Dエリア基地!
今回は主任だけです。いずれはDエリアメンバーが出てくると思います。
さて、移動の準備を始めましょうか!
「アル、残骸を吸収出来る?」
制御可能なモノはアルテミスと融合させてしまおう。
「問題、なし」
「共通部品以外は圧縮倉庫へ。あ、一応先に「検閲」してからね」
「少し時間がかかりますが……」
「どれくらい?」
「検閲で十分、融合と保管で五分ほど」
「……OK。ヨロシク」
思っていたよりも時間が掛かるみたい。でも後で泣きを見みたくはないのでこれだけはやっておかないと。
「ラン、聞いてたと思うけど」
『はい! 周辺警戒ですね⁉︎』
お、分かってきたね。顔つきがワイルドになってるよ。
「任せていい? 終わるまで動けないから」
『はいお姉様‼︎ お任せ下さい‼︎』
いつの間にかお姉様に昇格していたらしい。
「お姉様って、リンと紛らわしくないの?」
『アレは姉様、エマさんはお姉様です!』
あっそう。しかしアレって……まあいっか。
『お嬢様! 敵は発見次第、落としても?』
『無論! 撃ち漏らしたらお仕置きよ‼︎』
え〜と……武装はないと思うけど?
「あまり離れないでね~」
と付け加えてから放牧した。
見送ってからこちらの作業に集中する。
見ればアルテミスから直径1m程の黄金色をした球体型の装置が残骸の中心付近に向け放出されるところだった。
その球体が中心付近に到着すると周りの残骸が引き寄せられるようにゆっくりと集まり出す。
残骸自体は元々広範囲に散らばっていなかったので時間も掛からずある程度に纏まった。そこで球体が軽く赤みを帯び始め、残骸に向けて紫色の光を浴びせ始める。
「検閲」の始まりだ。
「検閲」とは艦内持ち込んだり取り込む際に、艦に予め登録されていない物や正体不明な不審物を原子レベルまで安全なモノか、危険なモノかの解析を行う作業。
艦内に物が入る際に行われている必須の作業の一つだが、今回のような事態が起きない限り探索者がこの作業を目にする機会は無い。
基地での補給は基地に物質が届いた際に同様な作業をしており、艦はその検閲済みな安全安心な物資を受け取るだけ。
そして補給以外。特殊な例だが(仕事中に?)入手した「キラキラ石」はアルテミスが見えない所で危険な物では無いかの「検閲」を行ってからエマに渡している。当然だがエマ自身はその作業を見たことはない。
初めて見る光景を眺めながら、この「残骸」が何故ここに「放置」されていたのかを考えてみる。
先ず第一にこの残骸を見る限り「消失」により被害を受けたのは間違いない。それを前提に考えるといくつか疑問が湧く。
先ずここにDエリアメンバーの「ソフィア」が派遣されたのはうちのエリアと同時期で、探索開始時刻も大差ないと仮定する。
この状況が発生したのが作戦開始時刻直後だったとしたら、もう二日以上は経っている筈。
通常ならば連絡が取れなくなった段階で誰かしらを送る、もしくは送ろうと動く筈。その行為は私の時と大差はないだろう。
そこで誰かを遣わした。その結果、探索者を発見出来なかったとしても、機密情報の塊である僚艦をこのまま放置して引き返すとは思えない。それが自エリアの艦なら尚更に。
私のように俄かや嫌々主任になった訳では無いのだから、主任が規則違反を容認するとは思えない。
ならば「放置せざるを得ない状況だった」と思えばしっくりくる。
例えば後続の艦がここに来た途端「消失」に丸ごと飲み込まれたとか、ウチの基地と同じ状況なのか。
ただ不謹慎だが被害を受けたのがBエリアだけでないと分かり安心した。
次の気になる点。
残骸が「1艦分」しかないという事実。
先ず前提として「見捨てる」という選択肢はあり得ない。それはサラが気を失った私に対し、マキ達を送ってくれたことからも良く分かる。
サラは合計四班も用意したのに対し、Dエリアは確認出来ただけで1艦のみ。
纏まりがないウチでさえそうなのだから、他エリアなら全艦投入すらあり得る。
この差を考えるとDエリア主任は「あの方」や「適合者」の事は知らないのではないか……それとも甘くみていたか。
そう考えると主任によって情報量に差があるのではないかとも思えてくる。
そうだ。分からないことは素直にアルテミスに聞いてみよう。
(エリア主任は皆「あの方」の件を知っている?)
(基本的なことは知っているはずです)
(なら「消失」のことは?)
(同じく)
なら性格の差? 本当にそれだけ?
今では私もエリアマスターだけど何も知らない。
でも、何か見逃しているような……いないような……
ん? 基本的なこと? それ以外は?
サラはヤバイ状況を想定出来るくらいの情報を持っていた?
その情報はどこから仕入れたの?
Dエリア主任は基本的なことしか知らなかった。だから1艦だけで済まそうとした……
「……アル」
「はい?」
「たまにはコーヒー飲みたい」
確か圧縮倉庫に積まれている「休息用基本セット」の中に含まれていた筈。
「ホットorアイス?」
「温かいので、ブラック」
「はい、オーダー入りました」
正面の全方位モニターに穴が開き、そこからソーサーとカップに入ったコーヒーが出てきたので近寄り受け取る。
このコーヒーカップの底面には、中の液体に対して引力を発生させる装置が組み込まれているので引っくり返そうが絶対に溢れない。というかここは無重力なので上も下も関係ないけど。
受け取るとその場でクルッと半回転してモニター面に寄りかかるようにして一口。
──うん、たまにはコーヒーもいいかも。
サラの顔を思い浮かべる。
所属人数に差が有り単純比較は出来ないが、今回投入した人数を考えるとサラはこうなるのを予想していたのかもしれない
そう考えたら結構部下思いの良い上司なのかもね。
変わり者だけど……
全方位モニターに映っている二重惑星を眺めながらゆっくりとコーヒーを飲み干した。
(検閲終了。一つだけ異物が混じっていました)
やはりあったか……
この場合の異物とは辞書通りの意味。
(で、どんなやつ?)
(目的は不明ですが、融合した場合「艦」に作用するタイプのトラップのようですね)
(基地の設備で調べられる?)
(メインAIの復旧次第かと)
(なら「隔離」しといて。戻ったらこの手に詳しそうなノアに任せよう)
(了解。これより融合と圧縮保管を開始します)
先ずDエリアだろうが何処だろうが機器類は全艦共通。被っても意味が無いので機器類は全て圧縮倉庫へ。外装の流体物質のみ融合させる。これなら返還を求められても時間を掛けずにすんなり返せる。
問題の「異物」だがガス惑星から覗いていた時に、あの「活きの良い探索艦」が残骸の傍まで行っていたのが気になっていた。
アイツは迷わず残骸に近付いた。それはアソコで何があったのかを知っている証。
知らなかったなら尚更で確認するだけなら離れた距離からする筈。
にも関わらずあそこまで近付いたのは、何が起きたのかを知っており、近付く必要があったから。
何かを回収したのか、それとも置いて行ったのかのどちらかではないか、と踏んでいた。
何んだったか、その道で有名な書物で読んだことがある。
《トラップの目的は迷い・足止め・敵戦力の見極めが目的》だったかな……
向こうも当然発見されることは承知の上だろう。としたらあの行動を見せるのが目的だった可能性も考慮しておかないと。
一体どれが正解なのか……
いやいや、前提としている「私達」に対するトラップなのかどうかすら分からないし、ここに来るDエリアに対してかもしれない。
そもそも私達、敵対している? のかな?
いやいや、私の命がかかっているんだった。
ダメだ。ちっとも考えが纏まらない。
フッ……や〜めた。なんからしくないことしている。
「融合及び保管、無事完了です」
「よし、ランを呼び戻して」
ランを呼び戻す。すると一瞬で戻ってきたので「手」を繋ぐ。
『ハァハァハァ、お、お待たせし、しました!』
「ど、どしたの?」
『ハァハァ、なんでもありません。そ、そちらは終わりましたか?』
「うんお陰様で」
顔が真っ赤で大汗をかいていた。
『エマ様。お気になさいませんように。お嬢様は……』
『シャ〜ルロッ〜ト〜』
雰囲気が変わったぞ?
『ヒッ⁈ な、なんでもありません! オホホホ……ホ』
ほっとこ。うん。
「それじゃ次に行こう!」
『は、はい!』
次のDエリア基地へと向かった。
「はぁ〜マジですか〜」
Dエリア基地に着いた。
結果から言うと……何ごとも無く平然と浮いていた。
色々考えたのに……
「通信、Dエリア、主任」
回線を開けと矢の催促。
現在、白色卵型で隠蔽迷彩はしておらず、身分証明だけを開示している状態。
探索部規定である情報連結は敢えてせずに。
少し迷う。
基地が無事という予想していなかった事態に、どう対応していいか悩み出す。
敵か味方か……そればかり頭を駆け巡る。
だがここで作戦開始前に待機室でローナに抱きしめられた時の記憶が蘇る。
すると無意識のうちに回線を開き「こちらはBエリア所属の探索艦六番機の搭乗員のエマです。そちらの所属と思われる探索艦の残骸を発見したので報告にきました」と定型文通りの言葉が口からスンナリで出てきた。
『おう、サラんところの奴だな! よく来た、歓迎するから入ってこい!』
野太い男性の声が返ってきた。
「歓迎してくれるって」
『行きましょう』
ちょっとていうか大分拍子抜け。
向かいながら「ソフィア」に関する情報だけを開示・送信した。
遠慮するなって言うんだ、ガンガン行こう。
驚かしてくれた罰だ。
特級紅茶くらい出しやがれ!
と意気込んで乗り込んだら本当に出てきた!
「ディンブラだ‼︎」
思わず叫んでしまう。
「おう? 分かるのか⁈」
主任のハンクの厳つい和か笑顔。
返答とこの笑顔……多分同類。
「そうだった。お前が「エマ」だったな。お前ら姉妹のことはサラから聞いているぞ」
豪華そうなテーブルを挟んだ正面のソファーに腰掛けているハンク。制服の上からも一目瞭然な高身長でマッチョな体格。背筋を正し片眉を上げニヤケながらコチラを真っ直ぐ見つめてくる。
「ど、どんな話ですか?」
これは談笑であって威圧ではない。分かってはいても適当な返事になってしまった。
いやそんなことより今は紅茶を楽しませてくれ!
「紅茶好きのバカがいるってな。実は俺もバカの一人だ」
私が紅茶を楽しむ姿を見ながら優雅にディンブラ茶を飲んでいる。
日焼け? した小麦色の肌。手の大きさに合っていない真っ白なティーカップ。
体格も相まってもの凄くアンバランスに思えたが、言葉を重ねていく内に、不思議とジェントルマンに見えてきた。
私の隣ではランが目の前に並んだ五種類のケーキに目を輝かせながら食べている。
ケーキに集中しているらしくこちらの会話は全く耳に入っていないようだ。
今私達がいるこの部屋は、待機室で待ち構えていたハンク自ら案内してくれた基地内にある「貴賓室」で、ソフィアの報告及び倉庫内私物の引き渡しをしたお礼を受け取っている最中だ。
「で、あいつは……サラは元気か?」
やはり威圧だったか? ともとれる笑顔で聞いてきた。
どう答えたら良いかを思考しながらティーカップをおく。
暫くティーカップを眺めていたが、意を決して顔を上げる。
「サラ主任ですが、現在重傷で治療カプセル内での移植待ちの状態です」
ハンクの目を真っ直ぐ見据えながら話す。
「何があった? 事故か?」
内容を聞くと一瞬で真顔へ変わりソファーの背もたれから背を離す。
「……実は……ご相談があります」
「何だ、言ってみろ」
早く話せと言わんばかりに更に身を乗り出してくるハンク。その前にランをチラ見すると無我夢中でまだ一個目のケーキを攻略中であった。多分空気を読んでケーキに集中してくれているのだろう。
安心してハンクに視線を戻す。
(よろしいでしょうか?)
レベル4の秘匿通信に切り替えて話す。
事前予告も無しに切り替えたのでハンクの動きが一瞬だが止まった。
(? ……そうか……サラの容態はそんなに酷かったのか……)
只の探索者である私がレベル4権限。つまり私に一時的だが権限が委譲されたと。その深刻さを察してくれたようだ。
(最悪の時期は脱しました、が他に問題が……)
(なんだ?)
(基地で「消失」が発生しました)
(……それは本当か? 何故基地で起きたんだ?)
驚きの表情を浮かべるハンク。この反応を見る限りではサラと情報の差異は少なそう。
(主任と職員全員が負傷してカプセル行き。基地AIもほぼ全壊……なので何が起きたか……私達には原因が全く)
嘘はつきたくない、が初対面であるハンクを全面的に信用は出来ない。
(サラ主任復帰までの間、後任として私が選ばれたので基地の復旧を行いつつ探索を続行していたところにソフィア艦の残骸を発見しました)
(そうだったのか……基地が大変な時だってのによくやる、大したもんだ。俺なんか探索は後回しにしているぞ)
そう言うとハンクはソファーの背もたれに力を抜きながら深々と寄りかかる。
ここで再度ランを横目で見ると、まだ三個目のケーキに手を出し始めたところであった。
「ところで「ソフィア」さんの件ですが……」
「……残念だった。最悪の事態は一応覚悟はしていたんだが……な」
渋面で紅茶をじっと眺めている。
「ソフィア」に関する情報はまだ我々は受け取っていない。なのでここに至るまでの事情を知らない。
なので続きを待つ。
「そちらと同じくこっちにも探索部本部から指令があってな。多分サラも同じだったと思うが、ハッキリ言って調査部が決めた仕事なんぞ、やりたくは無かった」
吐き捨てるように言う。
調査部と探索部の仲が悪いのは以前から何と無くだが感じていた。今回レベル4になって事情を知ってしまうと確信へと変わった。
最終的にだが目的を達成すれば、探索者は必ず誰かしらの「犠牲」になってしまう。
一方の調査部は目標物をただ見つけて通報するだけ。
仲の悪さはその差の表れなのかもしれない。
「成り立てのお前はまだ知らんだろうが、調査部はあの「四賢者」の内の一つが直接関わっている部署でな。何かと我々のやり方に口を出してきやがる」
内容を聞いて思わずランを見てしまう。
「構わん。この程度なら誰でも知っている話だ」
機密……では無かったらしい。
ランは幸せそうな顔で四個目のケーキに取り掛かっている。ちゃんと空気を読んで大人しくしてくれている。なんていい子だろう。後で可愛がってあげなきゃね。
……って褒めるだけだよ?
「今回のやり方は我々に対する最大級の嫌がらせ。サラも態度に出ていただろう?」
「休暇とボーナスをもぎ取ったと、作戦前のミーティング時に」
「そうきたか! 俺もそうすれば良かったか!」
サラを語ると一時楽しそうな雰囲気へと変わったが直ぐに元に戻った。
「でな、今回の依頼……命令だな。明らかに手順がおかしい。普通ならちゃんと調べてから回せって上が押し返すくらいのレベルだ。だが、何故か受けちまった。そして指令が回ってきた。来たからには仕事せにゃならん。だがな納得いかんし、嫌な予感がしまくってな。散々迷ったんだがな……最終的にソフィアを一人で行かせた」
額に右手をあて少しの間、目を瞑る。
暫くの沈黙の後、話を続けた。
「結果、ソフィアは消えた……。多分、お前らの基地で起きた現象と同じだろう」
自分の手に僅かだが力が入る。
「向こうに到着直後に連絡が途絶してな。後続出す前に無人偵察艦を派遣してみたらあの状態だ。周りも調べさせたが何もない。艦の回収も考えたんだがそれには誰かしらを行かせねばならん。行けば巻き込まれる可能性を考えてな。臆病だがこれ以上不明者を出す訳にはいかん。ただ生きているのは間違いないのでアレは放置し、考えられそうな場所を全員で探しているところだ」
考えられそうな場所? ……もしかして。
「主任! ここ数時間内に「ソフィア艦」の所に誰かを向かわせましたか⁉」
「……いや、あそこは誰も行かせてはいない。どうかしたのか?」
よし、これで可能性は一つ消えた! ここは直感を信じる!
「……実は」と先程の出来事を掻い摘んで説明し、ついでにあの場で得た不明艦に関する情報もアルテミス経由で引き渡す。
「何だこいつは」
「実は先日、我々の基地にも出没しまして」
ついでに先日のデータも渡す。
「先程は一応隠蔽迷彩をした状態で動きを観測していたのでバレてはいないと思いますが、両方とも跳躍方向が総本部方面と一致しています」
「地球か……どう見ても探索艦だな」
「はい」
というか探索艦以外にこんな芸当が出来る宇宙船を知らない。
「もしかしたら……情報部の奴らか」
へ?
「情報部も探索艦を持っているのですか⁈」
「いやそれはない。開発と生産は完全に部毎に独立している」
そうなんだ。初めて知った。
「……いや、今は放っておこう。奴らも既に動いているやもしれんしな」
奴らて情報部……? 名のみで実はあまりよくは知らない。
「それと先程「考えられそうな場所」と仰られていましたが……」
もう一つ大事なことを聞いてみた。
「おう、今まで探した中であそこと外見が類似している惑星だな。膨大な数だから我々だけでは手が足りん。お前らのところからも出来れば手を出して欲しいのだが……それどころではなさそうだしな」
なるほど……少し希望が見えてきた。
「ん? そっちでも誰か消えたのか?」
私がディンブラを見つめたまま黙っていると、ハンクが気を利かせ聞いてきた。
言うべきかどうかを迷う。
エマはここまでのハンクとの会話から、どこかサラと考え方が似ていると感じ始めた。
もしこのまま黙って帰っても、我々四人の手と知識だけでは余りにも時間が掛かる気がしてならない。
ここは直感に従おう。この人は信じられる。
意を決し重い口を開く。
「……我々も先日の臨時調査で二班投入の二班待機、一班予備で挑みました。残りの我々四班は通常探索と分かれて」
「おう。サラらしいな」
「私とこの子、あと今別の区域に行っている二名が通常探索に当たりまして。それで我々が帰投すると基地が損壊、待機者を含む仲間全員がいない状態でして……」
掻い摘んで説明をする。
「……それでか。気持ちは分かるが情報連結せん理由にはならんぞ?」
目を細め背筋を伸ばし真っ直ぐにエマを見つめている。
「色々と考えてしまって。仲間はいない、いきなりエリアマスターだ、不明艦に出くわすわ。トドメはレベル4の機密情報まで知ってしまうと……」
「そうだった。お前は探索者でもあったな」
私の宇宙服に目を向けると顔の表情を少しだけ緩めた。
「まあそう気張るな、もっと気楽に行け。それと初対面だから大目に見たが基本は守れ。出したくない情報は出さなくて構わんが情報連結は忘れるな。また必要以上に相手の警戒心を煽る行動は慎め」
「はい」
久方ぶりに叱られた。正論なので何も言えない。情けなくて顔が見れない。
「それとなお前は一番大事な事を忘れているぞ?」
「……何でしょうか?」
視線を上げるとハンクと目が合う。怒っているのかと思ったが穏やかな眼をしていた。
そして先程よりもより一層胸を張ってからの一言。
「上がどう思っていようが現場の職員は皆、お前ら探索者のために命を張っている、いや命を張る覚悟が出来ている。例えエリアが違えども探索者全員、仲間でもあり家族だと思っている」
「すいません」
思わず誤ってしまう。何も言えない。俯いたままジッとするしかない。
「とは言え先ずは自エリアの探索者の面倒を見なければならない。なので今はこちらも手を貸すことは出来ん」
「それは……分かります」
「だが遊びに来るのは大歓迎だ。アポなどいらんから遠慮せずいつでもこい! こいつを用意しておく!」
とティーカップを掲げながら笑って言った。
どれもこれも本心から言ってくれているのだろう。
そして最後に秘匿通信にて話かけられた。
(最後に俺からの助言だ。仲間を探せ。決して焦るな。お前が諦めなければ皆助かる)
(……はい。ありがとうございます)
その言葉を聞き、やっと正面からハンクの顔を見ることができた。
「おい!」
声をかけると扉が開き、制服を着た女性型アンドロイドが手提げ袋を二つ、トレイに載せて入ってくる。
そのまま私とランに袋を一つずつ置くと扉の前まで下がった。
目の前に置かれた袋を見つめているとハンクが突然立ち上がり、私達に向けて頭を深々と下げて言った。
「部下の艦の回収感謝する。この礼はいつか必ず」
急いで立ち上がり敬礼をする。
敬礼なんて久しぶりで私もランもバラバラだった。
数秒の後に頭を上げたハンクは紙袋に一瞬だけ目線を落とし「餞別だ。持って行っていけ」と笑みを浮かべて優しく言った。
「「頂戴いたします」」
袋を受け取ってから待機していたアンドロイドについて部屋から出て行った。
基地のドックから出たとこにハンクからのメールがエマ宛に届いた。
そこには『今度来るときはサラも連れてこい。長年の決着をつけてやると言っといてくれ』と書かれてあった。
『了解しました』と簡潔に返信をしランと合流する。
『お姉様! お土産見ましたか?』
目を爛々と輝かせながらはしゃいでいる。
「ん? まだだけど?」
どうやらお土産が原因らしい。
『圧縮されたお菓子がいっぱい入ってます‼︎』
「あら良かったじゃない」
『はい! やっぱりきて良かったですね! ところでお姉様は何を頂いたのですか?』
「ん? 私? 私は……」
まだ見ていない。早速紙袋を開けてみる。
「……内緒」
そっと閉じ、そのままアルに預けた。
結果的に来て良かった。
収穫は充分にあった。
情報を持っている人にも会えた。
真意は分からないが何も知らない私にいくつかヒントまでくれた。
多分だが私が「適合者」であるのを承知の上で。
だが、ハンクに会えてホッとしている。
本音を言えば「適合者」になり、それを知られる事で、仲間が仲間でいられなくなるような状態だけは避けたかった。自分の居場所が無くなることが怖かった。
だがそんな心配は杞憂だった。
そして救出の手はまだある。焦るなと励まされた。
私は一人ではないと改めて認識出来た。
訪れた時とは異なり、ある程度のレベルまでの情報を開示した。その代わりにDエリア基地のメインAIの基本システムとストックしてある情報を得た。
「さあ帰ろう!」
久方ぶりに気が満ちているのが分かる。
モニター越しに私を見ているランの表情も穏やかだ。
二艦は基地からはなれると、堂々と跳躍して帰って行った。
ハンクはサラになり代わりエマに対して「助言以外」で重大な「ヒント」を与えています。どれかはいずれ分かるかと。
次回の予定は9/11(水)18〜19時の予定です。
次回はマキ&ノアコンビになると思います。




