とり憑き妖怪 と かくれんぼ
小さな子が公園の遊具で遊びたがっているのをテレビで見かけ、(子供は新型コロナの感染リスクがわかりにくいのかな? 子供に現実的な説明をしても理解が難しいかも? こういう「子供を危険から遠ざけたいとき」に昔は「妖怪がいるから危ないよ」と教えていたのかも?)と思い、新型コロナを「とり憑き妖怪」に仕立て、手洗いとマスクの大切さを伝えるお話を考えました。
ただ、この話は「叩き台」だと思っていて、それぞれの子供の状況や性質に応じて臨機応変に話を変えて、子供に何が危険でどうしたらいいかを伝えるツールにしてもらえればいいと思っています。
海外の子供には、「妖怪」を「妖精」や「モンスター」に変えれば、受け取りやすいのでは…?
「むかぁし むかし」で はじまるのが むかしばなし
だけどね いいかい? これは むかしばなしじゃ ないんだよ
いまから すこぉし まえのこと
どこからか ふぅーっと とり憑き妖怪たちが やってきた
とり憑き妖怪が このくにに やってきたのは はじめてだから
まだまだ わからないこと いっぱいあるけど
わかっていることも いろいろあるよ
とり憑き妖怪たちは いま このくにの あちらこちらに すみついてるよ
そのすがたは とうめいで かたちが きまっていない 妖怪なんだ
のびたり ちぢんだり じゆうじざい
すきなように じぶんの かたちを かえられる
にんげんを まるまるまるっと つつめるくらい
おおきく おおきくなることも
にんげんの からだの中に しゅるっと はいることが できちゃうくらい
ちいさく ちいさくなることも
とり憑き妖怪には できるんだ
とり憑き妖怪は きぶんやで 重さも きまっていない 妖怪なんだ
きぶんしだいで 重くなったり 軽くなったり じゆうじざい
とり憑き妖怪 おすもうさんより 重くなることだって できるから
重くなれば 重さは つたわり
とり憑き妖怪が ここにいるよと 知らせるよ
とり憑き妖怪 わたゆきより 軽くなることだって できるから
軽くなれば 重さを かんじられなくなって
とり憑き妖怪が どこにいるか きづかれること なくなるよ
とても ふしぎな 妖怪なんだ
とり憑き妖怪には 目もなければ 耳もない
あるのは おおきな はなと お口だけ
だから 目で あたりを 見まわして にんげんを さがすことは できないけれど
だから 耳で まわりのこえを ききとって にんげんを さがすことは できないけれど
はなが きくから においには びんかんだ
いきものが はきだす 息の中には
とり憑き妖怪にだけ わかる とくべつな においが まじってる
ネコが はきだした 息の中にも
イヌが はきだした 息の中にも
トリが はきだした 息の中にも
トカゲが はきだした 息の中にも
ムシが はきだした 息の中にも
にんげんが はきだした 息の中にも
いきものが いきてることを しらせる いのちの においが まじってる
いろんな いのちの においの中から とり憑き妖怪の するどい はなは
にんげんの においを かぎわけることが できるんだ
とり憑き妖怪たちは いつだって じまんの はなを つかって
ちかくに ひとが いないか さがしているよ
まちの中を ふわふわ ただよい
においを たどって ひとのそばへ ちかづくと
そのひとが きづかぬうちに ふわふわ ぴたり! と とり憑くよ
とり憑き妖怪は さみしんぼうで ひとに とり憑くのが だいすきなんだ
だって ひとにぴったり とり憑いちゃえば どこへ いくにも いつもいっしょ
ひとと いっしょに いられれば さみしくないから
とり憑き妖怪は いつだって ひとに とり憑こうと しちゃうんだ
とり憑き妖怪 ひとの せなかに ぴったり くっつくと
さみしさなんて ふきとんじゃう
あんしんしきって ねむくなる
おんぶの せなかは いごこち いいから いねむりするには ぴったんこ
ひとの せなかは あったかくって きもちよくって うとうとうと
とり憑き妖怪は そのまま ずーっと ぐっすり すやすや ねむりつづける
おねぼうさんが おおいんだ
だけど おねぼうじゃない とり憑き妖怪は しばらく すやすや ねむったら
じわじわじわわぁ~っと 目を さます
たくさん ねむって 目ざめたら げんきいっぱい
とり憑いたにんげんに 「あそぼう! あそぼう!」と よびかける
とり憑き妖怪が 「あそぼう!」と よびかけても
そのこえは にんげんの 耳には きこえない
だって 妖怪の こえだから
どれだけ 「あそぼう!」と とり憑き妖怪が さけんでも
にんげんは とり憑き妖怪とは あそんでくれない
さけんでることにも きづいてくれない
よびかけても きづいてくれない にんげんに
とり憑き妖怪 じりじり じりりと じれてくる
ごきげんななめの とり憑き妖怪
そろりそろりと からだを ひろげ とり憑いたにんげん つつみこみ
どんどん どんどん 重くなるよ
とり憑いたにんげんに いっしょに いること しらせるために
どんどん どんどん 重くなるよ
どんどん どんどん どんどん どんどん 重くなって
「ここにいるよ」と さけんでも
にんげんは その重みに たえきれず おしつぶされて いくばかり
いつまで まっても にんげんは とり憑き妖怪と あそんでくれない
さみしんぼうの とり憑き妖怪
いっしょに あそんでもらえないと
いらいら いらいら いらいらしちゃう
「あそんで! あそんで!」と かんしゃく おこす
いらだつ きもちは ちからになって
とり憑いたにんげんの からだを ぎゅーっと ぎゅーっと しめつける
びっくりするのは しめつけられた にんげんだ
ぎゅー ぎゅー ぎゅぎゅーっと しめつけられた にんげんは
手を うごかすのも ひとくろう
からだを じゆうに うごかせなくって
くるしくって くるしくって たまらないのに
妖怪のしわざだとは きづかない
にんげんには とり憑き妖怪の すがたは 見えないから
わけも わからず しんどい からだを ひきずって
くるしくって くるしくって うんうん うなって ないてしまうよ
にんげんが うんうん うなって くるしんでても とり憑き妖怪は きづかない
だって いらいら しているからね
いらいらを にんげんに ぶつけても ちっとも すっきり しないんだ
それどころか いらいらを ぶつければ ぶつけるほど
とり憑き妖怪の いらいらは ますばかり
ふくらんでいく いらいらに いても たっても いられない
ねむっている あいだは ちっとも わるさを しない おとなしい 妖怪なのに
いらいらを にんげんに ぶつけはじめると あばれんぼうに かわっていく
それが とり憑き妖怪なんだ
この妖怪 いちど いらいらを にんげんに ぶつけはじめると
どんどん どんどん あばれんぼうに なっていく
あばれんぼうの とり憑き妖怪
にんげんと なかよくしたかったはずなのに そんなの すっかり わすれて
とり憑いたひとが くるしんでるのも きにとめず すきほうだいに あばれまわるよ
とり憑いたひとの せなかから あたまの上へ
あたまの上から かおをとおって 口から のどへ
のどから おなかの中へ しゅる しゅる しゅるっと はいっていくよ
しゅるしゅるっと はいって いったら
おなかの中を ぐるぐるぐる
あたまの中を ぐるぐるぐる
ぐるぐるぐるぐる とり憑き妖怪は にんげんの からだの中を かけまわる
たいへんなのは からだの中で とり憑き妖怪に おおあばれされた にんげんだ
からだの中を サーキットを はしる くるまのように ぐるぐる ぐるぐる
ぐるぐるめぐりされた にんげんの からだは かっか かっか あつくなる
おなかの中で ぐるんぐるん ぐるぐるぐるん
でんぐりがえりされた にんげんは おなかのちょうしが わるくなる
あたまの中で どしんずしんと とびはねられた にんげんは
あたまが ずきずき いたくなる
のどの おくに ぴたぴたっと はりつかれた にんげんは
じょうずに 息が できなくなる
ごほんごほん せきが でる
ごほんごほごほ ごほごほごほごほ せきが でる
ひとばんじゅうでも せきが でる
やまない せきに くるしめられて ねむることだって できやしない
くるしくって くるしくって くるしくって くるしくって
しにそうなくらい くるしんでも
にんげんのちからでは とり憑き妖怪を おいはらうことは できなくて
さみしんぼうな とり憑き妖怪
いちど だれかに とり憑いちゃうと なかなか なかなか はなれない
いちど とり憑かれたにんげんは ずーっと ずずーっと とり憑かれたままなんだ
きぶんやの 憑りつき妖怪が きまぐれ おこして ふいっと どこかに とびさってしまうまで
ずーっと ずずーっと そのまんま
妖怪っていうのは やっかいなんだ
にんげんの 道理が つうじない
だれかが つらそうに していたら たすけてやりたくなるのが ひとの 道理
だけど とり憑き妖怪は くるしんでるひと たすけてやろうなんて おもわない
おかまいなしに あばれまわるよ
とり憑いたひとの げんきを すいとり もっともっと あばれまわるよ
あばれまわっているうちに
とり憑き妖怪の いらいらは ますます ふくれあがって
ちいさな ちいさな トゲに かわるよ
トゲトゲが たくさん できたら
トゲトゲを ぴゅっ ぴゅっ ぴゅっと とばしっこ
とり憑き妖怪が とばした トゲは にんげんの 口から とびでていくよ
ぴゅっ ぴゅっ ぴゅっと とびでた トゲは ぽとん ぽとんと おちていく
すぐちかくに おちるもの
とおく とおくへ とんで おちるもの
ぽとん ぽとんと おっこちて しばらく たつと
トゲには おおきな はなと お口が できて
ふわふわふわっと とびはじめるよ
あっち こっちに おっこちた トゲたちが
あたらしい とり憑き妖怪に なるんだよ
あたらしい とり憑き妖怪たちも さみしんぼう
とり憑けるひと さがして ふわふわと あたりを ただよいはじめるよ
ちかくに とり憑けるひとを 見つけたら ふわふわ ぴたり! と とり憑くよ
ふわふわ ぴたり! と とり憑くと そのひとの せなかで ひとねむり
ずーっと ねむったまんまでいるか
目を さまして あばれんぼうになってしまうかは
とり憑き妖怪の きまぐれしだい
もしも あばれんぼうに なってしまったら
にんげんの くるしみなんて きにしない
あばれて あばれて トゲを とばすよ
とびちった むすうの トゲたちは
やがて あたらしい とり憑き妖怪に なっていく
とり憑き妖怪 こうやって たくさん たくさん ふえていく
とり憑き妖怪と にんげんと なかよく できれば いいけれど
とり憑き妖怪が にんげんと いっしょに いたいと のぞんでも
いっしょに いるのは むずかしい
とり憑き妖怪が あばれんぼうになって あばれたら
くるしめられるのは にんげんだから
とり憑き妖怪と にんげんは いっしょには いられない
だから とり憑き妖怪が とばした トゲには きをつけて!
トゲたちも とうめいだから どこに ちらばってるか わからない
トゲは とおくに とぶように たんぽぽの わたげより 軽いから
さわって 手に ついてしまっても にんげんは きづかない
おうちの そとで なにかに さわったら
トゲが 手に ひっついてしまうかも?
だから おそとで なにか さわったら
かおを さわらないよう きをつけて!
トゲつきの 手で かおを さわると
こんどは かおに トゲが ついちゃうよ
トゲを つけたままでいるのは あぶない あぶない
トゲは やがて とり憑き妖怪に なってしまうから
トゲが とり憑き妖怪に かわるまえに
せっけん つけて ごしごし 手を あらっちゃおう!
手に ついてしまった トゲが あっても
あらいおとせば キレイ さっぱり
トゲは おみずに ながされて とおくへ いってしまうから
あんしん あんしん
しっかり 手あらい たいせつなこと
それから もひとつ たいせつなこと
とり憑き妖怪と にんげんは いっしょには いられないけど
ひとつだけ いっしょに あそべる あそびが あるんだ
にんげんを さがす とり憑き妖怪と
とり憑き妖怪から にげる にんげんと
できるあそびは かくれんぼ
とり憑き妖怪に とり憑かれないように するために
にんげんが とり憑き妖怪から じょうずに かくれてみせれば いいんだよ
とり憑き妖怪と 人間の かくれんぼ
おうちの そとに でかけるときは マスクを はめるの わすれずに
マスクを しとくと とり憑き妖怪に きづかれないよ
にんげんが はく 息に まざった いのちの においを
マスクが かくしてくれるから
だけどね マスクは ちゃんと じょうずに つけないと
すきまから いのちのにおいが もれてしまうよ きをつけて
とり憑き妖怪の おおきな はなは
このせかいの どんないきものより すぐれているから
ほんの ちょっとの においでも かぎとってしまうんだ
おうちの そとでは おしゃべりは ひかえめに
ぺちゃくちゃ ぺちゃくちゃ おしゃべりしてたら
とり憑き妖怪に きづかれる
こえを だすときは ちいさな ちいさな ちいさな こえで
おおごえ だしてちゃ きづかれる
おおきなこえを だすときは 息を たくさん はきだすから
息に まじった にんげんの いのちの においを かぎつけて
とり憑き妖怪が やってくる
なるべく こえを ださないで
しーっ!
しーっ!
しーっ!
ひとは たくさん あつまると ついつい おしゃべり したくなる
できるだけ にんげんたちが バラバラに すごすのが たいせつだ
なるべく おうちに いるのが いいよ
とり憑き妖怪と にんげんの かくれんぼ
みんなが じょうずに かくれたら
とり憑き妖怪が どれだけ さがしても
にんげんを さがしだすこと できないよ
にんげんに とり憑くことが できないよ
あっちを ふわふわ こっちを ふわふわ
にんげんを さがしまわっているうちに
とり憑き妖怪は つかれはてて あきてしまうよ
かくれんぼに あきちゃった とり憑き妖怪
おそらの たかい たかいところへ ふわふわふーっと とんでくよ
しろい くもも つきぬけて
あおい おそらの たかいとこ
おひさまの ひかりが いっぱい いっぱい さんさんさん!
おひさまの ひかりは ほっこり ほわほわ あたたかくって
とり憑き妖怪の イライラを すーっと けしさってくれるんだ
イライラが きえれば ごきげんさん!
すっかり きもちよくなって うたいだすよ ひかりの うたを
あったかい ひかりに つつまれて うたを うたっているうちに
とり憑き妖怪 おひさまの ひかりの中に とけこんで
キラキラ かがやく ひかりになるよ
とり憑き妖怪が みんな みんな キラキラ ひかりに かわってくれたなら
にんげんたちは とり憑き妖怪に とり憑かれる しんぱいしなくて よくなるよ
それまでの しんぼうさ!
とり憑かれるしんぱい なくなれば
にんげんの こどもたち
おともだちと おそとで いっぱい いっぱい あそべるように なるんだよ
それまで じーっと かくれんぼ
みんなで じーっと かくれんぼ
とり憑き妖怪と かくれんぼ
(子供たちが学校に行けなかったり、外で好きなように遊べないのはかわいそうですが。その「かわいそう」という気持ちは大人の胸にしまって、「こわい妖怪がうろうろしているけど、家に居れば安心だよ」にしてあげた方が、子供が自分から今の閉じこもりの状態を受け入れやすいかもしれないな? → 子供が現状を受け入れてくれたら、保護者の方の負担も減るかな?)と思って書きました。
とり憑き妖怪を「さみしんぼう」にしたのは、その方が、子供がこわがりすぎないのではないかと考えたからです。ウィルスの増殖は「分身を作る」か「仲間を呼ぶ」で考えていましたが、最終的には「トゲ」になりました。
新型コロナの症状のひとつ「嗅覚の変化」については、「とり憑き妖怪が鼻をふさぐと味やにおいがわからなくなるんですって」と言ってみたり。怖がって外出したがらない子供には「おまじないの呪文を教えてあげるよ。この呪文を唱えてしっかりマスクをすれば、お外に出ても大丈夫よ」と言ってあげたり。「換気の大切さ」は「家の中に命のにおいがこもる方が危険だから、風でにおいを散らしてわからなくするんだよ」とか?
子供の様子に応じて、いろんな「とり憑き妖怪の話」を作っていただいて、子供の気持ちに寄り添う手段に使ってもらえれば…。
また、同じ小説サイトで「秘密組織に入りませんか? 特別編 新型ウィルスに関して」という小説を連載しているので、そちらもぜひぜひ読んでいただければ、と思います。小学生が新型コロナにまつわる問題について、どうすればいいかアイディアを出し合うという話で、感染リスクを抑えたビジネスなどについてもアイディアを出していますので、もしかしたら、何かの参考になることもあるかも? 今とこれからをもっとよくするためのきっかけになればと思って書いているお話です。こちらもよろしくお願いします。