さようなら…
ちょっと短いですが投稿します。
*後半は敢えて地の文を排除した「会話のみ」にしてあります。
・・・・・・
遠くに巨大な積乱雲が見える。
昔であればそのままハリケーンにでも成長しそうな規模。
気象制御が働いているのにここまで発達するのは珍しく成層圏まで達しており、その真下は雷雨で大荒れ模様。
ただそれ以外の場所は何処までも澄み渡る雲一つない青空が広がる。
その下にはこれまた何処までも見渡す限り何一つ無い、どこまでもキラキラと広がっている穏やかな青い海が。
前後左右何処を見ても同じ軽く弧を描いた水平線。
それはこの星の古代文明時代に新大陸を目指し大海原へと出た者達が見たのと変わらぬ景色。
ただ当時と今では見る者の目線は多少異なる。
当時の最大の敵は大自然。
立ちはだかる海を越え大陸間航路を発見する手段は船舶しかなかった。
それも運任せの命懸けの手段。
それでも大自然を相手に勇気を振り絞り大海原を目指して旅立っていった者達。
その者達の命がけの努力のお蔭で良くも悪くも文明が発展していった。
その後、世界中へと活動の範囲を広げた人類は、この大海原を縦横無尽に駆け巡り始める。
それも宇宙へと進出する頃になると、次第に数が減っていく。
それから数十世紀と時が流れた現在では、この広大な海を渡るのに船も航空機も使われることはない。
余程の変わり者でも無い限り、この惑星の海を時間を掛けて渡るものはいない。
その何一つとして行き交うモノがない海から数km上空に白い球体が一つ、ポツンと空に漂っていた。
球体の表面はまるで鏡の様に曇りがないツルツルで、太陽の光りを一切減退させる事なく反射させ、もう一つの太陽の如く眩しく輝きながら浮いていた。
さらに目を凝らして見ると……その球体の頂点に人らしきシルエットが見えてくる。
良く見るとその者は誰が何処の角度から見ても一目で分かるほどの美人。しかも文句の付けようが無いほどの理想的なスタイル。
巨大な山脈を殊更強調する様に腕を組み、短めのタイトなスカートから伸びたムチムチの生足を肩幅程度に広げて、前を見据えて立っていた。
どう見ても場違いな場所で、しかも誰もいない海原の上空で一人、光り輝く球体の上に立つ女性。
もし神話の時代であれば女神降臨と思えなくも無い。
但し慈愛を司る女神という雰囲気では無い。とてもではないが癒し系の女神にも見えない。
何故ならその者が醸し出す雰囲気のせい。
誰の目にも明らかな程の「冷めた目」で瞬き少なく遥か遠くを見ていたからだ。
その目はその場に姿を現した時から正面だけを見ていた。
時折吹き抜ける強風に被っていた帽子を飛ばされても、ただただひたすら前を見据えていた。
だが不意に眼下へと視線を向ける。
視線の先には穏やかで澄み渡った青い海。
そこには綺麗な海に似つかわしくない大小様々な人工浮遊物が漂っていた。
──さて仕上げといくか。
女性が視線を戻すと突然、左右に人が映った数十枚の空間モニターが現れる。
その内の一つ、他よりも一際大きなモニターに映っている中年男性が慌てた様子で声を上げた。
「き、貴様! こんな所で何をしている! しかも何故こんな事を!」
現れるなり怒号を飛ばしてくる。しかも相当慌てている様で髪や服装が乱れて疲労困憊と言った様子。さらに男性の後方では煙や爆発が巻き起こっており尋常でない雰囲気が伝わってくる。
「何故? 我が探索部が襲われているのは知っている筈。貴殿らはもう時間切れなんだ」
男性とは対照的に感情の籠っていない声。しかもどのモニターも見ようとはしない。
「い、一体何を言ってるんだ⁉︎ それより早く探索者を守れ! これでは「贄」が全員居なくなってしまうぞ!」
「そうもうお終いだ。二百年間、考える時間は山ほどあった筈。なのに貴殿ら政府の要職に居座る者は彼女達から与えられた最後の望みにすら応えようとはしなかった。十二歳の小さな願いに耳を傾けようとはしなかった。たったの一言で救われる「過去」から目を背け続けた。その結果がこれだ。つまりこれは貴殿らが望んだ「滅び」という結果そのもの。当時何があって、どう言う結果になったか貴殿らの立場なら知っている筈。なのに何も変われなかった貴殿らは、彼女達と世界に対し責任を取る必要がある」
「言いたいことは分かる! だが当時も今も全ての者を等しく守るのが我々の使命。だからこそ彼女らの犠牲だけで終わらせる予定だった。それに政府が一個人に対し頭を下げるなど絶対に出来ん! それを一度でもしてしまえば我々政府の存在意義が失われてしまう! 大体当時から我々がどれだけ気を使って……」
「そんな事は椿も充分理解している。だからこそ一部の者達は生かされたんだ。それを踏まえた上で貴殿らは最後の望みを生かすべきだった」
「な! ……大体我々がいなくなったら……」
「もう誰も困らないし、貴殿らが心配する必要はない」
「くっ……」
「ここまで言われてまだ気付けないのか? 何故探索者が襲われているかが! 椿の思いが! 全ては貴様らに託されていたことに!」
「「「…………」」」
「……もういい。それともう一つ。未だに現実を受け入れられない奴らに言っておく。私がここにいるのは整合部及び四賢者の意思でもある」
海面に浮いている残骸をチラ見する。
「な! 四賢者までもが?! そんな馬鹿な……あり得ない」
「信じられないと? なら彼らに助けを求めてみるがいい。もう貴殿らの声は届かない」
「う、嘘だ!」「そうだ! 整合部は中立の筈」「四賢者も同じく」
「貴殿らが知っている整合部と四賢者はもうこの世界のどこにも存在していない。整合部は自らの意志で変わり、賢者会も条件付きだが今では私の管理下だ」
「そんな……ちょっと待て! い、いや待ってくれ!」
「もう遅い。言い訳はあの世で桜と椿に会えたらその時にでもしろ。現世では私が貴殿らの代わりに謝っておく」
「「「…………」」」
「貴殿らのせいで、今この時もこの世界の為に命がけで戦っている仲間が私の帰りを待っている。様々な者が私の到着を待っている。それではごきげんよう……」
言い終えるとモニターにノイズが入り男性の画像が消える。
直ぐに他のモニターにも同じ現象が起き始める。
間も無く全て同じ現象になると空間モニターが一斉に消えてゆく。
「結局はこうなってしまったか……ん? ごきげんよう? 違うな。もうお前らと会う事は二度とないから「さようなら」か」
言い終えると足元に穴が開く。
そこへ体勢そのままスウッと落ちてゆく。
真っ黒な通路に入ると自由落下に制御が加わる。そのままゆっくりと止まることなくコックピットに辿り着きシートにスッポリと体が収まった。
──もう少しでカタが付く。それまで全員自重してくれ……
白色の球体は誰もいない青空から急ぎ移動を開始した。
・・・・・・
「そこの娘、最近太ったじゃろう?」
「え~? そ、そんなこと~ないわよね~」
「なら何故動きが鈍いのじゃ? 駄肉の付き過ぎじゃて」
「え? え~とどこのお肉~?」
「そうじゃなくて姉さんは元々操作が下手なんだな~」
「主任! 冗談言ってないでこっちに応援を回して下さい!」
「無理じゃ! どこも人手が足りとらん! 自分達で何とかせい!」
「そんなーー!」
「そっちに一艦行ったぞよ!」
「え? どこ⁉」
「後ろっす! 避けるっす!」
「ひ、ひえーー何とか躱せた! あ、ありがとう!」
「どういたしましてっす!」
「そこの筋肉娘共! 早う片付けて皆の応援に駆け付けるのじゃ!」
「だーー話し掛けるな! 我は一人で七十万相手にしている最中だぞ!」
「こっちも三十万で手一杯なの! 気が散るから話し掛けないでなのなのなのなの!」
「ならば仕方ない! 基地を動かして援護するのじゃ!」
「へ? 反重力装置も無いのにどうやって?」
「何と……無いのか? 全くサラは何の準備もしとらんの!」
「いやいやウチの基地にも有りませんって!」
「「「はぁーーこんな時に菜緒がいてくれたら……」」」
「私を呼んだ?」
「「「き、来たーーーー!」」」
「およ? お主……一人かえ?」
「はい。やはりこちらに来ていましたね、天探女主任」
「サラがおらぬ基地を守るのは当たり前であろう!」
「班長達までいるという事はあちらは無人?」
「そうなのじゃ! 仲間外れはいかんからの!」
「まあ探索者が第一目標だからいなければ直ぐには手は出さないだろうけど……その分こちらに回されるって考えなかったんですか?」
「い、いや~簡単には見つからぬかな~? っとな」
「相手は一人なんですからそんな「かな~?」の無意味な願望は通用しませんって」
「そ、それもそうかの」
「本当のところは防衛に自身が無かったんですよね? だから少しでも親しい仲のラーナさんを頼ってきたんでしょ?」
「う! ううう……お、お主は相変わらず鋭いの~」
「ハアーー全くいつまで経っても小心者なんだから」
「菜緒殿!」
「はい質問どうぞ」
「我が妹は?」
「夕方までには戻って来れるかと」
「それを聞いて安心した!」
「エマちゃん達は~?」
「エマ・エリー両名はエリスと別行動中。菜奈達と合流してからの帰還予定」
「りょうかい~」
「よし、全艦に指令! 質量兵器で自艦を守りながら敵調査艦に対し光速にて突撃を開始せよ」
「「「待ってました!」」」
「調査艦の総数が三割に減るまで各ペア毎に担当エリアを決めて波状攻撃。それ迄の間、ワイズ・ロイズの両名は敵探索艦を突撃隊に近付けさせないのを心掛けながら誘導に専念、シェリーはその隙間を縫って敵探索艦を叩きまくる」
「「「了解!」」」
「ラーナ・ソニアはドリー前で待機。戦況によっては逐次応援に向かう。ついでにDエリアの現状確認」
「「了解!」」
「第二波が来る前に片を付けます! それでは無効化兵器に注意しつつ応戦開始‼︎」
「「「おーーーー!」」
「流石は我が副官じゃ! 士気が一気に上がったぞよ!」
「これで残るはAエリアだけか。ところで主任?」
「な、何じゃ?」
「今の内に色々と聞きておきたい事が」
「怖い顔をしおってからに。フラれたのかえ?」
「…………」
「なら口説き方を教えろと? それをわらわに聞かれても……ま、まさか既に子が? わらわさえまだなのに……一体誰との子じゃ?」
「……フ」
「?」
「フフ、フフフフ、主任は昔から全くブレませんね」
「そういうお主はだいぶ変わったの。まさかそんな笑顔が見れる日が来るとは思わなんだ」
「はい、それもこれも主任のお陰です」
「………………拾い食いでもしたのかえ?」
「するか!」
笑顔で怒る菜緒であった。
バイクに乗るとシートが熱くて大変……
タオルを掛けておくと猫に悪戯されるし……
乗る際も基本通りのジャンバー(薄手)と手袋装着なので降りる頃には汗だく……
作者的にはガタガタ震えながらの真冬の方がいい……
*「わらわさえまだなのに」→身体に子を宿す、という意味です




