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神と女神は頭を抱えたい。

 こんどは、神チーの本来の姿に戻してみました。

 またか、僕はそう思った。これで連続八人目である。


『ですから、次の転生ではせめて人並みの幸せが欲しいです』


「つまり、貴方は人として転生希望でよろしいのですね?」


『はい、ですが、今生のような惨めな最後は迎えたくありません』


「はぁ、そこは生まれ変わった貴方次第だとしか言えませんよ?」


『そこをなんとか、本当に人並みでいいのです……多くは望みません、慈悲をくださればと』


 僕は気づかれないように、ため息を吐く。目の前の男性は、生前とある理由から多くの人に見捨てられ、ここへ来ている。何故なのかはわからないが、ここ最近はそういった人が増えた。


 ある者は、仲間を追い出し、またある者は裏の貢献者を気付かず切り捨て、その者達の恨みを買って寂しい末路を迎えている。


 詳細の記録を見返しても、何故気付かなかったのか? 何かの力が働いたとしか思えないほど、凄惨な最後を迎えていたり、孤独な人生を歩んでいたり、優雅な生活から底辺へと叩き落とされたり、と多岐に渡っている。


 が、本当の問題は『本人に悪意があった』と見なされるかどうかなのだが、大体は『悪意はなく、最善の判断』をしたと認識したままなのだ。もちろん、後悔はしているようだが。その後悔も高飛車だったりして、世捨て人や、国を滅ぼした王族などと豊富である。


 こんな仕事をしていたら、知らなくてもいいことなのに、王族の苦悩や、人の上に立つものの苦悩が理解できる。


 ある者は忠臣に騙され、ある者はリーダーとして今後の為にと、重要な情報を隠されたままな事に気づかず、最善を選択したはずが、全て裏目に出るのだ。だから、ここへ来た彼らは『人並みの幸せ』に憧れ、望みを抱き、来世への希望とする。


 神として僕は慈悲を与えたい。与えたいのだが、残念なことに、その権限は無いのが現状である。少しの『幸運』を与えたとしても、今では始末書ものだ。だから、僕はため息と共に頭を抱えたいのだ。


 どうすればいいのか? と。


「では、人への転生処理を行います。来世の貴方に幸があらんことを」


『ありがとうございます。神様、今度こそ人並みの幸せを……』


 光と消え行く彼を見ながら、無力感が胸に深く刺さるのを僕は感じながら処理を終える。


 今日何度目かの、ため息と共に次の転生者を呼んだ。


◇◆◇


 ねぇ、本当に男女別は止めて欲しいのだけど……。何度も改善要求を課長へと進言してるけど、まったくその気配を感じない。課長神が、男神なのがいけないのかしら?


 わたしの前に、本日五人目の人の娘が泣きながら前世の悲惨さを語るのだが、決まって『見た目だけの男に騙された、可哀想な私』をアピールしてきてウザイのだけれど。


 えぇ、知ってますよ。パーティのリーダーと体の関係を持ち、幼馴染みを捨てたのは。そして、その幼馴染みをパーティから追い出し、パーティが、瓦解、落ちぶれ、最後はそのリーダーの男のDVで幕を閉じたこと位。だって、手元の詳細記録に有りますもの。


 だからね、わたしは貴女の涙ながらの訴えに心を動かされることも、同情することもないのです。


 だって、好きになった男がダメ男だったなんて、この世に吐き捨てるほどいるんですよ? それを、さも悲劇のヒロインみたいな顔して『来世では、いい男と出逢いたい』とか、何言ってるの?


 捨てた幼馴染みはいい男じゃない。出逢ってるじゃない。なに? 天界のロリコンやエルフ、獣っ子にばかり、お熱な男神に囲まれてるわたしへの当て付けなの? バカなの? 死ぬの? あ、もう死んでここに来てたわね。


 本当に頭が痛い。いい出逢いなんて、本人が気付かなければただの『出逢い』でしかないのに。とりあえず、適当に相づち打って、なだめて転生処理をしよう。性別ランダムなのに、よくもまぁ、『いい男』との出逢いを欲するものだわ。


 これ、男に転生したら……あ、ちょっと胸熱かも。うん、『同性運向上』位ならこっそりつけてもいいかも知れない。


 いいわ、たぎってきた!


 そう、思ってたわたしを今は殴りたい。つい、乗る気になって二日前のわたしはあのあとの同じような望みの娘達に加護を付けてしまった。で、昨日発覚して、目の前に積まれた未だ白紙のままの始末書にわたしは頭を抱えているのだ。


「流されちゃダメ。絶対」



 そう呟き、女神は死んだ目で始末書を書き始める。既に時間は退勤時間を超え、一柱の休憩室には筆を走らせる音が寂しく響いていた。

 ちょっと、女神様に同情したくなる。そんな話。に、なってる?

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