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未来か過去か⁈ そんなの私には関係な〜い!  作者: 想永猫丸
全ては私に任せろ!
202/215

撃墜! 敗北! ごめんなさい!

*今話はちょっと会話多めです(地の文に回す気力が……)

 

「貰ったーーーーぜ……ってあれれ? なの?」

「き、消えたなの!」

「どこ行った?」

「センサーにも反応ないよ」


「何、あの小っちゃいのは」


 我先にと競う暴走娘たちが三艦と接触する瞬間に、直径20m程度の球体を二つ放出して消えてしまった。


「いた! あそこ!」


 一人の探索者が数光秒離れた区域にいる敵()()を発見する。


「チッ、逃げたぜ、なの!」

「怖いんじゃない? 私達が」

「そうこなくちゃ面白くないよね!」

「獲物はデカいに限る!」

「それじゃお先に~~」


 またまた我先にと消えてゆく暴走娘達。

 誰もいなくなった空間に入れ替わりで到着する他エリア探索者達。


「ちょ、あんた達待ちなさい!」

「すばしっこいよね」

「若いって羨ましいわ……」


「皆、後を追え!」

「「「了解!」」」


 アトラスが乗る艦を始め、順に移動を開始した矢先に一人の探索者の場にそぐわない戸惑い混じりの呟きが。


「へ? な、なんだ⁉︎」


 気付いた者が声を掛けると、約半数に当たる艦も異常に気付き追うのを止めた。


「どうしたの? 素っ頓狂な声出して」

「反重力装置が損傷して(やられて)動けない!」

「え、誰に? どうやって?」

「分からない……外部から()()に侵入された」


「私見たよ! 小さくてえらく素早い何かが飛び回ってる! みんなメッチャ注意して!」


「う、うわ何ーーーー!」「い、いやーーこっちに来るなーー!」


 密集していたが為にさらに二艦、連続攻撃にてやられてしまい瞬く間に三艦が行動不能に。



 アリス艦から放出された小さな球体はミニ探索艦と呼べる代物で、小型ながら高性能の反重力装置と各種観測機器、そして専用AI付属のコックピットだけというとてもシンプルな仕組みで攻めに特化した「特攻型」となっている。


 この機体のメリットはその身軽さを生かした高機動性で探索艦とは比較にならない小回りを利かした動きが出来る点。

 そこにアリス戦隊の第六世代型に採用されている「リン(リンク)システム」を取り入れた事により接近戦では無類の強さを発揮する。

 ただ余りにも極端な性能な為に通常の人間はおろか、例え探索者であっても性能の半分も出せず仕舞いで根を上げてしまうだろう。


 今この機体の搭乗者であるΣ(シグマ)ω(オメガ)の二名のバイオロイド。

 さらにα(アルファ)β(ベータ)の四名は、この機体に()()()()ようにアリスにより改造してあるとはいえそれでも最大値の八割程度まで。それ以上だと例えアリス製バイオロイドと言えども体がもたない。

 ただ加速力で劣る鈍間な探索艦相手ではそれで充分といえる。


 そして攻撃手段だが探索者が使っている質量兵器と同じで、機体本体を鋭利化させ敵に突撃。内部を破壊するといった、探索者が使う質量兵器と同じ一点突破の攻撃。


 そしてこの機体の最大のメリットといえば「小さい」こと。

 動いてさえいれば的となる機体が小さいが為に、探索艦による体当たりや質量兵器での攻撃が当り難い。

 さらに確率論的な行動予測をされ待ち伏せされたとしても「リンシステム」を利用した小回りが利く機体のお蔭で容易に躱せる。


 しかし良い事ばかりではない。当然弱点も存在する。


 加速力に極振りしている推進装置は重力制御を働かせているとはいえ搭乗者の心身にかなりの負担を強いる。

 例え()()()()()()強化されたバイオロイドと言えども限界値が違うだけで、長時間にも及ぶGや短時間に何度も高機動を伴う動きはご法度となっている。


 次に速度。反重力装置は小型タイプなので出せても光の速度まで。なので最高速では探索艦の足元にも及ばない。

 つまり、もし探索艦を操るシェリー姉妹に目を付けられたらそこで終了となる。


 そして防備面。アリス戦隊が初戦時に見せた敵の攻撃を「通して避ける」といった方法が使えないので、万が一衝突が避けられない場面では質量の差からいとも簡単に「潰されて」しまうだろう。

 なのでシェリー姉妹に撃墜された時の戦法「避けられるのを前提とした分身時差攻撃」を使われたら防ぎようがないのだ。



「固まっているのは不味い! 全艦散れ!」


 殿(しんがり)として移動していたシェリーは何かを察し、迷いもなく瞬時に判断を下す。

 総数の約半数である()()()()()()は除外するとし、今この区域で姿を見せている艦が密集していればその数だけ死角となる。

 そんな状態で、敵の位置を把握し僚艦と情報共有したとしても、伝達途中に高速移動でもされたら情報過多となりさらに混乱を来してしまうだろう。


 その判断に仲間達は返事もせずに散開して行くのだが、直ぐにその判断は間違いだと誰もが気付くこととなる。


「ぐっ! うぅ……」


 四方八方に散っていく艦の一つが突然止まる。

 見ると艦が卵型ではなく球体で、しかも進行方向が内側へと凹んでいるではないか。

 その急停止のせいで搭乗者は重力制御の甲斐なく球体モニター壁面に体を打ち付けてしまった。


「どうした! 大丈夫か?」

「な⁈ 何あれ?」


 仲間達が散りながら呼び掛けたがうめき声を上げながら体を丸めて藻掻いている。

 動き始めてから直ぐの出来事で誰もが何が起きたか展開に追い付いていけない。


「チッ! 敵の待ち伏せだ!」


「「「え?」」」


 そんな中シェリーが真っ先にUターン、白色円錐型となり停止した僚艦の凹んだ部分へと突撃して行く、が既に逃げ去った後だった様で何も起きずに素通りしてしまった。


「おい、大丈夫か?」

「う……は、はい」


 艦を接触させ有線状態で通信を繋ぎ、急ぎ状態確認をする。

 すると反重力装置が破壊されているのを発見してしまう。


「命には別状無さそうだが……」

「そう、良かった! 何が起きたか分かる?」

「離脱時に隠蔽迷彩状態の艦に突き刺されたようだ」

「隠蔽迷彩?」

「え? 探知できないタイプってこと?」

「いや感知は可能だろう。どちらかと言えば速度の問題だ。それよりも……」


 言葉を濁すシェリー(エース)

 この戦法を取り始めた敵に対応出来る者は僅か数人。

 このままでは大して時間が掛からずに全滅してしまうだろう。


「動きを読まれているってこと? なら離れるのは不味いのでは…………」


 と呟いた探索者の艦から通信が途切れる。見ると小さな球体がその艦から急ぎ離脱していくところであった。

 どうやら停止してしまったが為に回り込まれ、そこに間髪入れずに一撃を食らってしまったようだ。


「よーーし、それなら俺様の出番だ! 先ずはあのちょこまかと動き回る奴を宇宙の藻屑にしてやる!」


 自信満々、力強く叫びながら悠々自適に大きくUターンしながら全質量兵器を展開。合流し怪しい動きで誘っている? 二つの球体へと単身突撃して行く。

 確かにルークの「面攻撃」ならば敵は擦り抜けられないし、隠蔽迷彩(隠れていて)も物理的接触には効果が無いので炙り出しには持ってこいといえる。

 だがそれは条件が揃っていればの話……


「「あ、兄貴!」」

「待でルーク! 一人で行くな!」


 ワイズ&ロイズ(若い兄弟)やシェリーの声は届いていないらしい。


「私がカバーします!」

「ならおいらも!」「行っス!」


 遅れて続くシャーリー達。


「三人共待て!」


 シェリーの声にルークとは違い三人は即座に反応、停止する。


「え? 何故ですお姉様……あ!」

「もう手遅れだ!」


 現場からの(情報)が今届く。

 それによると迷わず逃げた? 二つの球体に直ぐ追い付き、ルークの質量兵器が接触すると思われた瞬間に「無防備なルーク艦」の側面に何かが接触し、進行方向とは違う方へと「押されて」いく。すると質量兵器も動きを止めその場にて非常停止したのが見えてきた。


「あ、あらら……」


 そう、当たり前だがルークの方法では敵が前面に居なければ意味がない。


()に引っ掛かって瞬殺(釣られる)とは……ルークの兄貴、カッコ悪いんだな」

「本人に聞こえたら不味いっす」


 第一宇宙速度で遠ざかって行くルーク艦。

 あっという間にお星様に。


「ルークよ……後は我に任せて安らかに眠れ……」


 目を閉じ黙祷を捧げるシェリー達。


「ところでお姉様、(ルークを)助けなくていいんですか?」

「むしろ助けない方がいい。それに自力で帰ってくる手段はあるでしょ」

「えーーと……その手段である質量兵器はあそこで置いてけぼりに」


 な、何と! 唯一の手段を置いていくとは……


「…………ワイズ、我と妹が牽制している間に質量兵器を回収して奴に届けてくれ」


「了解っす!」「ならおいらが!」


ロイズ(お前)は残り、動けない艦の離脱を手伝え」


「な、何故に?」


 指名されて驚く。


「奴らの攻撃を避けられるのはお前だけだからだ」


 確かに今のロイズならばそれは可能だろう。ただ厳密に言えば兄であるワイズも同じく、いや弟以上に上手く避けれるのだが、残念ながらここにいる者達はその事実を知らない。

 勿論弟であるロイズも。


「では頼んだぞ」


 ワイズとシャーリーが頷く。ロイズも躊躇いながらも頷くと、早速行動を開始した。






『お、おいステラ! もっと早く助けにこいよ! 今のはかなりヤバかっただろ!』

『私達を囮に使うなんて、また一段と性格が捻くれたんじゃない⁈』


「何、言っているのね? 私は危なかった君達を助けてあげたのね」


 変わらずの上から目線な言い方。


『ふーーん、そーゆー言い方するんだ! 分かった、後でアリス様に言いつけてやる!』


 Σがとうとうキレてしまう。


「…………今後とも仲良くするのね」


 突然、コロリと態度を改めるステラ。


『貴方、アリス様から猫耳()()()()()からって最近調子に乗ってるわよね? 違う?』

「……い、いえ。そこは何とも……ね?」


 猫耳が気持ち前へと垂れてくる。


『ね、で誤魔化さない! って、面倒なヤツが接近中』

『た、確かに! あの姉妹はヤバい! おいステラ、どうすんだ? 手は有るのか?』


 シェリー姉妹が迫り来るのを見て、Σとωは即逃げ腰となる。


「手? ……ないね」

『『…………』』

「ってのはウソなのね」

『私達の艦で相打ちだったのよ? 第七世代のアリス様の艦じゃアイツらには……』


「そんな発想だからやられたのね」


 フッ……やれやれと言ったご様子。


「敵の質量兵器を考慮してね、()()()こちらとの戦力差は五分五分ね」


『『…………』』


「ガチの闘争を見せてあげるね。ちょっと離れているのね」


『『り、了解』』


 二機がそれぞれ別方向へと離れ、アリス艦(ステラ)だけがその場に留まり迫りくる姉妹と対峙した。




 対するシェリーは姿を誇示するよう堂々と、だが身動き出来ずにいる仲間の艦とは視線が重ならない位置から迫っていた。


「お姉様、敵が散開して行きます!」


 アリス艦を中心にこちらから見て一時と七時の方向へと散っていく。


「三対二か」


 機動力が高そうな小型機が分散したために数的不利となった。

 これでは的が絞れないし、連携されたら逆にこちらが食われてしまう。

 とはいえ中央にいる艦はあのアリス艦。自艦と同型艦で性能に差はない。


 ──どちらかを先に……


「シャーリー、艦AI(コーチン)に質量兵器全機を任せて七時方向へと行った敵機をあの艦に近寄らせない対応をさせて。こちらは一時へ行った方を当たらせます」

「は、はい!」

「私と貴方はアリス艦本体を叩く」

「戦法は?」


「前回と同じ方法で。私が前に出ます」


 艦が白色円錐型へと形状変化する。

 シャーリー艦も同じく変化した。


 前回……撃破した敵艦は味方艦の動きを()()()()上で避けていた。

 小さな質量兵器には艦に穴を開けて通し、大きな艦には形状を器用に変えてと何度も避けていた。


 それを目撃した時、自分の脳裏にリンとの遊び(真剣勝負)()()()()が鮮明に蘇る。


 ……アレにはどう足掻こうが太刀打ち出来ない。




 短期決戦が想定される今回の戦い。

 敵も今までと同じ調査艦とは限らない。もしかしたら探索部以外、全てが敵に回るかもしれない。その場合、状況によっては僚艦に被害が出る事もあり得る。

 大群が押し寄せている中、損傷しても呑気に艦を修理などしている暇は与えてくれる筈もない。


 なので予めノアが姉妹(我々)の艦だけ改造を行った。死地へと飛び込みやすいようにと。

 改造は複雑な物ではなく、外装を構成している流体物質を二倍にし重量増加による機動力低下を補う目的で補助的反重力装置とそれらを制御するAIを追加しただけ。


 先程の敵艦への攻撃はそれを丸々使用したのだ。


 味方が攻撃している様子を観察すると、敵はその能力を誇示する為なのか、リン同様に終始移動を伴わない回避行動をとっていた。

 あれでは質量兵器を使っても避けられてしまう。

 艦本体で突撃しても寸前で避けられてしまうだろう。


 ならば今、打てる手は一つしかない。

 油断している今なら()()は叩ける。


 その手は「一度」のみ。なので「同時」に仕掛ける必要がある。

 一撃必殺・破壊力抜群な攻撃。当てれさえすれば充分撃破は可能だろう。


 知ればリンと同じ能力を有した敵といえども100%逃げを選ぶ。自分でも「くる」と分かっていれば躊躇わずに逃げる。

 あのリンでさえ逃げたのだからこれに関しては逃げを恥とは思わない。


 だが、だからこそ成功すれば同じ手は使えずこちらは「手段」を失う。

 以後は有効な決め手を欠く、我慢を強いられる戦いとなるだろう。

 だからと言って後を考えてこの好機を逃しては二度とチャンスは訪れないかもしれない。


 ……やはり今しかない。


 だがチャンスを掴むのにはシャーリー()を自分の位置まで引き上げる必要が。


 意を決すると妹を信じてロイズに託す。

 するとロイズも、そしてシャーリー(我が妹)も見事に応えてくれた。


 準備は整った。さっそく実行に移す。

 先ず敵の出方を見極める為にそれぞれの目標へ光速まで加速、0.1光秒にも満たない距離を白色円錐型の単騎にて突撃を試みた。

 すると今までと変わらず同じ様に避けてくれた。


 そのまま同じ攻撃を数回繰り返した後に頃合いだと、一旦敵から離れた位置で停止、お互いの空間モニターにてアイコンタクトを交わす。


 視線を敵艦へと戻すと二艦は同時に光速の1.1倍へと加速、()()()()()()()敵へと艦AIに操作を委ねて突撃して行く。

 今回は寸前に行った敵艦目掛けて一直線の突撃とは異なり、加速直後に()()()()()()し隠蔽迷彩をさせた上で後方に配置。姉妹はそれを艦AI経由でリンクさせた上で操る。

 そして自艦が敵に到達、避けた所に敵と同質量・同じ大きさの物体を直撃させたのだ。


 目論見は見事成功、敵は二艦を失った。こちらも同じ手はもう使えない。


 なので今回はぶつける塊が無い。




 あの艦はアリスの艦。あれを仕留めればこの争いは終わるだろう。

 だから今回は逃がさない。どこまでも食らい付いて行く覚悟で挑む。

 自分の初撃で済ませれば被害は最小限で済む。

 シャーリーは保険。万が一自分に不測の事態が起きた場合の。



 一方、後に続いていたシャーリーにはシェリーが映っていたモニターをそのまま停止させ、お守り代わりとし消さずに表示させておいた。


 そして姉の後に続きながら、全神経を敵艦へと向ける。

 これから始まるのはスローモーションの如く進む世界。

 コンマ一秒の合間に何万キロも進む、光速を超えた世界。

 そしてその速度に適応している極限まで研ぎ澄まされた感覚。


 ただ似たような経験なら今まで何度も経験していた。

 何げない拍子に時の流れが遅く感じる瞬間。

 同じ一秒でも集中の度合いによって異常に長く感じられる瞬間。

 あれと同じ、いや数百、数千倍に引き延ばされた時間。

 ここまでくると別次元。理論だ理屈だでは言い表せない世界。

 姉の後ろ姿を追い掛けて、努力の末に辿り着けた究極の世界。


 目標は敵艦の側面。

 お互い同程度の損害は免れないだろう。

 だが間髪入れずに自分が同じ様に突っ込めば初撃以上のダメージが期待出来る。



 そして勝負は一瞬だった……



 先行している姉が敵と接触寸前に何故か予定進路を僅かに逸らした。

 何故逸らしたのか、敵との間に何が起きたのかは姉の艦の後にいたので分からない。

 ただコースがずれた為に? 敵艦とシェリー艦側面が接触、勢い良く弾けて離れてしまい、そのまま二艦の間を擦り抜けてしまったのだ。



 形状を保てない程の被害を受け、離れてゆく姉の艦。



「が、ガハ……」

「お……お姉……様? ……お姉様ーーーー‼︎」


 その直後、速度低下のお蔭で通信が回復。

 復帰したモニターに映っていたのは、シートにもたれ掛かり口から血を吐き、そのまま苦しそうに気を失ってしまう姉の姿だった。



「お……お姉様、返事して……い、いやーーーー!」



 信じられない光景を見てパニックになりながらも、遠さがる姉を追い掛けて行ってしまった。





「へい、いっちょ上がり〜なのね」


 離れていく姉妹の艦を背に仲間の下へとフラフラと近づいて行く。


『す、すげー! デカい口、叩くだけの事はあるよな!』

『その艦、第七よね? 弄ってないよね?』


 シートから身を乗り出して騒ぐ二人。


「当たり前ね。弄ったらアリス様にお仕置きされるね」


 ステラは眉間に皺を寄せながら目線だけをアリスへと向ける。

 その後方ではアリスが瞑想中。


『一体何をしたんだ?』

「単なるチキンレースね」

『チキンレースってあの?』

「そうね、スピード勝負では敵わないから根性(我慢)比べにしたのね。脳筋姉の()()()()性格にはピッタリな作戦をね」


『『…………』』


 一体どんな方法を取ったのだろう……


「さて、行動不能の姉と戦意喪失した妹は最早、敵ではなしね。残るは烏合の衆ね。アリス様が目を覚まされる前にお掃除しておきましょうね。という訳で今度こそは二人に活躍して貰うね」


『お、おう』『り、了解』


 ωとΣは動かなくなった質量兵器を避けてステラと合流。

 そのままαとβを追い回している探索艦の背後へと忍び寄って行くのであった。






 最近、同じ夢を見る様になっていた。


 夢に現れる少女達。見掛けたことが無い、瓜二つな綺麗な顔立ちと綺麗な金髪。

 私と同じ身長と似た様な体型。

 歳相応の活発そうな話し方で見掛ける度に楽しそうに会話をしていた。


 これ程可愛らしい子なら会ったら覚えている筈なのだが記憶に無い。なのに何処かの誰かと雰囲気が似ている。


 いつも同じ人物、同じ結末。繰り返される夢。

 そしていつも決まった()()()()を迎える。


 そして見る度に鮮明になっていく……


 とはいえたかが夢。

 相談に値するとも思えないし、真剣に相談に乗ってくれるかどうかあやしい内容。


 相談しようにも両親はここにはいないしい、頼りない姉も行方不明。

 異常事態で周りの人も自分の事で精一杯で気軽に相談出来ない状況。

 どうすればいいか途方に暮れていたが、幸いと言うか周りの状況が目まぐるしく変化したお蔭で何とか気が紛れていた。


 だけど……何も解決していない……


 ──あの子は何を訴えたかったんだろう……




 ──あれ? ここは何処?




 突然目覚め瞼を開ける。


 ──探索艦の中?


「おおおおお嬢様ーーーー‼︎」


 その声は……


「シャル……ロット?」


「お嬢様が目を覚まされましたーーーー‼︎」


 球体内(コックピット)に大音響が木霊する。

 目覚めたばかりで見慣れた空間とシャルロット(相棒)の声。

 意識を覚醒させるのには()()()な要素。


 だがそこに思わぬ者から声が掛かった。


「あら……予想よりもだいぶ早かったわね♪」


 聴き慣れた声。微睡(まどろ)む意識のまま顔を向けると、そこにはローナ(大先輩)の姿が。

 彼女はフワフワと漂いながら近付くと、笑顔を向けながら私の頬をそーと撫でてきた。


「ひゃ! え? えーーと」


 お陰で目が覚めた。


 ──ローナさん、何故ここに? いやそうではなく私いつ艦に戻ったの? でも撫でられて驚いたけど嫌な感じは全くしない、どちらかと言えばエマさん(お姉様)と同じ……じゃなくて何なのこの状況は⁇


「フフ、少しの間でいいから私の()を見ててくれる?」

「へ? は、はい? で、でも……」


 こちらの様子を見て目尻を下げて微笑む。

 そのお願い事の趣旨が解らずさらに混迷を深めてしまう。


「はいはいリラックス〜♪」

「は、はい」


 と言われてもローナ相手にリラックス何ぞ出来る筈もない。

 しかも自艦のコックピットとはいえ、いつものシートではなく何故か簡易カプセルで横になっているし。


 などと思ってアタフタしていると、綺麗な赤髪を空間にフワリと広ませながら音もさせずにさらに近付いて来た。

 洗練された仕草と優雅に思える動きに目が奪われ、緊張だの困惑だのの迷いが一気に消え去り、その女神の様にも思える姿に見惚れてしまう。


 そして段々と近付いて来る顔。

 これ程間近で、しかもマジマジと見た事など一度も無かったので気付かなかったのだが……


 ──この人……凄く綺麗……


 初めて気付く。

 同性だからこそ分かる、上から下まで全てが絶妙なバランスで成り立っている容姿。

「才色兼備」とはこの人の為にある言葉。

 唯一足りないのは身長くらい。でもこの人にはそれすらも武器に成り得る。


 突然手に感触が。見れば生まれたての赤ん坊に触れるかの如く優しく触れられていた。

 それが分かると何故かドキドキと胸が高まり、頬が熱くなっていく。


「そっちじゃな〜い♩ コッチ見て~♪」


 頬を撫でていた手が顎へ。そのままクイっと持ち上げらると顔が元の位置へ。

 すると自然と目線が重なる。


 吸い込まれそうな黒い瞳。

 ここまで直接の関わり合いが無く、妹であるラーナを通してでしか見れず、その為畏怖の感情が先立ち直視すら出来なかったのだが……


 ──何て優しそうな目。


 呼吸をするのすら忘れて見入ってしまう。

 僅か数秒間。けど自分にとってはとても長く感じられたドキドキタイム。

 無意識に握られた手を握り返してしまう。



「……そう成程。でもこれなら……」



 そう呟くとサッサと瞼を閉じてしまう。すると()()()()ローナに戻ってしまった。


「?」


 ちょっとだけ残念な気持ちに。


「ん? ラン(貴方)の中にもう一人いる♩ 気付いてたでしょ?」


「‼ な、何故それを?」


「今まで気付いてあげられなくてごめんなさい♩ これじゃ先輩失格ね♩」

「え? い、いやあの……」


 あのローナに頭を下げられプチパニックになりかける。




 ランには分からないがこの「ごめんなさい」は嘘偽りのない本心。


 リンとランはAエリアの育成施設から来た、Bエリアでは八組目となる探索者。

 その二人よりも数カ月前に同じくAエリアの育成施設からやって来たアリス姉妹。


 二組とも他エリアからの異例ともいえる配属と表向きは共通しているがそれぞれの背景は異なる。


 アリスの妹であるエリスに関しては「あの方」と関連があるのでは? と情報部内では要警戒対象として以前から注目されていた。

 なので「当然の成り行き」としてBエリアに配属されると()()()いたし、それが予定調和だったからこそサラ()()、特に問題とせずに様々な思惑がスムーズに進んだ。


 だがリンランの場合は異なる。

 怪しい所が一切無い、単なる候補生であるにも拘らず、該当エリアマスターには事前通告も無しに配属が決定したという。

 アトラスの性格を知っているローナには「長」なりの()()()? かとも思ったが、それなら同い年しかいないDエリアへ送るべきではないかと。


 明らかに()()()()()が働いた人事。


 真実を知る為に、頃合いを見てリンに己の能力を使い「心の中」を覗いてみた。


 ローナの能力は「相手を強制的に催眠状態へと落とし」た上で「深層心理にある思いを呼び起こし、それを目や表情、仕草から的確に読み取る」というとても特殊な力。

 なのでその能力を使用された者は、抱えている心の「闇」が大きければ大きい程、さらに感受性が高い程、そしてローナに対して苦手意識を抱いている者は「恐怖」という形で副作用が出てしまう。


 誰でも心に「闇」を抱えて生きている。なのでローナに恐怖心を抱くのは致し方ない。


 だがリンは違っていた。何も見えてはこなかった。


 その結果、リンは「白」と確定する。

 もう片方のランは事前にラーナから「姉さんの能力には耐えられない」と釘を刺されていたし、その通りだと認めていたので調べる術がなかった。


 あの時点でランに対し能力を使用していたら、今とは違った、こんな結果にせずに済んだかもしれないと……




「ランはこの騒動の初期からあの子を支えてくれた、私にとって大恩人。だから事が済むまで私に貴方を守らせて♪」

「は……はい」


 両手で両手を握られる。訳も分からず返事をしてしまう。


「今度は私が握る番ね♫」

「!」


 ──この人も……私と同じ?


「もう一人で抱え込まなくていいし、私……じゃなくて、()()()()貴方達の悩みを解決してくれるから気楽にしてて♪」


 あの子……誰だろう。それよりも……


「…………あの……ローナさん」

「な〜に〜?」

「あの後、どうなったんですか?」

「知りたい?」


 頷く。自分の夢よりもそちらの方が気になる。

 追いかけっこしていた筈なのに、何でここにいるのか。


「あの後、色々あってね♩ 後で教えてあげる♩ それよりこれから面白いことが始まるからここ(特等席)で一緒に見るわよ♪」

「え? 何を、ですか?」

「貴方達がしていたつ・づ・き♫」


 声に合わせるように笑顔へと変わる。

 そのまま一枚の空間モニターへと視線を移したのでそちらを見ると……


「…………へ?」


 そこには信じられないモノが映っていたのだ。


今月は28日までか……次回は多分来月になると思います。


*投稿済み分の修正作業も継続します

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