天使の暴走?
*今話の前書きは長いので、忙しい方は飛ばして下さい。
詳しく記載していなかったので補足しておきます。
エマ達がいる惑星(場所)は現在夜。
本来なら星々の明かりがあるとはいえ数m先も見えない暗闇だが、隣の水の惑星が主星からの光を反射してくれているお陰で、文字がギリギリ読める明るさとなっている。(満月よりも明るい?)
その暗闇の中、「あちらの世界」からやって来た銀色の艦(執事さんの艦)の下で、10×10m程の浴槽を用意し艦からランプの灯り程度の光りを照らされて入浴をしている。
浴槽の素材は既知世界で最高の「断熱性」を有しており、探索艦の外装の流体物質を流用。これが優れ物で万が一、コケてぶつけても素材が凹んで衝撃を吸収してくれるという特殊効果付き。
その場所から少し離れた位置にラーナとリンの艦が並んで駐機。
後から来たエマとエリーは、二艦からさらに離れた(銀色の艦から見て)後方に着陸。
エリス艦はアルの横。
クレアはレイアの艦に同乗し、(エマ達が入っていた湯から見て)銀色の艦の後方の方角に着陸している。
つまり浴槽を中心に、
3時の方向に執事艦ーーレイア艦
6時の方向にーカルミア×2とアル×3
最後に0時の方向にーーセバスチャン×2
となっています。
それと(あやふやな状態で放置していたのを)今回新たに決めたのが、着陸時(居住可能な惑星の大気中)に停止している状態の艦の反重力炉は「その場」の状態を考慮し、最適な出力を割り出したうえで「最小出力」の状態にしている。その時、そこから漏れ出る微震は人には感じられない程度まで低下する。
但し(相当な重量である艦)を再び動かせば、僅か数ミリの移動でも振動は起こる、とします。
尚、この些細な設定によるストーリーへの影響は微塵もありません。
因みに採用理由としては、艦AIが惑星や主星その他の重力(引力/相互要因)とのバランスを計算し、釣り合いが取れた状態を割り出し「炉」の稼働を最小限に抑える、と。
真空空間や重力(引力)の作用が無い区域では、一度停止してしまえばその場に留まれるので「炉」を気兼ねなく止めれる。
なので今、惑星に集合している艦達は全て地面から数センチくらい? 浮いた状態で停止しています。
(もし地面に降ろせば? ……そーと軟着陸→何もしなければ艦の重量によって……地面にめり込み地表がヤバい事態に?)
他の案は、炉とは別口の装置からの「電力」を使い停止状態でも反重力装置を動かすとか、停止状態では反発作用がある物質(装置)を使っている……とかのアイデアも浮かんだのですが、それらは本作にはどうも合わない気がしたので却下としました。(この時代に電力って言葉を使うのにも違和感がありありで……)
*今までに「反重力炉が停止」との表記があったら上記のいずれかの状態とします。
「(へへへ〜〜! チャンスをわざわざ見逃す手はな〜いぜ、なの〜)」
ついに我慢出来なくなったのか、怪しい目付きでジワジワと艦を前進させ始めた。
(あっ! 命令違反なの! 止まれなの!)
だがソフィアは姉の言葉を左から右へと華麗にスルー、そのまま前進し始めた。
隣……とは言ってもお互いの距離は数km離れている。
真空空間では主星からの光を反射させている直径百五十mの探索艦は、目視でも充分星々の明かりと見分けられるくらいの距離。
とは言え、たった数センチの移動に人が気付ける距離では無いのだが、探索艦はその数センチに気付ける優秀な能力を有している。
その優秀な機器がその数センチの動きをソニアの艦が検知したが為に発覚しソニアに通報してくれたので、繋がりを通し注意をしたのだ。
ただ普段からこの様な細かいチェックはしていない。
地上世界ならまだしも、無限とも言える広大な宇宙空間で「たかが数センチ」を気にする者は皆無なのだから。
なら何故今回は検知出来たのか? それは……
「あっ! ソフィアがズルしようとしてる!」
他のDエリアの同僚にもバレていた。
どうやら常習犯らしく? 仲間達から徹底マークされていたようだった。
「いけないんだ!」
「みんな我慢してるのにーー!」
「悪だ悪!」
「みんなで擽りの刑だ!」
暫くそれぞれ(のモニターに映る)ソフィアに向けて指を指したりモノを投げつけたりと、やんややんやの大合唱。
だが一通り文句を言い終えたところで一人の探索者がポツリと本音を漏らしてしまう。
「……ソフィアが行くって言うなら私も……」
途端に全員黙り込む、が直ぐに……
「じ、じゃあ私も!」
と慌てだす。それを聞いたソフィアはしてやったりとしたニヤリ顔をする。
「よし! みんなで勝負だぜ、なの!」
「「「‼︎」」」
勝負との言葉で血が騒ぎたしたのか一斉に目の色が変わる。こうなったら勝敗が付くまでもう誰にも止められない。
「し、仕方ないなの。Dのエースとして未熟者は放っておけないなの。私が適切に監督してあげるなの」
「「「誰がエースじゃーー‼︎」」」
盛り上がる中、唯一静観していたソニアのドヤ顔宣言に総ツッコミが入った。
これでDエリア探索者全員の命令違反が確定してしまう。
……いやいやそうじゃないだろうに。
周りの者達は「ソニアが最後は止めてくれるだろう」と皆、口を挟まずに見守っていたのだが……見事、期待は裏切られてしまう。
先行し出す姉妹の艦の周りに集まる八艦の計十艦。Dエリアの全艦が仲良く横並びで一旦停止。
すると空間モニターが現れ「3」の文字が。それが「0」になると一斉に、三艦へと減ったアリス達へと突撃してゆく。
──ありゃりゃ、このタイミングで始まっちゃったよ。これはもう誰にも止められない、かも……
何時ぞやの記憶が甦り、温かい目で彼女達を見守るシャーリー。
気持ちは分からなくもないが命令は聞かないとね、と思いつつ、彼女らの本来の上司がいる基地が映ったモニターに目を向けた。
「ま、待つんだ君達!」
彼女らは既に「如何にして正々堂々と勝負に勝つか」で頭の中はいっぱい。なので残念ながらアトラスの声は届かない。
「い、いかん! 全員天使ちゃん達を守るんだ‼︎」
「「「……はい? (天使ちゃん?)」」」
「全艦突撃ーー!」
「「「りょ、了解!」」」
アトラスの必死の命令で混戦へと突入していった。
何故こんな状況に? 時は僅かに遡る。
シェリー姉妹が二艦を撃破。その後敵の動きが止まった為に警戒したアトラスは全艦に対し、いつでも動けるようにと艦を白色卵型のまま待機を命じた。
だが待てども動く気配は無い。
次の一手をどうするか、Dエリアの探索者を眺めながら悩んでいたのだが、和み過ぎたのかやはりと言うか一部の者が命令を無視、勝手な行動に出始めてしまう。
真実も告げれず「演習」という形式にしたが為に、探索者にしてみれば戦闘後の安堵感もあり、大した警戒心も緊張もしていない。
そのような心理状態でシェリー姉妹の活躍を目の当たりにしたら、一部の若輩者には己中で高まる高揚感を抑える術は無い。
結果として、見本を示す先輩探索者がおらず自由にノビノビと育ったDの探索者達は、優しい眼差しで見守るアトラスなら厳しく指導するハンクとは違い多少の我儘は容認してくれるだろう、と勘違いしてしまったのだ。
「……どこで育て方を間違えたのか」
指令室から様子を眺めていた父が、娘の暴走を目撃し、思わず手で目を覆ってしまう。
「指令……やはり言うことを聞きません」
「……そうか」
最悪のタイミングで班長の一人がハンクに向け残念そうに報告を上げてくる。
それに対し体勢そのまま返事をした。
因みにその報告はソニア達の事ではない。
彼女達全員Dエリア所属でハンクの部下。なので上司であるハンクが責任を感じるのは致し方ないのだが、彼女達を直接指揮しているのは今はアトラス。
例え素行に問題が有ろうとも、それを制御出来ていないのは指揮を執っているアトラスの責任。
なので今はハンクが責任を感じなくても良いのだがDエリアマスターとして、そして父としてはどうしても情けなさが先立ってしまう。
とはいえ探索者は全員成人。成人ならば自らの行動には責任を持たなければならない。
そのハンクだが基地がBエリア探索者と名乗る、いや騙る二艦が去った後の基地内の後始末を行う目的で、現状確認の指示を班長達に出していた。
その際に、今まで司令室に上がって来ていた情報との誤差があったのに気付いたが、復旧を優先したいが為にそれを調べずに後回しにした。
その後間も無くサラの帰還。そこまでは特に問題は生じていなかったのだが、一部の班長がサラが基地内に入った頃から小さな違和感に気付いてしまう。
基地AI。基地の全ての機器を一括管理しているメインAI。
原因を調べようとCエリアの班長達が基地AIにアクセスを試みる。すると主任や指令室の下にある筈の基地AIが「何者か」の制御下、つまり乗っ取られているのを突き止めた。
直ぐにハンクに報告。
報告を受けたハンクは真っ先に、今現在の管理権限者が誰なのか『レベル4』権限にて調べてみた。
するとメインAIから応答が。帰って来た答えは何故か『秘匿』とのこと。
最悪の事態を懸念、急遽エリアマスター権限を行使。管理権限者の一時的な移譲を申請したがこれは『現状では不可能』と却下される。
これは単純にこの基地内に権限を有した者が滞在していることを示している。
通常、各基地の管理権限者の最優先順位は「長」から任命された主任となる。
その者に「不測の事態」が起き任務遂行に支障が生じた場合は予め決めておいた「移譲順位」に沿って一時的に権限が移ってゆく。
これは以前、Bエリア探索者であるエマがハンクの下を訪れた際に「権限」を所持していたことから、この基地でもそのシステムが有効であるのを証明している。
そして元のエリアマスターか他エリアの主任が来訪、その者が意図して拒否をしない限りは権限が移される。
仮に今現在、天探女以外の誰かがマスター権限を有していれば今の申請が通った筈。だがそうはならなかったので、権限を有しているのは主任クラスとなる。
各エリアマスターは担当エリアに関係なく立場上は同列。
今回の様な場合、最後に到着したサラを除けば、先着順。
後からやってきた主任と言えどもお互いの承諾なくして権限の委譲は出来ない。
それらの事から、真っ先にこの基地に到着したのは天探女。彼女は主任で権利があり、条件は満たしている。
拒否する理由は無く、移譲も遅延なく行われたとみて間違いない。
その証として自分達がここに来た際、彼女から「基地は任せた」との指示がありその後、司令室にて問題無く指揮を取れていたことからも、あの時点では彼女が代理のエリアマスターであったのは疑いようが無い。
そしてサラが帰還。
本来のエリアマスターが復帰した場合、お互いの承諾があれば元の鞘に収まる仕組み。
なので今現在はこの二人のどちらかだろう。
どちらだろう? と悩むハンク。
サラとは幹部候補生育成施設からの腐れ縁。
家族ぐるみの付き合いをする程に親しく、それ故に性格はよく知っている。
とは言えここ最近、自身の想像を超えた行動を取る姿を多々目撃。極め付けはあの服装。あれ程、探索部の制服に固執していたにも拘らず、今は政府御用達の服を着ていた。
考え無しに行動するタイプではない。何かしらの意図がある筈。
だが基地AIが司令室の制御を離れている異常な状況をサラが選択するだろうか?
──違うな。
ここはサラでは無く天探女を選び、秘匿通信にて連絡を取った。
すると「確かにわらわじゃが、訳あって今は権限の移譲は叶わぬ」と呆気なく判明。
理由を聞いたところ「わらわ達はちーと立て込んでおっての。済まぬがお主はそこで班長達と共に待機してくれぬか?」とけんもほろろに通信を切られてしまった。
呆気に取られ固まるハンク。
確かに悩むだけ無駄だった。
その直後、基地内を映していた画像が一瞬で花畑へと切り替わる。
さらに映像だけで無く各種のデーターまでもが途切れてしまい宇宙からの情報のみとなってしまった。
しかも転送装置や出入の扉といった移動手段まで奪われ、指令室から外へ一歩も出れない「隔離」状態になってしまう。
基地AIに問い合わせると『エリアマスターによる機能制限』との繰り返し。
つまり一連の事態は天探女が作為的な思惑でしていたと判明した。
だが何故この様な行為をするのか、理由が分からない。
取り敢えずの目標は達せられたはず。
我々は勝利したのに先が見通せない。
サラは……あの時「客人」と言っていた。「客人」とは「あの方」で間違いないだろう。その証拠にモニターには誰も映っていなかった。
だがそのお陰でCエリアの班長が異変に気付けた。
「あの方」がここにいる。それはつまり戦いが終了したことを示している。
それなに新たに艦が現れ、しかも敵対行動を取り始めた。
一体何が起きているのか……
班長達は勿論の事、宇宙にいる出ている探索者の身も心配。
機能が制限され何が出来る訳でも無い。せめて情報収集だけでもと思い、意識を宇宙へと向けた……そのタイミングでDエリア探索者達の暴走が始まった。
そこにたまたま班長から「言う事を聞かない」との残念な報告が重なった、という訳だ。
因みにDエリア探索者の暴走はアトラスが原因。
理由は……皆まで言わずもがな。
なので決してハンクの育て方が悪かった訳ではない。
──これ以上は無意味か……
基地AIの権限を握られている以上、こちらから出来ることはない。
──天探女にしてもサラにしても、班長達を犠牲にするような真似はするまい。外は外でアトラス主任がいる。
「全員聞いてくれ」
開き直り立ち上がり班長達を順に見回す。
すると皆一斉に作業を中断、ハンクに顔を向けた。
「最大の山は乗り越えた。当面の危機は去ったと言える。だが知っての通り今は何も出来ない。なので各部署一名を残し交代で休息を取る様に」
「「「了解!」」」
座っていた者も立ち上がりハンクに向き直ると全員揃って敬礼をする。
そしてAエリア所属の班長を中心に、担当する順番を決めるとハンクの予想に反し、和気藹々と指令室後方にあるレストルームへと移動して行く。
「指令、お疲れ様です。よろしければ……」
班長達のリラックスした姿を見てハンク自身も肩から力が抜けてゆく。そこに後方から声が掛かったので振り向くと、A.C.Dの各エリアの三人の班長が立っており、内Dエリアの班長が飲み物を差し出してきた。
「お……すまない。ありがとう」
カップの中身は赤く透き通った液体。
紅茶の良い香りが辺りに漂い始めると、さらに緊張が解れていく。
和かな笑みでカップを差し出す班長から受け取り一口飲む。
「打つ手がない。歯痒いですね。他の主任方は現状を把握しているのでしょうかね」
両手でコップを持ったAエリアの班長の質問に、先程天探女主任から聞いた言葉を掻い摘んで教える。
するとCエリアの班長は済まなそうに頭を下げた。
「どうした?」
「すいません、言葉足らずで。あの方がその手の発言をした時には全てが手遅れだと思います」
「手遅れ? 何がだ?」
「はい。主任代理とは違い意図までは分かりかねます。なので想像になります」
軽く頷き先を促す。
「天探女主任が言いたいのは、司令室にいる者は「手が離せない状況に関わること無くジッとしていろ」かと思われます」
「……何もせずにここにいろ、と?」
「はい。逆に先程みたいに外部へのアクセスを今後も続けた場合は庇い切れない、とも」
「庇う……司令室周辺に武装アンドロイドを配置したのはそれでか」
前回、敵の侵入時にアンドロイドを送ろうとしたら「代わりがおるから」と断られ、基地内で唯一、人がいる司令室の防備へと回してきた。
和かに頷きながら返事をする。
「はい。そちらは目に見える配慮ですね」
──配慮か。
「……どの道、我々には待つしか無い。君が上司を信頼している様に、我々も仲間を信じて待つとしよう」
「「「はい」」」
三人同時に頷いた。
「へ……へっくち」
娘同様、可愛らしいクシャミが静まり返る医務室内に響き渡る。
「……誰ぞ良からぬ噂でもしておるのかの?」
独り言を呟きながらチラチラと三人の顔色を伺う天探女。
「「「…………」」」
サラ、椿、レベッカは残念ながら無反応。
治療室は変わらずの気不味い雰囲気。
ローナの小言に思い当たる節があったのか、三人とも口を閉ざし、佇みながら考えに耽けていた。
そうしている間にも、宣言通りに治療用カプセルの中にいたランが何処かへと転送されてゆく。
普段の天探女なら、ローナの企みに探りを入れる場面なのだが、今回はランの行き先すらチェックしていない。
天探女にとって、そんな企みなど目の前の三人とは比べるべくも無く取るに足らない些細な事。
特にランの未来は既に決まっており、天探女がこれ以上関わる意味がない。
「サラや?」
「…………」
心配そうに正面から覗き込む、が一点を見つめたままで反応がない。
表情からして悩んでいる? ように感じる。
「椿……様?」
「…………」
その場から声を掛ける、がサラと同じ状態。
いや、サラとは違いどこか苦悩? が感じられる表情をしている。
二人の事情を知っている者ならば、先程のローナとのやり取りを聞いていれば、今の彼女らの心情は何となくでも分かってあげられたかもしれないが、天探女にとっては荷が重過ぎる状況。
一途の思いでもう一人に声を掛けた。
「レベッカ……様」
「……あ、は、はい?」
前の二人とは異なり、直ぐに反応があった。
内心ホッとする。
「先程はローナが大変無礼な振る舞いを」
深々と頭を下げた。
「え? い、いえ失礼だなんて……」
掌を前で組み、俯き加減で視線を泳がす。
「は、はあ……」
予想外の反応に理由が分からず情け無い返事をしてしまう。
「私が至らないばかりに、皆さんにはご迷惑をお掛けしてしまって」
上目遣いで軽く頭を下げた。
「ごごごごご迷惑など微塵も」
両手をワナワナさせて畏まる。
「実は以前、ローナさんに椿への接し方を指導して頂いたのです」
「な、何と失礼な! 厚かましいにもほどがある無礼な振る舞い!」
本気で怒っているようで握り拳を作ってみせた。
「自業自得です。彼女は何ら間違った事は言っておりません」
「そ、そう……なのですか?」
「はい」
寂しげな笑みを浮かべる。その笑みを見て勢いを失ってしまう。
「天探女さん」
「は、はい」
「ここでは何ですし、場所を移しませんか? 落ち着いて話せる所へ」
「は、はい喜んで!」
喜んでって……何が嬉しいんだろう……
天探女はサラの手を引き、レベッカは椿の腰に手を回して元貴賓室へと向かって行った。
ハンク及び司令室要員はレイア同様「時」が来るまで待機となります。




