逃走! お別れ……
ノートpcは諦めて折り畳み式携帯キーボードを使う事にしました。
「どっこいせっと!」
甲からヒョイっと飛び降り皆を見る。
「姉ちゃんどないしたん? 二人を見つけたんか?」
別れてから大して時間が経っていないのにもう諦めたのか? と軽いため息をつくがマリには意図は通じなかった。
「ん? 姉さんどないしたん? そない必死にウチのこと見つめて」
「…………」
「?」
先程から瞬きせずに自分を見ているラーナと視線が重なる。
その瞳、何かを言いたげな……ではなくボーとしている様にしか見えないが……
「…………」
「…………えへ♡ い、って痛いわ!」
取り敢えず微笑んで、ラーナの気を引こうと努力してみた、が何故か妹にド突かれた。
「気色悪いから止めい!」
「うーーてか姉さんどしたん?」
「マリに見惚れてたんよ」
「ホンマか師匠? で、でも女同士で……ウチ困るわ〜」
満更でもなさそうにモジモジしながら顔を赤らめて乙女の眼差しに変わる。
「ちゃうわ! 師匠も忙しい時に揶揄うの止めい! それとマリもいちいちボケんでええねん!」
「お? ハナちゃん、もっと言ったれ」
「「ごめんなさい」」
無反応のラーナを見て空気を読んだのか、バツが悪そうにシュンとなり素直に謝る。
「いやな、チョイ前にここに二人がおったらしいんよ。んで寸での所で逃げられて、次どこ探すか悩んでる最中なんよ」
「そ、そうやったか。そりゃ難儀やな」
師匠はすでに逃走して無反応。一人済まなそうに視線を逸らしていたが、何かを思い出したのかハッとした表情に変わった。
「そ、そうや! それより敵がウジャウジャとこっちに迫っとるで」
「なんやと? そりゃアカン!」
空間モニターで位置を確認すると、指摘の通りであった。
その言葉にラーナも反応、全員の視線がモニターへと注がれる。
「分散している……アイツらにも見えて……いない?」
横目でモニターを眺めながらポツリと呟く。
「へ? 姉さん今なんか言ったかい?」
確かに通路上に面している部屋を片っ端から家探ししている感じの動きだ。
さらに要所要所に最低一体、見張りを残している念の入れよう。
「いや……そうか! 相手は基地の通信網は使わないのね」
「「?」」
「それならまだこちらに分がある。追いつかれる前に探し出すわよ!」
「なんや分からんが承知した……ってマリどないしたん?」
ステラ、マキ、甲と一人一人に目線を向け最後にマリを見ると、明後日の方向を見ているではないか。視線を止めたラーナに気付いたマキが目を向けると、マリが首を捻って明後日の方向を見ていたのだ。
「いやな、さっきからあっちが気になったんで見たらな、アレって……何に見える?」
皆が来た逆方向の通路のかなり先の分岐点の白い壁から「何か」が二つ、チョコんとはみ出しているではないか。
皆の視線がその「何か」に一斉に向けられると一瞬で引っ込んでしまう。
「いました!」「いたのね!」
甲とステラが同時に叫ぶと、音や振動の合間から慌てた様子で駆けていく足音も聞こえてくる。
「い、いたの? アレがそう?」
「よく見えたな」
「ほならお先~~~~!」
甲は分かるがステラの視力の良さに驚いていると、マリが軽い声とは真逆の必死の形相、逃げる様に猛ダッシュで駆け出してゆく。
ワンテンポ遅れて続く甲。とはいえあっという間に追い付いて二歩後方のピッタリと付いて行く。
この娯楽街は「頭と尾を取り除いた魚の骨」の様な造りとなっており、「背骨」に当たる大通りを挟んで「中骨」に当たる通路に面して左右に店舗が並んでいるので、転送装置を利用しなければこのエリアへの出入りは基本二ヶ所しかない。
三人とも来る時に見掛けていないので、出て行ったのならばもう片方の通路しかありえない。
走り去るマリを目で追っていた二人。先にラーナが我に返りかなり遅れて走り出す。
「あっ汚! 先越されてまう!」
慌てて追いかけるマキ。紐でもついているかの如く同じ距離を保ちながら追走するメイド。
逃走劇の始まり。
五人はどうやら遊び相手に選ばれてしまったようだ。
「すたこらサッサーーそれにっげろーーなのねーーーー!」
「姉様、後で叱られますよーーーー!」
「戦士にもきゅうそくはひつようなのだーーーー!」
「それ意味履き違えてますってーーーー!」
並走しながら楽しそうに逃げる姉と必死に逃げる妹。
幼い容姿から本気で遊んでいる様にしか見えない。
「ま、待ちぃーー……はあはあ、あいつら逃げ足……早い……ハアハア……どんどん離されていくで……これならもう少し体……鍛えとくんやった……」
年齢は大して変わらないのにジワジワと引き離されてゆく。
小柄なリン達よりも体格に恵まれている筈なのに一向に追いつけず、息まで上がってしまう。
──病み上がりの状態では追いつけるワケがない。
そう自分に言い聞かせる、がその条件は逃げる二人にも当て嵌る。
つまり差が付くのは単なる運動不足。
だがマリの場合、その不都合な事実に自ら気付くことはない。
「マリ様このままでは見失ってしまいます。それと後ろから……」
「はあはあ……う、後ろ? ってうぉぉぉぉ!」
真顔のラーナがスプリンター顔負けのフォームにて、もの凄い勢いで迫って来ている。
マリの目にはラーナを中心に集中線まで見えていた。
「し、しえぇぇぇぇ抜け駆けしてゴメンなさいもうしません助けて殺されるーーーー! こ、甲ーーーー! 助けてーーーー!」
「了解しました」
涙目で走るマリをお姫様抱っこし加速、何とかラーナから逃走を図る。
「ハアハア……あ! マリの奴、ズルしてやがる!」
「しかたないのね。こちらもズルしますね」
マキの脇に来て、体に手を回し小脇に抱え込んで二人の後を追走して行く。
「ら、楽でええけど少しちっと恥ずかしいわ」
「アチラみたくお姫様抱っこがご希望ですかね?」
「い、いや遠慮しとくわ」
自分より小柄なメイドに抱っこされるのはかなり抵抗があるのでここは我慢する。
「あ、姉様不味いです! 追いつかれそうですって! ってーーーーラーナさんの顔チョー怖いーーーー!」
どうやらマリと同じモノが見えてしまったようだ。
「しかたないのね~。こっちもインチキするんだな~」
ランを背負いシューズの簡易反重力装置のスイッチを入れると、まるでスキーの滑降でもしているが如く、スイスイと床を滑り始めた。
「コレならおいつかれないのねーー」
心の底から楽しんでいる笑顔で後ろ向きに器用に滑って逃げるリン。
担がれたランはアタフタしながら周囲を見回している、が後ろを見て青褪めてしまう。
「キャーーーーーーーー! まままま前前まえマエじゃなくて後ろーーーー!」
迫りくる白い壁。進行方向にはT字路が。
命の危険を感じ反射的に宇宙服の頭部シールドを作動させてしまう。
「ヒョイっとな~~」
「に? にゃぁぁぁぁーーーー!」
寸前で向きを戻してから絵にかいたような直角ターンで切り抜けさらに加速して行く。
その姿、まるで神に選ばれた「異能生存体」が操るロボットを彷彿させる動きだ。
「ふ、ふぇぇぇぇ……死ぬかと思った……って今度は隔壁がーーーー! って開いた」
「ランランによろこんでもらえて幸せなのね〜」
速度に合わせて開いてくれた。
「す、スゲー……流石リンや」
「マリ様も頸椎保護の為、シールドを作動させて下さい」
「! りょ、了解やぁぁぁぁーーーー!」
床を凹まし力強くジャンプ。勢いを殺さずに逃げた方向とは逆側の壁を蹴り進む方向を45度程変えT字路へ突入。さらに飛んだ状態で正面の壁に横向きに着地。そのまま壁走りをした後に床に戻って駆け抜けて行く。
「こ、怖ーーーー!」
直ぐ後ろを追走しているラーナも甲の真似をして軽々と切り抜ける。
その際、甲の足によって付けられた壁の凹みを上手く利用して態勢を崩さずに走り抜けて行く。
「…………」
「マキ様もシールド作動願いますね」
「へ? お、おう! ってひぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
頭部が覆われると体を思いっきり捻りながら空中にジャンプ、数回回転し遠心力を付けてから正面の壁に向けマリを目一杯の力で投げ飛ばす。
その途端、全身が赤い砲弾と化し正面の壁に向け飛んでゆく。
その合間にステラは猛加速、砲弾を追い越しT字路へと先回り。
そのまま成す術も無く迫りくるマキを両腕でキャッチ、その場で器用にクルッと一回転。回転の勢いを利用し力強く走り出した。
「減速せずに済みましたね」
「たたたた頼むからやる前に一言言ってくれ」
「仕方ないのね。承知しましたのね」
今度は肩に「への字」の状態で担がれ連れて行かれた。
「リンちゃーーーーん! ランちゃーーーーん! ちょっと止まってーーーー!」
対して時間も掛からずにコーナー一つ分引き離されてしまう。
ここまでは宇宙服と事前のドーピングのお陰で楽が出来ているが、多少なりとも「能力」を使っているので段々と体力が落ちてきているし、このまま身体に負担を掛け続ければ後日にやってくる反動で動けなくなってしまう。
体力という点では生身であるステラも同様らしく、先行している二組から徐々に距離が開いていた。
──仕方ない。どこかで先回りするしか……
「マリちゃーーん! そのまま追いかけてーーーー!」
自分やマキにはリンの真似は出来ない。仮に反重力シューズを使ったとしても、あそこまで器用に使いこなせないので置いていかれるのは目に見えている。
それなら走った方が確実と踏んだが結局は追いつけず仕舞い。
唯一の希望はマリ。彼女には甲が付いている。
甲なら宇宙服のシューズが電池切れになるまで追い続けられるだろう。
とはいえ電池切れを待つ様な時間は残されていない。
「りょーかいやーーーーーー…………」
何とか聞こえたようで返事がこだましてきた。
徐々にスピードを緩め後方のステラの位置まで後退する。
「ちょっと止まって~」
並走しながら二人に声を掛ける。
「?」
「どないしたん?」
「何処かで~待ち伏せしましょう~」
「お、おう」
「マリちゃんが追い掛けている限り~位置は把握できてるし~」
「お、そやね」
「では止まりますね」
同意が得れたところで一旦止まった。
「でどこで待ち伏せする?」
「う~ん、どうしようかな~。そうだステラちゃんなら~何処が最適だと思う~?」
基地内地図が映った大きめの空間モニターを眺めながら聞いてみる。
「リン様の性格は知らないのでルートの特定は困難ですね」
ラーナと同じく肩で息をしているが、変わらずの澄まし顔で答える。
モニターを開くと右へ左へ上へ下へと追い掛けっこが続いている。
「マリちゃん~応答願います~」
「はいよこちらは現在二位のマリ選手やで~」
「追い掛けながら聞いてくれる~?」
「なんや~」
「どこかで待伏せしようかとおもってるの~。でマリちゃんならどこが最適だと思う~?」
「……そやね~」
「ちょ、姉さん! それマリに聞くんかい⁈」
一度マキにニコリと笑顔を向けてから話を続ける。
表示されている地図の一点にお星さまマークが浮かぶ。
位置は今いる中層よりもだいぶ上の階層。
「そこかなり敵の傍とちゃう?」
示した場所は敵がいる位置から一ブロック挟んだ十字路。その地点のそばには青い光点が一つあり、そこで敵の進行を食い止めているようだ。
因みに敵だが基地の三割程度に広がっているが数はかなり減っているように見受けられる。
途中経過を見ていなかったので予想となるが、行動範囲が広がった故に敵の密度が減っているのと青い光点によりいくつかが破壊されてしまったからだろう。
その証として敵艦が居座るドック付近には数個程度の光点しか残っていない。
「そう言えば緑はどこ行ったん?」
言われて気付く。そう言えばいつの間にか緑色の光点が消えている。
考えられるのは三つ。
甲の兄弟に撃破されたか既に艦に戻っている。
敵認定され赤に変わった。
迷彩状態となり姿を眩ませた。
因みに基地AIはミアによりハッキング対策が施されている為、以前の様な乗っ取りの可能性は考慮しなくてよい。
──どうするか……ここで手を拱いていても状況は悪くなる一方。なら可能性に賭けてみるしかない。
「そこに行きましょう~」
「了解や」「承知しましたのね」
先程とは違い急ぐ必要は無いのでラーナとマキはシューズの力を使い、ゆっくり飛んで目的ポイントへと向かう。その際「手間を掛けたお礼」とマキはステラを背負って運んであげた。
「申し訳ありません。見失いました」
「いや甲が悪いワケやない。悪いのは空気読まずに逃げとるお子ちゃま達の方や」
しかしこりゃ困った……
目の前の分岐はただの分岐ではない。
各区画に一つずつに設けられている上下階へ抜けれる六差路。
「上下」方向の通路は横方向よりも幅が三倍ほど広い円形で無重力空間となっている。
「甲、センサーに反応はあらへんの?」
「残念ながら……宇宙服着用状態なので」
「なら無理か……」
外界と完全に遮断している宇宙服からは生体が発する一切の情報を遮断してしまう。
──さてさて……
通路の端まで行き上下階方向を覗き込む。
すると上方向からの振動音以外に空気の流動もなく気配すら感じられなかった。
──正解はどっちや?
「マリ様?」
「決めた! 上や上!」
特に理由はない。今のリンの気分なら「上」を目指す、そんな気がしただけ。
「甲、頼む!」
脇にいた甲の肩に手を掛けるとマリの身体に手を回し、再びお姫様抱っこをすると無重力通路へフワッと舞い飛んで行った。
「あ! ビンゴ! おったで!」
通路の先でトテトテと仲良く並んで歩く二人の姿を見つけて思わず声に出してしまう。
「お? 見つかっちゃったのね~。ランラン」
「はいはい」
再開される鬼ごっこ。
逃げるリン姉妹に追い掛けるマリ一行。
だがその先には……
「捕まえた〜」
十字路手前に差し掛かった時に声が聞こえると同時に何かにぶつかりラン共々結構な勢いで転んでしまう。
直ぐに起き上がろうとしたが、見えない何かに拘束されているらしく身動きが取れない。
しかも何故だか自分達の体が宙に浮いた状態で。
「「…………」」
二人があ頭の中に「?」を浮かべていると、床との間が黒色に染まっていく。
「おーー成功成功これでやっと終りやね」
追い付いたマリと甲、そしてラーナ同様宇宙服の迷彩を解いたマキと隠れていたステラが三人を見下ろしていた。
「ありゃりゃ〜〜捕まっちゃったのね〜〜」
「はあーーやっと終わりですぅーー」
頭部保護シールドを解き、姉は笑顔、妹は安堵の表情で脱力してゆく。
仰向けで二人を抱えていたラーナも聖母顔負けの笑みを浮かべると抱えていた腕を離して解放してあげる。
「気が済んだ〜?」
「楽しかったのだーーーー!」
不思議な踊りで気持ちを表現している。
「ご、御免なさい! ご迷惑を掛けてしまって! 姉様の分まで謝りますので許して下さい!」
対象的に平謝りするラン。
「なして逃げたんや?」
起き上がろうとしているラーナに手を貸しながらマキが聞いてくる。
「それは……多分私の為、ではないかと」
「「「?」」」
「と、とにかくごめんなさい! 姉様も踊っていないで謝罪しなさい!」
踊っているリンの腕に手を伸ばしたその時、
ドン
「「「え?」」」
「ら……ランラン?」
鈍い音が聞こえたかと思うと手を伸ばした状態で床に崩れ落ち、目を開けたままピクリとも動かなくなってしまう。
そのランの傍には1cm程度の黒い物体が一つコロコロと転がっていた。
「ら、ランランーーーー!」
周りの者が状況を飲み込めない中、姉だけが何が起きたか理解出来ている様で触れようとしゃがみ込んだ瞬間、今度はランの上半身がビクンと大きく震える。
「ら、ランラン⁈」
「な⁈ 今のまさか心臓マッサージか⁉」
「え? え?」
宇宙服の生命維持機能が働いたらしくランの体が大きく震える。すると無事息を吹き返した様で開けていた目を閉じて気を失ってしまった。
「敵です! 囲まれています!」
甲の言う通り、気付けば周りは敵だらけ。
最後に確認した際、今いる近辺ではこの通路の先、防壁の向こう側で青い光点が防戦しているだけで、こちら側には何の表示もされていなかった筈なのに、今では防壁がある通路を除く三方向から次々と赤い光点が湧いているのだ。
目の前では赤い光点がある方向、三方向から迷彩を解き姿を現した敵が次々と迫っていたのだ。
「う、打ってきよったのか」
「あの弾は危険です! 後退して下さい!」
敵が武器を構え打つジェスチャーをする。
その途端、甲が瞬時に腕を数十本のワイヤー状へと変化させ、目で捉えられない速さの弾を次々と叩き落としてゆくのだが同時にワイヤーも千切れて床に落ちてしまう。
「こ、甲!」
「私は大丈夫! 今は後退を最優先に!」
シュ、シュと絶え間なく聞こえる二種類の風切り音。敵が無反動で打っている弾の風切り音と甲が振り回すワイヤーの風切り音だけが響き渡る。
そして弾と共に弾く度に床に落ちるワイヤー。切れたワイヤーは即、新たに伸びて再び弾を叩き落とす。千切れた方はニョロニョロと意志を持っているかの如く甲の足へと向かいそのまま同化を果たす。
一見防いでいる様に見えるが三方向から、そして次々と姿を現し絶え間なく打ち続けているので反撃出来ずにいた。
「い、いかん兎に角そっちの通路に行かんと甲が持たん! マキと姉さん手貸して!」
確かに十字路で前と左右の三方向を相手にするより通路に引っ込めば前だけに集中出来る。
「よ、よし、運ぶで」
「あ、姉さん?」
未だにランから目を離せずに立ち尽くしている。
「ランラン目をさますのだーーーー!」
妹に覆いかぶさり泣き叫ぶ姉。
「しっかりしーや、姉さん‼」
「……え? う、うん」
マリの一喝で我に返れたようだ。
「よし、ウチがランを運ぶ。マキはリンを頼む」
「任せとき。リン移動するで」
「ランラン‼ き、キマキマ離すのだ!」
離れようとしないリンを無理やり引き離そうとするが暴れて捕まえることが出来ない。
「私がお連れしますのね」
リンの後ろへと回り込み両脇から抱え込み持ち上げて移動して行く。
その後をランを抱えたマリと二人が続く。
「甲、ええで」
防壁がある位置まで移動したところで声を掛けると十字路から少し入った位置まで後退して、その位置で防戦し始める。
下がった事により敵との相対数が減り余裕が生まれたらしく、遊んでいるワイヤーで床に落ちた弾を掴み敵へと投擲し始める。
すると徐々に前線の敵が倒れ始め均衡が崩れていく。
「どないする? 結構不味くない?」
「そやね。加勢しようにも武器があらへん」
ランの両脇で防戦を見守る。
因みにノアに作って貰った銃は艦に置きっぱなし。
「姉さんどうする?」
二人揃ってラーナを見ると……
気を失ったリンを抱えたステラとラーナが何やら話し込んでいた。
「……? リンどしたん?」
いつの間に気を? 弾でも当たったのか?
「マリちゃんとマキちゃん」
「「は、はい?」」
「ランちゃんをお願いね」
「「…………」」
二人に精一杯の笑みを見せるとステラを引き連れて隔壁に向け力無く歩いて行く。
「ラーナ様!」
振り向かずに呼び掛ける甲。
「三人をお願い」
呼びかけに対しラーナも振り返らず、震えた声で返事をする。
「了解しました。全力でお守りします」
マリマキが状況を飲み込めずに固まっている中、隔壁が開いてゆく。
開いた隔壁の先ではステラと同じ柄の服を着たメイドが二人、並んで頭を下げて待ち構えていた。
その二人の間をラーナ、そしてリンを抱えたステラが擦り抜けて行くとゆっくりと隔壁が閉じていくのであった。
*「姿を眩ませた」……基地内は敵の侵入を想定して造られていない為、中への入口である物資搬入用ドック等を除き高性能のセンサー類はあまり多くない。位置情報は「脳内チップ」やAIが発する電波を利用している、といった感じで。
寸前まで悩みましたが以前、アリスが心の中でチラッと呟いてフラグを立ててしまい、それを覆す程の「根拠」が浮かばなかったので……
因みにこの話を書き始めた当時、二人の役割は違っていました。特にランは純粋な所は変わらないのですが……って彼女の為にネタバラは止めときます。
そろそろ外(宇宙)も決着をつけます。
次回は10/23迄には投稿します。




