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3.プレデター

奴らは地下から現れた。

エイリアンだとか、地球からの使徒だとか、はたまた異世界からの侵略者だとか、奴らの正体についてはついぞ明らかにならなかった。

しかしどこから来たのかだけは明確に分かっている。

奴らは地下から来た。

だからまず、地下開発が進んでいた大都市が襲われた。

ここ大阪は、最も大量のプレデターに襲撃された都市の1つだ。

故に、激しい迎撃戦が行われた。

ユウヤの眼前にうず高く積まれた物資は、その名残であった。


食料を中心に、コミュニティで必要となる物資を回収して行く。

大阪に、他の生存者がいるかどうかはわからない。

残念ながら、ここの物資をユウヤ達以外が使っている形跡は、無い。

「やっぱ俺たちしかいないのかな...」

コウジがポツリと呟いた。

あたりを包む静寂が、その答えを物語っているような気がした。


1年前…

それは、ほんのわずかな違和感でしかなかった。

ネズミやカラスが減った。

地下鉄の故障が多くなった。

なんとなく地震が多い。

皆、肌で異変は感じ取っていた。

しかし日常という巨大な歯車は、そんな違和感を押しつぶして回転し続けた。

あるいはこの時、何かしらの対応をすればそのあとの惨事は防ぐことができたのかも知れない。


そして、半年前のあの日。

地響きと共に違和感の正体が明らかになった。

地下から続々と湧き出てくる不気味な生物達。

やつらは目に付くものを片っ端から遅い、大阪は阿鼻叫喚の地獄となった。

日本の、いや世界中の主要都市を同時多発的に襲ったその生物を、政府は「プレデター」と呼称。

直ちに自衛隊の出動を決定し、事態の鎮圧に当たった。


当初、人類は優勢だった。

人を殺すために極限まで進化した兵器群は、プレデターを蹴散らして行った。

オフィスビルに閉じ込められたユウヤは、それを見て心の底から安堵したのだ。

すぐにそれが過ちだったと思い知るのだが。


再び、とてつもない地響きが起きる。

そうして開いた大穴から、冗談としか思えないような馬鹿でかいプレデターが現れた。

それを境に、人類は守勢に回っていった。

敗戦を重ねた自衛隊は都心部から撤退。

政府機関も東京を捨て、千葉に暫定政府として移転。

日本だけでなく世界中で、人類の都落ちが始まる。

生き延びた人々は、これをグレートフォールと呼んだ。


当初、見捨てられた都心部には、同じく見捨てられた人々が生き延びていた。

彼らは救援が来るのを信じ、身を寄せ合って必死で生きた。

しかし待ち望んだ救援は、来なかった。

やがて食料も底を突き、人間同士の争いも発生する。

そうして、わずかな生き残り達も急激に数を減らし、都心部は怪物達の都となっていった。

ユウヤもまた、見捨てられた地で朽ちて行くだけの運命を辿っていた。

あの音に出会うまでは...


「さあ、帰ろう。」

ツヨシが言った。

徐々に、日の暮れる時間も早くなって来ている時期だ。

それを見越して行動は常に迅速に、というのが鉄則であった。

皆無言で荷物を背負い、倉庫を出てゲートを閉める。

コウジの問いにあえて答えるものは、誰もいなかった。


帰路。

高架下を何事もなく通り抜け、堂島川の橋までたどり着いた。

ここまでくれば、プレデターに襲われる危険性はぐっと下がる。

しかし誰も、警戒を解くものはいなかった。

この先に住まうものを皆、畏れているのだ。

恐怖と畏怖。フォボスに対する感情はそれぞれだが、その2つだけは共通している。


フォボスとは、この辺りを根城としている大型のプレデターである。

性格は極めてどう猛、縄張りに他のプレデターが侵入した場合容赦無く襲い、捕食する。

しかしフォボスは非常に珍しい食性を有していた。

人間を捕食しないのだ。

無論、攻撃を仕掛けたりすれば容赦なく襲ってくるが、何もしなければ基本的には人間を無視する。

ユウヤ達が属するコミュニティはその習性を利用して生き延びている。

フォボスの潜む堂島湖、そのすぐ脇に拠点を置いてるのだ。


大多数のプレデターが人間を親の仇のように襲ってくる中、なぜフォボスがそうしないのかは誰にもわからない。もしかしたら、ただの気まぐれに過ぎず、ある日突然皆殺しにされる可能性もある。

しかし最早、コミュニティのメンバーにとってそれは受け入れるしかない運命であった。

どのみちフォボスがいなければ皆死んでいたのだから。

行く末の全く見えない暗闇の中、ユウヤ達は怪物に頼って魔境を生きていた。


「お疲れ様。外はどうだった?」

コミュニティのゲートを潜ると、代表であるテツヤが出迎えてくれた。

「大したことありませんでしたよ。物資も大漁。」

ツヨシが答えた。

彼らは元々、同じ部隊に所属していたらしい。

出会った当初こそ自衛官らしい口調で喋っていたが、今や昔。

このコミュニティには基本的に上下関係がないということもあり、ごく普通の話口調で喋るようになっていた。

「ご苦労様。いつも助かる。メンバーの皆さんは物資を引き渡して解散して下さい。ツヨシはちょっとこっちへ。」

「ん?わかりました。じゃあみんな、今日はもう休憩だ。ご苦労さんでした。」

「はい。ツヨシさんもお疲れ様でした。」


ユウヤ達は装備一式を外し、備蓄庫に仕舞った。

コミュニティ運営に関わるタスクの中で、今日こなした物資の収集が最も過酷なものであるため、その後は休息が与えられることになっている。

とはいえ、娯楽と言えるほどのものも少ないのだが...

「はー疲れた。ユウヤ、これからどうする?」

「そうだな...特にやることもないから、一寝入りして本でも読むかな」

「だよなぁ。やることないと暇だな」

ぼやくコウジに苦笑しながら部屋に向かおうとした時、レイコがやって来た。

「あんたたち、ちょっと付き合いな」

「レイコさん?なんですか?」

レイコは意味ありげに笑い、言った。

「イイモノさ」

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