因縁?
短いですがこれを入れとかないと。山場ではありませんが最終話や「とある姉妹」に関わるので。
*今回も一部に時差を無視した表現があります。予めご承知下さい。
・・・・・・
「残るはここだけね♩ 乙、では盛大に開けてくれる? 中に何が潜んでいるか分からないから警戒は怠らずにね♩」
「了解です」
敬礼はせずに頷くだけで早速作業に取り掛かる。
「ミアは不足の事態に備えて四方八方の監視継続♩」
「……ホイホ〜イお任せあれ〜、だぞ」
力のない頼りない敬礼をして見せる若葉色の宇宙服を着た小柄な女性。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
自然体で腕だけ組み乙の作業を見守る漆黒い色の宇宙服の小柄な女性。
どこかワクワクしているようにも見える表情で。
「……でも基地に行かなくていいのかい、な?」
「アイツを向かわせたし、サラも間に合いそうだから多少遅れても大丈夫♪ それよりこっちの方が優先課題♩」
視線の先では両手先端を融合させブレイド状へと変化、そのまま両開き式の扉の合わさる部分へと力任せに捩じ込み、左右方向へ力の向きを変えて何とかして開こうとしている。
「「…………」」
乙の作業を見守る二人がいる前室空間に焦げた臭いが漂い始めると、二人の宇宙服のシールドが自動で作動する。
シールドには警告の類いは出ていないので予防的措置で宇宙服の機能が働いたと思われる。
普段なら着用者に害の有る無しは艦AIが判断している、が干渉出来ない状況に備え宇宙服自体にも簡易型の検知装置が組み込まれてあり、それが感知した為にシールドが作動したのだろう。
まあ作動したからと言って不便を感じないので、二人はその判断を受け入れ目の前の作業を見守る。
初めはビクともしなかった扉だが次第に、そして程なく乙の力に屈し、最後は抵抗せずにユックリと開いてゆく。
その先の部屋は真っ暗。
二人がいる部屋の明かりが中に差し込んでいるだけで見える範囲には何もない。
そこに乙を先頭に入って行く。
コツコツと反響している足音から察するにそこそこ広い空間のようだ。
「監視や警戒の類いはある?」
「……何もありません」
──あらそう? それなら……
丙よりは若干劣るが乙にも高性能センサーが搭載されている。
勿論着ている宇宙服とは比較にならない多機能で高性能なのは言うまでもない。
その乙が何もないと言っているのだから安心して宇宙服の機能を開放出来る。
ミアを見ながら自分のシールドを人差し指でツンツンと叩いて合図を送る。
それに頷いて見せる。
二人がシールドを「暗視対応」に変更すると昼間と遜色ないレベルへと変わり室内の隅々まで見通せるようになる。
広々とした白色の円形の室内。
部屋中央に高さ1m程の灰色をしたかなり大きな箱? が床に直接置かれてあり、隣には同じ色の直径五十cm程の球体が浮いているだけで、乙が言うように他には何もない。
「……何、かな?」
「それを調べに来たんでしょうに♩」
乙の三歩後ろにローナ、その背に隠れるように続くミア。
実際には数センチ先も見えない暗闇。
その中を迷わず歩く。
乙が箱の1m程手前に到着。箱と周辺に首を振らずに視線を向けてから脇に移動、ローナ達に道を譲る。
先ずはその場から箱を観察する。
箱は銀色で縦横が約3m。
全く継ぎ目が見当たらず、見た目は巨大な金属の塊に見える。
「? これもしかして……乙?」
「……お待ちを」
腕をローナに向け差し出すと手の擬態を解除し、本来の姿に戻す。
「……お、同じ素材、かいな?」
「多分そう♩」
なら破壊するのは多分無理かかなりの時間を要するだろう。なら違う手段を……
脇の球体へと近付くと、箱と同じ銀色だったモノが黒色へと変わり全面が光り出す。
さらに寸前まで近付くと光量が落ち白色へと変わり、所々に何かの文字らしきものが浮き出てくる。
「なんて書いてあるのかしら?」
首を傾げる。
今現在使われている文字ではないし知りうる限り、人類が編み出した文字ではない。
いや文字では無いのかもしれないが、一定の規則性が感じられたので多分文字なのだろう。
「……これは向こうの世界の文字なんだ、な」
「よ、読めるの?」
「……おふこ~す。習得済、だよね~」
後ろからちょこんと覗いていたがその文字を見た途端、怯えた表情が好奇心に満ちた表情へと変わる。
しかも何故だか照れながら。
「なら中を見れる?」
「……ホイホイちょい待ってて、ね~」
シールド越しに文字をジッと見つめだす。
表示されている全ての文字を一通り眺め終えると、徐に人差し指を伸ばして一つの文字列? をポチっと押した。
すると……
隣の箱の銀色が徐々に薄れていく。
すぐさま箱と二人の間に乙が割って入ろうとしたが手で「不要」の合図を出し制した。
「……これで中が見える、かもかも」
箱の「色」が無くなり、透明となった中にある機器と「何か」がクッキリと見えた。
「「……………………」」
その「何か」を見ると当てが外れたのか二人共、瞬き多く黙り込んでしまう。
ただその「何か」だが、二人の知識でも「何なのか」は充分理解出来た。
「! 成程……あの子が感じた違和感の原因が分かったわ♪」
ポンと手を叩く。
「……あの子って、だ~れ?」
「菜緒よ菜緒! あの子の報告書に書いてあったのよ♪」
「……なにが~?」
「レベッカとアリスの関係の考察が♪」
「……そっちですかい、な。で、菜緒ラーはなん、と?」
「二人の間、レベッカはどう思っているかは知らないけれど、アリスはレベッカに対して良い感情を持ち合わせていない可能性が高いってね♪」
「……それとこれと関係がある、の?」
「私の見立てに間違いがなければ結果としてこれが原因のうちの一つ♩」
「……はあ……これが?」
「そう、悔しいけど……いや悔しくないか♩ これは私達とは関係ないし♪」
「?」
横に十五度、コテンと首を傾ける先生。
「仮に私がアリスだったなら正面切って文句を言ってるわね♩」
「?」
更に十五度追加する先生。
「あーーもう! あの女狐と長達にはやっぱり腹が立つわ♩」
「⁇ 長まで?」
怒っている? 筈なのだが顔が何だかニヤケて見える。
なので引くべきか、ツッコミを入れるべきか判断付かない。
「ミア、撤収するから元に戻して♪」
「は、はいよ~」
「乙は私の艦に乗って♪」
「了解です」
「では決着を見届けに行くわよ♫」
表情には変わりがない。
だがかなり機嫌が良いのは一目瞭然。
指示通り箱は元の状態に、部屋の扉は開けたままにして部屋を後にした。
・・・・・・
遺跡周回組は帰還後全員で基地の医務室で診療を受けた。
診察では素っ裸となり、床に設置されたスキャン装置の上に数秒乗って終了。
その間、シェリーは骨折している肋骨に添えられている装具の交換を行う。
今回は帰還時までに艦で行った簡易検査の結果と基地にある普段の基本データとを照らし合わせ、事前に許容範囲外の項目を重点的に部分的、又は全身スキャンにて調べている。
なので一人数秒と次々検査が出来たので短時間で終えれた。
因みに本来この検査は着衣状態でも問題無いが、今は遺跡周回組と言えども戦闘待機中で宇宙服を着用していなければならない。
僅か数秒の為に検査着に着替えるのは超面倒臭~とランを除き皆同意見だった。
多数決により嫌がるランをひん剥いて、無事お揃いの素っ裸で検査を受けた。
結果は参加しなかったノアを除き、全員気を失うほどの衝撃を受けていたにも拘らず良好で、無理な動きさえしなければ数日で元へと戻れるだろうとの事であった。
但し理由は不明だが細胞が活性化しており暫くの間は代謝速度が不安定になるかもしれないと注意を受ける。
その後シャーリーは姉共々出撃の為、待機室へ。
さらにマリマキとリンランもそれぞれ分かれて休憩を取っていた。
そこに基地内の灯りが突然変化、感じたことの無い振動が伝わってきたのだ。
「な、なんやこの地響きは⁈」
「地響きちゃいますのね。敵の攻撃なのね」
「再開したんか?」
「そうや! 二人共のんびりし過ぎ!」
「は、ハナちゃん? 外の様子は?」
「マリが代金支払わんかったんで周りは借金取りだらけや」
師匠が割り込む。
「う、ウチ? 師匠何の代金?」
「研究所で食うたオコノミヤーキと飲み物」
「あ、あれは……」
視線がステラへと向けられる。
「オコノミヤーキの代金はちゃんと払いましたね。ただ……飲み物の代金を渡そうとしたら「お代は要りません」って言われましたのね。店員さんにね」
澄まし顔で答えるメイド。
「そうなん? でもそれ「ツケ」っちゅー意味ちゃう?」
「う、うぇ? で、でもあれはステラがくれるって」
「飲んだのはマリ様なのね」
「そ、そやね確かにウチやわ……なら仕方ないから払うわ。いくらくらいやろ……」
「マリの財産差し押さえても足りんかもな」
「ほ、ホンマか? ただの水がか?」
「ただの水ちゃうで。あれはナンチャラ山系の天然水から引き込んだ水道水やな」
「研究所内に山か? 何処にあった? 師匠、嘘言うとるやろ」
「儂の弟子は師を疑うんか? なら教えちゃる! 直ぐ傍に惑星があったやろ? そこから汲んできたんよ」
「あ、確かに!」
ご納得頂けたようだ。
「そこの二人! リンちゃんとランちゃん見掛けなかった?」
お楽しみの邪魔が入る。
ラーナが血相変えて乱入してきたのだ。
何そんなに慌てているの? と呆け顔をする姉妹。
「い、いやさっき別れたっきりで知らんよ? なあマリ?」
「右に同じく。ステラと甲は?」
「右に同じく」
「左に同じく」
皆、知らないようだ、というか四人一緒に行動していたのだから知っているわけがない。
「探すの手伝ってくれる?」
珍しく息を切らしている。
「へ? 位置情報は?」
「ロストしてるの」
「へ? 何故に?」
「理由は不明」
チラリとステラを見てから、
「見つけたら私に教えてくれる?」
と。
「「わ、分かった!」」
「それと基地に敵が進入しているの。応戦中だからドックには近寄らないでね」
「「‼」」
驚く姉妹。
二人が基地内マップを開くと……ドック周りの通路に赤い光点がウジャウジャと、その先に青い光点が約十個、分散して通路に立ち塞がっている。
姉御が慌てている原因はこれか! と顔を見合わせる姉妹。
「甲、二人をお願いね!」
「了解しました」
声と大胸筋をピクピクさせて返事する。
それを見て軽く頷くと踵を返して部屋から出て行った。
「リンとラン、どないしたんやろ」
「さあ? それより探すの手伝わんと」
「よし競争な! 先に見つけた方が酒奢るっちゅーこって」
「えーやろ受けて立つ! ほなら行くでステラ」
「はいですね」
先に駆け出す二人。
「甲、ウチらも」
「お二人ともお待ちください。私はお二方の見守りをラーナ様から……」
「置いてくでーーーー」
返事を聞かず駆け出すマリ。
「お、お待ちを……」
仕方なさそうに付いていく甲であった。
「……! ワハハハハハハハハハ! 確かに今までの俺は腐っていた! 嫌な事から目を背け続けていた! だがやっと気付いた、いや気付かせてくれた『俺も偉大な探索者の端くれなんだ』と……」
「「「…………」」」
訳の分からない事を口走っている。
それに対し声を掛ける者はいない。
「……! 神が俺の為に用意してくれた大道。ならば躊躇わず進むのが礼儀というものだろう! ……」
──す、スゲー……。シェリー姉さんなみかも。
ルークとは皆の前から反重力炉全開で消え去った時点から正常に電波の送受信が出来なくなっていた。
原因は単純。彼の艦は電磁波の伝わる速度の数百倍も出している為、電磁波の粒子が受信機に接触する際に速度差が有り過ぎて「壊れて」しまうから。
ただやり取りが出来ないだけで存在は見えている。
止まない閃光、その後に迫り来る残骸。
そして喋る時だけ姿を見せつけ、一方的に言いたいことを言ったら即移動、を繰り返していたので、ルークの身を案じる者はいなかった。
戦い方は、普通であれば質量兵器を使ったとしても一撃で葬れる数は限られる筈、なのだがルークは敵群を「点や線や区域」では無くある程度の広さを要した「面」で削っている。
その戦い方は自艦から一定距離区域内の敵の殲滅が得意なシェリーとは対照的。
分かり易い例えとしてはバリカン。
どちらも長短があり弱点もある。
シェリーは短中距離であれば無敵と言えるが前回ロイズとの戦いのように、視野が顔前の敵にしか向いておらず、広範囲が見ていないので敵の策に嵌りやすい。
一方のルークは見る限りでは広域殲滅に向いているが「薄く広く」の方法で厚みがないので、今回みたいに何重にも連なって押し寄せる敵にはハッキリ言って向いていない。
これがもし広い庭の芝生をハンドタイプの芝刈りでのんびり刈っていたら?
間に合わないのは言うまでも無い。
だが刈る速度が速かったら?
艦が前進する前に全て殲滅出来たら?
その弱点を「速さ」でカバーし敵を刈り取っているので進撃を阻めていたのだ。
あの中に敵探索がいたとし、仮に応戦してこようとも、こちらが光速以上であれば確率論的の行動予測しか出来ないので捕まる心配はほぼ無いと言える。
ただ運悪く接触してしまったら無事では済まないだろうが、敵が今はそんな選択するとは考え難いので避けてくれる筈。
どんな攻撃手段なのか早過ぎて分からない、が彼のお蔭で一定のラインから先への進入の阻止には成功していた。
ただし引き換えに、中途半端な大きさに裁断、又は爆散し途方もない数の残骸に変わり果てた敵調査艦が、速度・方向を変えぬまま高速でドリーに向け飛んできている。
結果、アトラスが戦術を練る暇もなく、ドリー防衛に参加していた者達はその後始末に追われる事になり、ロイズを除きルークに注意を向ける暇がなかった。
そのロイズだがドリーに流星を降らせない為、皆と同じく右へ左へ上へ下とルークが食い散らかした破片の後始末に追われているが、先日シェリーとの戦いで一段先へと進めたお蔭で、チラチラと自称騎兵隊を気にする余裕があった。
「えーーと、ルークの兄貴?」
「…………」
数が減っているのは間違いない。
だがどんな手段で戦っているのか分からず、性分からか心配になってしまう。
行方不明になってからどんな生活を送っていたのだろう……
仲間から教えて貰ったのはローナの指示の下で調査艦相手に修行していると……
ローナが関わっていた……不安が増してゆく。
「おーーーーい」
嫌な予感がしたので声を掛けてみた。
「…………呼んだかワイズ!」
行き成り目の前に球体モニターにルーク艦が、そして空間モニターが現れ、一瞬遅れて真顔のルークが映る。
よく見れば頭がフラフラしているし目の焦点も会っていないような……
「う、うぉ! ビックリした! その前に俺っちはワイズじゃなくて弟のロイズだよね」
「ん? ……そうか! それは失礼!」
お? いきなり真顔から先程までのドヤ顔に戻った。
「ところで兄貴の信仰している神さまって?」
「俺は神など信じない! 信じるのは己のみ!」
「へ? 今、神様って?」
「お前……小姑みたいに細かいと将来女に逃げられるぞ」
女って……それをアンタが言うんかい!
ツッコミは我慢する。
「は、はあ……俺っちまだ十七になったばかりだから」
「そうか。やっと成人を迎えたか。なら教えてやろう……女という生き物を!」
「……へ?」
な、何言ってるの?
そこに空間モニターが現れる。
「盛り上がっているところ、スマンの。そろそろ復帰してくれ」
済まなそうな顔のアトラスが映っていた。
「おおこれは主任、お久しぶりでご無沙汰しております!」
「…………はい?」
アトラス、ロイズ、そして聞き耳を立てていた全員が首を傾げる。
「俺としたことが敵前だというのに。ではワイズ、続きは戦いの後でな、ワハハハハハハハ!」
「…………はい? おいらロイズ……」
いらぬ心配だったようだ。
「姉様。外が何だか騒がしくありません?」
「ん~~リリーがシャーリーとあそんでいるのかも~」
「いやいやいくらシェリーさん達でも基地を揺らすような遊びはしませんから!」
「ならてきなのかも~」
「そう敵です! ……で私達はこんなにのんびりしていて……いいのかな?」
「これでいいのだ~~これはきゅうそくなのだ~~」
「そ、そうですよね……あ、そ、そこはダメ……い、いえもう少し強く……お願いします」
「リンリンも……もっとつよくもんでほしいのね~~」
「「畏まりました」」
「「う、う~~~~♡」」
顔や体型に似合わぬ悩ましい声を上げる姉妹。
周りの喧騒をよそに休息の名の下、姉妹揃って久方ぶりのリラクゼーションを長閑に受けていたのだった。
次回は10/13迄には投稿します。
(多分そこまで時間は掛からないかと)




