堕天使、世界を往く
なんとか、更新。
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あれから、どれほどの時間が経ったろう。日の出の回数を数えるのは、二十そこそこで止めた。なにしろ、わたしは自由なのだから。
神界に戻りたいか? と聞かれれば即答で、否と言える。それほどに、下界は素晴らしいものだ。何をしてもいいし、何もしなくてもいい。神界にいた頃には、こんな解放感を得られた事などない。むしろ、そもそも自由自体が存在していない。その事を気づけたのは、やはり堕天し、下界を知ったからだろう。
全ての天使が堕天すれば良いのに。あんな神々なんて放って置けば良いのに。
あぁ、下界のなんたる素晴らしき事か!
ここで、ため息を吐き視線を後方に向ける。
この素晴らしい世界の堪能を、邪魔するものがまた来たのか。内心で憤りつつも、体の向きを変え、侵入してきたヤツの元へと歩き出す。
別に縄張りや、近寄るものは全て排除する。とかではなく、この世界に来てからと言うもの、定期的に人族に襲われる様になったのだ。
面倒である。堕天した今の力は神界にいた頃より遥かに強くなっている。そんな気がするほどに、人族とは格が違う。にも関わらずヤツラはやって来る。『奴隷になれ』等とのたまいながら、何度も。そろそろ、殺さずに返すのも疲れてしまった。
一息に森を駆け抜け、侵入者の前に出る。
「だ、だれっ!?」
どうやら、別の人間だったようだ。細く、胸が小さく膨らんでいる。なるほど、これが女と呼ばれる性別か。ふむなるほど、わたしも当てはまるから女という性別になるのか。
「き、聞いてる?」
「問題ない。して、汝は何用で此処へ来たのですか?」
「逃げてるの……奴隷商から」
「ほう、やはりヤツラも来たのですね」
「奴隷商を知ってるの?」
「数十回を越えて返り討ちにしている。で、汝はその奴隷商の商品なのですか?」
「違うわよっ! 無理やり奴隷にされそうになってるの! こう見えて冒険者なんだから!」
はて? 冒険者とはなんであろうか? 身なりを見ると、革の胸当て、手には革のグローブ、腰には短い剣、髪は肩までの手を加えれば艶のある黒髪になるだろうが、今は脂と汚れでくすんでいる。顔は泥で汚れて居るし。服装は、上は少しくたびれたシャツ、下はくるぶしまでのつぎはぎだらけのパンツ。そこから察するに、冒険者とは家の無い流浪の者なのだろう。風にのって流れてくるのは、汗の臭いと垢の臭いである。神界ではまず嗅ぐことの無い臭いである。
「なるほど、これが冒険者というものですか……なかなか、大変であるのですね」
「ちょっと! 今失礼な事考えなかった?」
「いや、なに、女は綺麗に着飾り、良い香りがする。と聞いてたのですが、冒険者ともなると、なるほど変わるのだなぁ、と」
「ちがっ! 本当はお風呂に入りたいけど、この世界は不親切なのよ! お金だって、稼げないし、家も借りれないし、食べ物だって……」
「ん? なんです? 汝はこの世界産まれではないのですか?」
「気になってたんだけど、貴女はなんでそんな格好なの? 白ければ天使のように見えるけど……そんな種族も居る世界なのね」
「あぁ、良くわかりましたね。元天使、今は堕天使ですね。で、質問の答えを頂ける?」
「私は転生者。異世界からの、ね」
「あぁ、神がよく愚痴ってたわね。地上神が勝手に連れてきて転生させるって」
「…………神? え? 元天使? 堕天使――――――――」
「どうしました?」
「ええええぇっーーーーーーーー!!!!!」
森のなかに転生者の声がこだました。
次回更新は明日夜に予定してます。よろしくお願いいたします。