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転生課課長神は、嘆かない。

 さぁ、舞台は整った。


 果たして彼の友は生き残れるのか?(意味深)

 はらり。そんな小さな、音とも取れない、僅かな音を耳朶が無意識に捉えて、視線を音の元へと誘った。目に止まるのは、書類の山々、目の高さに迫り、唯一視線を向けた先の手元だけ申し訳程度に机が見える。そして、そこにある書類の上に気づけば、十本ほど毛根から抜けた白銀の髪が『さらば友よ。我は先にゆく』そんな空気を纏うように重なり合い、転生課課長神を見上げていた。


 ようやく、自我を失い呆然としてしまっていたのだと、理解した老神は、ため息を吐いて、散った()を愛しげに手に取り、そっと足元のゴミ箱へと弔った。


「わしの毛根。もうダメかも知れん」


 そう呟き、今読み終えた陳情書に、再度目を通す。


 陳情書、それは日常的にそれなりにくるものだ。相手は、課内の窓口担当がほとんどで、些細な事が多く、頭を悩ます問題にはなり得ないのが通常だ。


 しかし、目の前の陳情書はかなり異質だ。なにしろ、課内ではなく、なぜか『サークル』それも、複数からの『連名陳情嘆願書』である。それはすなわち、全神界部署の嘆願書と言っても過言ではない。課内なら、課内だけの処理で終わるのだ。


 だが、ここまで大手のサークルが手を組み、転生課に圧力を掛けてきたのだ。陳情書という形はあるが、これは言わば『わかってるよね? これ、飲まないと部下達が泣く事になるからね? 平たく言うと天界の出入りさせねぇよ?』で、ある。


 内容は、神の増加に伴う業務過多により、天使たちの人手不足が発端だと言う。神が増え、娯楽が増えた、しかし、娯楽提供をする神達もまた、天使たちの手を借り娯楽商品を生み出している。つまり、天使の増加が見込めなければ、このままでは天界の崩壊と共に、神界の崩壊へと連鎖的に繋がるのは目に見えている。


 その為、認可を下す以外の選択肢は無い。無いのだが。ここにこそ、問題が存在していた。と、言うよりも、それこそが本題で、陳情書という単語に隠されてはいるものの、それこそが『彼ら()()の本題』なのは最早疑う事すら出来ない。


 だからこそ、簡単には決めかねているのだ。薄くなりつつある()を生贄に捧げてまでも。


「いっそ。基準を決めずに認可しよう……」


 遠くを見つめ、出ない答えを探すより、現場任せにしてしまおう。そう考えた老神を誰も責めれないだろう。明らかに神とは思えないほどの煤けた背中と、寂しく荒凉とした頭部は、無惨、その一言に終結するほどまでに、寂れていた。


◆◆◆


 転生による天使枠、認可が降りたその日、神々は手を取り合い笑い合った。過去に因縁のあるサークルだろうと、いつもは貶し合う相手だろうと、それはもう『夢が叶った』様に、はしゃぎ、宴を繰り広げた。


 それはもう、神界で過去にないほどに、そして、未来永劫訪れることが無い程に。


 そしてそんなに時を置かずして、現在、神界の端、空の島の上では、醜い争いが繰り広げられていた。


「てんめぇー! なぁにが、エルフ耳は尖ってて太ももに刺さるだっ! にやけ顔して、膝枕してんじゃねぇーかっ!」


「あぁっ? 貴様こそなにが、ケモミミはペロペロしたら毛が口に入るだ!? 気持ち悪い顔でニヤケながらもふってんじゃねぇよ!」


 こんな言い争いが島の中央にある平原部で起こっている。それはもう、平原部を埋め尽くす勢いで。もちろん、事の発端は天使の転生である。採用にあたり、基準を設けなかった事により、兼ねてから触れ合えず、歯痒い想いを秘めていた一部の転生課の神々が、転生前の容姿をより、美しくして、羽と頭上の輪をつけて転生させた事による。


 エルフスキーな神はエルフを、ケモナーなら獣人を、ショタコンなら、少年を(元から居るが数がそう多く無い)、その反対も然り。しかし、そこに、更なる(ごう)が加わったのだ。


 エルフの幼き子供や、獣人の子供など多種多様に、それも比率が高く。そう、奴ら、囲炉裏の会の仕業である。


 そして、当初の案を出した、天使愛好会も事態を悪化させた。


 つまり、推しの取り合いが発生したのだ。それは、もう、神界全体を巻き込む規模で。


 異常事態発生の知らせを受けて、報告書作成の為に、情報管理課から来た女神も、もはや虚ろな瞳でただ、見ているだけだ。


「……くだらない」


 ボソリとつぶやいた、その女神を誰が責められようか?


「「「「「「「「「あぁっん!? 喧嘩売ってんのか! 買うぞコラっ!!」」」」」」」」」


 失礼、その場の女神以外は責める様であった。



 ついに始まる、神々の黄昏への序曲。


 え? 次で終わる予定の話ですよ? 彼等は何を手に入れ、何を思うのか、次回『神々の黄昏ーラグナロクー』


 神界の果てに舞うは、欲望か、毛根か? 希望はありません←

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