宇宙最強! 別人?
今年も恒例のデスマーチが進行中……
現在、連続勤務の真っ最中。
お蔭で一度入眠したら朝まで目を覚まさずに済むが、訳の分からない夢の見まくり。
一応、数回見直して誤字脱字は修正したつもりですが頭が回っていないので結構残っていると思います。
*8/19 本文追加修正を行いました
*8/26 さらに本文追加修正を行いました
「我が基地へようこそなのじゃ!」
「主任ー貴方の基地ではないでしょー?」
「ん? 細かいことは気にするでない」
言葉通りの振る舞いに脇からツッコミが入る。
「はは! いや久しぶりですな、天探女殿。何年振りですかな」
対するハンクは二人を前に普段と変わらぬ、胸を張った堂々とした態度。
後ろに控えているDエリアのメンバーに疲労の色が見えるのとは対照的に。
「堅苦しい挨拶は無しじゃ! それより良くぞ我が誘いに応じてくれた、心から歓迎する! ささ先ずは休息を取るがよい! ソニアよ、皆を客室へと案内して差し上げるのじゃ!」
「ソニアちゃんお願いねー」
「ハイなの!」
二人から少しだけ離れた位置で待機していたソニアが天探女に対して敬礼、本来の上司と仲間達に向き直りもう一度敬礼をする。
それに対し、ハンクは笑顔で頷いて見せる。
「それではお言葉に甘えるとしよう。皆、暫しの休憩とする。一時解散!」
「「「了解!」」」
振り向かずに指示を出すと後方にて探索者、その後ろに班長達と横一列で整列をしていたDエリアのメンバーが揃って三人に対し一糸乱れぬ敬礼をする。
直後、作戦会議室に張り詰めていた空気が一変、皆に駆け寄るソニアを中心とした和やかムードの騒がしい空間へと変わる。
暫くぶりに再会した姉妹の力強い抱擁。
姉妹は初めに片腕を力強く交差させると、絶体絶命の戦場で散り散りとなったが奇跡的な生還を果たした強面の男達が交わす再会を彷彿させる熱ーい抱擁を交わす。
そのまま次の者と変わり順に同じく熱い抱擁を交わし始める。
班長達とは力強い握手で挨拶を終えると、暖かい目で見守るハンク達を残し全員部屋から出て行った。
暑苦しい雰囲気が一変、静かになった部屋に三人だけとなったところで話を再開する。
「しかし正直言って助かった。あそこで貴方からの誘いが無ければ判断を誤っていたかもしれん」
「そうなのかえ? わらわは副官の頼みを聞き入れただけぞよ」
「副官……そうかあの有名な探索者の案だったのか。主任は良い部下をお持ちで羨ましい」
菜緒と別れた直後に、ソニアの繋がりを利用しハンクへと短文を送らせた。
内容は『敵は各個撃破を目論んでおる。それを知り得たわらわは潔くサラが居らぬBの仲間達と合流を果たした。お主らDも手遅れにならぬ内に早う合流するのじゃ』と、特に策を設けず端的に。
端的な内容にしたのはソニアからDの状況を入手して貰った際に、基地自体に損害が出始めているのと、天探女が抱くハンクの印象としてかなり真面目なタイプを考慮して、下手に策を設けるよりもそのまま素直に説明した方が受け入れやすい、と。
実のところは他人の心理については専門外。いくら考えても正解に辿り着く訳が無い。
早々に思考を放棄した結果であった。
対するハンクは候補生時代、挨拶をした際に初っ端から興味の無さそうな、どちらかと言えば無碍な態度を取られ、以後もその状態であったので印象はあまり良くなかった。
だが天探女の常時アンドロイドを操っている等、優秀な能力を日頃から目の当たりにしていたので人並外れた才能があるのだろうと思っていた。
第一印象は、実直型の自分にとってはどんな行動を取るかの予想が付かず振り回されそうで苦手なタイプ。昔から「天才と何とかやらは紙一重」言われているが、偏見の目で人を見るのは性格的に許せなかったのである人物に相談してみた。
天探女と唯一、仲の良かったサラに尋ねたところ「天探女は我々とは歩んできた世界が根本的に違う。あんな鬱陶しくて面倒なヤツをお前が関わるのは時間の無駄だしそれは私の役目。そんな暇があるなら自分の家族の為に時間を割いてやれ」と忠告を受けたが、それ以上は話したがらなかったので素直にアドバイスを受け入れることにした。
そんな経緯があったため、ソフィアから受け取った内容を深読みしてしまい困惑してしまう、が単純に書かれてある内容だけを見れば、素早い決断力、そしてお互いの立場や現状を推察していると読み取れた。
なので己の浅はかな考えを改めるのと同時に基地を放棄するのを決断、自らを含めた基地職員をソフィア艦へと速やかに移乗し敵の攻撃が再開される前に皆でここへとやって来た、と結果は菜緒の心配を余所に思惑通りに進んでくれた。
「その優秀な我が部下は訳あって別行動中で今はここにはおらぬ。の? ラーナや」
「はーい」
「ん? やはりお前がラーナか。会うのは初めてだな。サラから色々と聞いているぞ」
色々とは……色々だ。詳しい出所は知らないが個々の能力に関してはサラからある程度は聞いている。
「えーー悪口をーですかー?」
お淑やかな笑顔。緊張感など微塵も感じさせない普段と変わらぬ表情と声。
対するラーナは「裏の裏の事情を知らない」探索部内でのハンクの立場を考慮し上手くお茶を濁す。
「ハハハ、姉妹共々とても優秀だとな」
「そうなんですかー?」
社交辞令も終え表情を戻してから天探女に向き直る。
「それでここの状況は?」
「今の所、問題無しじゃな」
「そのとおりー」
外の残骸の片付けは現在進行中。
特に傍らにはドリーがあり「流星雨」を降らせない為に、念には念を入れての作業の真っ最中。
通常の隕石とは違い、大気圏に突入した場合は大小に関係なくほぼ原形を保ったまま地上に降り注ぐことになるからだ。
「サラは戻っていないようだが……連絡は?」
ここに到着した早々、情報連結にて滞在者の情報は入って来ているので不在なのは知っている。
さらにサラやエマではなくCエリア主任が代理権限者となっており、この時期に他人に己の基地を任せるには何かしら止むを得ない事情が有る筈。
目の前にいる者達なら知っているかと思い尋ねたのだが……
その問いに二人共首を振る。
勿論行き先や事情は知ってはいるがサラが何かしらの思惑があって話していない以上、許可無く説明する訳にはいかない。
「そうか。ところでアイツはどうしている?」
ラーナに聞いてきた。
「エマかえ?」
が答える前に天探女が口を挟む。
「ああ」
「今はBエリアの探索者達と「遺跡」周りをしてますー」
笑顔を崩さずに答えた。
「そうか。では承知の上での行動、と言うワケだな」
頷くラーナ。
「了解した……でそちらの方は?」
「わらわも気になっておったところじゃ」
二人共、無言でこちらを見ている女性に視線を向ける。
この部屋に皆が入って来た時には既に入口の扉の脇で場違いな服を着て気配もさせず立っていた。
ハンクにしても天探女にしてもアンドロイドか? 程度に気にはなってはいたが、この基地の探索者であるラーナが特に気にする素振りを見せなかったので取り敢えずは後回しにしていた。
「え、え〜と」
誰も見ずに俯き言葉に詰まるラーナ。
「お二人とも初めましてなのね。アリス様のメイドをしているステラと言いますね。以後、お見知りおき下さいね」
紹介を待つことなく自ら挨拶をして行儀良くペコリと頭を下げた。
「な、何⁈ アリスじゃと⁉︎」
「アリス? 確かここの探索者の?」
対照的な反応の二人。
珍しく慌てた天探女が勢いそのままラーナに食って掛る。
というのも「人」であれば基地内の「位置情報」を見れば、一部の「特例」を除き逐次表示されている。
勿論天探女はここに来た時に真っ先に怪しい者がいないかどうかをチェックしていたし、あのラーナも基地内にいたので完全に油断していたのだ。
さらに問題なのがあのアリスの関係者。
事情を知らないハンクは別として、サラとは違う意味でよく知っている名が出た事により驚きが表面に出てしまったのだ。
「ラーナ、これは一体どう言う事じゃ? 何故部外者がここにいるのじゃ?」
「え-ーと…………」
可愛らしくモジモジするだけで答えようとしない。
「私はアリス様の所有物で「人では無い」ので許可は必要ないのね。それとアリス様のご命令でここにいるのね。戦いの邪魔はしないので仲良くして下さいなのね」
またまた待つことなく、終始穏やかな敵意を一切感じさせない表情で説明。挨拶を終えると最後にもう一度ペコリと頭を下げて扉から出て行ってしまう。
「……ここでは個人用アンドロイドの所有を許可しているのか?」
呆気に取られていたハンクが扉を見つめたまま聞いてくる。
「サラが許可する訳がなかろう。それとアレはアンドロイドでは無くバイオロイドじゃな。しかもAI制御の完全自立型のようじゃ」
「な⁉︎ 個人所有のバイオロイドだと?」
バイオロイドは作り出すの自体は然程難しくはない。ただ使い道が限定される故にある意味非常にデリケートな存在。さらにメンテナンスや維持に莫大な費用と労力が必要となるので生み出されることは滅多に無いのだ。
因みにステラ本人が言ったようにこの世界では組成は人と同じだが「命」がないので「取扱注意な物」扱いと法により規定・管理されている。
「ああ、色々とかなり高性能タイプのようじゃの」
「……今はー訳有りで滞在していますー」
目を合わせずに答えた。
「? そうなのか?」
「は、はいー」
「おれはてっきりサラが……ま、まあいい。それで今後だが」
「わらわには才能が無い故、防衛に関する指揮はお主に任せる」
「了承した。其方を請け負おう」
「戦力が倍以上になったのじゃ。交代で休息を取りながら上手く捌いてくれ。その内遺跡周り組も帰ってくるじゃろうからさらに負担が軽くなる筈。お、そうじゃ今の内にこれを渡しておこうかの」
ハンクの前に空間モニターが現れる。
「……ほう。探索者の個々の能力値をここまでデータ化しているとは。流石ですな」
A以外の探索者が一覧となって表示されている。
『戦闘力』『防御力』『判断力』『瞬発力』『精神力』……と主項目が数十、更に参考項目として『運』『色気度』『体型評価』と訳の分からないモノまで並んでいた。
BとCのデーターが揃っているのは何となく納得出来る。だがDのデーターは一体いつ集めたのだろう……
「注意すべきはBの探索者達じゃ。他のエリアとは違いここの者は能力に偏りがあり過ぎるし訳アリ問題児ばかり。とはいえ脳筋姉妹以外は格闘向きでないところは共通じゃがの」
「そのようだが……その二人の戦闘力の総合値……姉が一億五千万、妹が三千万……そ、ソニアは三百万⁉」
「お主の娘もここ数日で伸びたようじゃの。合流した時は探索者の平均値である十八万前後であったようじゃが、脳筋姉に扱かれたお蔭で一気に限界を超えれたようじゃ。それでも先の二人に比べれば微々たるものじゃが充分称賛に値する数値と言えるじゃろうて」
「そうか。後で面倒見てくれたお礼をせんとな」
「おお、そうじゃ! なら脳筋娘……シェリーはの、紅茶好きらしいので話題にすれば本人も喜ぶじゃろうて」
「紅茶好きなのか? それは良い事を聞いた」
微笑むハンク。それを見て天探女とラーナはお互いを見て軽く頷く。
それから徐にラーナの肩に手をおいてからハンクにドヤ顔を向けた。
「因みに純粋な肉弾戦ならばこやつが間違い無く宇宙最強ぉぉぉぉぉぉぉぉ! いいいい痛いのじゃ!」
「一言余計でしょー?」
軽くお尻を抓られ悶え苦しむ。
「ま、全くわらわの身体に傷が残ったらどうするのじゃ……悲しむサラの顔は見とう無い。それよりハンクよ、後は任せたのじゃ。ラーナはちぃーとわらわについて来い」
「? はーーい」
その場でハンクと別れるとラーナを引き連れ「元貴賓室」へと向かって行った。
・・・・・・
月 (お? 帰って来たみたいだよ?)
──エマちゃん?
シ (そのようですね)
師 (ありゃりゃエリス復活しとるで)
ハ (でも雰囲気何や変わっとらん?)
コ (確かに別人のようだな)
ア (取リ敢エズハ一安心デスネ)
かなり離れた位置に光の球が三つ、こちらに向け近付いている。
内二つが挨拶をしてるかの如く光を微妙に明暗させていた。
──みんな相手しててくれて……ありがとう。
(((まったね~~)))
菜奈空間から現実へと戻ると同時に脳内通信が入る。
(菜奈ただいま!)
相変わらずのエマの元気な声。
たった数時間離れていただけ。話し相手もいたし寂しいとは感じなかった。
だがエマの元気な声を聞けて心が軽くなったのに気付く。
考えてみれば菜緒と離れたのは覚えているでは限り初めて。
ましてや去り際での姉の雰囲気、そしてさらに負傷して身動き取れない仲間達までおり、いざという時は一人身を盾にして皆を守らなければならない。
そのつもりはなかったが心の何処かで不安を感じていたのかもしれない、と。
(お帰り……エマちゃん)
敢えて明るく返事をする。
空を見上げれば光が三つ、まるで流れ星が落ちてくるかの速さでこちらに近付いていた。
(菜緒は? どこにいるの?)
(姿が見当たらないけど~)
対して帰還した姉妹には菜緒が不在という点を除けば離れる前と大した変化が無く、こちらは襲われてはいないと直ぐに分かったので普段と変わらぬ雰囲気。
基地の仲間が襲われているかもしれないという状況なのに目先の平穏に安堵してしまうという二人の性格お蔭で、気付けば菜奈もいつもの状態に戻っていた。
(先に……戻るって)
(そうなの? それでみんなはどお?)
(治療は済んでるけど……起こす?)
(んーーいやまだいい)
(ごはん出来てるけど……食べる?)
(作ってくれたの~?)
(うん)
(どうする~?)
(急いで戻りたいとこだけど……折角用意してくれたんだから急いで食べるか!)
(菜奈さん、今からそっちに行くわね~)
(私はいらナイ~)
全く興味の無さそうなエリスの声。
(そう? 何か食べたの?)
(そうじゃナイけど。艦で待ってル)
(分かった。急いで済ます)
アっという間に到着したエマ艦とエリー艦は浮いている六艦の隙間を縫って降りて行く。
エリス艦は浮いている艦の傍で停止した。
「「頂きます!」」
発声と同時に物凄い勢いで食べ始める二人。
エマだけでなくエリー迄、人目も憚らず礼儀作法を気にせずに貪り食う。
「そんなに急ぐと……喉に骨が」
「ん! んーーーー‼」
バシ‼
悶え苦しむエマの背中をエリーが無言で叩く。
「がは、ハァハァ! 死ぬかと思ったよ!」
本当に危うかったようで涙目で訴えている。
そんなエマの為に水を用意しようと席から立ったところで気になっていたことを聞いてみた。
「二人とも……その格好」
「え? これ?」
「そう言えば着替える暇なかったわね~」
基地が気になってて着替えに考えが及ばなかったので貰った服のままだった。
「うん……それと……美人になってるよ」
「え? い、いや〜照れるな〜」
珍しく? 美人と言われて反射的に照れてしまう。
エリーは兎も角、エマは滅多に化粧なんぞはしない。
二人共お肌に良い温泉やエステを小まめに利用しているのでちょっとした手入れで済んでしまう。
特にエマはほぼ毎日『アルテミスの湯』に入っている。そのたびに化粧をし直すのは面倒くさいので基本しない。
「何かね、お礼だって~」
この「お礼」は多分だがエリスを連れて行った分だけではないよね、と椿から事情の説明を受けた二人は考えている。
「そうなんだ」
「ところで菜奈さん、菜緒さんと連絡取れる~?」
「?」
水を用意し二人の前に置こうとしたところで立ち止り、エリーを見てから小さく頷く。
「基地の状態を聞いてくれる~?」
今の内に情報を仕入れておこうと食べながら菜奈にお願いしてみる。
「ちょっと……待ってて」
その場で目を瞑り姉に問い掛け始めた。
「…………今は……落ち着いてるって」
返事が直ぐ来たようで目を瞑ったまま答えた。
「今は? ってことは」
「第一波は片付いている筈……だって」
「やっぱり襲われてたんだ!」
姉妹で顔を見合わせる。
「筈~? 今は基地にいないの~?」
驚きながらも食べる手を止めない二人。
「野暮用……だって」
「や、野暮用? ってことは敵の数は多くなかったんかね?」
「今基地にいるのは五人だけだしそうかも〜」
「仲間は一杯いるから……心配するな……私達は今日中に戻れば……いい。逆に今は……準備が整うまで……戻るなだって」
「「……へ? 誰がいっぱい?」」
「…………帰ってからの……お楽しみ、だって」
コップを起きながら少しだけ嬉しそうに教えてくれた。
答えるまでに間が空いたところを見るに菜奈には誰がいるかを伝えたようだ。
「ローナ達かな?」
「そうかも~」
菜奈の微笑みを見て二人の緊張感が和らぐのと同時に食べる速度も落ちる。
あの菜緒が心配するなと言っているのだ。差し迫った危機的状況ではないのだろう。
考えてみたら敵の残数は残り少ないと言っていたし、基地にはラーナを始めシェリーまで控えている。
そこにローナとミアが戻っていたら大抵の困難は乗り超えられると思う。
さらにルイス&ルークが戻っていれば囮や弾避けにも使えるし戦術の幅が広がる。
それとも……サラ?
もしサラだけならば……役に立たないのは言うまでもない。
なのでサラのみ、というオチはない。
ってゆーか、体と態度が立派なだけで今回サラが役に立ってるとこを見ていない。
全くあのお〇さんはどこで何してるんだか……
何にしても急いで戻る必要は無さそうなので、食事を終えたら先ずはマキ達の状態確認をしよう。
「そう言えば菜奈はサラとはいつ知り合ったの?」
「いつ……いつだっけ? 育成所? そう言えば気付いたら……いつの間にか親しく話してた。菜緒とね」
「菜緒と? 菜奈は?」
「殆ど……話していない。会っても……ニコっとするだけだった……かな?」
そうなんだ。
もしかしたら変態主任と同居しているのを知っていたのかもしれないし、その繋がりで優秀な候補生であった菜緒と接点があったのかもしれないね。その辺は機会があったらジックリ聞いてみたい。
「「御馳走様でした!」」
片付けをし外へと出る。
するとエリスが丁度艦から地上へと降りてきたところであった。
「どうしたの?」
「全員見たケド動くのはまだ無理ダネ」
何故か嬉しそうな雰囲気で肩を竦めて見せる。
「そう……ってどしたの菜奈?」
見るとエリスをジッと見つめている菜奈に気付いて声を掛ける。
声とその視線に気付き菜奈を見るエリス。
「「…………」」
菜奈瞬き少なく、エリス瞬き多くお互いの目を見つめ合う。
「ううん……なんでもない」
表情を変えず首だけをエマに向け返事をする。
「そうだ、菜奈に教えとく。エリスは諸般の事情により生まれ変わりました!」
肩に手を回し引き寄せ身体を密着させた。
「何じゃソレ」
むず痒そうに逃れようと悶えて出す。
「心を入れ替えたって言った方が合ってるかも~」
反対側をエリーに塞がれ逃げ道が無くなった。
「うう~好き勝手言いやがっテ~」
観念したのか大人しくなる。
「……確かに昨日とは……別人だね」
皆に聞こえる大きさでポツリ呟く。
すると何故かエリスがその言葉にピクリと反応、真顔で菜奈を見始める。
その視線に怯むことなく見返す。
二人は先程とは違い緊張感が漂った雰囲気で見つめ合い出した。
コチョコチョ……
「う、ウヒャーー!」
「お? 以前より敏感になった?」
死角からソッと手を伸ばし丘の麓辺りを軽く擽ったために雄たけびを上げてしまう。
「何してるんだ? 私以外に色目使って」
「そ、それは誤解だニ! これは色目でなくテ~」
「でなくて? その先を言うてみ。まさかガン飛ばしてたワケじゃないよね?」
「ううう……」
これでもかと顔に頬を擦り付けより一層密着しながら愛情表現をするエマ。赤面しながら逃れようと藻掻くが逃げ道が無いので為されるがままの状態。
「どうしたの菜奈さん~?」
先程から初めての見る菜奈の行動に違和感を感じたのでエリスは妹に任せ菜奈に声を掛ける。
「ううん……何でもない」
首を軽く横に振るとエマに手を伸ばしエリスから強引に引き剥がす。
そのまま十mとそこそこの距離を空けると二人に背を向ける形でエマに正面から抱き着いた。
「お、おえ~?」
「あらら~」
「ふぇ~~やっと解放されたヨ~」
三者三様の反応。
エマは自らの胸に伝わる心地良い感触に浮かれ気味の顔。
エリーは「あらあら嫉妬~?」という温かい眼差し。
エリスは「ハアーー疲れた」といった仕草。
「(エマちゃん)」
耳元で名を囁かれた。しかも比喩しがたい心地よい甘い小声で。
お蔭で勘違いして菜奈の体に手を回してしまう、が内容を聞いて暴走しなくて済んだ。
「(あの人……椿さんじゃない)」
「(……えーーと、気付いてたの?)」
「(うん……教えて貰った)」
教えて貰った? 誰に? ってアルしかいないか……
「(そう)」
「(多分エマちゃんが……良く知っている人)」
「(? エリス、よね?)」
「(ううん……違う……多分……)」
「(……多分?)」
「おいソコ、何時までイチャついてるんダ?」
二人だけの世界に邪魔が入る。
まあ傍から見ればイチャついている様にしか見えないのは同意する。
見れば二人がジト目を向けていた。
「な、スキンシップくらい別にいいじゃん!」
心地良く離れたくないので体勢そのままで取り敢えず否定しておく。
「時と場所を選びなさい~」
「分かった。二人はそこでイチャついてロ。私は皆を治療するカラ」
エマ達に興味が無いらしく上空に浮いている艦に目を向けた。
「治療? もしかして起こすの?」
「モシかしなくても起こス。時間も無いし多少痛いだろうが荒療治を行うゾ」
「荒療治?」
「そうダ。普通に動けるまでには回復できる……と思うガナ」
見上げるとマキ・マリ・リン・ラン・シャーリー・ノアが乗った六艦が丁度、白色から銀色へと変化する瞬間であった。
そのままゆっくりと降下し地上に近付くと各艦の外装に穴が開き、そこから黄色い光と共にカプセルが現れエリスの前にゆっくりと舞い降りてくる。
エマは菜奈の手を引いて近寄りカプセルの中を順に覗き込むと、全員口と鼻が密着型酸素マスクで覆われている以外は薬液に漬かっている治療中の状態でしかも素っ裸だった。
「んじゃ始めるカノ」
手を軽く振り合図を出すとカプセル内の薬液が減ってゆき酸素マスクも外される。
そして全員が一斉に目を開けた次の瞬間、カプセルの蓋にスモークが掛り、そのまま悲鳴の大合唱が始まったのだ。
今週いっぱい連続勤務で余裕が無いので「夏のホラー」は諦めます。
でも折角のアイデアをボツにはしたくないので「かくれんぼ要素」を取り除いた上で、落ち着いたら投稿します。
次回は初投稿から三周年目に突入となります。
倒れなければ来週中頃までには投稿します。
今話も含め、各話の修正再開も来週以降になります。




