物件を改築した物だ。
苦労したのは外壁をそれっぽく見せるのに手間と費用が掛かった事だ。特に机や椅子、テーブルなど無骨な感じの木製品をオーダーメイドで頼むしかなかった。
ただ、一つ救いだったのは寂れた温泉街だった事もあり建物自体は安かった事である。元はバブル期に栄えた温泉街の宿屋という事もあり、駐車場も広く、あとは事前予約されたお客様が来るのを待つだけだ。
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おかしい、なんでこんなに客足が離れたのだろうか?
料理メニューも嗜好を凝らして、冒険者向けの安いメニュー、貴族向けの少しお高いメニューを取り揃えているのに、口コミが『まずい』『香辛料が効きすぎて味がわからなくなる』などの声が多いのだ。
さらに輪をかけて、『カウンターの従業員の態度が悪い』とある、異世界風にしているため、向こうでは当たり前の「いらっしゃい、何名だい?」とかのセリフを用意していたのに、何故か反応がよろしくないのだ。
あと、『ベッドが硬い』とか、『部屋が薄暗くて不便』とか、わからない。みんなが望んでいる異世界の宿ってどんな物なのかが、僕にはわからない。
まぁ、その、なんとなくとある出版社がホテル運営から退いたってのを見て書きたくなったから神チーに落とし込んでみたのですが……上手くすれば流行りそうだよなぁ異世界宿経営って。とか思ってたりします。
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