儀式×2 猫耳メイド!
遅くなりました
*前話「踏ませなさい!」にアリスが基地に戻って来た際のやり取りを千文字程度、追加してあります。
今話後半はその続きとなります。
元気な声で寝ていた三人も目を開けた。
「ふぁぁ〜おはよう〜……って貴方達、朝っぱらから何してるの〜?」
「ん……え? エリス……さん?」
「エマ……ちゃん?」
眠気眼の状態で、理解しがたい様子が飛び込んできたので呆気に取られてしまう。
「え、えーーと」
布団の上で横になりエリスに向け手を伸ばしているエマの姿が。しかも服が絶妙な塩梅で乱れているではないか。
さらにもう一人、腰の上に馬乗りになり満足げのエリスの元気な姿もあった。
まあ突然この状態に出くわせば、誰が見ても二人がイチャついている様にしか思えないだろう。
ましてやこの二人が仲が良いのは周知の事実。
と言うワケで三人の目にもそういう風に映ったのだ。
一方、エマは三人が何を考えているのかを察し、言い訳を考えるのだが咄嗟の事で頭が全く回らないのでアタフタし出す。
「お? やっと起きたナ? それじゃ朝ごはんにするカネ」
もう一方、馬乗りのエリスは三人に挨拶をすると、何事も無かったかの如く上機嫌で立ち上がり、金髪を靡かせながら舞台から降りていく。
その様子を目で追う四人。
「えーーと、邪魔しちゃった~?」
その質問に対し小刻みに首を振る。
えーーと……邪魔では無かったと思いますです、はい。
エリーは私の表情から何となく事情を察してくれたみたいで、私ではなくエリスをチラチラと見ていた。
だが残りの二人には同じことを期待するのは無理みたいで、姉妹でコソコソと何やら内緒話をし始める。
そして何度か耳打ちを終えると二人揃って蔑んだジト目を向けてきた。
おいおい! 君達なにか誤解しとらんかい?
ってゆーか、ここはあたしの布団だぞ?
君達が考えてる状況ならあたしが襲われた方にならないかい?
言い訳しようとしたところで姉妹揃って舞台から出て行ってしまう。
はあ~~~~
今朝も草原の上で思い思いの位置で取っていた。
グループは大まかに分けて二つ。
レジャー組と修行組。
とはいっても皆で大きな円を作り、向かい合わせで座る。
さらにエマの隣にはノアが、マキの隣にはエリスが陣取っているので厳密には分かれてはいない。
ここでもBエリアのお決まり事が守られているのか、用がない限り口を開く者はおらず静かに食事が進んでゆく。
本日の朝食はハムエッグトーストとサラダ、後は各々好みの飲み物と軽い内容で皆一緒。
だが只一人、リンのトーストだけは全て具が異なる五段重ねと、自らの顔程の大きさがある特製となっており、キラキラ目で幸せそうに食べていた。
「お姉様、今日も修行なのですか?」
朝食を取り終え寛いでいると、後ろから声が掛かる。
いつの間にか、紅茶片手に背後に来ていた様で笑顔と共に差し出してきた。
「うん。まだ全然足りてないみたいだから」
手―カップを受け取り一口飲む。そのままエリスをチラリと見る。
すると聞いていたのかこちらに目を向けずにうんうんと頷いていた。
「そんじゃ頑張れ! 影ながら応援しとるさかい」
「エマさん! 頑張って下さい! 私も応援してます!」
「はいはい」
「ほなら行こか」
他の者にも聞こえていたらしく、次々と立ち上がり食器を片付ける為、モノリスへと向かい始める。
エマ達も立ち上がりモノリスへと向かい始めたのだが、一人だけその場を動こうとしない者がいた。
「ランランどうしたのだ~?」
こちらもいつの間にか傍に来ていた姉に声を掛けられたのだがエマを見たまま目を離さそうともしない。
「……私……今日はここにいます!」
その言葉で一人を除き視線がランに集まる。
「どないした?」
食器を収納した状態のまま顔だけ向けてくるマキ。
「だって私達の為に苦労しているのに遊んでなんていられません」
「ランランが残るならリンリンもここにいるのだ!」
「姉様……」
ランに対してではなく皆に宣言をするリン。その姿を見て感動するラン。
いやいや、リンはランの為に残るのであって私達に気を使っているのとは違うんでないかい?
「いやチョイ待て。逆に邪魔にならんかの?」
「今が一番肝心な時期じゃないのかな?」
マリとシャーリーは違う意味で気を使ってくれているようだ。
ここで意見が二手に分かれてしまう。
因みに私としてはどちらでも構わないと思っている、がこの場を仕切っているのは私ではない。
先程から唯一、話に加わっていなかったエリスを見ると丁度食器の片付けを終えこちらに向き直ったところだった。
「知らんゾ。ホントどうなっても知らないゾ?」
冷めた目でランに忠告してくる。
その言葉と目付きで一瞬だけたじろぐ、が決意に満ちた目をエリスに向け頷いて見せる。
「な、なら私も!」
負けじとシャーリーも追従してきた。
「し、仕方あらへん。マキ、ウチらも付き合うで」
「皆がええなら」
醒めた目で目配せをした後「好きにスレばーー」と言い残し、舞台へと向かって行ってしまう。
「……私は止めておく、かな」
「「「え?」」」
ボソリと呟き声が聞こえた。
その呟きにマリ・マキ・シャーリー・ランから驚きの声が漏れる。
何故ならこういうパターンの時は間違いなく参加してくると思っていたのだが……
先生は皆の視線を浴びながらも食器を片付けると、何も言わずにトコトコと一人歩いて行ってしまう。
「エリス。どうなるって? 一体何を心配してるの?」
「私は知らないのネーー」
振り向かずに両手の掌を上に向け「知ーらないっと」といった仕草を残していく。
「……ねえ、マキさんは不味くない?」
小声と共に腕を小突かれる。振り向くとすぐ傍に菜緒が来ていた。
そうだ、マキは確か……
でも相方のマリはまだ……
いやもしかしたらもう……
どちらにしても見分けることは今の私達には出来ない。
だがエリスなら見分けることが出来るかも?
だからこその忠告?
さてどうしたものか……
「エリス、舞台に上がらなければ問題ない?」
「好きにシテ。決めるのは本人ダ」
後ろ向きなので表情は分からない、がかなり機嫌が悪そうな声色なのは間違いない。
「あの言い方だと~舞台以外も場所も可能性がありそうね~」
「どうする……の」
「…………」
いつの間にか三方を囲まれていた。
「…………ま、何とかなる!」
「出たわね! ポジティブ思考が!」
「ってゆーか、そーゆーの決めるのが君の役目でないんかい?」
逆に菜緒に詰め寄る。
「あら、私は今では賛成よ? 当然じゃない」
「へ? 何故に?」
「可能性は多いに越したことないでしょ~♪」
「?」
「貴方が今、心配するのはマキさんではなく貴方自身。このままでは間に合わなくなるかもよ?」
「うっ! 確かに」
「だからフラフラしないでしっかりなさい!」
「キャッ!」
お尻を叩かれた。
でも何故に賛成なの?
「じゃあ~私も~」
「い、痛!」
姉にお尻を叩かれた。
「エマちゃん……大丈夫?」
「へ? ひゃぁぁ……」
最後は優しく擦られた。
「な⁉ 菜奈ったら、よくも!」
「エリスさんにだけ……いつになったら……私にしてくれるの?」
してくれる? ……あー儀式のことね。
「よーーーーし、良くぞ言った! その心意気や良し! お望みとあらば今直ぐにでも儀式を行ってしんぜよう! 皆の者、心の準備はいいか?」
「「「おーーー!」」」
掛け声に皆がすぐさま反応。一斉に雄叫びを上げる。
今から恐ろしい儀式が始まるというのに、何故か期待の籠った眼差しで一緒に手を上げて待ち構える菜奈。
今まで理由も分からず散々待たされ、もしかしたら忘れられているのでは? とも思っていたのだが、ちゃんと覚えていたようで取りあえずは一安心。
「それでは皆の衆、一斉に掛かれーーーー!」
「きやーーーー」
皆が一斉に飛び掛かる。勿論姉である菜緒も積極的に。
だが何故か真っ先に動いたのは生贄となる菜奈。
エマの手を引き寄せ思い切り抱き寄せ熱ーいキスをしてくる。
そこに無数の手が伸びてきたかと思うと、何故か菜奈だけでなくエマにも容赦ない魔の手が伸びてきて二人を分け隔てなく擽り始めた。
「ん! んんんんーーーー!」
咄嗟の事で、しかも完璧にホールドされてしまったので抜け出すことはおろか声すら上げることが出来ない。
一方の菜奈は自分の前に現れる人が次々と儀式を受けているのに、何故か自分だけ儀式をして貰えずモヤモヤした気分でいた。
エマの事だからちゃんと理由があると信じていたが、もしかしたら忘れているのかも? といった思いも抱いていた。
なのでタイミングを見計らい自分から切り出すチャンスを伺っていたのだ。
その甲斐あって、やっと念願が叶うことに。
ただ待ち過ぎた為か、感極まり過ぎて目の前にいた大好きなエマを反射的に引き寄せキスをしてしまう。感情の高まりと共に儀式の部分はすっかりと頭の中から抜け落ちてしまったところに全身の至る所から微妙な感覚が伝わってきたので、もう何も考えられなくなってしまった。
そしてエマの方はと言えば「真の仲間」等と言っているが、本来は只の憂さ晴らしの行為であり、団結力を高める為の「じゃれ合い」の位置付けで始めた行為。
大抵の者はその意味合いが理解しているのでやればやるほど効果が上がって行く。
だからと言って今の菜奈に同様の行為をしたとしても、その場限りのスキンシップと受け止められかねないと思い、敢えて儀式を行わずに見守ることにしていた。
長い目で待つつもりだったが、嬉しい誤算? なのか、出会ってから僅かな期限で見違える程の急成長を成し遂げることが出来た。
そのエマの考えを周りの者達も察していたので、今回は特に時間を掛け念入りにだからといって容赦せず、隅々まで全身を擽りまくる。
さらに巻き込まれたお調子者に対しては倍返しと言わんばかりに目の色変えて「そこまでやるのか?」と言わんばかりに気合とお礼の念を込めて儀式を行う。
二人共、初めは声も上げずに何とか耐えていたのだが、それも長続きはせずに徐々にうめき声? を上げ始め、初めにエマが、暫く経ってから菜奈が、顔を真っ赤にして逝ってしまったので、儀式は無事終了となった。
地面に横たわる菜奈とエマ。
気持ちよさそうにピクピクと悶えている菜奈に、一番積極的に参加していた姉から一言。
「ハアハア、な、菜奈もこれで仲間になれたわね!」
フラフラしながらもなんとか腕を上げ親指立ててグーを突き出す妹。
そこに思わぬ声が掛かった。
「アンタ達、何やってるノ?」
いつの間にか戻って来ていたエリスが冷めたジト目を向けていた。
「え? えーーとね」
そんな目で見られたら説明し辛いと一斉に目を背ける。
全員が返答に困っていると、もう一人の手がフラフラと上がりエリスに向け「ちょっとこっちに来なさい」と手招きをし始める。
それを見て訝し気な表情を見せながらも手の持ち主であるエマの真横まで近付いて行く。
さらに何かを呟いているらしく、何を言っているのか聞き取る為にしゃがみ込んだ瞬間、片足をガッツリと掴まれる。
咄嗟の事で驚き尻もちをついてしまう。
「も、者ども……今がチャンスだ……」
エマのか細い号令が掛かると本日二度目の儀式が開始された。
「え? う? ニャ? ちょちょちょちょなにするニョダーーーー……」
「うううう」
エマの胸の中で真っ赤な顔で泣きじゃくるエリス。
身体は嫌がってはいなかった? が心を開くまでには至らなかったようで、解放された瞬間にエマに抱き着き泣き始めてしまったのだ。
うーーん、ちょっと強引過ぎたか? と思いながらも、泣いた妹をあやすように頭をよしよしと優しく撫でてあげる。
なんだかここ数日、何度もエリスを抱きしめてる気がするな〜と。
だからと言って嫌な感じは全くないし、寧ろ安らぎすら感じている。
「あ、ズルい! 私も!」
「ちょ、抜け駆けはダメ! なら私も!」
感化されたのか、いつものパターンが始まってしまう。
こいつらには自重とか空気読むとかって言葉を知らんのかね?
等と考える暇もなく両脇からランとシャーリーが割り込んできたので今回はエリスが潰される。
「これこれ、エリスが可哀想でしょ? みんな仲良くね」
「は、はいですぅーー」
「ご、ごめんなさい!」
素直に引き下がり仲良く三人横並びで抱きついた。
その様子が微笑ましく見えたので、二人にも手を伸ばし優しく頭をナデナデしてあげる。
素直でよろしい……ってあれ? 何この感覚………………………………
………………何だかとっても満たされていく………………
なぜだか気を失い崩れ落ちてしまった……
・・・・・・
Bエリア基地の娯楽街にある「ドカッチェ」のテラスで向かい合い、何かを話している金髪の少女と赤髪の女性。
「どうでしょう? ご協力願えます?」
「そ、そんなの無理に決まってるでしょ~」
笑顔のアリスとは対照的に困惑顔のラーナ。
「そうですか。今、お話ししたお願い事はローナさんでは絶対に受け入れられない内容。だからこそ貴方にお話ししたのですが……仕方ありません。それでは私一人で事を成すしかありませんね」
「ちょ、ちょっと待って! そ、それはつまり……」
「これは二つの世界を救う為には致し方のない犠牲」
「…………」
言い返せずに口を開けたまま固まる。
「元を正せばこちらの世界の責任であり、こちらの世界が払うべき代償」
にこやかに淡々と表情を変えずに進めるアリス。
「ほ、他に方法は無いの?」
逆に動揺丸出しのラーナ。
「あるかもしれません、が時間はもう残されてはいません。なので直ぐにでも決断しなければなりませんね」
「で、でも」
「ラーナさん。何故貴方を基地に残し私の対応を任せたのか、ローナさんの意図を良ーく考えて下さい」
「それは……でも私には決められないし……承諾できない……」
「今、言ったようにローナさんならこの提案は間違いなく拒絶するでしょう。それは妹である貴方なら充分想像が付く筈。そのローナさんに貴方は相談するのですか?」
「…………」
「提案を受け入れさえすれば何名かの命で世界が救われる。安い代償かと」
「だからと言ってあの子を見捨てるなんて出来ない!」
「ですからその為に用意された、と言っているのです」
「そ、そんな……」
今、話している内容は一から教えてくれた。疑問にも隠さず誠実に説明をしてくれた。
さらに他に方法が無いことも。
終いには反論出来ずに俯いてしまう。
「そう感情的にならず、少し冷静になって状況の整理をしましょう。まず二つの世界の代表が二名ずつ必要なのはご存じの通り。そしてあちらの世界の代表も二人で私達姉妹以外には存在しないし代役も存在しない。なのに私の姉は現在に至っても行方不明。皆さんの状況が良くなったとしても、もう一方の私達には残された手段が限られている。つまり私が何もしなければ八方塞がりと言えますよね?」
「……そう……よね」
「貴方が決断さえすればそちら側の被害は最小限で済みます、がもし拒否したり邪魔をした場合は他の「生贄」を探すことになります」
「他の生贄?」
「はい。因みに対象となる者は探索者で済むとは限りません。所謂「人」と定義されている生物全員となる可能性が」
「ど、どういうこと?」
「分かり易く言えば全人類を強制的に覚醒させます。その段階で耐えられない、いえ適性が無い大多数の者はその場で息絶えることになるでしょう。因みに年齢や性別は関係ありませんからね」
「そ、そんな!」
「今頃サラさんが世の仕組みを変えようと拘りと戦い、エマさん達が不幸な二人を救おうと命がけで這いずり回り、ローナさんが犠牲も出さずに乗り切ろうと画策している。三者三様必死に未来を模索している中、貴方一人の躊躇いが原因で、その全ての努力を水の泡と化しても良いのですか?」
「…………本当にそれだけで済むの?」
「ほぼ間違いなく」
「ほぼ?」
「こればかりはやってみないと」
「……分かりました」
「はいそれが正解です」
「但し、私も最後まで付き合います」
「それは構いません。その時はよろしくお願いしますね。それでは後ほど……」
そう言い残し自艦へと向かって行った。
何てことを企んでいたの。
こちらの世界のゴタゴタの裏で着々と進めていた計画。
確かに姉の行方は最優先事項に間違いない。
その姉の為に生贄が必要なことも理解出来る。
さらに保険として全人類を人質に取る行為。
その目的達成のために私を選んだという点も鋭いと思う。
聞いていた通りの策士だわ。
だけどね……同じ土俵上での読み合いなら姉さんの方が一枚も二枚も上手なの。
何故ならその手の相談が来ることは事前に教えられいたのよね~
さらに姉さんなら受け入れないと断言していた部分。
それは古い情報、完全な間違いで、今の姉さんなら一つ返事でOKするわよ。
去り行くエリス艦をモニターで眺めながら、直前に解禁となった繋がりを使い、姉への報告と相談を始めようとしたところ、ワイズからの連絡で邪魔をされる。
「姉さん、ちょっといいっすか?」
「今度はな~に~?」
「え~とアリスさんが「皆さんが寂しくないように私の代理を一人残していくので仲良くしてあげて下さい♡」と可愛らしい女性を一人置いていったっす!」
「……はい? どなた?」
するとワイズの隣に新たなモニターが。
「皆さんに対しては初めまして、なのね。アリス様のメイドをしているステラと言いますね。暫くの間、マキ様のメイドとして仕えるつもりなのね。なので仲良くして下さいね」
そこには深々とお辞儀をしている猫耳メイドの姿が映っていたのだ。
今月は更新頻度が遅れ気味となっています。
予めご了承下さい。
次回は来週の予定です。




