アリスと四賢者!
えーーと、今回は1万字超えで「地の文」が非常に多くなっております。
なので読み難いかも?
*前話でマキが甲と一緒に行く場面を訂正しました。正解は「マリ」です。
*2021/10/11 調査部の説明が「尻切れトンボ」となっていたので少しですが追記しました。
「だいぶ侵食されとるの」
「……殲滅してよいなら直ぐに済ます、けど?」
「それはいかんのじゃ」
「……ならこのまま受け身、で?」
「そうじゃ、さり気なくをモットーに。しかしお主は凝り性じゃて。ここまで高性能にせんで少し加減して作らんと駆け引きが困難じゃろうに」
「……拵えるからには常に至高を目指すのは当たり前〜、だろ?」
「確かにそれは言えるの。まあお主らが自衛目的で拵えた物を活用しておるから贅沢は言わぬが、誰かさんにバレたら事じゃろうて」
「……鬼の居ぬ間に〜、かな?」
二人は基地AI制御室コントロールルームに移動し、複数枚の空間モニターを開いて状況を確かめ合っていた。
「それより消息は掴めたか?」
「……未だにロストしているが手掛かりを見つけたので大まかな位置は把握出来た、ぞ」
「ほう、手掛かりとな。して例の物は?」
「……言われた通りコッソリと交換しておいた、ぞ」
「仕込みもしたかえ?」
「……言わずも、がな」
愚問だぜ、とも取れるニヤリ顔。
それに鼻をフンと鳴らして目を背けた。
「ならば良し。これで最悪は回避出来るだろうて」
「……もしかしてラーちゃんのため、かな?」
「サラの悲しむ顔が見とうないだけじゃ」
──素直じゃないな、っと。
ノアは「運命」なら受け入れる覚悟は出来ているし、ラーナも天探女もその部分は同じ筈。
ただ親しい者が悲しむ顔など見たくはないし、回避出来るに越したことは無い。
後悔しない為にも打てる手は打っておくに限る。
その方針のお蔭で今があるのは言うまでもない。
まあラーナとは違い多少は損得勘定も入っているがそこは天探女も同じだろう。
「因みに二人はどこにおるのか判明しているのかえ?」
「……りらくぜーしょん中みたい、だね」
──成程……それで交換出来たのか。
「ん? りらくぜーしょんとな? どれどれ……おお、これは超有名な店ではないか!」
聴き慣れない単語に反応、新たにモニターを呼び出し店舗紹介を見て驚いている。
「……サラの趣味だな、っと」
「いつの間に呼び寄せったのじゃ。…………じゃが……ウフフフフ」
時代劇の悪役のムード漂う不気味な笑みを浮かべる天探女。
その様子を引き気味に見守るノア。
「サラも恥ずかしがり屋じゃて。未だに踏ん切りがつかんのか……こんな回りくどい準備をせんでも、一言言ってくれれば更に一歩先へと進めるのに……ここは帰ってきたら店を貸し切りにして……さ、サラと二人でシッポリと……はははは裸の交わりをじゃな……ハアハア」
赤面し目を血走らせて息が荒くなってゆく。
「…………」
嫌そうなジト目を向けるノア。
反射的に上半身を逸らす。
「い、いやヘタレのサラなら寸前で決心が揺ぐ、かもかも? な、ならもっと確実な……アンドロイドを操って……いやいやいっそ店員のフリをして、じゃな、あんなところやこんなところをぷにぷに、と……ぐへへへへ」
終いには家族以外には見せられない至福顔と話し方へと変わり、自分の世界に旅立ってしまったようだ。
この状態では子であるノアミアはおろか菜緒菜奈の声も届かない。
現実世界へ引き戻せる可能性があるのはローナくらいではないか。
「……ふっ、好きにすれば~。コイツは放っておいて先ずはラーちゃんに報告だ、ぞっと」
親の趣味趣向には興味が無いし、妄想の邪魔をするつもりは毛頭無いので放置を決め込み一人作業を再開した。
ラーナ、マキと別れ先ず向かったのは居住ブロック。
転送装置が使えないので仕方なしに走って来た。
二人の部屋の扉をノックしたが不在らしく反応が返って来なかった。
「あの二人どこ行ったん? 位置情報使えんと探すのにホンマ苦労するな」
二人とは通話も繋がらなかった。
ラーナの言う通り位置情報にも反応が無い。
なら艦AIなら?
艦AIを呼び出そうとしたがそちらも同様だった。
ラン艦のAIであるシャルロットに呼び掛けてみたが無反応。
リンにも一応連絡を取ってみたが、そもそも彼女の艦には「シャルロット」のような制御プログラムが「形」として残っておらず「留守電」の役割を果してくれる艦AI存在がいない。なので艦宛に通話をしたら当然リン本人の応対となる、がそもそも通信には滅多に出ることが無い。
何か用事がある場合には彼女と必ず連絡が取れるラン経由でアポを取ってからでないと通話が成り立つことは先ず無い。
で今回も例に漏れず無反応であった。
結局二艦とも呼出し反応はあるが応答が無かったのだ。
「マリ様、マキ様と合流致しましょう」
「さっきからそればかりやな。そんなに心配かい?」
「ラーナ様のご指示です」
「大丈夫やて。ここなら迷子になる心配もあらへん」
「いえそうではなく」
へ? そっちの心配ではないの? なら何?
「私はお二人を任されました。理由は存じませんが」
「進入してきた敵が心配?」
「はい」
あれから数分経つがどうなったやろ?
空間モニターを開きドック近辺の状況を確認してみる。
「う、うげ! こりゃアカンかも」
先ほど見た時には通路を塞ぐ青い光点に、次から次へと押し寄せている赤い光点の波が堰き止められているように見えた。
ただ青い光点と接触した途端に次々と赤い光点が消えていたので、マキ姉妹には然程の不安を感じなかった。
だが今は状況がかなり変わっている。
青い光点付近の状況には変化は無いが、そこ以外の場所で赤い光点がドック付近を中心に基地の一割近くに侵食しており、ジワジワと広がっていたのだ。
「通路は塞いでいなかったか? ……あ!」
「はい、横方向だけでなく下方向へと移動したのでしょう」
つまり漏れがあった、という事。
隔壁を突破されたか、最適な分岐点を抑える前に突破されてしまったかのどちらかだろう。
因みに基地は球体である為、惑星上と同じ扱いとなっている。
「上下」の「上」に当たる方向は宇宙空間に面している外壁がある方向で中心部が「下」を指す。
なので基地内の部屋や設備は、特に制限を設けている箇所を除き「上下」に従って設置されている。
この「上下の決まり」はそこで生活している者にとって結構重要な決まり事。
直径1km程度の球体内に、ドックという結構な大きさと数、そして複数の動力炉等の重要な設備を収めなければならない為、各部屋や施設の配置にはかなり工夫されている
物であれば圧縮保管が可能だが、常時設営しておかなければならない施設や部屋も数多くあり、何をどこにどう置くのか、要望を出す側それに応える側、共に三次元パズル顔負けの難度が求められる。
例えば居住区や娯楽街等の共有施設は利便性や雰囲気も考慮し纏めて設置。
一方、個々の仕事に関わる施設は分散させる。転送装置が移動のメイン手段となっているので分散させても一向に問題が生じないので、基地の両端に関連施設が配置していたりもする。
ただそこまでしても限られた空間に必要な物を詰め込むのは決して楽な作業ではないし、優先度が低いものから諦めてゆくしかない。
そんな中、探索者を始め基地で働く職員への配慮として『地上と変わりない生活環境の構築』という優先度が高い項目がある。
この時代の人類は、学校を卒業し成人を迎えるまでの誰であろうと地上世界で過ごすのが当たり前。
探索者も例外ではなく、成人を迎えるまでは何処かの地上世界で過ごしてきた。
探索者候補生も行き成り真空空間に連れ出したりはせずに、育成初期段階訓練には地上の施設で慣らしてから宇宙空間へと移行して行く。
それは過度のストレスを与えない為。
ストレスは探索者だけでなく基地で働く職員にも言える事。
地上で育った人類は、宇宙空間でも地上の環境に近付けるのが心身ともにストレスが溜まらなくて済む。
例えば引力。基地内は特定の場所を除き地上と同じ1Gとなっている。
他にも基地内にある公園や休憩所では植えてある木々や草花は勿論のこと、灯りも地上に降り注ぐ太陽光も自然と同じ環境にしてある。
「隣の部屋に入ったら行き成り上下が逆」で感覚が混乱し心身共に病むでしまうのを未然に防止するため。
「上下」の決まり事は地上世界と同じ環境にすることによりストレスを溜めないという重要な決まり事なのだ。
因みに「配慮」不可能な箇所は当然ある。
それはとある通路。特に基地の外周に沿って設けられてある、シェリー姉妹が訓練で利用する通路は一直線で緩やかに勾配がついているので誰が見ても一目瞭然。
その通路以外では緩やかなスロープであったり無重力空間にして、さり気無く、だがハッキリと分かる「差」で残しておき、あとは見えない部分(例えば壁と壁の間等)で調整している。
(椿の研究所や各本部の様な「箱型」の場合はそれぞれ違っているがそちらの説明は今は割愛)
とは言え大半の者は普段から移動には転送装置を使っているので、頭では理解しているが実際に目撃したり、配慮に気付く者は少ない。
それと余談だが、働きさえすれば政府が住居の面倒を見てくれるのは誰でも知っている。
だからと言って宇宙空間に住居を用意はしてくれない。
一個人の為に、そして一集団の為に小説等で登場する「スペースコロニー」も造ってくれない。
それには理由があり、逐次手間暇メンテが必要でコストが嵩むコロニーよりも、完璧に改造が施された「自然のサイクルに依存できる」惑星が広大な宇宙にはふんだんに用意してあり、そちらで暮らして貰った方が安心確実低コストで済むし管理もし易いし資源が豊富なので仕事をも用意し易い。
宇宙空間では「人」には向かないか限定されてしまう仕事ばかり。
移動にも時間が掛らないので住居の必要性も感じない。
仮に必要が生じた場合は居住設備を備えた輸送船を用意すれば事足りてしまう。
ただし住居を政府が用意しないというだけで、個人や企業が宇宙に住居を構えるのは勿論可能。
但し自腹・自己の責任で用意するしか手が無い。
「こ、甲、聞いてもええ?」
「はい」
「この青は何?」
多分駆り出された基地のアンドロイドだと思うが。
「私の兄弟達です」
「兄弟?」
「はい、ノア様により追加製造された防衛専用アンドロイド達です」
「い、いつの間に。なら赤いのは?」
「勿論敵です」
「敵?」
「はい、アンドロイドのようですね」
「アンドロイド? 椿の? 目的は?」
「共に不明」
「なら最後尾にいる緑は?」
「人かバイオロイドかと。アンドロイドを指揮しているのはその緑の光点であるところまでは判明しているので敵と思われますが、来訪目的も含めて正体不明の状態です」
マリは知らないが光点には決まり事があり対象物によって色が変わる。
探索部所属の「者」は白色。
探索部制御下にあるアンドロイドやロボット等の「物」は黄色。
赤色は敵対勢力。
所属・目的・正体不明の「者」は緑色。
因みに甲とステラは青色。
青色は探索部認定の個人所有アンドロイドやバイオロイドを示している。
甲はノアがここで作成、ステラはアリス本人が持ち込んだので基地AIが二人を認定している。
この二人も基地所属の探索者の所有物扱いなので本来であれば黄色扱いとなるが探索部、厳密には基地AIの制御を受け付けない、外部からの干渉を全く受け付けない完全自立型AIとなっているので青色となっている。
両者の特徴である完全自立型AIは予め設定された権限者以外の指示は受け付けないし、外部からのハッキングも不可能な構造とシステムになっている。
なので一度命令が下されたら最後、権限者の指示で中止させるか、又は目的が達成されるか自身が行動不能に陥るかのどちらかでしか止まることが無いし止めることは出来ないのは共通。
あとはどこまで柔軟な対応が出来るかはそのAIのプログラムを組んだ者の性格によるだろう。
そして光点も立場が変われば色も変わる。
赤色であっても基地AIの制御下(つまり乗っ取り)に入れば黄色に。その逆もあり得る。
また緑色も行動により赤色へと変わる可能性もあるが、それを判断するのは基地AIの役割。
因みに基地AIである「伊邪那美」が進入時点で防衛目的からハッキングを仕掛けているが、相手が「甲」同様に完全自立型なので徒労に終わっている。
(余談だが調査艦に乗っているアンドロイドも同様。こちらは基地に侵入しているアンドロイドよりも性能は低い)
探索部基地に個人所有のアンドロイドなど例が無かったので大半の者は見た事も聞いた事もない情報。
なので立場や意図して調べた者以外、知っている筈はない。
──不明……こりゃ不味い。
楽天家のマリでもこの状況に不安を覚える。
「よし先ずはマキと合流するで!」
「では早速」
通常であれば基地で迷子になる等あり得ない。ましてや転送装置が止まっている今なら絶対に。
──大丈夫行ける! ウチが妹を助けるんや!
雰囲気が変わる。
燃える瞳。
全身から炎が立ち昇っているのが……見えそうだ?
一番の変化は……何故か目的が妹の救出に変わってしまったところか。
「ど、何処にもおらへん」
マキとステラは二人が寄りそうな箇所を回っていた。
先ずは一番可能性が高い職員食堂。
ここなら高確率で腹を膨らませたリンが居るやろ! と意気揚々に乗り込んだが店員アンドロイドも含めて誰もいなかった。
次に娯楽街にあるカフェテラスを覗き込む。
ここなら高確率で顔中ケーキまみれになったランが居るやろ! と意気揚々に乗り込んだがまたもや誰もいなかった。
「ハアハア……ま、不味い、他に当てがあらへん」
息も絶え絶え困り果てるマキ。
これなら二人ともっと親しくなっとくんやった、と今更ながら思う。
「マキ様、一つご提案があるのね」
「な、なんや言うてみ」
後を何も言わずに付いてきた澄まし顔のステラが、前屈みで息を整えているマキを覗き込んでくる。
「手分けした方が確率が上がりますのね」
胸の前で片手の人差し指を立ててから軽く首を振り、次に両手の人差し指を立ててニッコリと頷いて見せる。
「そ、そうやな。二倍になるな」
「ではマキ様は引き続きレストラン関連を当たって下さいなのね」
飲食店関連だけでもまだ結構な数が残っている。
「す、ステラは?」
「私はそれ以外を探してみますのね」
「よ、よしそれで行こ。見付けたら即教えてーな」
「はい、真っ先に教えますね」
返事をすると両手でスカートをチョンと掴み結構な速さで駆けて行く。
「う、ウチも負けてられへん。いやステラに負けてもマリにだけは負けへん。奢るのは嫌やしサッサと行かねば」
こちらも微妙に趣旨が変わってしまった。
数分後。
「おったか?」
「いえ、いませんでしたのね」
飲食店は全滅。仕方なしに他の店も覗いてみたが同じく不発に終わる。
通りに出たところ、通りの外れにあるリラクゼーションの店からステラが出てきたので聞いてみたが見付けられなかったようだ。
「はあーー次はどこ探そう……」
「マキちゃん! 二人は見付かった?」
赤髪を靡かせラーナが駆け寄ってきた。
「うんにゃ居らん」
「そう? ノアちゃんが『二人はリラクゼーションを受けている、かも?』って教えてくれたんだけど」
「その店ならステラが……」
「今確認しましたがいませんでしたのね」
「ほ、ホントに?」
「隅々まで探しましたね」
真顔で見つめ合う二人。
何かを言いたげなラーナと澄まし顔のステラの間に不穏な空気が漂い始める。
「も、もう一回だけ確認しとこ? 姉さんもそれで納得するやろ?」
場の空気に耐えきれなくなったマキが妥協案を示した。
「ただ……」
「「ただ?」」
「店員さんが後片付けをしていましたのね。二人分ね」
「……入れ違い、か?」
頷くステラ。
「どうする?」
揃ってラーナに視線を向ける。
すると目線を逸らし思考を巡らせ始めた。
「だいたい敵が来てるちゅーのに暢気にエステ受けるって神経疑うわ」
「それマキ様が言ったらいけませんね」
「な、なして?」
「Aエリア基地でレイア様の見張りの件ね」
「うっ! あ、あれは……えーーと」
暢気に酒を飲んで寝てしまい、結果として椿に連れて行かれ皆に迷惑を掛けてしまった件を指している。
「ま、まあBは基本フリーダムさかい、大目に見ちゃるわ」
「その言い方ならマキ様が突っ込まれずに済みますね」
「一緒に探しましょう」
決心がついたようで呟きながら二人を見る。
「分かった。で、何処を当たる? それともヤマを張って待つか?」
「その前に店員さんからの情報は得れたの?」
「いや守秘義務があるし教えてくれんやろ」
そう、エステ店は部外の店舗となっており探索部のシステムとは別扱いの為、客の個人情報は秘匿されている。
「いえ入手済みですね」
相変わらずの澄まし顔でシレッと答えた。
「へ? マジ?」
「非常時と判断し、少々締め上げましたね」
「どうやって? …………い、いや方法はええ」
聞こうとしたところ、何故か青褪めてステラから視線を逸らす。
アンドロイド相手では脅迫の類は通じないだろう。
AI相手に交渉が成り立つとは思えない。
残るはハッキングの類しかない。
マキにはどのようにハッキングを仕掛けるかの知識がなく、その分いらない想像力まで働かせてしまう。
以前見たB級ホラー映画でのワンシーンとごちゃ混ぜとなり、結果ステラを直視できなくなってしまったのだ。
そう、口からにょろにょろ~と不気味な管が出てきて相手の口や鼻や耳へと……
すると白目になった相手の体がピクピクと痙攣し出して……
「良からぬ想像をしてますね? マキ様」
「うううう、ごめんなさい」
ジト目のメイドに全力で謝罪した。
「それで?」
「宇宙服を着ている最中の会話で『リンリンもあそびたいのだ~』と記録されていましたね」
「あ、遊ぶ?」
「それと『そろそろおなかすいたのね~』とも言っておられたのね」
「それは……納得」
──遊び……一人で遊ぶのか、ランと遊ぶのか、それとも他人を巻き込むのか。
──闇雲に探しても手遅れになる可能性が。やはり手分けすべきか? でも敵対していないステラとは離れたくない。
アリスに同行の意志を示した時の反応。
<付いて来る分には拒否はしないが、必ず連れて行くとも言っていない>
悩むラーナ。
そして一番重要な問題……どちらを連れて行くか、だ。
先日の面会でそこの部分は敢えて明言を避けていた。
生贄となるのは一人だけ。
姉妹のどちらかを連れて行く。
そして用意した姉の身体と融合させる。
その為に「用意」された姉妹。
それぞれの艦で乗り込んできた二名の新たなメイド。
この二人の目的は間違いなくステラと同じ筈。
二段構えで対象の確保に乗り出してきたのだ。
ステラを含む三人の誰が連れて行くのか?
運が悪ければこのまま永遠の別れとなってしまう。
あの時、アリスは自身の計画を包み隠さず教えてくれた。
姉の身体となる細胞は、あちらの世界を旅立つ前に万が一を考えてアリスには姉の、姉にはアリスの細胞に組み込んであったそうで、こちらに来てからお互いの細胞を切り離し培養、準備していたらしい。
ただ身体は作れても心が無ければ人とは呼べない。
そう心となる部分。
これは全人類からアリスの姉に一番近い人物を探し出し、その者に姉の遺伝子を誰にも判別が付かれないように組み込み「人」として当たり前の環境で「条件」を満たすように育てていく。
ある程度成長したところで「身体」と「心」を融合させることにより元々の遺伝子の持ち主と同じ「贄」が誕生させるそうだ。
これらはあちらの世界で実験済みで、確立された技術とのこと。
ただし世界を渡ってしまったが為に、今回も成功するという保証はどこにもない。
特に「心」に関しては「異なる世界の住人」なので適合しない可能性もあると。
なので失敗用に「代わり」を用意する必要があり、その為の代替品として「脳内チップ」を通して全人類を強制的に「覚醒」させ、生き残った者から該当者を探し補填するとのこと。
つまり運が悪ければ最後の一人が該当者、という事もあり得るのだ。
この事態に至った理由として、やはり桜と椿が万全の体制で二人一緒に渡れなかったのが原因であると。
その結果が今の現状なのだと。
その責任はこちらの世界の者が負うべきだと。
例え人口が減り世界が破滅しようともその責任は自分には一切ない、とアリスは言っていた。
そして昔話もしてくれた。
こちらから切り出した訳ではないが、自分の過去を明かす事により、その時はなんらかしらの同意を得たかったのではないかと感じた。
話を聞いた後同情もしたが、今の思えばこの状況を見越した上で打ち明けたのだろう。
・・・・・・
こちらの世界に来て目を覚ますと一緒に来たはずの姉の姿が見当たらなかった。
これにはかなり困惑したらしく暫くの間、茫然自失となっていたそうだ。
やっとのことで落ち着きを取り戻し、世話をしてくれていた「とある四人」に説明を求めたらイレギュラーな事態が起きたと教えてくれた。
その四人もそれぞれ複雑な状況と思いを抱えていたらしく、こちらの世界がこのまま変わらなければ同じ事態が繰り返されると危惧していたそうだ。
その後、身柄は政府の研究機関に移送された。
そこでやっと理解した。
イレギュラーが「何だった」かを。
科学レベルは自分がいた世界よりもかなり遅れており、経験不足からくる理論の欠陥、無謀な挑戦と無知による悲劇の数々。
あれでは駆り出された子供達はモルモットと何ら変わりがない。
あの失敗は起きるべくして起きた失敗だったと。
失意のどん底と言う言葉通りの状態に陥ったタイミングを見計らったように「あの四人」が私の下を訪れ、世界の仕組みを変える計画に賛同して欲しいと「内密」な話を持ち掛けてきた。
その計画を聞いた時、正直嫌悪感を覚えたがそこは我慢し飲み込んだ。
こちらに来てから数ヶ月。
直ぐに話を持ちかけてこなかったのは私の様子を伺っていたとのこと。
自分達の計画を打ち明けて良いか、見定めていたのだろう。
私的にも、一人ではどうしようもない、半ば諦めていた所に「やり直せる機会が巡ってきた」と、あの時話を持ち掛けられた瞬間は掛け値なしに喜んだ。
いくら知識があっても一人で一から築き上げるのは不可能で誰かしらの協力が必要不可欠。
目的達成の為ならば協力するのは当然のこと。
その時に科学技術の情報開示を持ち掛けられた。
目標達成の為ならば構わないと思ったが、唯一の懸念材料である「無条件の姉の捜索」を引換え条件として提案したところ一つ返事で了承してくれた。
計画を進める第一弾として、初めて椿とレベッカを紹介をされ、その場で彼女と取引をする。
椿とは目的が同じだし彼女達姉妹の境遇には同情したが、一部気に入らないところがあったので必要な部分的協力に留めるとともに、彼女たちの計画にチャッカリ便乗させて貰った。
次に案内されたのは整合部の前進となる部署。
あの時代はまだ整合部では無く、未知の外敵に備えた武力組織という立場。
結局敵対生物はおらずお飾りとなっていたために政府内での発言力も無いに等しかった。
ただ四人には、将来的にはこの部署をシンボル的な立ち位置にしたいらしく可能な限りの技術援助を依頼してきた。
彼等の趣旨は理解出来た。
ただそのためには肝心の世の仕組みが変わらない限り、結局は同じことの繰り返しになるのは目に見えていた。当然四人も承知しており将来的な懸念材料だった。
これらは自分がいた世界の歴史でも起こった光景なので対処法は知っている。
だがあくまでも自分は技術供与の立場で、こちらの世界の事はこちらの世界の住人が自らの答えを導き出し、自らの意思で変えなければ根本的な解決には至らないと。
その旨を伝えた上で就任予定者と相談し、最低限の技術供与に留めておいた。
次に情報部。
この部署は目的達成には欠かせない。
今後の運命を決定付けるのは言うまでもない。
就任予定者も目的や役割が明快だったので、元々のシステムに工夫を凝らし、さらに建設中であった椿の研究所との関連付けにも協力した。
調査部と言う名の部署も存在していなかった。
ここの就任予定者は他の三人とは若干異なり椿の考えに心頭していた。
いや心配していたと言うべきか。
茨の道を歩もうとしている椿に一人くらい味方がいてもいいだろう、と。
ただ「アリスの協力はいらない」と断りを入れてきので部に対して殆ど関わる機会が無かった。
そしてメインとなる総本部の仕組み。
四人の「共通の願い」を叶えるために必要な組織。
それは四人の部下であるレベッカにも通じる。
ただ四人も「こちらの世界の住人」であり「欲」や「拘り」とは無縁であろう筈がない。
いくら理想を高く掲げていても「人」で有り続ける限り、それが正しいかなんて誰にも判断がつかないし、私はこの世界の人間ではないので尚更だ。
協力しているのは自分の世界を救う為。
正しいかどうかを決めるのはあくまでもこちらの世界が決めること。
そこで一つ提案をした。
〈貴方達は人のために人の「殻」を捨てる覚悟はありますか?〉と。
この質問をする時点で、設立されたばかりの椿の研究所内で、既にレベッカは自らの意思で人の「殻」を捨てさり、一つのシステムと融合していた。
それを知っている四人に「貴方達もレベッカ程の決意はあるか?」と問うたのだ。すると……
調査部の長となる者が真っ先に。
次に探索部の長となる者が静かに。
整合部の長となる者が力強く。
最後に情報部の長となる者がにこやかに頷く。
『分かりました。一つだけ条件があります』
〈総本部はこの世界の者に対し中立であること〉
これは同じ過ちを繰り返さない為の警告。
自ら変えようと行動を起こす者が現れるまで、どちらか一方に肩入れせずに見守り続けること。
ただそれでは時間が掛かり過ぎるし、待つだけでは現れないかもしれない。
なので人の殻を捨てて「四賢者」となった暁には、自らの分身体となるバイオロイドを作り、そちらで変革者を育てること。
アリスと約束を交わした彼等は行動を開始、数年後に総本部が完成した。
探索部はレベッカにより提唱され、早い段階から技術供与を行った。
探索部は知っての通り、世界を救う可能性がある者が集まる組織。
ここに技術の出し惜しみをしては本末転倒。
ただあくまでも技術供与であり、その技術をどう活かすかはこちらの世界が決めること。
なので第五世代艦が完成に至るまで百数十年を要しとたのこと。
・・・・・・
アリスの計画の全容を知っているラーナは、アリスと探索者、そして情報部員としての立場の間で揺れ動いていた。
探索者としては絶対に仲間を見捨てられない。
情報部員としては椿に責任を取らせたい。
でもアリスの姉がいないと世界が……
アリスは命を掛けて二つの世界を救おうとしている。
アリスが『自分の身がどうなろうと構わない』と言っているのは知っている。
そこまでの覚悟を無碍には出来ない。
──前の二つは叶いそうもない。
──なら最後を見届けるのは自分の役目。
もしこの場に今のエマ姉妹がいたならばアリスの「どうなろうと」との発言に違和感を感じたいかもしれないが、椿と面識もなく、椿の思惑で立案したエマ達実験体の本来の目的を知らないラーナには知る由もない。
判断に迷っていると遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…………おーーいマキ無事か? 姉ちゃんが来てやったさかいもう安心やでーー!」
上半身丸出しの筋肉マッチョで新妻エプロンを着用した甲にお姫様抱っこをされた状態で元気に手を振るマリ。
ラーナにとって救世主の登場であった。
水曜日の「なろう緊急メンテ」で予定が狂い、投稿が今日になってしまった。
目標では6千文字程度で木曜の夜には投稿する筈だったのに……
さらにノートpcのタッチパネル不良で突然「再読み込み」されるし、結局スマホでちまちまと打つ羽目に……
最近、公私共に予定通りにいかないな……
*「今思えば……」……ローナであればこのような状況にはならない、ラーナだからこそ上手くいった、という意味。
*甲ですが下半身は擬態化したズボンを穿いております(念のため)
次回はちょっと先が見通せないのですが、10/17迄に投稿出来る様に努力します。




