サラの事情!
今話内の昔話は幕間として1話にしても良かったのですが このような昔話はエマ姉妹と菜緒姉妹、そしてサラ以外はストーリーに影響を及ぼさないので止めました(サラは秘密のまま軽く流すつもりです)
因みに菜緒姉妹の設定が一番細かいので考えるのが一番楽でした。次がエマ姉妹。最後にクレア姉妹。
菜緒菜奈は菜奈の関係上、話しておく必要があったので。
エマ姉妹は「何故両親がおらず療育施設で育ったのか?」には(作者都合では無く椿なりの)理由があり、後程本人から説明が入る(予定)。
クレア姉妹は作者の中では候補生以降の容姿性格役割略歴以外はとある理由から(……と言ってもエマが原因で)敢えて空っぽな状態にしているので、完結前に考えることは無いでしょう。
*今話は一万字には届きませんでしたがそこそこ長く、特に後半は会話が多めです。
*2021/10/25 後書きに本文の補足を入れました
*2022/8/29 本文内に「そして過去に……」の一行を追加しました
*2022/11/28 アナザーストーリー(第223話)に合わせる為に菜緒の回想部分(サラとの出会い)を修正しました
サラを見た瞬間、言葉に詰まってしまう。
実の所、ここでサラが出て来るとは思わなかった。
何故ならサラの目的はここではないと思っていたからだ。
それにローナも「四賢者」と言っただけでサラの名は一切出していない。
──あっ……あの揶揄するような目付き……さては知っていたな。いやもしかして私に対して、では無いのかも?
どちらに対してかは分からない、がどちらだとしても納得いかない。
送られている電波は月。地下都市がある場所。
つまりそこにいると思われる。
「そこにいる」と言う事は四賢者が受け入れた、と。
つまり第一目標である「政府に要求を呑ませた」とみて良いだろう。
ただ整合部に呼ばれて旅立ったのにいつの間にかこんな所にいる。
一体何があったのだろう。
──探索部が大変な事態なのに何故帰って来ない?
サラの目的は主に、
《政府が椿に対し過去の経緯を説明させての直接謝罪》
《政府の仕組みを変え二度と「贄」を生み出さない》
の二点。
二つとも椿の気持ちを汲んだ行動。それは椿が決めた、椿にとって過去の精算であると共に未来に向けてのケジメを付ける意味合いも含んでいる。
その椿の思いは充分に理解できるし単純で分かり易い。
ただ椿からしてみれば何もせずに待っていても、その望みが叶うとは限らない。
なので、政府の望みでもある探索部の消滅と言う絶体絶命の状況を目の当たりにさせる事により決断を迫る方向へと仕向けたのだ。
この状況は桜と椿が置かれた状況と酷似している。
つまり親(探索者=贄)を人質として選択肢を奪う行為。
研究所設立当時、世界の仕組みを変えようと思えば簡単に出来た。
ただ他人に変えてもらったのではいつかは元に戻ってしまうかもしれない。
一つ目の理由と同じく、自らが変わらなければ意味が無い。
だが誰も変えようと動こうとしなかった。
他に手が無かったとはいえ、自分達が味わった絶望に近い苦悩を知って欲しかっただけ、なのに。
二つ目は椿の意に反する行為、と思われていた。
何故なら椿の許しを得て作られた探索者は「贄候補」であり世界を救う存在。
その為に探索部は創設された。
なら何故探索部が誕生したのか。
それは椿が待ち望んだ者がやっと見つかったから。
だがサラはその目的を真っ向否定する行動をとった。つまり「探索者から贄を出さない、椿姉妹以外を贄にさせない」と。
この椿により仕組まれた、そして拒否を許されない「運命」とも言える状況下、サラは椿からいつ強制退場させられてもおかしくない存在、と思われていた。
そして実際にはサラの信念は椿の願いそのもの。
誰一人としてこちらの世界の者から「贄」として犠牲者を出さない方法を、それが「既定路線」として椿によって予め組まれていたと思われた。
そして巧妙に仕組まれた「既定路線」が知れたことによりサラは排除対象では無くなった。
だが実はそうでは無かったのだ。
サラの行動の容認。
それは一度見限った政府にではなく、サラに期待を寄せている表れ。
サラが辿り着く結果は判断材料として重要な役割を占めている部分に変わりない、が「望んだ結果」が示されなかったからと言って「既定路線」は崩せない。
崩すという結果は、姉が身を犠牲にして守ろうとした世界の破滅に他ならない。
それはあり得ないし、椿が選択するとは到底思えないし、万が一サラが失敗したその時はスッパリと諦めて他の手段を用いて実力行使に打って出れば済む。
だがサラを始めとする探索部が思い描いた「既定路線」に疑問が生じる。
《もう椿も桜も「贄」として能力が無いのかもしれない》
これは探索者側から取ってみれば青天の霹靂と言える事態。
終末が迫り来る中、「既定路線」が脆くも崩れ去ってしまう。
ただ仮に能力が無くなっていたら、滅びから世界を救う手段を講じる筈。
──もしかしたらそれも「既定路線」に組み込まれている?
そのことに気付かせた上で「自分達でなんとかしないと」と各々の出来る範囲で行動を起こさせようと。
だからサラは「既定路線」を崩すまいと、己の信念に従い、ひたすら前に進んできた。
菜緒とサラの付き合いはそこそこ長い。
初めて会ったのは探索者候補生育成施設。
あの時はまだゼロエリア(後のAエリア)基地のみで、サラも同居先で身元引受人である天探女も幹部候補生だった時代。
自分と菜奈はローナの計らいで、特例として学生をしながら探索者育成施設に通っていた。
自宅となる天探女の家を出て菜奈との寄宿舎生活。
探索者育成施設と自宅は同じ惑星の中にあったので通おうと思えば可能であったが、喧しい自宅から離れ集中できる環境に身を起きたいと思い菜奈と相談の上、家を出た。
因みに菜奈は家を出るのを反対はしなかった。
そんなある日、施設内を移動中に偶然? 声を掛けられたのが彼女との出会い。
訓練初期は個々の能力に合わせるカリキュラムが組まれているので単独行動が基本。
訓練が終わり一人で休憩中に、目の前を通り過ぎようとした女性とたまたま目が合ったので軽く会釈をしたところ唐突に立ち止りこちらを見つめたまま、無表情で微動だにしなくなる。
何か用事かな?
探索部の職員と思われる制服を着ていたが施設の職員の制服でないのは間違いない。
これほどの美人なら、街中で見かけただけでも記憶に残っている筈。
もしかして「ソッチ系」の趣味の持ち主?
とも思ったがこの美貌とスタイルなら相手選びに苦労はしていないだろうからその線も薄いと思う。
ならなぜ見ているの?
しかも訳の分からない近寄り難い雰囲気を放ちながら……
と疑問に思っていたら、
「……そうか、お前が菜緒か」
と呟きが聞こえてくるとともにこちらに迫ってきた。
そして「何故自分を知っていたのか?」と聞いたところ「誰でも一度はお前の噂を聞いているからな」と教えてくれた。
何の噂?
もしかして天探女が何か良からぬ噂を流している?
と思い聞いたところ「ハハハ違う。噂を流している奴はアイツじゃない。アイツはそんな奴じゃない」と笑いながら頭を撫でられた。
そして話をしている内に、以前にサラを見掛けていたのを思い出す。
その日はいつものように菜奈が終わるのを待っていたら、久方ぶりに「人見知りの塊」である天探女を見掛けたが、見知らぬ女性と仲睦まじそうに笑顔で話しながら歩いているのを偶然目撃、一瞬だが目の前が真っ暗になる程のショックを受けたのを。。
あの時初めて見る、恋する乙女のような爽やかで幸せそうな天探女の笑顔。
しかも隣の女性までもが天探女に対し心を許しているかの爽やか笑顔。
横並びで腕が触れるか触れないかという「恋人以上夫婦未満」と言える微妙な距離感。
絶世の美人でスタイル文句なしの女性が二名、誰も見ていないことを良いことに、周囲に桃色花畑空間を撒き散らしイチャつきながら歩いていたのを目撃してしまったのだ。
その時は天探女の変わり様に驚き過ぎて、隣にいた女性の観察が疎かになっていた。
さらに過去に一度だけその姿を見た、あの忌々しい思い出が甦る。
因みに今思えば、全ては天探女によって仕組まれた状況と断言できる。
天探女の能力なら周囲の状況把握など、呼吸をするのと同義。後々の展開も自分が望む形で組み立てられる。
つまり私とサラを引き合わせるキッカケ作りが目的。
ついでにイチャついているのを見せつけたかったのだとも思われる。
そして その後は距離が一気に縮まったりサラとは候補生育成施設で会うことになった。
天探女との付き合い方まで、先を見据えて一から教えてくれた。
そして会えば必ずと言ってよい程、あの時期のサラは笑顔だった。
今、目の前にいるサラは見たことが無い表情をしている。
先日Cに訪れた時よりも明らかに余裕が無いといった表情と雰囲気。
色々な事情を知ったが為にこの表情が意味する所が読み取れない。
優しくて温和で面倒見が良いのを知っているから尚更に。
「しゅ、主任」
「久しぶりだな、菜緒」
若干だが落ち着きを取り戻したようだ。
「は、はい! でもなぜこんな場所に?」
「限られた時間を有意義に使いたい。取り敢えず入って来い」
「り、了解」
話し終える頃には先程までのイラつき様は収まっていた。
菜緒と話したから? なのかいつものサラに戻っていた。
そして直下の真っ黒な地に一か所、ポツンと明かりが灯る。
どうやらその明かりはドックのようで指示も出していないのにセバスチャンが移動を開始、無言のまま向かってゆく。
「人の気配が……全くしない」
駐機したドックは基地のドックと造りが似ており継ぎ目や整備用装置が一切無い壁面は全て白色系とここまではほぼ同じ。
だが形状がまるで探索艦に合わせたような円形球体なのと、探索艦と同じ白色で何処かのラボの雰囲気が漂う。
その壁面も全体が発光しており、影が存在していないので遠近感が掴み辛い。
比較対象の基地のドックは円形では無いので、面発光していても何処かしらに明暗は生まれるし、艦とは微妙に色合いが異なる白色をしている。
人の気配が感じられないのは「人」がいる前提で造られた造りでは無いからだろう、明らかに今まで経験してきた環境とは異なっていた。
ドック内は真空であった為、シールドを作動させた状態の宇宙服のまま艦から出ると扉や転送装置の類いは見当たらない。
「何処に行けば……」
呟くとシールドにアイコンが。
壁面の一部に『入口』との表示。
どうやら「通り抜け」が出来る造りのようだ。
そこに飛んで向かう。
途中、振り返り自艦を見ると、姿が消えていた。
「せ、セバスチャン⁉︎」
声に出すと、目の前の空間が乳白色へと変わる。
(菜緒様が戻られるまでここにおります。ご安心を)
艦と壁面が同色で影となる明暗の境目が存在していなかったので自艦を見失ってしまったようだ。
気を取り直し移動、壁面に触れると映像だったようで手が沈んでゆく。
覗き込むとその先はまたまた窓も扉も無い小部屋であった。
だが先程とは違い、全身が部屋の中に入ると正面の壁面に転送装置が突然現れる。
この装置に関しては標準規格に基づいて作られている仕様で特に違和感が無い。
その装置に体の向きを変え足を付くと、今度は空気が存在している小部屋へと出た。
「待っていた。とにかく座れ」
部屋は基地の指令室を彷彿させる構造と設備。但し基地と比べかなり狭く椅子の類も一つしかない。
そのシートに座っていた者は後ろ姿ではあるが一目で誰か分かる外見。
その者は菜緒が入ってきたのに気付き、一声発してから立ち上がりこちらに向き直る。すると座っていたシートがスーと消え去る。
その代わりに今度はソファーが二つ、二人の間に音も無く現れるとそこに座り直した。
「は、はい」
対面の席に座ると二人の脇に空のカップが乗ったテーブルが現れる。
何故空? と思い眺めていると「飲みたいものを思い浮かべてみろ」と言われたのでブラックコーヒーを思い浮かべると、一瞬でカップの中が満たされた。
「早速本題に入る」
深々と座っているせいか、両肘を足に付け、組んだ指に顎を乗せ真っすぐ菜緒を見据える。
「ちょ、ちょっと待って……」
久しぶりの再会なのだが挨拶すらさせて貰えない。
サラは戸惑う菜緒の動揺を知ってか知らずか構わず話を続けた。
「クレア達に会って欲しい。そして二人を止めて欲しい」
「え? クレアを?」
「私はまだここを動けない」
「え? どういう?」
事態が全く飲み込めない。
「基地の状況は概ね把握している。今動けるのはお前しかいない」
動けない? ということはまだ条件を満たしていない?
「これは「贄」の適正を持ったお前にしか頼めない。探索者ですらない、そして守ってやれなかった私では到底役不足。何を言っても心に届かない」
「…………説得、ですか?」
内容にかなりの違和感を感じる。
確かサラは「椿」を納得させる役割な筈。
だがここでサラの目的とは関係のないクレアの名が出てきた。
彼女達は何かをしている。
それは間違いなく「贄」に関すること。
そして同じ立場でないと何かをしている彼女達を止められない。
つまり……エマ姉妹と同じ行為を?
でもそれ自体に驚きは感じない。
個人的には「選択肢」は多いに越したことはない。
──それなのに止める?
確かに今までサラは探索者から「贄」を出さない為に奔走していた。
だが以前までとは状況が変わっており、その理想は叶いそうも無い。
サラもその事には先程の発言から気付いているのは間違いない。
刻一刻と状況は変化している。
この場にいるのなら自分が知り得ていない情報を持っていると見て良い。
そしてあのサラが止めろと言っている。
我々にとって余程深刻な事態なのは間違いない。
ローナは多分、いや間違いなく理由を知った上でここへ行けと指示した。
「そうだ。レイアとクレアを止めてくれ」
「彼女達は何を?」
「今のお前なら行けば分かる。兎に角止めてくれ。アイツらではダメなんだ」
ダメ? 何が?
でも……
「分かりました。今すぐに?」
「早ければ早い程いいが」
「その返答でしたら若干は余裕がある?」
「ん? ああ済まない。茶を勧めておきながら飲む暇も与えずに」
あのサラが躊躇いもなく何度も謝っている。
驚きよりも呆気に取られるが表に出すようなミスはしない。
それよりサラの意に沿い話を進める。
「ならいくつか質問を。先ずそのクレアですが、姉であるレイアと共にここに来ていたと思うのですが」
「私と擦れ違いで出て行った」
「擦れ違い? 主任は整合部に行ったのでは?」
「まさにそうだ。そしてその整合部のお蔭で未だにここで足止めを食らっている」
「足止め?」
「ああ。お前だから細かい説明を省くが、整合部内で反乱が起きた」
「……はい」
反乱とは主義主張に折り合いが付かない場合、力で変えようという行為。
つまり整合部は探索部とは違い一枚岩では無かった証。
今では非常に珍しいと言える。
「残党を取り逃がしたせいで未だにここを抑える条件の条件が満たされずにいる」
「ここ? 条件の条件? 抑える?」
こことは総本部、つまり四賢者を指しているのだろう。
条件とは反乱分子を始末すれば満たされるようだがそれが前提となる条件? そのせいで足止めを食らっていると?
何故総本部を抑えなければならない?
「そちらはいい。最後に間に合えさえすれば。基地もローナに頼んであるし多分凌げるだろう。それより重要なのはお前達六人の存在」
「……それは「贄」として、との意味ですよね?」
「ああ、済まない。ここに至るまでは、エマとエリーの二人だけだと教えられていたんだ」
「……友人であるアリスさんに、ですか?」
「ああ」
「サラ主任にとってアリスさんはどんな存在なので?」
「アリスは古くからの友人であり、部下と上司でもあり、理想でもある」
何となく想像がついてしまう。
サラが何故「消失」を詳しく知っていたのか。
それはアリスが教えたから。
ただ全ては打ち明けていなかったのだろう。
アリスの事だから「聞かれなかったから教えませんでした」とか「言う必要は無いと判断しました」とか言って上手く誘導したのかも。
何年前だかは知らないが、今とは違いサラも今の私と同様に若輩者だったのだろう。多分そこに付け込まれたんだな。
ただアリスにとってサラの存在価値というか立ち位置がいまいち理解出来ない。その逆も同じく。
今まで聞いていた限りでは二人の関係はとても良好に思えるし信頼関係も成り立っているから尚更だ。
多分先程言った「理想」が何なのかが分かればまた違った見方が出来るのだろうが今は他に確認しておきたいことがある。
「アリスさんのお姉さんの件はどこまでご存知ですか?」
「以前私も心配で聞いてみたら「準備はしてあります。あとは本人と状況次第」と言っていたな」
「本人? 状況?」
「ああ。多分だが本人とは姉を指していると思う。そちらに関してはアリスも話したがらなかったから詳しくは知らない」
「もう一つ。エリスさんの正体についてご存知ですか?」
「ああ。椿のバイオロイドだとな」
やはりそっち系か……
「その前に、私が整合部に入ったばかりの頃、上の紹介でアリスと会いそれ以降、親しい間柄になった」
「…………」
「その後、探索部に移りBエリア基地を任され数年経ったある日、突然「長」に呼び出され「サラさんの新しい仲間です」と紹介された。そこにはアリスともう一人、妹と称する者がいた。基地に戻りアリスを呼び出して問い正したら「私達は似た境遇の姉妹です」と一言だけ詳しい説明もしなかった。アリスの正体は知っていたし、姉しかいないとアイツ自身が言っていた。なのに妹を連れてきた。ならばコイツは誰だ? 似た境遇と言えば「贄」しかいない。その「贄」はこちらの世界では二人しかいない。つまりエリスは椿だと」
姉妹……あの時、Aエリアで目撃した二人のやり取りは本当の姉妹に思えた。
旅立ってから二百年。
考えてみたら幼い少女が二人、慣れない環境でずっと独りぼっちで生きてきた。
ただ生まれた世界は違えども、同じ境遇で共通点は多かったのかもしれない。
それは似通った境遇だから「姉妹」になり得たのかもしれない。
例え「ごっこ」だったとしても。
でも終末が迫っている今はどう思っているのだろう……
──感情か。……成程、ちょっとした情報でも手に取るように見えて来る。
「ただ聞いていた椿の容姿と明らかに違っていたからな、艦とのリンクも含め何らかしらの手段で繋がっていると」
「その件についてはアリスさんからの説明は未だに無いので?」
「ああ、アリスなりに考えがあってのことだろうからな」
「そうですか。サラ主任の今後の予定は?」
「整合部のカタがつき次第、椿と会う」
「居場所はご存知で? 多分研究所にはいないのでは」
この時期に研究所にいるとは思えない。
「基地で必ず会える」
確信があるのか力強く答えた。
「あの領域は今は戦闘中で連絡艦では危険です」
連絡艦程度では巻き込まれたら一瞬でお陀仏だ。
「大丈夫だ艦がある」
「艦? どんな?」
「第六世代型だ」
「第六……世代?」
主任代理である自分は聞いたことがない。
訓練用の第五世代。これは今、襲われているので知っているし訓練生時代にも幾度か利用した。
そして自分たちが乗っている第七世代艦。
考えてみれば一世代飛び越えている。
何か理由があって建造中止となったのは想像がつくが、その艦がここにあると。
「一艦だけだが私の制御下にある総本部の艦だ」
「一艦だけ?」
「第六世代型か? いや他にも複数存在していたようだが、私がここに来た時には一艦を残し全て出払った後だった」
「そう……ですか」
「総本部の手を離れて持っていかれた」
「誰……に?」
「分からん。記録が見事に残っていない。真っ先に抑えたかったんだが」
抑えたかった? 押えるではなく。これの意味するところは何だろう?
「その第六世代型ですが性能は?」
「ほぼ全て探索艦の二割り増しといったところだ。因みに艦を操るのに搭乗者は必要……」
「二割……どこかで……あ!」
二割増しで思い出す。
「どうした?」
「実は私達襲われたんです!」
「何処で誰に?」
「とある惑星で「贄」としての力を貯めている最中にあちらの世界からやってきた探索艦に良く似た物体に。それは艦らしく性能は探索艦の二割り増しと」
「それで?」
「エリスさんと私と菜奈の体を調べてから去って行きました」
「……そうか、だとしたら……」
急に黙り込み何かを考え始める。
それと第六世代型の性能が第七世代の二割増し。つまり現れた正体不明艦の性能とほぼ同じ。
「そうか。アリスは決断したんだな」
「え? 何を?」
「一つ教えてくれ。お前達と同行していた私の部下は誰だ?」
「え? は、はい、マキさん姉妹とリンさん姉妹。それとシャーリーさんとノアの計六名、それとエマ姉妹と奈菜とエリスさんです」
「最後の四名を除き今でも一緒か?」
「分かりませんが多分……」
「ウチのエリアは特殊でな、私の意思で集めたのは約半数」
「…………」
「ローナ達とエマ達。ルイス達はローナの紹介で私が許可を出した。シェリー達は野望と能力を買って、マリ達は面白そうだから候補生から引き上げた。それとお前も馴染みのミア達はローナが強く推すので受け入れた」
「残りは?」
「全て「長」が決めていた」
「アリス姉妹を寄越した事情は分かるとしてワイズ兄弟と……リン姉妹?」
「ワイズ兄弟は総本部の管轄だった」
「ここ……ですか?」
「そうだ。あの兄弟だけは事前に「長」から『上からの命令で貴方の部下としてそちらに送るので面倒を見てあげて下さい。因みにアリスさんの知り合いです』と直接説明があった。探索部の上といったら総本部しかないしアリスの関係者。過去は知らんが能力と性格は優秀だし、エマやエリスと仲が良かったし未成年だったので学校を卒業するまで放置し、その後鍛えるつもりだった」
「成程……総本部が絡んでいたから椿と繋がりがあった」
「椿と?」
「え? はい、ロイズさんは椿さんと」
「そうか。ワイズに関してはアリスが太鼓判を押したので色々と頼み事をしていたが、ロイズに関しては知らないの一点張りだったから何かあると思っていたが……そうか、アリスが何故ロイズの監視を勧めてきたのか……もっと視野を広げていたら今の状況が変わっていたかもしれんな」
「でも今は探索者として仲間の為に活動しているようです」
「そうか。上司である私が把握していないとは情けない」
「多分ですが基地では先輩と部下の関係に終始していたからでは? 特にロイズさんはエリスさんが椿と関係があるとは思っていなかったようですし。あと残るは……」
「ああ。リンとランの二人。あの二人はAエリアの候補生として卒業し、何故かウチに回されてきた」
「サラ主任が連れてきたのでは無いのですね?」
「ああ、辞令を携えて突然やって来た。その辞令は「長」発行の本物だったし拒否する理由もなし、本人達に問題は見られなかったので何も言わずに受け入れた」
「そう……ですか。実はラーナさんから忠告を受けてをある人物をノアと観察していたんです」
「ラーナが? 何と?」
「『もしランちゃんが不審な行動を取るようなら必ず報告して』と一言だけ」
「……情報部経由の判断だな。向こうは何かを掴んでいたのかもしれんな。で、可笑しな点は?」
「全く」
「そうか。アリスが基地におらず、リンとランが基地に戻っていればまだ時間が稼げる」
「彼女たちは一体?」
「何かしらの関係はあるだろう、アリスの姉と。そちらは基地にはラーナと天探女がいるから二人の件はあいつらに任せるしかないが、天探女とアリスなら悪いようにはしない筈」
悪いようには? サラ主任はそこまでアリスさんを信用している?
「ローナとミアは最終局面が迫っているので動けないから今はお前だけが頼りだ」
「え? は、はい」
「いいか、事が済むまで奈緒と会えるのはこれが最後かもしれないから言っておく。私やローナにはそれぞれ役割があるのでお前たちの手伝いは出来ない。その代わり基地と仲間は任せろ。そしてこれ以降はお前達が考え抜いたストーリーを最後まで貫け。今となってはそれ以外に方法がない」
決意に満ちた目で見つめている。
その目を見ながら頷く。
「頼んだぞ」
「了解です」
やっとリンランのターンに入れます。
Bエリア探索者の個々のターンはエマ姉妹を除きこれが最後の予定です。
次回は9/22(水)までには投稿します。
2021/10/25
*どこか良いタイミングで組み入れようと企んでいましたが、触れない可能性が高くなってきたのでここで補足を入れて置きます
「噂を流していた」のは当然ローナ。
隠すこともせずに堂々と「サラに伝わるように」言い触らしています。
そのサラですが当時、新設されるエリア主任に「内定」しており、部下となる探索者で確定していたのは候補生ですらない「エマ姉妹」のみ。
そんな時、噂話が伝わってきたので当然興味を抱きます。
ただ「興味」の対象となったのは菜緒よりもローナ姉妹の方に。
サラは「なぜこの時期にそんな噂が流れて来たのか」と色々疑問を抱く。
調べたら噂を流した姉妹はとても優秀で「エマ姉妹」の面倒を任せるに値する人物だと、興味の対象がローナ姉妹へと向く。
勿論菜緒に対しても関心はあったがローナ姉妹がいれば事足りそうだし、話を聞けば同じく内定が出ている「天探女お抱え」だったのでスッパリ諦めた、
という経緯です。
今よりも探索部内での立ち位置が低かったローナが噂を利用し「色々」と得る為の策なのでした。
因みにこの策での最大の成果は「サラの部下」になれたこと、でしょうかね。
サラや天探女の処遇とは違い、ローナ姉妹は身分を隠すために候補生から探索者に這い上がってきたので部内では色々と苦労しています。




