聖戦、そして――
終わらなかった……………………
湖畔に近い森の中で息を潜めつつ、神々は目標へと向けて静かに、そして、素早く移動を行っていた。
『こちらD班。目標まで残り百を切った。妨害者、罠、共に見つからず。このまま、接近、叶うなら目視、撮影を行う』
『こちら、本部。D班了解、幸運を祈る。A、B、C班はD班の援護、ならびに警戒と索敵を続けろ、今回に限って妨害が無い等甘いことを考えるなよ』
『『『了解』』』
無駄に神力を使い、目的達成のため彼ら、[囲炉裏を囲む会]の会員は行動を続ける。
作戦指揮のリーダーは、手元の地図を見ながら全てのチームの位置に駒をずらしていく。そして、気がつく。目標の捕捉には、湖畔南の小高い丘から神力で、望遠を掛けるのが最も楽に捕捉出来る。だが、そちらのルートは既に妨害班が陣取り、短時間での突破は不可能だった。
そのため、現在の湖畔西から、北にかけての森を抜ける作戦になったのだ。だが、妙に何も起こらないのだ。丘の守備にほとんどの会員を待機させているのか? そう、考えながらも、可能性は低くはない。
理由として、敵勢力[蕾の楽園]のメンバーは多部署、男女混成のサークルだからだ。対してうちの[囲炉裏を囲む会]は、ほぼ環境第二課の連中である。休みも合わせやすく、常に待機組がいる。
だが、油断はしてはならない、むしろ油断などしている暇は無い。なにしろ、結成よりこのかた、目標達成を成せた事がないのだから。
奴等は、時間の稼ぎかた、こちらの足の止めかた、少ない神員の使い方、全てが上手いのだ。その苦い経験を生かし、今回から、班行動と指揮を設けた。これで以前のように、ただ欲望のままに挑んでも止められる事を防ぎ、目標達成を全員で味わう事が出来ると考えたからだ。
「湖畔で遊泳する、ターゲット。もちろん、全裸だろう。これを捕捉せずして、なんとするか……」
「指揮官、それには私も同意します。惜しむらくは作戦メンバーに成れなかった事ですが」
「そうだな。肉眼での捕捉と、念写による映像では天と地ほどの差はある……だが、仕方ないだろう。我らは次回に期待しようではないか」
そう口にし指揮所に詰めてる二人の神は、心底残念そうに湖畔の地図を眺める。
◇◆◇
やれやれ、奴等は懲りずに来るかよ。ハンドサインを用いて、後方の支援部隊に報告する。
敵接近、距離八十、方位十時、数およそ十五。
後ろから、ハンドサインが帰ってくる。
護衛対象、湖畔到着、正体不明と食事中、時間を稼げ。
ハンドサインで了解と返し、接近を試みる。
目視で数を確認し、再度ハンドサインを出せる位置まで戻り報告する。
数訂正、十二、これより妨害を開始する。
妨害に使うのは、奴等が欲しがる物を囮に使う。そう、下着だ。
それを、進行方向よりズラした所へセットする。奴等の視界に入るギリギリのラインで。もちろん、それだけではない。囮に手を伸ばそうと近寄れば、仕掛けてある落とし穴のトラップが発動する。
近くの低木の茂みに身を潜め、奴等が近づくのを待つ。
声が聞こえた。どうやら気づいたようだ。
「やっぱり、アレは聖遺物じゃないか?」
「あぁ、間違いない。あの、輝きは聖遺物だ。周囲の警戒を厳にしろ、アレを入手できれば俺たちは英雄だ」
「「「「「おおっ!」」」」」
ゆっくりと、近づいてくる変態の編隊。どうなるか……身を潜める神は、やり過ぎたか? と考えるが例え奪取されようとも問題は無い。なにしろ、下着は新品未使用だからだ。誰でも対価を払えば買えるもの。手に入るものだ。
「しかし、妙だな。なぜ、あんなとこにアレがある?」
「班長、もしかしたら、目標が脱いだあと、風にさらわれた可能性も」
「なるほど、可能性はあるな。よし、やはり回収をしよう」
やはり、少しやり過ぎたか。目に入りやすいように少し高めに引っ掛けて置いた事に違和感が出たらしい。
だがそれも、神の杞憂に終わる。
「いやっほーーーー! 俺が手にいれる!」
「させるかっ! それは俺のもんだ!!!!」
「バカを言うなっ! 見つけた私のモノに決まってる!」
「はんっ! 班長たるわたしのモノだっ!」
全員で醜い争いをしながら、一気に下着へと到来する変態たち。そう、彼らは集団行動に向いていないのだ。餌を見れば我先に、と飛びつく獣と同じである。
例え部隊編成をしていても、いとも簡単に変態どもは自壊するのだ。
そして、響き渡る悲鳴。
「憐れだ……」
まさか、落とし穴一つで片が付くとは思わず、もうひとつの罠を発動できずに虚しくなるのだった。だが、闘いはこれからなのだ。残りの敵も殲滅せねば、護衛対象の安寧はないのだから。
続きます。更新は明日になります。変態達が、あまりにも酷すぎる…………
次回もよろしくお願いいたします。