女神様はやる気がない
久々の更新です。お待たせしました。
お楽しみいただけると、幸いです。
見上げれば突き抜けるような青空が広がり、デスクの上の雑事を忘れ、そのまま飛び去りたい。
雲一つ無い空を見上げ続け、どれほどの時間が経っただろうか。体内の感覚では僅か三十二秒だった。後ろから声を掛けられ、見上げて疲れた首を戻し、声の主に向き合う。
「なんでしょうか?」
「いや、仕事溜まってるんだから、処理を急いで貰えないかな?」
「そうですか。では、神力を使わせて下さい」
「それはダメだ! 大変な事になる!」
「はぁ。では、気長に待って下さい」
「待って! お願い! 急いで下さい。今度の神議会で、どれだけ新しい神員が必要なのかの大事な資料になるから!」
「興味ない。じゃ」
無碍もなく断られ、環境課一課課長神は頭を抱え、愚痴をこぼす。
「何が時間を司る神々は、きっかり正確に仕事する、だ!」
「ぜんっぜん! 仕事進んでねぇじゃん! むしろ溜まって行ってるよ! しかも、時間にルーズとかでなく、無頓着じゃん! このままじゃ不味いよ、マジどうしよう……」
課長神は肩を落とし、項垂れ、愚痴をこぼしながら課長デスクへ向かった。
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はぁ。やる気出ない。神力さえ使わせてくれるなら、ゆっくりだらけて、やる気を満たせるのに……。
まぁ、本気を出したら物の数分で全て振り分け終わるけど、正直めんどくさい。
女神はショートの毛先をいじりながら、目の前の書類を見る。
ダメだ、マジでやる気出ない。甘いもの食べたい。なんで、新しく生まれた世界の異常度で振り分けなきゃならないのよ。
それに、やる気がでない理由はわかってる。他の環境課の神々には楽に見えてるらしく、常に羨望の目で見られるのだ。あと、敵意を向けられたりするし。
変わってやりたい。こちらは情報管理課から上がってきたデータ、その全てを頭にいれて、どれ程の頻度でエラーが上がるか、それの程度はどの規模かで分けているのに。
環境管理している神々に言いたい。貴方達が普段「なぜアイツが担当三つで、僕は五つなんだ!」とか、言ってるけど、わたしは全ての世界を常に把握しなければ振り分けが出来ないのだと。
三つ担当の神と、五つ担当の神、蓋を開ければエラーの出現頻度は同じになるように振り分けている。五つ担当の神の方は、わりかし大人しい世界で、重篤なエラーは上がりにくい。
だけど、三つの神は頻度、規模ともに五つの世界よりも多く、重篤なエラーが上がることも少なくないのだ。
それを課内全ての神に、それも均等に振り分けるのがいかにキツいか代わって貰いたいくらいよ。
はぁ、甘いプリンが食べたい。
「あの、女神様」
「ん? あら、貴方は環境課内のサポートの天使くんよね?」
「はい、その、今朝お菓子を作って見たんですが、良ければ、お一ついかがですか?」
「お菓子っ!? 甘いものかしらっ?」
「はい。プリンなるものを作って見たのですが……」
「是非、いただくわっ!」
そうして、エメラルドの長い髪色の天使からプリンを受け取り、すぐに開封してスプーンで掬い、口へ運ぶ。
柔らかな甘味、カラメルのほのかな苦味、とろけて舌に絡むように広がる卵黄とミルクの濃厚な風味。
やさぐれ、やる気の削がれていた女神の心が、一口で癒されていく。
余韻を楽しみながら、ゆっくりと食べ、最後の一口を惜しむように口に運び味わう。
ほっと一息ついてから、口元をハンカチで拭い後ろに待機している天使へと向き直る。
「ごちそうさま。すごく美味しかったわ! また作ってくださる?」
「は、はいっ! 喜んで!」
空になった容器を天使に返すと、女神は目の前の書類に目をやり、驚くべき速度で処理していき、僅か半日で溜まった書類を片付けてしまった。
その次の日以降、課長が食堂でプリンを購入し、女神に渡す日々が始まったのは言うまでもない。
次回更新は不定期ですが、出来れば盆休み中に全ての作品を更新掛けたいと思っております。
どうぞ、その際はよろしくお願い致します。