あらたな神は、受け入れられない。~彩~
すみません、終わらんかった。(いつものこと)
俺はあれから幾度と無く、その未完の絵をコピーして彩色しては棄ててを繰り返していた。
ベースとなる髪の色は金だろう、これは間違いないはずだ。ざっくり塗ったベースの絵は、間違いなく俺が金髪の子を描くときに用いる影の塗り方で間違いない。問題はどんな金髪なのかだ。幾重に重ねたレイヤーの中で色々な発色を試すがどれもしっくり来ない。
眼の色も、青なのは間違いない。けれどもどのような眼なのか、ハイライトの具合や、青の深みすべてがしっくり来ない。
では、肌の色はどうだろうか。色白で、かといえ血色はよい感じの頬、唇はラフの感じから見て、淡いピンクの唇にパンケーキのシロップが光る。ここら辺は『これしかない』そう、確信できる。
ダメだ。ここ数日まともに飲まず食わずで作業していた為か、頭が回らない。
背景も手付かずだし、天界の街に出て小腹を満たして、ぶらつくとしよう。
なぜか、そう思い立って、液タブ風のデバイスを持って久々の外へでた俺は言葉を失った。
そこに待っていたのは、顧客の神々たちだったのだ。
「悪いな、まだ絵は――」
「いや、今日はそうじゃないんだ。先生にはコレを見て欲しくて持ってきたんだ」
そう言い、小脇に抱えていた布のかけられたそれを差し出してきた。それも、目の前の神々全員が、一枚ずつ。俺は、最初に声を掛けてきた神に手渡されたそれに掛かる布をめくり、それが額縁だと理解した。そう、彼ら、彼女らは大事そうに抱えた布のかけられた額縁を差し出してきたのだ。その数は、三十枚程となる。
流石に多いため、これから小腹を満たすため天界の街へ行くことを告げると、皆一様に、ある店を勧めてきた。
ある神は「創作には糖分。ならば、あの店がいい」といい、また、ある女神は「パンケーキの題材ならあの店しかない」といい、ある神は「なぜかわからんがお供するなら、あの店がいい」という。
まぁ、訪ねてきた顧客の意向を無下にも出来ないため、俺はその店へと向かった。もちろん、彼ら、彼女らも連れて。
▽▼▽
その店に入った瞬間に、なぜか懐かしい感覚を俺は感じた。空気、匂い、光の加減、どれも入ったことの無い店にもかかわらず、やけに懐かしい。
メニュー表一つとってもそうだ。ケーキ類、飲み物の文字や配列、写真の配置。どこかで見たようなメニュー。そして、探してないのに、一際目につく『パンケーキ』の文字と写真。
何かが引っ掛かる、そんな事を考えながら眺めていると、同じテーブルに腰かけた神が先程の額縁を渡してくきた。
額縁は三十枚、流石に他の神の私物なので汚れないように俺の隣の座席に置かせて貰っていたものだ。
「コレを見てくれないか?」
そう言われた為、天使のウェイトレスにパンケーキと紅茶のセットを頼み、白い布をめくる。
「これ……は」
「わからないんだ。気づいたら家にあった。もちろん、他の神々も同じで、いつの間にか持っていたらしいのだが、よくわからないんだ。これは、いつ、どこで手にいれたのか、そして、誰が描いたのかが」
俺はその言葉を聞きながらも、急いですべての絵を確認する。
描かれているのは、全て同じ少女。満面の笑みで手を引く構図、紅茶を飲む構図、腰を屈め、前屈みでこちらを覗くような構図。布を剥がすのも億劫になるほど、俺はすべての絵を急いで確認する。
「で、先生は、これは誰が描いたかわかりますか?」
「間違いなく、俺の作品だ。ただ、額縁も大きさも揃っているから、多分だがこれは一日で、同じ場所で書き上げたものだと思う。背景もかなり書き込みが少ないからな」
「ふむ、やはり、先生の作品でしたか。しかし、これはいついただいたのか、我々はわからないんですよ」
「それは……」
いつだ? そして、なぜ同じ少女を描いたんだろうか? そして、有ることに気づいた。いや、気づいていたが後回しにしていた事、それは、この描かれてる少女が、金髪の碧眼の少女で、俺が見つけた未完の絵の子と同じと言うことだ。
その確信と同時に、絵の中の女の子が、どこか懐かしく感じる。液タブを取り出し、レイヤーを一気に消していく、新たなレイヤーを作り、色をつけていく。透明度の高い金髪、そして、澄んだ湖に、小さな星を散りばめたような碧眼。そして、背景を描き出す、椅子はほとんど手をいれなくても、この店に近かったため、そのまま配色し、店の中を描写していく。
完成し、顔をあげれば、うちを訪ねてきた神々にいつの間にか囲まれていた。
「それが、先生の新作ですか?」
「ん? あぁ、新作……というか、未完だった絵を見つけてな。どうやっても納得できる仕上がりにならなかったんだが、ここに来て、あんたらの持ってきてくれた絵を見たら完成した」
「見せて頂いても?」
「ん? あぁ、構わんよ」
そう言ったタイミングで天使がパンケーキセットを席に持ってきた。ふと、周りを見たら他の神々の席には空の皿があり、天使が気を効かせてくれたことを察した。
「ありがとう。ごめんな、店のなかで作業して」
「いえ、お気になさらないでください。わたくしたちも、神様の手から産み出される絵を見られて眼福でしたので、さぁ、冷めない内にどうぞ」
「ありがとう」
礼を言い、ナイフとフォークを手にしようとして、手がぶつかる。
細く、しなやかな指先、触れた手は温かく、懐かしさを感じる。そんな手だった。その手を辿ると、そこには金髪、碧眼の絵の少女が座っていた。神々の持ってきた絵を、その小さなお尻に敷いて椅子の低さをかさ上げすることで自身の手の届かなかった俺の目の前の皿に手を伸ばしていたのだ。
「おにぃさんだけずるい! わたしも食べたいっ!」
「な――」
「むぅ、おにぃさん。わたしの事忘れてたでしょ? 酷いよね、一緒に暮らしてたのに」
伏線は回収した。と、思いきやまだ残ってるんだよなぁ……。
次回こそ、新たな神シリーズは終わる……予定。
次回、真・新たな神は受け入れられない。
この次はハーデスしちゃうわよ。
はい、このネタのために引っ張ったと言っても過言じゃないです←(あとがきのための本編とは一体)