神は世界を導かない
ちょっと不思議系の展開です。
サークル活動を情報管理課課長が勧め出してからと言うもの、課内は以前とは比べられないほど神々のやり取りがされるようになった。
特にウチの課、環境課はそれが顕著だ。特に最大規模を誇る、囲炉裏を囲う会なるロリコン集団が更なる勢力拡大に向け一課二課問わず課内各所で勧誘を行っている。
ただでさえ、ロリコン課と呼ばれ肩身が狭いのに、なぜここまで出来るのか『エルフスキー』メンバーの俺にはわからない。なぜエルフを好きになり、見守りたいのか? を言えと言われたら三日三晩は語れるだろう。もし、他メンバー達と一緒なら五日間は堅いだろう。
管理している世界すべてにエルフがいる。しかし、その生態や、ルーツ、成長速度など様々なエルフが居るのだ。
俺のオススメは『エルダーエルフ』、その世界では最古種と呼ばれるエルフ族で寿命は永く、成長速度はとにかく遅い。多種の平均成人速度は十五年、しかしエルダーエルフについては六十年とかなり掛かる。よって、観測するのにも向いているのだ。おっと、熱くなりすぎて、語らなくて良いことまで語ってしまった。
そんなわけで、ロリコン課の中に居るわけだが、とにかく疎外感が酷いのだ。あいつらは幼ければ何でもいいレベルの淫獣だ、俺はエルフを、愛すべき妖精達を、奴等の好奇の眼から守らねばならない。そう心に決めている。
そんなことを男神は考えながら、エラー処理を進める。そして、一つのエラーが上がった。『エルダーエルフ』の居る世界である。
瞬時にコードを読み解き、処理に当たろうとするも、記された内容は『召還勇者による自然破壊』『エルダーエルフの生存率低下、レッドアラート発動』であった。
転生チートはさせない、許さないが決まりだが、召還勇者問題が昨今、話題に上るのである。
召還時にスキルを付与。これに天界神は関わらない、やっているのは地上神と呼ばれる天界に一切来ない、来れない神達だ。
そこに、神が居るのだから世界管理まですればいいものを、なぜかそういう神に限って一切手をつけず、世界のルールを決め、こちらの邪魔をするのだ。
癒しのエルダーエルフが絶滅危惧、その時点で男神は冷静さを欠きそうになる。それをどうにか抑え、ボードを操作し被害の減少、再構築を行っていく。
「くそっ! ダメだ間に合わん…………しかし、これ以上は……」
ついに独り言が漏れ、モニターの数値が異常値のままどんどんと悪化していく。
「止まれ! 止まってくれ! クソが、なんで召還される奴等は自然破壊が基本なんだよっ!」
対処を続けるも、どんどんとモニターにポップアップするアラートで埋められていく。
「お困りかね? エルフスキーのキミ」
「誰だ! 今、手も、眼も離せねぇんだよ!」
とにかく時間が惜しいので、眼すら向けずに処理の速度をあげていく。
「良い手がある。聞くかね?」
「手短にしろっ!」
「簡単さ、召還勇者の目の前から大陸を切り離すだけでいい、そうすればキミのエルフは守れるよ」
「な、そんなことをすれば建て直すのにどれだけの……」
「種が滅ぶより、ましだろう?」
悩んだのは一瞬だった。実行し、モニタリングを行う。大陸を分断し移動させたために、大きな地震と噴火が各所で起こっていた。それにともない津波、噴煙による寒冷化、それらの被害による人口の激減、森にいた召還勇者は漏れなく転生課送りになっていた。
「ありがとう」
「やっちまった……で、あんたは誰だ?」
そして、振り返った彼は声の主を探すも、誰も居なかった。なぜ、お礼を言われたのか、そして、誰も居ない事に首を傾げるが、あとの始末書が、脳裏に過り頭を抱えるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「しゃあっ! レベルアップ!」
「レベルアップおめ! こっちは新スキルゲットした。てか、そろそろ目的の特殊エルフの里じゃね?」
「あぁ、そのはず。マジ、エロフに期待」
「でも、森こんなに吹っ飛ばして良かったのか? エルフに嫌われて会えないかもよ?」
「大丈夫っしょ! 巨大な魔物を倒すためだし、逆に感謝されるだろ、普通」
目の前に広がるクレーターと、その外周では炎が上がり、火が広がっていく。その中に本来ならエルダーエルフの里が一つあったのだが、魔物もろともに消えていた事を彼らは知らない。
「ま、なんにせよ、神からは魔王を倒して救ってくれって話だからな。この程度は問題はないんじゃね?」
そう、楽観視する勇者達はようやくクレーターの外周へとたどり着き、燃えている森を見て爆裂魔法を放ち、炎ごと森を破壊する。
「消火おわりっと、さ、行こうぜ」
「だな、俺達には神様の導き? があるしな」
そのあとすぐに大きな地鳴りと、かつてない地震に、身をすくめ、地割れに呑み込まれ、彼らはこの世界から消えた。
次回更新は明日の12:00を予定してます。よろしくお願い致します。