決着! なのじゃ♡
次話から最終章となります。
集めたのは自エリアで付き合いが長いAエリアの探索者達。
ベテランばかりを二組計四人を選ぶとすぐさま駆け付けてきた。
「主任、あれは誰でしょう?」
「さーてな……」
そう、アトラスからの呼び掛けにも無反応。
情報連結すら行う素振りが見られない。
呼び掛けに反応が無い、と言うことは少なくともAエリアの艦では無い。
では無い、と未だに確定していないのは、先が見えたとはいえまだ混戦は収まってはおらず直属の部下を含む全探索艦と常時接続していると呼べる状況には至っていない。
それは先程の「嵐」からも分かる様に、電波が正常に受信できなければたとえ目の前に居たとしても外見からは判断が付かない。
なので唯一の手段である消去法すら使えないので確定出来ずにいる。
残る可能性は敵探索艦か他エリアの艦となるが、CとDのエリアマスターが基地にいる状況で、姿を晒した上で故意に身分を隠すという規律違反を犯す理由が思いつかない。
Dエリアマスターであるハンクは規則を重視し横の繋がりを大切にする男。裏表のない者の部下が規則を破るとは考えられない。
Cエリアマスターは掴みどころの無い人物。
彼女は「長」から聞いていた通り、とても真面目で合理主義、礼儀正しく仲間思いで自己犠牲の塊のような女性。
それらが嘘偽りでないことは彼女の部下が証明してくれている。
Bエリアマスター同様、探索部に所属する以前の経歴が一切伏せられているという点を除けば探索部にとって理想的なエリアマスターであり、彼女を選んだ「長」の目に狂いは無かったと言えるだろう。
そんな人物が戦闘そっちのけでこのような意味不明な行動を指示するとは思えない。
残るはBエリア。味方であるならばここ以外あり得ない。
作戦が終盤に差し掛かっているにも関わらず未だに主任は行方不明。オマケに探索者の半数までもが行方不明ときている。
その内の誰かが戻ってきたのかもしれない。
ならば自エリアに帰ってきたにも関わらず何故名乗らないのか?
それに仲間が戦っているのにただ眺めているような奴は探索者に選ばれるとは思えない。
──ここは第五世代艦と見ておくのが吉。「あの方」の可能性も捨てきれないが……
「よし決めた。一・二番艦は質量兵器で攻撃せよ」
「「了解!」」
先ずは正体を見極める為に遠距離攻撃の指示を出す。
命令を受けたのは、探索者であればエリアを問わず誰でも知っている、現在の探索部で一番の古株となるペア。
彼女達は名誉ある『Aエリアの一・二番艦』の座に君臨している全エリア全探索者の中でも最古参のペア。
探索艦の識別番号は各エリアでの立場と勤続年数を表す。
先ず所属エリアの探索者の纏め役となるペアが一・二番を与えられ、その後は勤続年数に応じて番号が変化して行く。
例えば現在のBエリアではローナが一番で妹のラーナが二番、次にルイス兄弟、その後にエリー姉妹と続く。
だがエリア開始直後はローナ姉妹の次に着任してきたのがエリー姉妹。この時点ではエリーが三番でエマが四番であった。
その後、僅かに遅れてルイス兄弟が着任して来たので、先輩である彼らが三・四番に、エリー達がスライドし五・六番へと移動した。
その決まりは全エリア共通でCエリアでも変わらなく、菜緒姉妹が全くの新卒でありながらも一・二番にいるのは主任代理とその妹、という立場があるから。
このような決まり事があるが、Aエリアは新設された他エリアとは少々事情が違う。
Aエリアは探索部初の基地であり、今も昔も数多くの探索者が所属している。
ご存じの通り、探索部の規則の中に『いつでも探索部を辞めれる権利』という項目がある。
これは探索者としての能力を維持出来なくなった者への救済の意味合いも含まれているのだが、大抵の者は繋がりという年齢やモチベーションに左右されやすい能力のせいで、そして普通の人生を歩みたいといった理由で十年にも満たない期間で去って行く。
その様な毎年何組かの入れ替わりが起こるAエリア。そんな中で彼女達は二十年近く、探索者の気概を貫き通してきた大ベテラン。
心身共に探索者の見本のような、アトラスが絶対の信頼を寄せている女性達。
彼女達の容姿だが、この時代は人種だの肌の色等の差別は一切なく、住んでいる地域や意識による差も過去のモノ。
なので表現のしようが無いが、古代の表現で今は死語となっている「ラテン系」の美人が当てはまるだろう。
ブロンズの髪に茶褐色の肌。色気漂うメリハリのある身体付き。
年齢は三十代半ば。
サラや天探女には二歩及ばないが、貫禄を伴う美人と言える顔立ちと風格。探索者の見本と呼べる女性。
その彼女達姉妹が艦に指示を出すが……
「「あ、あれ?」」
風格に似合わない声と表情。
「ん? どうした?」
「い、いえ、艦が言うことを聞かない?」
「え? そっちも?」
「な、何だと?」
嫌な予感がし出す。
アトラスが信頼を寄せている彼女達がこの状況でおふざけをする筈はない。
なので明らかなイレギュラーな状態が発生している。
しかも一艦だけならまだしも二艦同時。なので疑いの余地は無い。
これは艦AIに対し外部からのハッキングが掛けられていると断言出来る。
その様な真似が出来る者はこの世に一人しかいない。
つまりあの艦に乗っているのは「あの方」であり、どう足掻こうとも勝てるワケがない。
「こ、攻撃中止!」
急ぎ指示を出す。
「「りょ、了解!」」
「艦に異常は見られるか?」
「い、いえ他は特に……強いて上げればあの艦にこれ以上接近は出来ない様です」
瞬時にそこまで調べるとは……さすが一番二番艦の搭乗者。
──手出し無用? それだけならば良いが……
「奴は何をしておるか分かるか?」
「あの艦からは何も感知出来ず。どうやら眺めているだけかと」
戦況を眺めている……これは確定だな。
「…………ならば手出し不要。君らはこの場で待機」
「「「待機?」」」
全員何故? といった表情。
「返事は?」
「「「り、了解!」」」
こればかりは説明出来ない。
「しゅ、主任!」
便乗している艦の搭乗者が呼び掛けてくる。
「今度はどうした?」
「もう一艦現れました!」
「次は誰だ?」
新たに出たモニターに映っているのはどこから見ても探索艦。
跳躍直後らしく白色球体で停止していた。
「所属は……さ、サラ主任! Bエリアマスターです!」
「ほ? サラ君じゃと?」
さらに現れたモニターには依然と変わりがない、だが探索部の制服では無い、スーツを着てシートに収まっているサラの姿が。
その顔は普段とは違いとても和やかに見える。
『……その声は……お久しぶりです。アトラス主任』
「おお、間違いない。元気だったか?」
彼女が制服を着ていないという珍事。
口には出せないが、お世辞にも似合うとは思えない姿。
彼女もそうだが我々エリアマスターはこの制服に誇りを持っており、基地や関連施設にいる時は勤務時間に関わらず常に着ている。
特に彼女は探索部の制服にかなりの愛着があったらしく、スカートの裾を短くしたり胸元を殊更強調したりと規定違反にならない範囲で色々と手を加えたりするほど。
自分やハンクの趣味では無かったから良かったものを、部下に男性がいるBエリアで問題が起きないか、心配した程に。
今の服装はとても地味で違和感を覚えたが敢えて触れずにしておく。
『はいお陰様で。この度は遅れて申し訳ありません』
「構わない。其方も色々事情を抱え込んどるようだしな」
『はい。やんごとなき方々の事情を抱え込んでおりまして、ご説明出来ませんでした』
「やんごとなき方々? それは一体?」
『後ほどご説明致します。それよりここに「椿」は来ておりませんか?」
「……それは「あの方」の?」
『そうです』
「それと思われる艦ならそこにいる」
サラの艦にも既に情報が送られている。
「ただ……」
『ただ?』
「ダンマリを決め込んで、しかも近付けんのだ」
『……了解しました』
「了解? 何を了解したと?」
『ここからは私が引き継ぎます』
「引き継ぐとは? 一体何を言っているのだ? あそこにいるのは「あの方」なのか?」
『はい。彼女はこの時が来るのを何年も、何十年も孤独の中、自責の念に囚われ一人で悩み苦しみ、そして答えが出るのを待ち続けていました。この状態から一刻も早く解放してあげねば」
途中から目線を外し淡々と話している。
彼女はあの艦が映ったモニターを見ているに違いない。
「……サラ……君」
彼女は何者なのだろう……
『アトラス殿!』
「…………?」
『ですからアトラス殿は当初の予定の完遂を。部下を率いて、椿の迷いを完封なきまで見事断ち切って下さい』
「……分かった。そちらは引き受けよう。だがどうする? アレには近付けないぞ?」
『彼女はあの場で私の到着を待っているのだと思います』
「そうか。そこまで言うのならもう何も言うまい」
『ありがとうございます』
「それで一人で行くのか? 私の部下で良ければ何名か同行……」
『いえ、これは私の役割。私一人で行かなければ意味が無い』
「あい分かった。ならばわしはわしの役割を果たすとしよう」
『はい、それでは後ほど』
ここで通信が途切れた。
「全員に通達、ここはサラ君に任せてさっさと残敵を掃討する」
「「「了解!」」」
アトラス達が離れていくのを見送る。
この領域には二艦のみとなる。
──さて待たせたな、椿……
白色卵型へと形状変化、誰に邪魔されることなくゆっくりと近付いてゆく。
椿が乗っているのはおそらく第五世代艦。
多分「彼女」が操っているのだろう。
そちらは「四賢者」を掌握した際に得た情報。
「聞いているか?」
呼び掛けるが反応が無い。
「聞こえているのだろう? 椿」
回線は繋がっている。だが返答が無い。
「私がここに来た理由。私がお前に会いに来た理由。お前が待ち望んだ答えを用意してきた。だから聞いて欲しい」
「…………」
──ダンマリか。
「よし! 今からそちらに乗り込む。そして目の前で話す! いいか、拒絶せずに会え!」
一方的に宣言し艦を接触させてこちら側から一方的に穴を開く。
球体内の正面壁面に開いた穴を覗き込む。すると数十m先は真っ暗……だった、が暫くして遥か先に点と呼べる程の小さな丸い明かりが灯る。
その明かりを見つけると躊躇わずに潜り込む。
ほぼ艦一つ分、移動をし辿り着いた先には真っ白な球体が。
探索者程ではないが見知っている空間。どの艦も変わり映えのない空間、の筈なのだがここに入った瞬間、空気が一変したことに気付く。
そこには普段から見慣れている特徴的な服を纏った、小柄で黒髪を靡かせた少女が背を向けた状態で、まるで水中に漂っているかのように無重力に身を任せて浮いていた。
その姿を一目見た途端、なんとも表現し難い神秘的な、それでいて温かみがある雰囲気を感じ取る。
後ろ姿はどこにでもいる至って普通の女の子。
この子が街に行けば友達や家族と楽しそうに遊んでいる姿を容易に思いつく。
だが彼女が醸し出す雰囲気は微妙に異なる。
どこか達観した、そう母性に似た温かみが感じられ、それでいてワクワクした無邪気な子供の雰囲気も伝わってくる。
──この感じ……そうか……これが椿の本心……
事の始まりは金髪の少女との出会い。
例え誰かに仕組まれていた出会いだとしても、あの時、あのタイミングで彼女と出会えたからこそ、この場に来れたのだ。
だがここまでの道のりは決して容易いものではなく、何度も空回りや遠回りばかりしていた。
さらに世の不合理の壁にぶち当たり、その壁に諦めかけて何度歩みを止めそうになったか。
だがその度に「ここで自分が歩みを止めてしまったら、彼女達は一生救われない過去を背負って生きてゆかねばならない。お前はそれでいいのか?」と彼女達の気持ちを考えると、動きを止めていた足が再び動き出してくれた。
そして友人にも恵まれた。
困難に突き当たると必ず誰かが手を差し伸べてくれた。
前へ進もうとする自分の後押しをしてくれた。
そうしてここまでやって来れた。
椿とは会うのはこれが初めて。それは目の前の少女も同じ。
アリスと会いここに辿り着くのに三十年。苦難の連続だった。
椿はどうだった?
子供だった椿に大人の様に割り切れたとは思えない。
目の前の少女は自分と比べるのすら烏滸がましい程の長い年月、悩み苦しみ、色々なモノを犠牲にしてこの場を望んだに違いない。
二百年近く、十二歳の少女には辛かっただろうに。
彼女の中では今、ここまでの道程、そして姉や家族への思い出が走馬灯の如く思い起こされているに違いない。
サラにしても椿にとってもここが終着点。
その長い旅も……もう終わる。
やっと終わる。
早く終わらせてあげたい。
椿も桜もアリス達も……
様々な思いが脳裏で交差する中、先に動いたのは椿だった。
サラが浮かぶ姿に見惚れている中、ゆっくりと、非常にゆっくりと時間を掛けて体を回転させサラへと向きを変えてゆくと次第に顔が見えてくる。
見ると目は開かれており虚な表情をしている。
その目は真っ直ぐと正面を見据えていた。
二十秒程をかけ、サラと向かい合う位置で目と目が合ったところで動きを止める。
静寂が支配する空間で見つめ合う二人。
球体モニターは全面真っ白。完全に周囲と隔絶された空間。
彼女が着ている服は、アリスとエリスが普段着にしている特徴のある服。
普段のサラであれば「何故椿がその服を着ているのか」と疑問に思うところだが、今はそんな事情を考察する程の余裕は無かった。
沈黙が続く。
二人とも見つめ合ったまま微動だにしない。
椿は瞬き多く、サラはその逆。
ここで椿が頭をコテッっと僅かに横へ傾ける仕草をして見せる。
まるで「どうしたの? なにか御用?」といった顔つきで。
その仕草を見て我に返る。
──そうだ。待っているのは椿だけでは無い。
一度だけゆっくりと大きく息を吸い込みそしてゆっくりと吐き出す。
そして椿を見てから口を開く。
「先ず初めに個人的な話をさせて欲しい」
真面目な表情のサラとは対照的に、キョトンとした表情の椿。
「私は大変な誤解をしていた」
「?」
「以前から疑問を抱いていた。なぜお前はこのような真似をするのかと」
「?」
何を言っているのか分からない、と言った表情。
「何故エマ姉妹が「贄」候補なのかと」
「…………」
目付きが変わる。
「あの者達から事情を聴くまでお前が「贄」としての力を既に失っていた事に気付けなかった」
「…………」
「だからあの六人を用意した」
淡々と話すサラ。そのサラから目を逸らすことなく聞き入る椿。
「…………成程」
「? 成程?」
何かに合致がいったという雰囲気で一言だけ呟く。その言葉にサラが反応を示すと軽く首を振ってみせる。そして先を促す為に再び表情を戻し、口を閉じ改めてサラに目を向けた。
「……お前は「贄」としての義務を放棄せずに世界を救おうとしている」
「私からしてみればそんな大層なモノじゃないと思うけど?」
「いや誰にでも出来ることじゃない」
「そお? たまたま目的が重なっただけじゃない?」
「…………」
今度はサラが黙り込む。
何故かはぐらかそうとしているのに気付く。
「まあいい。桜はアイツらに託す以外に道はない」
「アハハ、その通り! 私達と同じ道を歩むか、それとも万事上手く行くか、それこそ神のみぞ知るってとこかな?」
「大丈夫、必ず上手く行く」
笑顔で頷いてみせる。
その笑顔を見るとみるみる元気が薄れてゆく。
だがそれでもサラから目を離さずにいる。
「……最近、痛感しているの」
突然ボソリと呟く。
「痛感? 何に?」
「神様なんて……ううん、何でもない」
言い掛けたが軽く首を振ってみせる。
「それより答えを聞かせて」
「……分かった」
それから三分が経過……
「あ! 敵の動きが……」
「と、止まった⁉」
突然、敵全艦の進軍がピタリと止まる。
それに合わせ、一部の者を除き大半の探索者達も攻撃を止める。
サラが椿と合流してから進撃が止まるまで約五分。
その五分間で敵の四割近くを殲滅し、残りは約六十万。
対峙している探索艦は、
Aエリアの四十、
Bエリアの五、
Cエリアの十二、
Dエリアの十。
中でも一番少ない筈のBエリア探索者の撃墜数が凄まじく、シェリーとルーク、そしてシャーリーの三名だけで半数近く稼いでいた。
その三名だけではなく、皆のそれぞれの奮闘により、この時点で敵陣にはかなりの隙間が出来ており、約半数との通信も回復していた。
「よし、警戒しつつ今の内に集結せよ!」
指令室のハンクが全探索艦向けに指令を出す。
その指令は基地と通信が繋がっている艦を経由し他の艦へと伝えられる。
そうして一番離れた位置にいたアトラスが同乗している艦にも無事伝わった。
「では移動します」
「任せる」
──アレのお蔭かの……
未だ動かない二つの白色球体。
接触している所を見るに、直接会っているのかもしれない。
大方、交渉が纏まったと見るべきでこれで予想された戦いは終わったのだろう。
──だがまだ何か嫌な予感がする。
遠くに見える二つの艦を見て思う。
アトラスの勘の根拠。それはAエリアでローナから聞いたあの言葉。
<戦いの先に「既定路線」ではない戦いが>
一部の者はその戦いが何なのか知っているようだが自分達には知らされていない。
それは自基地の「内部空間」と同じで敢えて知らされていないと思われる。
この戦いもそうだが何らかしらの思惑が絡んでいるのだろう。
多分だがBエリアの探索者がこの大切な時に揃っていないのも関係しているのだろう。
まあ成る様にしかならない。
残っていた敵艦も全て引き上げた今は深く考えるのはやめておこう。
大量に表示されていたモニターの内、サラ達と基地、そしてドリーを残して一旦全てを消す。
それから熱いお茶を出す様に艦に指示をした。
宇宙に出ていた艦が基地前でエリアごとに集合した。
「こうして他エリアの艦と並ぶのって初めてじゃない?」
「うん、前代未聞だよね」
彼方此方から似た様な感想の囁き声が聞こえてくる。
それは基地にいる班長達も同じ意見。
一部が不在とはいえこの数が一箇所に集まったのは探索部の歴史上、初めての出来事。
しかも会ったことも無い仲間達と共闘をした直後でもあり達成感も相まって感慨深くなるのは当然と言えるだろう。
巨大な白い塊が並んでいる姿はとても誇らしげであり、誰が見ても壮観であった。
「いえーいなの! ダブルスコアでぶっちぎりなの!」
「く、クソーなの! 負けちまったぜなの!」
だが一部の者の若い探索者にはあまり興味が無かったようだ。
「全艦に通達、申し訳ないがもう暫く宇宙で警戒の任に当たってくれ」
揃ったところで新たな指令が下る。
「「「了解」」」
「ただしペア毎に交代で休息を取る様に」
「「「了解」」」
全員が揃って返事をした。
とここでアトラスが映ったモニターが全員の前に現れる。
「ハンク君」
「は、何でしょうか?」
「基地の損害は?」
「今のところは短期的に修復可能なモノばかりで、目立った損害はありません」
「それは重畳。ならばわしはこのまま外の指揮を取らせて貰うとしよう」
「よろしいので?」
「君は中の復旧を急ぐように」
「了解しました!」
モニターが消える、が新たなモニターが。
今度は基地への限定通信。
「ハンク!」
「さ、サラか?」
そこには見知った顔が映っていた。
「ああそうだ」
「いつ戻ったんだ?」
「つい今しがただ。悪いが挨拶は後回しに。客人を一人、急ぎ基地に招きたいので空いているドックの指定を頼む」
「客人? 了解した」
「それと天探女はいるか?」
名を口に出した途端に澄まし顔の天探女が現れる。
「おるぞよ。随分とのんびりしておったよの」
灯を消しているようで背景は薄暗かった。
「ああ色々起きたからな……って何故私の部屋にいる? しかも誰の許可を得てベッドの上で横になっているんだ?」
だがその場所が自室と気付いたらしく、話の途中から眉間にシワを寄せ始めた。
「目的は果たせたのじゃろ? なら今度こそわらわとの約束を果たす時が来たのではないかと思っての」
「……一体何のことやら……ってポケットからはみ出ているのは何だ?」
誤魔化そう? としたが何かを見つけてしまう。
「これかえ? これはわらわの大切な宝物じゃて」
慌てているが澄まし顔を貫き通し、ポケットから僅かにはみ出ていた戦利品を急いで押し込む。
「……分かった。それはくれてやる。それと全てが終わったら今度こそ付き合ってやる」
「…………本当かえ?」
「ああ」
「ぶ……武士に二言は……」「ない」
感極まったらしく涙を流してワナワナと震え出す。
「……は」
「は?」
「は……初めてなので……優しくして、なのじゃ♡」
「「「…………はぁーーーー」」」
Cエリア所属の者達から盛大なため息が漏れた。
「その件は一先ず置いておく。それより天探女、今からそちらに客人を二人連れて行く。手筈を整えておいてくれ」
「客人とな? 一体誰じゃ?」
「一人はお前と面識がある人物、と言えば分かるだろう?」
ニヤけるサラ。
その笑みを見た途端、天探女の顔が真顔に変わる。
「……承知しました。準備しておきます」
態度を一変させ急ぎベッドから降りるとサラに対し深々と頭を下げた。
サラと椿のシーンに関しては完結後に追記するかもしれません。予めご了承下さい。
次回は今月中に投稿します。




