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女神は、神を知る

 遅くなりました(´Д`)


 今回は神界にラブの風が……吹くのかな?

 ここは、転生課転生者対応窓口、時間は深夜を過ぎた頃だ。


 女神の一柱は次から次へとやってくる、転生待機者の処理に追われる日々を過ごし、酷く疲弊(ひへい)していた。


 折しもそんなときに、厄介な相手が続くもので、テンションは下がる一方であった。早く、交代時間が来ないかと、時計とにらめっこしているが、一向に針は進まない。壊れてるのではないか? と疑うほどに、遅々として進まないのである。


 もちろん、故障と言うことはない。神界に満たされている、神力を用いるので故障や電池切れなどは存在しない。


 女神は長い髪が俯く度に、耳元から溢れ、顔に掛かるのが鬱陶しくなり、今度の休みにバッサリいこう。そう決意しながら、処理を続ける。


 普段の女神なら、そんなことは絶対に思わないのに……である。そうして、ようやく、休憩時間となる。休憩室へと向かい、扉を開ける。中には既に一柱の男の神が居た。

 たしか、最近配属された神だったはず、そう思いながら挨拶をする。


「お疲れ様です。わたしも休ませて貰うわね」

「お疲れ様です、女神様」


 切れ長の青い瞳の男神は、笑顔で女神にお辞儀をしてから挨拶を返してくれた。男神の少し長めの淡い緑色した髪を見て、ふと先ほど考えてたことを伝える。


「ねぇ、この長い髪少し鬱陶しくなってしまって切ろうかと思ってるの。どうかしら?」

「え? あ、はぁ。御身がそれで良いのでしたら、 それでいいのでは?」


 まるで関心が無いような反応に、女神は肩を落とす。やはり、男神の誰もが女神心の繊細な機微をわかってくれそうもない。そう、感じ投げやりに返答をする。


「そうね。そうよね、ありがとう。では、そうさせていただくわ」

「あの、どうして、鬱陶しく感じるようになったのですか?」

「転生処理の時に、耳元から髪が溢れるのよ。で、視界を覆うし、かきあげてもまた落ちてくるし。うんざりなの」


 そう答え、白銀の髪をかきあげ、耳へと流す。その女神の仕草に男神は目を離すことはできず、髪をかきあげたときに振り撒かれた洗髪剤の香りだろう、花の香りが鼻孔をつき、えもいわれぬ大人の魅力にみとれてしまう。


 そんなことには、気づかない女神はため息を吐いて一人掛のソファーへと向かい腰を下ろしていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

 長く、憂鬱な勤務時間がようやく終わりを迎えた。交代の神が来て、引き継ぎを行い席を立つ。


 不意に後ろから声を掛けられる。


「女神様、ちょっといいですか?」

 立ち上がったばかりの椅子に再度腰を下ろし、声の方へと椅子をまわす。そこに立っていたのは休憩時の男神だった。

「あら? 貴方は休憩の時の」そう言いながら小首を傾げ、何かあったのかを考える。


 手入れの行き届いた、長い白銀に輝く髪が傾げた小首と共に流れていく様に見惚れながらも男神はゆっくりと頷き、言葉を続ける。


「ええ、その件で女神様に渡したいものがありまして」


 その件? なんのことかしら? 女神は自身が投げ掛けた質問を既に忘れ、自己完結してしまっていたので既に頭のなかには無いのである。悩んでいた事、そのものが。


「そう?」


 そんな女神の心中など知らぬ男神は、その美貌と柔らかな視線に心が跳ねるのを抑えつつ本題を切り出す。


「これです。サポートの天使にお願いして、買ってきて貰ったのですが、良ければお使いください」


 渡されたのは、小さな箱と、少し大きめの薄い紙袋の二つだった。


 渡された女神は小首をかしげながら、まずは箱を開ける。そこにはバラを象った小さなピンが鎮座していた。


「これ……は?」


 女神は、突然意匠を凝らした逸品を渡された事に驚きながら短く問いかけるしかなかった。驚きと戸惑いがその心を満たし、さらに戸惑った表情で目の前に立つ男神を見上げた女神。

 その姿にさらに胸を締め付けられる思いを感じながら、男神は平然を装い問いに答えていく。


「――っ、それは、最近天使の職人が作り出したモノです。ま、まぁ、神界ではまだ全然知られていないようですが、下界ではそう言ったものが溢れてるそうです。少し、いいですか?」


 まったく平然を装うことができず、一気にまくし立てたように答えた男神の圧に押され、女神は小さく頷き、蓋を開けた木箱を男神に差し出しながら

「えぇ。どうぞ」と、返答するのが精いっぱいであった。


 小箱からピンを丁寧に取り出した男神を見て、女神はそのピンで何をするのか? と少し不安になる。


 ピンを手にした男神の手が女神の白銀の髪へと伸び、顔の横を抜ける。その際にすこし、ほんの少しだが男神の温もりと香り、そして頭皮を何かが擦る様な感触があったため、女神は目を閉じてしまう。


「もう、大丈夫ですよ。こういう風に使うそうです。紙袋の鏡を使ってください」


 その言葉と同時に、温もりと香りが離れていくのをなぜか少し残念と感じながら膝の上に置いていた紙袋に目をやる。どうやら、紙袋の中は手鏡だったようだ。そう感じながら、男神に言われたように女神は紙袋から木製の淵に花と弦、鳥などの美しい彫り物が施された手鏡を取り出した。


 女神は鏡を手にして、先ほどの感触があった場所を映す。そこには、綺麗に髪が留まり、下を向いても顔に溢れて落ちてくることはない。さらに、白銀の髪に深紅のバラが映え女神は知らぬ間に自然と笑顔になる。


「あぁ、やっぱり。女神様には、その美しい長い髪と、笑顔が似合いますね」


 そう言った男神は、男前の笑顔でしきりに頷いていた。


「えっと、ありがとう……お代は幾らかしら?」

「女神様の笑顔が、みれたので頂けませんよ。まさに、女神様です!」


 面と向かい、誉められ、ぼろぼろだった砂漠の様な心に潤いを感じ、頬を染める女神は口に出さずに確信した。


 あぁっ――この男神は、神だ! と。


 その後、女神は髪を切ることはせずに、ヘアピンを毎日着けて仕事をこなし、以前より笑顔が増えたと、課内で少し話題となった。 

 なかなか、書き上がらず苦戦しました(-_-;)


 閲覧応援ありがとうございます。


 次回更新は、明日の昼辺りを予定しております。

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