私怨……
3ページ目に突入……あと少し。10万字くらい?
20年程前に大手バーガーチェーン店で一時だけ販売された「すき焼きバーガー」は食べ辛かったけど美味かったな……再販してくれないかな……
「ここは?」
「この者のお気に入りの部屋です」
サラの肩に手を置く。ここに来るまでに未だ一言も発していないサラだが、転送装置を出た辺りから顔を上げて前を向き、手は握ったまま天探女の真横を同じ歩幅で歩いていた。
「サラさんの? それにしても何だか……不思議な空間ですね」
物珍しいそうに辺りを見回す。
「そのお身体でお分かりになられますか、流石レベッカ様です!」
「何となく、ですが」
天探女にとっては二度目となる部屋。今は……茶室、とでも呼べばいいのか? 以前の姿は何処にも見当たらない。
Cエリア基地にある天探女の専用部屋もそうだが、元は来客用の貴賓室として準備された部屋。
天探女は基地の設計に携わる際、愛しのサラの趣味が散りばめられたBエリア基地を参考にしたので、必然的に貴賓室も調度品に至るまで同一となっていた。
その後、各々の諸事情により独自の改造をしたので中身は見る影も無く変わり果ててしまったが、部屋の寸法だけはスペースの都合で変えるのは困難なので、サイズだけはどちらも変わりなく今でも同じ広さをゆうしている。
扉を抜け「たたき」のスペースで立ち止り中を見回す。
この部屋は一面に畳が敷かれている為か、椅子や机といった類いがないので実際よりも広く感じられる。
さらに電磁波系統は完璧に遮断処理が施されており、探索者の繋がりという唯一の例外を除けば外部とコンタクトをとる手段は無い、ある意味完璧な密室状態。
その唯一の例外も艦との通信が断絶された状態では情報を送るどころか会話すら成り立たなくなるのだから、探索者と言えどもこの隔絶空間の前では分け隔てなく皆平等の無力……の筈なのだがレベッカは平然と会話をしている。
椿が乗ってきた第五世代艦から通常の電波にてアンドロイドを操っているレベッカは、本来ならこの部屋の扉が閉じられた瞬間に同調切れとなる筈。
そうならないのは一緒にいる天探女が融通を利かせているからだ。
天探女にとって、この手の物は「所詮は凡人が生み出した人工物」との認識。
人が作り上げたモノには完璧なものなど存在しない、と。
どこかしらに盲点は必ずある筈、だと。
実際、軽く調べただけでもCよりも抜け穴が多くあり、改造の必要性も感じなかった程だ。
とは言え通常とは違う手段で「繋いでいる」ので、レベッカがそれに気付き違和感を覚えたのでは? と天探女は考えたのだ。
「ささ、茶菓子を用意しますので、どうぞ中へ」
「ふふふ。どうぞお気遣いなく」
先にレベッカが上がり込み、動こうとしない椿を軽く引っ張る。
若干の抵抗を見せた椿だが渋々? ながらも靴を脱いで中へと進んでゆく。
基地内配備の探索部製アンドロイドだが、大まかに基地設備のメンテナンス作業がメインのアンドロイドと、職員や探索者のサポートがメインのアンドロイドの二種が存在している。
どちらも外見上は「人間」そのもので見分けは付かないし、基本構造にも大差はない。
ただしそれぞれの用途により細かい部分の機能に多少の差が付けられている。
特に「人」との関わりをメインとするアンドロイドはそれ相応の機能が付加してある。
その差は基地と言う特殊な空間に起因する。
人が極端に少ない基地。そこで長期間生活している者は仙人でない限りは否応なく孤独感に襲われて、いずれは精神に支障をきたしてしまうだろう。
その対策として、基地に配備されるアンドロイドの大半は敢えて人型とし、外見だけでなく仕草や言動やに至るまで人ソックリに仕上げた上で配備し、メンタル面のケアに役立たせているのだ。
さらに人の三大欲求の内の一つである食欲。
人と差がないのならば、探索者や職員との付き合いの一環で会食の機会も当然あり得る。
向かい合って座っているのにアンドロイドは飲み食いせずにいたら相手に違和感を与えてしまうだろう。
それを防ぐためにも「人」と同様に飲食が出来る構造にしてある。
さらに舌には人と同レベルの感覚センサーが備わっており、逐次相手となる人の味覚の調査も兼ねている。
天探女が用意したアンドロイドは、言うまでもなくこちらのタイプ。なのでレベッカにも食事を勧めているのだ。
余談となるが、食べた物は簡易的な圧縮処理をされた後に体内で一時保管、後に人とは異なる方法で体外へと転送し、分子レベルまで分解された後に再利用されるのでご安心を。
「では座布団に座りお待ち下さい……ってサラや、お主も突っ立っておらずに中へ進むのじゃて」
お尻をポンと叩く。
「あ……ああ。すまない」
やっと口を開いた。表情もだいぶ元へと戻った感じだ。
「少しは落ち着いたかの?」
「ああ。天探女のお陰で考える時間が持てた」
靴を脱ぎ、先に中へと進んでゆく。
天探女も慌てて付いて行く。
「そうか、よしよし。お主はたった一人でここまでよう頑張ってきた。無事目的も果たせたようじゃし、この際若い者に後の事は任せようではないか」
「……そう……なのかもしれないな」
数歩進んだ先で立ち止るとポツリと呟く。
天探女は隣に行き腰に手を回して顔を覗き込む。
「そうじゃて。この部屋におる者は皆、働き過ぎなのじゃ。少しは若い者に役割を振らんといつまで経っても後進が育たんじゃろ? 良い機会じゃし纏めくらいはあ奴らに任せておけば良い」
「……それもいいかもしれない」
「よしよし、聞き分けの良い女子じゃて」
正面から遠慮せず抱きしめ背中を優しく撫でてあげる。するとサラの手も自然と同じく天探女の腰に回された。
その時、二人の距離が見た目以上に近かったのだが、どちらも気にする素振りは見られなかった。
「だが……その前に……まだしなければならない事が残っている」
耳元で聞こえる声。
体勢そのまま聞き返す。
「何が、じゃ?」
「部下は……見捨てられない」
「それはわらわも同じ立場じゃから気持ちはよう分かる。だがの、既に事態はわらわ達の手から離れておるじゃろ?」
確かに二人は役割りを終えており、何を出来る訳では無い。
「…………」
「そちらに関してはわらわ達が成せる事はもう残されておらん」
「…………」
「お主ならば分かるであろう? ここにはローナがおるし、あ奴らの所には菜緒が向かっておる」
「それは知っている。アイツらは期待以上の成長を遂げてくれた。だからもうマスター権限も肩書も、私にはもう必要ない。私が言いたいのはそちらの心配ではないんだ」
「では何が気掛かりなのじゃ?」
体を離し顔を見る。するとサラの目に力が戻っているのに気が付いた。
「最後にアリスに会って確かめなければ」
「何を?」
「ランとリン。二人をどうするつもりなのか」
「……二人の処遇か。それで区切りが付くのなら止めはせぬが」
ランの姿を、そして椿に問い詰められた時の反応を見るに、サラにとってもかなりの予想外な出来事だったということか。
──これは容易に真実は告げれぬ……
リンとランの姉妹。このままでいけば本当の意味での「生贄」の運命が待っている。
例え肉体は残ったとしても人格が残らなければ生きているとは言えない。
残された者には辛い運命となるのは目に見えていたので、天探女は敢えて運命を共にせざるを得ない状態にして、アリスに対しての小細工を施した。
だが嫌がらせとは言えアリス程の者ならば、時間さえ掛ければその効果を取り除くのは容易だろう。
それなら小細工の意味が無いのでは? と思われるが、時間切れが迫っている現状では、充分な効果を発揮する。
とは言えアリスの決断によっては最悪の事態も充分にありえる。
その場合、あの姉妹に未来が訪れることは……多分無いだろう。
「私もその場に同席させて」
天探女にとって予想外な要望。
「つ、椿……?」
何故かレベッカが反応する。
「いいの。あの人の言うようにそろそろ気持ちの整理を付ける時だし」
あの人とは……ローナだろう。
「……分かった。なら私は……」
「ダメ。この際だからレベッカも一緒にいて」
強い口調でレベッカを見ずに言う。
「……でも」
対してレベッカは椿から顔を背けて俯いてしまう。
だが椿はレベッカの視線の先に回り込む。
「だから気にし過ぎだって。何年もアイツの言う事を真に受けて。さっきも言ったけど私は貴方を世界で一番信頼しているし今じゃお姉ちゃんと同じく大切な存在なんだよ。今ならその意味は分かるでしょ?」
「…………うん。ありがとう」
訴える様な椿の眼差しを瞬きもせずに眺めていたが、その瞳の奥にある「思い」の意味に今更ながら気付いてしまう。
すると瞳に涙を浮かべながら小さく頷き、その「思い」に礼を述べていた。
「それはこっちのセリフだって。私の一番大切な「約束」の為に、そんな身体にまでなってくれたんだから」
レベッカにしか聞き取れない程の小さな声。
「……アリスとの間に一体何があったのですか?」
何やら深刻そうな内容。
天探女の前で堂々とやり取りをしているので隠すつもりはないのかもしれない。だからと言ってズカズカと踏み込んでよい雰囲気とも思えない。
なので拒否し易いようにと無難な言い方で聞いてみる。
すると隠さずに打ち明けてくれた。
「アイツ……昔、レベッカに酷い事を言ったの。レベッカのせいじゃないにも拘らず、会うなり偉そうに。関係ないくせに上から目線でレベッカに説教してきた」
余程気に入らない内容だったのだろう、言葉を続けている間にも眉間がピクピクと波打っている。
「あれは事実を述べただけで私がもっと……」
「違う! 事実でも何でもない! 会わないって決めたのは私自身! だからレベッカが責任を感じる必要は全く無い! アリスはただ単に問題をすり替えようとしてただけだって! アイツらの責任をね! だからレベッカは堂々としてればいい!」
レベッカの呟きでピークに達したのか、ついには大声を出してしまう。
「アイツら?」
「…………」
「……私の当時の上司で四賢者です」
その問いに椿はだんまり。代わりにレベッカが答えてくれた。
当時……今から二百年程前。
そんな前から三人の間に蟠りがあったのだ。
「全く、どいつもこいつも自分の都合ばかり優先して、立場の弱い者を平気で虐げたがる。ホント人の弱みに漬け込むのが上手くて狡賢い奴ばかり」
怒りを抑えたかなり我慢している声。これがアリスや四賢者への本音だと思えるほどに。
仮にその思いが本当ならば、特に姉妹を演じてきた間柄のアリスとは今の今まで大した問題も起こさずよく我慢してきたと立派に思える。
だが何故かその言葉にサラがピクリと反応し椿に顔を向けてしまう。
当然その仕草を椿は見逃さなかった。
「……何? その様子だと何て言ったか貴方は知ってそうね。そう言えばアイツと仲が良かったもんね」
ジロリとサラを睨む。
「貴方はどう思ってるの? あの人と同意見なの? 変・革・者さん」
「つ、椿、止めなさい! それ以上はいけない!」
二人の間に割って入ったレベッカと目が合った瞬間、椿の動きが止まり、気まずそうな挙動不審の素振りを見せた後、気不味そうに目線を逸らすと口をへの字にしてソッポを向いてしまう。
「フン!」
「サラさんに当たってもしょうがないでしょ?」
「…………」
言い聞かせようとするが目を合わせようとはしない。
「アリスは……」「サラも止めるのじゃ! お二人とも今、茶を用意しますのでお座り下さい」
そこに何かを言おうとサラが口を開く、が不穏な空気を察したので割って入り、手でサラの口を塞ぎそのまま強引に体の向きを変えさせた上で着座を勧める。
天探女に「椿とサラが対立した場合、どちらの味方をするか?」と問えばサラと即答するだろう。
椿に対しては任務で研究所に行った時は「不幸な境遇に見舞われた贄」との見方であり、椿本人に対しては特別な感情は今でもそうだが持ち合わせてはいなかった。
本音を言えば当初のサラと同様に、回りくどい事をせずに「贄」として責任ある対応をして欲しいと今でも心の底で思っている。
なのでこの状況で、もしレベッカがこの場にいなかったなら、小言の一言でも言っていたかもしれない。
ただ現実として、ここでレベッカと出会ってしまったが為に口に出すのは出来なくなったし、一方的にサラを庇い立ても出来なくなった。
だからといってこの二人に仲違いして欲しくはない。本来なら二人の間には蟠りなど存在しない良好な関係になれる筈。
椿の思いに応える為、一度しかない人生の半分近くを捧げ、見事期待に応えてくれたサラに、感謝はすれども恨みを抱く対象では無かった筈……なのだが、アリスや四賢者と関係がある、さらに庇う様子を見せたというだけでいとも簡単に拗れてしまった。
アリスと四賢者、その両方に接点が無い天探女からしてみれば、どうフォローしたらよいか有効な手立てが咄嗟に思い浮かばない。
悲しきかな、天探女の努力の甲斐なくまたまた険悪なムードへと逆戻りしてしまった……
「ふ、ふ、ふ、なのね。愚かにも戦いの道を選ぶのね。なら人とバイオロイドの違いを嫌と言う程、教えてあげるのね」
アリスが潜ってから球体内の照明を暗くして、探索者同様に相手の出方を見ていた「アリス戦隊」副隊長兼斬り込みメイド隊長であるステラが怪しく笑う。
戦隊の隊長であり主でもあるアリスは探索部、厳密にはミア相手に仮想空間で戦いを繰り広げている真っ最中。なので今はステラが実質的な指揮官となる。
『ステラ、応答せよ』
その指揮官に「アリス戦隊」専用㊙回線経由でモニター通信が入る。そこには「α艦」と「β艦」の搭乗者である「α」と「β」が映っていた。
『我々はどうすれば?』
肩まである頭部全体を覆っている光沢を帯びたサファイアブルー色の大きなヘルメットの正面の目がある位置に、ハッキリとした口調のαの発言と連動し、無限エネルギーで動く巨大ロボットの顔と同じ「走査線」の光がキラキラと輝く。
「ん? アリス様の話を聞いていなかったのね? アリス様が起きるまでお前達の出番は無いですね。だから回避行動を取りつつ待機ね」
迫りくる暴走娘達の艦に視線を向けながら答えた。
『フッ、偉そうに「お前達」だって。一人であの数を相手するつもり? ステラはちょっと、いやだいぶってかチョー異常な性癖の持ち主』
透き通る上品そうな、それでいて幼さが残る声のβからのツッコミがすかさず入る。
この二人、いや「アリス戦隊」の搭乗者のヘルメットは四人共お揃い。さらに宇宙服もアリスと同じ全員統一で同じ仕様。
しかも主であるアリスと同じでハイキングに適した丘、そしてクビレもあまり無い、所謂幼児体型。なので声以外で見分けるにはほぼ不可能といえる。
そんな中で唯一副隊長であるステラだけが場違いなメイド服を着ていた。
『昔からじゃん、コイツは』
『そうそう! ステラの猫耳ってチョー似合わない!』
βに続き、アリス艦内に退避している「Σ」と「ω」が参戦してくる。
この時点でステラの前に、全くの同一の四人が映ったモニターが並んで表示されてた。
同じ格好をした者が映ったモニター。
黙っていると見分けが付かないのだが、それぞれがいる場所は違うので1/2の確率でなら判別は可能。
αとβはそれぞれの艦のシートに着席、ωとΣはアリス艦の別室空間で宙に浮いているので。
『ωはステラの猫耳が羨ましくて妬んでる』
『β、今何て言った?』
途端に乱暴な言葉遣いに変化。すると隣で浮いているΣが微妙に距離を取り始める。
「そんなに欲しいのならあげるのね、ホレね」
『えっ? ホントって』
ホレねとの合図でωのヘルメットにステラと同じ猫耳が生えてくる。
『『……プッ』』
βとΣが思わず吹出す。
『い、いい度胸だ! その猫耳引きちぎってやる! 今そっちに行くから耳洗って待ってろ!』
「猫の耳は洗うんじゃなくて拭くのね。てかωの面倒くさい性格は何年経っても変わらないね。でも残念ながら時間切れで散開するのね」
『『了解!』』『ウギャ――――』
敵が目前に迫ったので四人が映ったモニターを全て消す。
αとβはそのまま回避行動に。ωは重力制御を切られてしまったのか艦の別室で勢いよく壁面に押し付けられていた。
『アリス様が見てないからってはしゃぎ過ぎだよ。毎度βに乗せられて、これじゃいつもと変わらずの定番自爆だね』
縦横無尽に飛び回るωをヒョイっと器用に避けながら、頼んでもいないのにΣが冷静に状況説明をしていた。
『ち、チクショー化け猫め覚えてろよーーーー!』
「……あ、そうだ、遊ばせとくには惜しいのね。二人には働いてもらおうかなっとね」
ステラの声が聞こえてきた。
『『(ぎ、ギク!)』』
「脳筋姉妹にいとも容易くやられた汚名挽回のチャンスを与える、のね」
『こ、これってωのせいじゃない⁈ ってちょちょ!』
『ご、ゴメンΣ! 恨むならステラをぉぉ!』
叫び声を上げるので精一杯。
迫り来る壁面から逃れようと藻掻く二人がいる空間が縮小してゆき、そのまま一緒に飲み込まれてしまった……
ここ数話の椿の行動ですが、若干「くどく」感じられるかもしれませんが四人にとって欠かせないやり取りなので、もう暫くは我慢して下さい。
それと以降の投稿ペースですが「こんなご時世」のお陰で仕事が忙しく時間的余裕がなく、先月並みに落ちると思いますので予めご承知下さい。
*2/8と2/9は久しぶりに誤字脱字の修正を行います。




