何故ここに⁇
「ホラー作品」はもう少し時間が掛りそうなので先にこちらを投稿しておきます。
*前話は追記してあります。今話はその続きとなります。
「エリス!」
真っ暗な穴を叫びながら普段よりは遅い速度で進んで行く。
というのも今は宇宙服は着ておらず自由が利かないので、手や足を使いながら無重力空間である穴を上って行かなければならないからだ。
いつもの三倍の時間を掛けて球体に辿り着く。
そのまま入ると座席らしきものは見当たらず、金色の髪を靡かせたエリスが気を失った? 状態で宙に漂っていた。
「「え、エリス!」」
両脇から近付き様子を伺う。
聞いた話では艦達から何度も体当たりを受けたらしい。した方が意識を失う程の衝撃であればされた方も当然ただでは済む筈がない。
事と場合によってはマキ達の比ではない可能性するあり得る。
唯一宇宙服に覆われていない顔を注意深く調べると、ケガや打撲した形跡は特に見当たらずいつも通りの姿がそこにあった。
「気を失っている以外……外見上は………問題ないみたいね~」
「うん良かった」
取り合えず無事なのは確かめれた。ただ詳しい状態は調べないと断言は出来ない。
なので早く検査しないと。
このままエリスの艦に調べさせるか、連れ出してアルテミスに調べさせるか……
その時、入ってきた穴が何の前触れもなく閉じられてしまう。
「「え?」」
困惑する二人。指示もしていないのに勝手に閉じられてしまったのだ。
続けて体に軽い振動が伝わってくる。
「え? 上昇している?」
「な、何で~?」
エリスを抱えて困惑し出した所にアルテミスからの脳内通話が。
(どうやらあの人が動かしているみたいだね)
「う、動かしてるって?」
(レベッカニャ! 何か急いでるっぽいのニャ!)
「え、急ぐって~?」
(分かんない。取り合えず行くって)
「え? え? な、なら降りる……」
四者通話にて説明してくれた。
事態の展開に付いて行けず二人揃ってあたふたし出す。
(お願いしたい事があるから乗ってて貰わないと困るって)
「「困る⁇」」
同じ顔、同じタイミングでハモった。
(ウチラも付いていくから心配いらないニャ!)
「一体どこに? 奈緒達はどうするの?」
(みんなが起きるまでには戻すって。残った艦達にはレベッカから説明しておくって。あと行先だけどこの座標は……椿の研究所だね)
「「!」」
驚いていると一度だけ大きな振動が伝わってくる。どうやら跳躍が開始されたようだ。
「有無を言わさず……か」
「余程急いでるって感じ〜? でも急ぐって一体何を~?」
目の前に浮いているエリスを見る。
多分この子が原因だろう。
何故なら他に急ぐ要因が見当たらない。
だけど見た感じ急がなければならない様には見えないよ?
それにエリスとレベッカって……どういう接点?
顔を撫でてみるが反応が全くない。
ただ血色は良く呼吸にも乱れは見られない。
見た目の状態は奈緒達と変わりがないように思えた。
(みんなからの情報連結では正体不明艦に内包されたらエリスの身体が光ってたって)
「それって菜緒達と同じってこと?」
(そうみたいだニャ)
「三人に何が起きたの~?」
訳が分からず困惑していると前触れも無く脇に穴が開く。
と同時に二人の前に空間モニターが現れる。
そこには『エリスを治療カプセルに至急入れて下さい』と書かれてあった。
二人して首を傾げる。
それくらいなら艦AIでも出来る内容。なのにそれを私達にやってくれと依頼してきた。
もしかしてAIの故障?
ラーナやシャーリーの時と同じで何かしらの縛りがあるの?
でもそれは椿が仕組んだウイルスによるもの。
それが今のエリス艦に当て嵌るかと言えば違う気がする。
だってレベル5であるエリスに気付かれずにプログラムの改変が出来たとは思えない。
後はこの艦にもミアが人格設定していた筈。
それが何らかの原因で不具合を起こしたとか。
それは無いか……
でも今思えば私やアルテミスのようなやり取りをしているとこを見た記憶がない。
もしかして自分で変更し直した?
レベル5? らしいし不可能ではないよね……
で、その艦AIを改変したが故に何らかの不具合が発生して作動せず、代わりに(多分この文言を作ったであろう)レベッカが動かしているのでは?
で、レベッカは動かすだけで、細かいことが出来ないのでは?
と色々な疑問が浮かんでくる、がそのお願い事を拒否する理由が無いので、一旦疑問は置いといて取り敢えずは様子を見る事とし、指示に従いエリスを抱えたまま穴へと踠きながらも何とか潜り込んでゆく。
その先には大きめ、とはいえコックピットより二回り程度広い空間に治療カプセルが二台並べてあった。内、一台は蓋が閉じられた状態で。
何故二つ?
しかも片方は閉じている?
と閉まっているカプセルを気にしつつもエリスの宇宙服を脱がしカプセルに寝かせると蓋が閉まった。
中では枕元から口鼻を覆う酸素吸入用マスクが現れ顔に被せられるとカプセル内に見た事が無い薄紫色の液体が注入されてゆく。
満杯になると直ぐにカプセルの足元となる位置に空間モニターが現れると治療の内容が表示される。
それによると……予想通り特に怪我等の損傷は受けていない様だ。
但し、一行だけ見たことも聞いたこともない、気になる表示に目が止まる。
≪リンク不調につき再調整が必要≫
「「?」」
二人とも一瞬だが意味が分からずフリーズしてしまう。
「これって繋がりのことだよね?」
「だとしたらアリスとの間の~?」
それ以外、考えられない。というか至極当然な発想。
一部の者はエリスとアリスは姉妹ではないと言っていた。
仮にそうならば二人は繋がりが使えない筈。だが今までの探索では違和感なく繋がりを使っていたし、それを私自身何度も目撃していたので実は未だに信じられずにいたのだ。
「ってゆーか繋がりって切れるもんなの?」
「貴方だって切れたでしょ〜?」
ん? あーあの時ね。
「あれは気を失ってただけで切れたワケじゃないよね。しかも起きたら普通に繋がってたし再調整? なんて全く必要なかったよね」
「そう言えばそうよね〜」
実の所、繋がりに関して探索部内でも最上位機密に当たる為、詳細はエリアマスター以外には一切公表されていない。
更に候補生育成施設ではAI主導による訓練や作業を黙々と熟すといった内容となっており「繋がりとは?」に付いて詳しく教えられぬまま、いつの間にか使える様になっていたという程度なので良く分からないのが現状。
ましてや訓練課程すら経ていないこの二人には知る由もない。
スヤスヤと寝ているエリスを眺めて考え込む。
それはそうと……
「蓋が閉まってるって事は使用中って事だよね?」
「多分〜」
カプセルとの間にいた二人は180度向きを変え、スモークが掛かった蓋に向き直る。
今言った通り、基地の治療用カプセルと同じで、使用中は蓋が閉じ外界と完全に遮断される仕組み。
さらに治療中は今のエリスのカプセルと同じで治療内容がモニター類で表される。
但し中に人がいてもモニターが出ない場合もある。
一つ目は意図して表示させない。
例えばアルテミスの中でエマが治療カプセルを使用した場合、艦内に見せる相手がいないのでモニターを出す意味が全く無い。なのでモニターを出さない。
二つ目はただ単に中で寝ている場合。
こちらは治療では無いのでモニターは出てこない。
どちらにしても一目で見分けられる様に、中に人がいない限りは蓋は開けられているのだ。
二人は無言で蓋を眺めながら同じ事を思う。
──この中に「誰か」がいる。
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
その音にエリーが反応。音を立てた妹に目線を向ける。すると、カプセルを見つめながらポツリと呟く。
「だ……誰だと思う?」
どうやら中を確認したいらしい。
「わ、分からない〜。でも~」
弱々しい返事。妹とは違い姉は余り乗り気ではないようだ。
「さっきアルが言ってたよね」
「ええ、何を見てもってね〜」
「「…………」」
「多分……だけど……この中に……エリスの秘密が……入ってる気がする」
静まり返る部屋。
ゴクリ
今度はエリーが生唾を飲み込んだ。
「もしかして……行方不明の……方よね?」
「うん、かも知れない。それならアリスとリンク出来るって説明がつくよね?」
「…………確かに」
「大体こんな会話をしてるってのにレベッカやアル達から何のツッコミも無い。つまりみんな止める気が無いって思わない?」
「そ、そうかもね~」
「ましてや見せたくないなら部屋を分ければ済む話だし」
「た、確かに~」
都合の良い解釈をし出す二人。
実際の所、その解釈はアルテミス達に関しては間違いではなかった。
カプセルを見ながら話をしていたが、合図した訳でもなくお互いに顔を向けぎこちなく頷き合う。
「よ、よし。い、いくよ」
「え、ええ」
意を決し艦に命令を出そうとした途端、さり気無く妹の背に隠れる姉。
「な、なんで隠れるの?」
「え? な、何となく~」
「もう、こんな時ばっかり……」
仕切り直し、今度は艦に命令を出した。
「この……カプセルのスモークを解いて」
するとスモークが段々と薄れてゆく。
その様子を瞬き少なく見守る。
段々と中が見えてくる。
二割ほど薄れた時点で内部に「人」らしきものがいるのが見えてきた。
「だ、誰だろう……」
シルエットから想像するにエリスと同じく小柄。
さらにどこかで見た記憶がある服? らしきものを纏っている。
そして時が経つにつれ、その者が誰かが判明した。
「「…………つ……椿…………」」
そこには先日Aエリア基地で会った時と同じ格好をしたあの椿が目を瞑り横になっていたのだ。
姿を見た途端、思いもよらない人物がいたことで息をするのも忘れ見入ってしまう。
と言うのも二人共、発言からも分かるようにここには行方不明のアリスの姉が「何らかの形」で関与していると思っていたのだ。
行方不明と言っていたがそれはフェイク。
実はすでに見付けて偽装した上でエリスとして活動させていたか、又はアリス達の世界の技術を使って艦内からエリスをコントロールしていたかのどちらか、と。
それには一応、根拠もあった。
想像通り姉がエリス艦内にいたならアリスとの繋がりの説明も付くし探索艦との繋がりの説明も付くからだ。
だが期待は裏切られる。実際にはあの椿がいた。
黒髪の可愛らしい寝顔。
エマは実物は一度しか見ていないが夢? の中で何度も見掛けている。
エリーにしても研究所で何度か会話を交わしていたので見間違える訳がない。
「ど、どうしてここに椿が……」
「わ、分かんない~……」
だがこれで益々混乱してしまう。
両脇にいる二人はレベル5。
いくらレベル5とは言え赤の他人とは繋がりは出来ない筈。
残るはレベッカ経由で繋がりの真似をしていた、くらいしか思い浮かばない。
レベッカにそれが可能なのかどうかは分からないが、以前艦を動かすのは可能と言っていた。
なので否定は出来ないが、彼女は「常時の接続はしていない」みたいな事を言っていたので可能性は低いと思われる。
繋がりに関しては必ず「タネ」が隠されている筈。
多少ショックを受けたが大したダメージは受けていない。
それより今、二人を混乱のどん底に落とした理由は他にある。そう最大の理由は、
<何故ここに椿がいるの⁇>
の一言に尽きるだろう。
椿と知り合いなのは本人が認めている。
研究所にいたのも間違いない。
そして椿の依頼で私達の手助けをしに来てくれた、とも言っていた。
椿はどこで乗り込んだ?
私達が保養施設にいた時?
ドリーでエリスが単独行動を取った理由は合流するのに皆がいたら不都合だったから?
あの時以降は常に一緒にいたので乗り込む機会はなかった筈。
いや、そもそも目の前の椿は本人なの?
さっきハナちゃんが「エリスを助けなさい」って言っていたよね。
それを指示したのはレベッカ……よね? 他には考えられないし。
だとしたらレベッカにとってエリスは「他を犠牲にしてでも救わなければならない程のかなり重要な存在」だと言える。
そのレベッカにとって椿は人生を掛けた大事な存在。
その椿が乗っているエリス艦の危険を察知したレベッカが探索艦に対し「助け出せ」と命令を出した……と。
どちらの優先度が高いのかは分からない。だけどこれならレベッカが関与した経緯の説明が付く。
だけど気がかりな事がもう一つある。
それは何故アルテミスは「エリスが原因」と言ったのか。
もし「椿が原因」だとして、私達に椿の存在を知らせたくないなら「他に原因が」とか言って茶を濁してもいい筈。なのにアイツはそう言わなかった。
つまりエリスが原因で間違いない……筈。
三人の関係が分からないので全てが想像の範疇から抜け出せていない。
そしてもう一つの心配事。
それは突撃の原因となった正体不明艦。
奴の目的は一体何だったの……?
奴により被害を被ったのはエリス、菜緒、菜奈の三名。
三名とも不明艦によって身体に異常が起こされた、と思われる。
三人に共通するのは…………アリス?
確か菜緒菜奈はアリスの遺伝子を受け継いだ、と。
エリスはアリスとリンクが出来る、つまり赤の他人では無いってこと。
──アリスに聞くのが一番手っ取り早そうだね。
(エリ姉ちょっといい?)
(どうしたの~?)
(ちょっと考えを纏めてみた。聞いてくれる?)
(はいな~)
(……………………)
脳内通話で持論を披露していると大きな振動を感じる。
多分跳躍が終了、減速に移ったのかもしれない。
先程から感じる振動は通常ではあり得ない。
艦AIにより完全制御されているから。
やっぱり艦AIの調子が悪いのかね?
(話の途中みたいだけどもう直ぐ着くよ)
アルテミスからの報告。
「外の様子をモニターに映して」
すると二人の前にモニターが現れ、そこに巨大な研究所とその背後に二重惑星が映し出された。
この艦は私の指示にはキチンと従っている。
アルテミスと比較しても調子が悪い風には感じない。
まあもう到着だし気持ちを切り替えないと。
「ここにエリ姉が?」
「そう。また戻ってくるとは思ってなかったな~」
今回はレベッカが約束してくれているので軟禁? みたいな事態にはならない筈。
そんな会話をしている間にも画面に映った研究所が見る見る大きくなってゆく。
そして間近までくるとハッチが横並びで三箇所開き、そこに結構な勢いで入っていく。
ドッグのハッチが閉じると同時にモニターが消える。
次にエリスと椿が入ったカプセルがゆっくりと壁面へ潜り込んでゆく。
結局二人が目を覚ますことは無かった。
途中で椿が起きたらどうしよう? って心配は杞憂に終わった。
二人の姿が消えると壁面に穴が開く。
その穴を見てからお互いを見る。
「出ろってことよね?」
「どのみち乗り換えないと帰れないわよね〜」
どうやら選択の余地は無さそう。
二人で協力しながら穴に潜り込み出口まで進んで行く。
出口手前で止まり、揃って頭だけを出し外の様子を伺うと……
デッキに黒服を中心とした人だかりが出来ていた。
その中心にはカプセルが二つ。
「直ぐにお連れして!」
「「「は、はい!」」」
静まり返ったドッグ内に良く通る声。
カプセルの脇にいた黒服の中年女性が指示を出す。すると研究者らしい服を着た全員がエリスが入ったカプセルと一緒に移動してゆく。
姿が見えなくなると椿が入ったカプセルと黒服だけがその場に残った。
すると指示を出していた女性がカプセルに向き直り深々と一礼をする。
それに合わせて残りの黒服の者達も同じく一礼をした。
その礼に合わせる様にカプセルの蓋が音もなく開いてゆく。
「ふぁ〜〜よく寝た〜〜」
開いてから僅かな間をおき、徐に背伸びをしてから上半身を起こす。
声を聞き姿勢を戻すと、二人はにこやか笑顔で挨拶を交わした。
「お帰りなさいませ。椿様」
「うん、ただいま!」
「レベッカ様からご連絡を頂いた時は驚きました。一体何が起きたので?」
「私にも分からない。それよりあの二人のおもてなしをお願い」
「はい? どなたを、です?」
覗き見している二人に手を振りながら視線を向ける。
黒服の中年女性も二人を見る。
さらに周りの集団も一斉に目線を向けてきた。
行き成り多数の視線が集まり逃げ腰でオドオドし出す姉妹。
「エリー様と……エマ……様ですね? 畏まりました」
一同はエマ達に向き直り一斉に頭を下げた。
ホラー作品に手間取っています。
なので今回のように投稿間隔が開くかもしれません。
予めご了承下さい。




