決戦開始!
今話も修正にかなり手間取った。
でも最近気に入らなければ千文字程度なら躊躇う事無くズバッと削除する度胸が付いてきたので、以前の様に悩んで手が止まる頻度も減った気がする。
*今話前半は変わらずののんびりムードです
食後は全員で片付けを行い、作ってくれた者への労いを兼ねて周辺散策へと向かうことにした。
足袋からシューズへ履き替えいざ外へ。
とは言えここへの降下中、上空から見たので周辺には何もない事は分かっている。
今いる場所は山に囲まれた小さな盆地。しかも大半が木々に覆われており空き空間と言えるのは降り立った場所と今いるところくらいで他には何も無い。
外は盆地の特有の無風状態で風も無く、さらに陸上生物もいないので音を立てる要素がなく、隣の息遣いが聞こえる程に静まり返っていた。
だがその中、唯一我々以外で音を出しているモノが存在していた。
上空からもキラキラと輝いて見えていた「小川」だ。
この川は森の中から現れ、建物の裏手を通り抜け再度森の中へと消えてゆく。
舞台にいる時も「チョロチョロ」といった音だけは聞こえていたので気になっていた。
他に気晴らしになるモノもないし建物の周りを歩き回っても疲れるだけなので、それならばと言うことで菜緒に「見に行かない?」と誘ったところ嬉しそうに同意してくれたので行くことにする。
するとみんなで行こうという流れになり、僅か数十mの散策に向かった。
「あらあら~凄く澄んでて綺麗~」
「ホントに綺麗」
幅は三m程で水深も二十cmにも満たない程に浅く流れはとても緩やかで、川底の砂や石が手に取る様にくっきりと見えている。
「あ! 何か……いるよ」
指差す先には……小さな魚が。
「あ、あっちにも」
「こっちにもいる~」
大きさは大体二十cmくらい。よく見ると結構な数が泳いでいるではないか。
ってゆーか言われなきゃ気付かなかったかもしれない。
と言うのも外敵がいないせいか我々が近付いてもエラとヒレしか動かさず逃げようともしなかったからだ。
「捕まえても……いいかな?」
「……食べるの?」
「食べても……いいかも」
「よしちょっと待ってて」
単に戯れたいだけだったみたい。
私も食べるという選択肢は思い浮かばなかったけど、先日の「魚=ノアが釣ってきた魚の味」を連想してしまったので、つい口に出してしまった。
急いで魚を入れる容器を取りに戻る。
目に付いたバケツらしき物を持ってきた。
「お待たせ!」
水を入れ川縁に置く。
「行って……くる……ぜ」
シューズを脱ぎ、袖と裾を捲り上げ、気合い? を入れてから川へそーと入って行く。
「そんなに……冷たくないね」
「へーーどれどれ?」
触れてみる……うん確かに。多分15℃前後? かな。
高地の湧水なのに冷たくないし、水量も多い。
「あ、うーー、意外と……すばしっこいね」
ビチャビチャと水飛沫を上げながら追いかけ回す。
初めはジッとしていた魚たちも音や影に驚いたようで、本能に従い逃げ回り始めたので捕まえ難くなってしまい、そのせいで体勢を崩し始める。
だが負けずと後を追いかけてゆく。
三人はそんな微笑ましい光景を川縁で座りながら眺める。
「菜奈、川底は滑りやすいから気を付けてね」
「うん」
笑顔で頷き合う姉妹。
川底には砂だけではなく結構な数の小石が埋まっており、その小石に苔まで生えている。
ただ足裏よりも大きいサイズは見当たらないので盛大に転ぶような事態にはならないと思う。
そんな二人のやり取りを和やかに見守る。
今の二人は誰が見ても文句のつけようがないほどの「普通の姉妹」にしか見えない。
とても過去に苦難の時期があったとは思えない穏やかな笑顔。
今の二人には「普通の姉妹」以上の強い絆を感じた。
特に詳細を知っているエマは感慨深くその二人を見守る。
突拍子な行動を取る妹。その妹に気を遣っている姉。
今思えばCエリア基地で初めて会った時、二人の心に笑顔はなかった。
姉妹だというのに「何かを抱えている」のを感じた。
今は……あの時感じた「何か」は微塵も見当たらない。
「や、たった!」
悪戦苦闘しながらもなんとか一匹捕まえた。
手の中でピチピチと暴れる魚をこちらに見せてくれる。
「やったじゃない!」
「大きい~」
喜ぶ姉達。
「菜奈こーゆー場合はね「取ったどーーーー!」っていうの」
微妙な顔で訳の分からないアドバイスをすると姉達にジト目を向けられた。
その目から逃れようと立ち上がりバケツを菜奈に差し出すと持っていた魚をそーと入れてくる。
二人で中を覗き込むと何事も無ったの如く動かずにジッと浮いていた。
興味津々で見ている菜奈の顔。その横顔はハッキリと分かるくらいの好奇心で輝いて見える。そのせいか、年齢よりもかなり若く見えてしまう。
とこちらの視線に気付いたのか顔を向けて来ると目線が合った。
「よし! 私も参戦すっかな!」
同じ様に袖と裾を捲り上げ、意気揚々と川の中へ。
「私も……もう一度」
「なら左右から追い立てていかない?」
「うん……分かった」
一度岸に上がり上流と下流に分かれてから再度入水、ジリジリと近付いて行く。
魚達は感じたことのない気配を察知したのか、こちらの思惑通り一か所に集まり始めた。
二人の距離が四m程になった所で一旦止まり様子を伺う。
すると合わせるように魚の動きもピタリと止まった。
そこで顔を見合わせ声を出さずに「三……二……一」と口を動かし「0」と同時に一斉に飛び掛かった。
「「と、取ったどーーーー!」」
二人共運よく? 掴めた魚を高々に掲げて見せ合う。
見ると口をパクパクとさせ手の中で元気よく暴れまわっていた。
「うぉ? おっとっと!」
「きゃ、キャーー」
生れて初めての生魚。
力加減が分からず緩めに掴んでいたので手から飛び出してしまい顔に直撃。それでも負けずに空中でキャッチしようとしたところ、思わず足を絡ませ転んでしまう。
その際、反射的に目の前まで来ていた菜奈の腕を掴んでしまい、そのまま水の中へと道連れにしてしまった。
「あらあら〜」
「二人とも大丈夫?」
姉達は「やっぱり」といった呆れ顔をするだけで助ける素振りすら見せない。
「あ痛たた……ご、ごめん」
「ううん……気にしない。でも……服がびしょ濡れだね」
うん「水も滴るいい女」状態だ。
おかげで色んなモノが透けてしまう。
だがそんなのは気にしない。だってこの星には私達しかいないのだがら。
「うーん、丁度いいかも。これなら濡れるの気にせずに捕まえられるじゃん」
「そうだね」
「よし! 一人一匹食べるとして後三匹捕まえるど!」
「うん! 頑張ろ」
その後は警戒されてしまったのか中々捕まえる事が出来ない。
そこで堤防を作り魚を追い込む作戦に変更したところ、苦なく目標をクリア出来た。
「かなりの大漁だけどどうするの? 食べきれないわよね?」
バケツには入り切らないので、堤防を加工して新たに「生簀」に変更してみた。
「食べる分だけ取って、引き上げる際には堤防崩して逃すってことで」
どうせ明日には撤収。それまではお魚達も我慢してくれるだろう。
「それより貴方達、早く着替えないと~」
二人共、濡れた服が身体に纏わりついて、宇宙服と同じ状態。
「そうだね……着替えよ?」
「うん、これならお風呂の準備でもしとけばよかったね」
(エマ~)
アルテミスから突然の呼び掛け。
それに対しピクリと反応、脳内通話で応じた。
(ん? どした? 何か問題発生?)
(んにゃ問題は起きてないよ~そうじゃなくて~そこに出そうか~?)
(……お、その手があったか! なら早速お願い)
(ちょいとお待ちを~)
「今、準備するからちょっとだけ待ってて」
声を掛けると三人が首を傾げる。
笑顔を送ってから上を見上げる。するとはるか上空で待機していた四艦の内の一艦が降下、周りの木々の高さより僅か上で停止した。
次に艦から光が地面に向け発せられると「岩風呂」が徐々に構築されてゆく。
「お湯は定期的に交換しとくから~適当に使っておくんなまし~」
全員に聞こえる様に艦外音声で説明してくれた。
「い、岩! ……何でこんな物、艦に積み込んでるの?」
「いや~~趣味でね~~」
「凄いよね……でもどこで……手に入れてるの?」
「ん? 勿論探索中に見つけたら片っ端から収集、てな感じ」
「へーーーー石だけじゃなかったのね~」
ギク!
「それでちょくちょく帰還が遅れてたのね~。そう言えばエマのお風呂はどうやって入手していたのか前々から疑問に思ってたのよね~」
「え、え~と」
キラキラ石を集めていたのは説明してある。さらに艦内に「風呂」を作れる件も教えてある。
その二つは半ば公認となっているし、真似をしている者までいる程。
真似をしている他の者は風呂に関しては正式なルートで部材を取り寄せているので探索には影響は無いし、ましてや仕事中に入るなんてふざけた奴はいない。
「エリー聞いて~エマはね~結構艦使いが荒いんだよ~」
ちっ……アルめ、告げ口を……
「あら可哀想に~」
「う、うう……」
「ま、今となっては注意のしようがないし~」
「そ、そうそう! そんな細かい事、気にしないでみんなで入ろ!」
逃げる様に菜奈の手を引いて岩風呂へ。
そのまま素っ裸になり湯舟に頭からダイブする。
「ぷはーー! う、うへ~~冷えた体には最高だね~~」
息が苦しくなるまで浸かってから顔だけ出しての一言。
「ううう……気持ち……いい~~」
隣では同様な行為をしていたみたいで至福顔の菜奈が湯面から現れた。
別人の様な天使の顔で最上級の至福顔。
その表情を見た途端、反射的に抱き着いてしまう。
「んーーーー可愛い!」
理性を失いかける寸前に頭を小突かれ我に返る。
どうやらエリーに拳骨を貰ったようだ。
見ると二人も入るみたいで服を脱いでいる最中だった。
「菜奈さんが苦しがってるから開放してあげなさい~」
言われて気が付き急いで手を離す。
「え? ……もうお終い?」
上目遣いで聞いてくる。
どうやら嫌がっていないみたい。
しかしそんな保護欲っていうか母性を擽られる視線と言い方されたらね、我慢の限界が……
と理性の狭間で葛藤、手をプルプルさせていると視界の端から立派な山脈を携えたないすばでぃーのお姉さんが菜奈の隣を横切り、回り込んでからエマの隣に大きな音をさせ座った。
その際、一切隠そうともせず、逆に見せつけるかの態度でゆっくりと歩きながら。
お蔭でそちらに視線が釘付けとなったので、苦せず菜奈からの離脱に成功する。
そんな単純なエマを呆れ顔で眺めるエリー。
あらあらみんな単純ね~。
でもこの三人にクレアさん? が加わったら……
もっと面白いモノが見れるかも~
両手に花? 状態の妹を眺めながら僅かな時間、天然温泉を楽しんだ。
・・・・・
(あれれ? あまり変化が見られなかった四人の数値が急激に跳ね上がってない? 一体何が起きたんだろ?)
……そうね。この地の影響かしら? それならここを選んで正解だったわね。
(この調子ならどっちに転んだとしても充分間に合いそうじゃない?)
……どっちにって……まだ怖いの?
(ううん、もう怖くない。だって結果は初めから決まってるんだから。だからこそこの子達に私達の運命を委ねたんじゃない)
……そう……ならこちらの計画には変更が無いってことね?
(うん! あの人達も含めてどう転ぶかは……お楽しみってとこね!)
……貴方は……やはり怖いんでしょ?
(うん……ちょっとだけね)
……全く……何年たっても気持ちは昔のままってことね。でも全てが終わったら…………彼女達にはちゃんとお礼を言いなさいね。約束よ?
(え? ……う、うん分かった。お姉ちゃんに会えたら必ずする)
……分かった。時間も限られてるしそろそろ「運命」を動かし始めるけど……本当にいいわね?
(はい! 遠慮なくお願いします!)
・・・・・
広い指令室に詰めている多数の職員。
ここAエリア基地の職員数は他エリアの三倍強。
なぜ人数が多いのか? それは各班長の下に最低二名の「副班長」を配置しているから。
これはAエリアは広大で仕事量が膨大となるので致し方ない。
だがここの副班長は他の役割も兼ねている。
探索者でいえば「候補生」と同じで立場は「班長見習い」となっていた。
将来他エリア創設時や欠員が出た際には「班長」としてここから転属することになるので、日頃から班長の厳しい監視と指導の下、技能を磨いている状態なのだ。
この制度を決めたのは探索部本部長。
この部長は「超」が付くほど「真面目」で「優秀」で「イケメン」と三拍子揃った中年男性。
さらに同格である個性豊かなエリアマスター達と対等に渡り合う能力を有している秀才。
そして彼は事務方で唯一「探索部の目的」を知っている人物。
なので探索者達を支えるため探索部全員の性格まで詳細に把握し事細かく管理し円滑なサポート体制を構築してきた。
その一環で採用したのが副班長制度。
ゼロエリア創設当初の班長達から増員の要望があったので人員補充を考えたのだが、それなら新たな基地の創設時に即戦力として任せれる者の育成も兼ねさせようと副班長制度を採用したのだ。
因みに班長・副班長の任命権は部長に一任されておりエリアマスターや長老は関与していないし選考理由も知らされることはない。
突然一部の班長達の雰囲気が一変する。
大半の者は黙々と作業をこなしていたが直ぐに全体が緊張した雰囲気へと変わった。
その職員達の後方には一回り大きいシートに座りながら目を瞑り腕を組み何かを思案しているアトラスの姿が。
「……主任! 何者かが跳躍してきました!」
「数は?」
体勢そのまま聞き返す。
「現在約五万隻、距離は約五光秒。尚も増加中!」
「詳細確認急げ」
「りょ……判明! 調査艦です!」
「ほほう。予想より早かったの」
ここでゆっくりと目を開けた。
「敵艦の総数、十万を超えました! 尚も増加中!」
「やはりの。五十万を超える迄待機」
「了解!」
「その中に不穏な奴らが紛れ込んどるかもしれん。識別を密に」
「了解!」
指令席に座り壁面モニターをジッと眺めながら指示を出す。
声には僅かだが怒りが感じられた。
見れば顔にノアに付けられた青タンの跡が僅かに残っているが、丁度反対側の位置には新たな青タンが出来ていた。
因みにこの新たな青タンはアトラス自身が付けたもの。
自らの失態にケジメを付けるために……
先日女神と崇めるローナが突然訪れた。
彼女が所属するBエリアが大変な時期なのに。
彼女が代役を使わず直接やってきたのには訳があると思い一つ返事で面会を了承した。
初めは彼女のペースになるまいと我慢していたが、無駄な抵抗に終わってしまう。
だがお陰で変わりのない姿を拝めたので良しとした。
その後に訪問の目的を聞いたがとんでもない内容だったので、一時全ての業務を停止させ確認作業に手間を取られる事態になってしまう。
それは彼女が去った後、夢の中に現れた神様が顔面パンチと腹部へのジャンピングキックの映像を見せてくれたことに発端する。
普段のアトラスならそんな素晴らしい夢を見せてくれた神様には最上級の感謝を捧げるのだが、今回はそんな気分にはなれなかった。
というのもローナに「ここ一週間の出来事は覚えている?」と思いもしなかった質問を受けた際に彼女から不穏な空気を感じたのと夢を見たことにより、自らの記憶を疑い整合性を各班長達に調べさせた……のだが予想に反し記憶と活動記録との差異は見られなかった。
その瞬間、自分の感が的中したと確信に至る。
誰かによって全てが改竄されてしまったと……
確信には当然ながら証拠があった。
それは自らの顔に刻まれた痣。
揺るぎ無い証拠が存在していたのだ。
因みにここ一週間、顔をぶつけた記憶もないし誰かに指摘をされた記憶も記録もない。
普通の者ならば記憶の混濁等と曖昧に処理してしまう程度のことなのかもしれない。だがアトラスは性格上、そんな状態を放置出来ない性分であった為、即医務担当に怪我を調べさせた。
結果、夢の状況が怪我の具合とが完全に一致してしまう。
すると怒りが沸々と沸き起こる。
どうしてそんな美味しい記憶を失ってしまったのかと。
二度と同じ失敗を繰り返さないために自らを戒める意味で自分で自分を殴ったのだ。
その後改竄された「空白の時間」に何が起きたのかを調べるため、基地内の全AIや記録媒体のチェックを行う。だが基地AIや探索艦のAIも含めどこを調べても空白の時間を示す記録は残されていなかった。
ついでに並行して遅延型や地雷型等の様々なウイルスが残留していないかを調べたがこちらも存在が確認出来なかった。
ローナがここでした事と言えば内部空間の調査とサラ主任が立案した防衛計画の変更提案だけで、空白の時間には何も言わずに、何もせずに去ってしまった。
だが言動から察するに、Aエリア基地の内部空間に起因する何かが起きていたのは間違いない。
そして名前が挙がった者や夢に出てきた者が我々が動けない間にここに来ていたのも間違いない。
ローナは事情を知っていたようだが何の説明もせずに去って行ったのは何故か?
内部空間も空白時間も共に解決済みで考慮の必要無し、でその件に触れる必要も無しということ。
その考えには賛同する。
探索部特製の防壁を突破するほどの高レベルな者に改竄されてしまった記憶や記録は我々には復元する手段がない。
内部空間にしても「長」との約束もあるし、ローナも「何もするな」と助言してくれたので、こちらの件も今まで通り触れずにしておく。
つまり注力すべき事柄は過去では無く、今後の襲撃を如何に防ぎ切るかが最重要なのだ。
ローナの考えでは初めはAエリア基地への直接行動は避け封鎖を優先、その間に他エリア基地を殲滅した後に最後に料理することになるだろうと。
ローナからもたらされた敵となる艦の情報を精査した結果、奴らの作戦の裏をかくという彼女が提案した戦法が最善との結論に至ったので入念に準備をして待機しておいたのだ。
「流石は女神じゃの。抜け目がないの~」
今度、本人そっくりな像を作り部屋に飾ろうと心に決めたアトラスであった。
*怪我の具合……細胞の損傷具合から「いつ」「どのような角度」で「どんなモノ」に「どのくらいの力」で「どんな風に」衝撃を受けたのかを調べて貰った
次回は来週末までには投稿します




