最低だね! 探索部の長?
今回は「転送装置」と「ドック」の説明を入れました。
(本編には影響はないので)鬱陶しかったら飛ばして下さい。
*2021/4/30 本文を追加と修正を行いました
「へ? そうだったの? 私とは随分違うのね〜」
「エリ姉はあの後は?」
別れてから基地の中を説明を交えながら順番に案内して貰い、最後に探索艦へと到着。
艦の外殻まで同行、親切丁寧にご教授してくれたとのこと。
お陰で不安は一気に解消されたそうだ。
「ぶーー扱いが全く違うじゃん! 私もローナが良かったーー」
ってゆーか、別々に案内しなくても良かったじゃん! 何故に私だけ扱いが雑なの?
「菜緒菜奈は?」
「私達は育成行程を経てたから、基地に着いた時には既に白色だったわよ……ね?」
同意を求められ頷く菜奈。
そうか。普通は……ってゆーか、みんなそうだよね。
確か育成施設での最終試験で、実際の探索艦を使って繋がりの試験を行うって聞いた事ある。
私達を基準にしちゃあかんのよね。
でも説明も訓練も何も分からないズブの素人をいきなり機密の塊に乗っけるってどうなの?
でも主任が直々に立ち会ってくれたと思えば……
でもメリットらしきものは何もなかった。
全くアイツら昔から何考えてるんだか分からんよ。
因みに探索艦の外装となる流体物質は元来は銀色。
搭乗者と艦AIが繋がりしており、さらに艦AIの制御下にあれば通常の状態では白色となっている。
「それよりも艦に名前って……」
ウンウンと残りの二人も頷き、一斉にジト目を向けてきた。
「な、なによーーいいじゃん! エリ姉だってそうだったでしょ?」
「ミケちゃんはミアノアが来てからよ〜?」
「うっ! そ、そう言えば……」
確かにそうだった。
それまでは皆、自艦を番号で、他人の艦は搭乗者の名前付けて呼んでいたような?
あたしゃ初めから「アル」だから、自艦の番号で呼んだことすらないんすけど……
「で……何を約束……したの?」
「実はね……ハッキリとは覚えてないんだな。確か「楽しくやって行こう!」みたいだったかな?」
「あらあら、自分からお願い事しておいて「そこだけ」忘れるだなんて~」
「友達との約束……忘れるなんて……最低だね……エマちゃん」
「うっ! 菜奈さんや、あんた菜緒に性格似てきてないかい?」
「姉妹なんだから当たり前でしょ、って言うか自業自得じゃない? それよりもう遅いしそろそろ寝ませんか?」
マキ達がクルーザーに向かってからかれこれ一時間。
四人は白色で木綿製の「じんべえ」と言う寝間着を着込み、舞台の中で晩酌をしながら思い出話をしていた。
夕食の準備が終わるころから辺りは陽が陰り始めると一気に暗くなる。
そのまま夜に突入するかと思いきや、面白いことに暗闇が増すどころか、逆に明るくなり、周囲は何とか文字が読めるくらいの明るさまで回復してゆく。
だがさらに時間が経つと隣の惑星にこちらの惑星の影がジワジワと映り込み、一部が真っ黒に欠け始めると、我々がいる辺りも段々と暗さが増していく。
理由は単純で、私達がいる惑星が主星からの光を遮っており、その影響で隣からの反射光が減ってしまったから。
分かり易い表現をすれば、こちらから見れば「月食」が、あちら側からしてみれば「日食」が起きている、という感じ。
その影響で陰った部分はお互いの距離が近すぎて、目視では穴が開いたようにしか見えず真っ黒にしか見えなかった。
それから僅かな間、だいぶ欠けた「惑星」を四人が感動した瞳で空を眺めていたが程なく布団へと潜り込んでいった。
翌朝、とは言ってもやっと鶏が起き始めるような時間帯。
何故か突然目が覚めた。
枕元に人の気配を感じたので左右を確かめる。
だがお隣の布団が盛り上がっているのでこの二人ではないみたい。
なら見えない反対側の位置に寝ている菜緒かな? と思い寝返りをしつつ顔を向けてみると、布団に囲まれた正方形の空間の丁度中央に金色に輝く何かがいた。
寝ぼけ眼を凝らしてよく見ると……いつ来たのかエリスが私の方を向き両手を足に添え正座をし、呼吸音も立てずに静かに瞑想していたのだ。
普通なら驚き声でも上げそうなのだが、彼女から複数? の感情を感じ取り声を上げることが出来なかったのだ。
金髪に白い肌。金色の宇宙服。
どれ一つ、自ら光を発してはいないのだが、薄暗いなか黄金色に光り輝いて見えてしまう。
さらにその姿、いやその雰囲気。
どこかで見掛けた記憶が…………ってどこだっけ? いや……誰だっけ?
もしかしてデジャヴ?
見た目はアリスと瓜二つ。それは誰の目にも明らか。だが今のエリスは他の誰かと「何か」が被って見えてしまう。
具体的に誰? が思い出せない。ただそんな気がするだけなのかも。
しかも……一人ではなく二人。
寝起きの回らない頭で必死になって考えていたら、前触れなく突然目を開けたので視線が重なる。
僅かな間、見つめ合っていると、フワッと両手をこちらに向け差し出してきた。
特にジェスチャーや指示があったワケでもない。
だが無意識に起き上がり同じ様に座り同じ様に手を差し出していた。
その手を優しく握ってくる。
そして再び目を閉じたのでエマも目を閉じた。
手を伝わってくる温もり。
そしてエリスの感情も。
ワクワク感に満ち溢れた、そんな感じの思い。
とても純粋な思い。
そんな気がする。
その一方、別の感情も僅かだけど伝わってくる。
こちらは静かに何かを待っているかのような感じの思い。
その感情が何なのかが分かれば「他の誰か?」が分かる気がする……と思う。
ただ間違いないのは……どちらもどこかで触れたことがあるってこと
「おはヨウさん」
寝ている者に配慮した優しい小声。
目を開けるとニッコリスマイルのいつものエリスがそこにいた。
「自分の思いの形に気付けたみたいダネ?」
「?」
何のこと? と瞬きしていると「数値が上がってるゾ?」と教えてくれた。
「掌を上に向けて目を瞑ってミテ」
言われた通りにしてみる。
だが……
「ん~~今思ったそれとは違ったみたいだナ」
キラキラ笑顔が元気なく見えてしまう。
「ご、ごめんね」
反射的に謝ってしまう。
「何故謝るノダ?」
「え? い、いや何となく」
「エマは不思議なヤツだネ」
握っていた手を離し両手で頬を撫でてくる。
「不思議?」
「どんな状況になってモ~前に進もうと一生懸命でいらレル」
「そ、そんなこと……ない」
「羨ましイ限りダネ。私にはどうやっても無理ダヨ」
笑顔のまま、だがどこか悲しみを帯びた瞳に変わる。
「どうしたの……エリ……」
急に抱き着かれ、そのまま後方へと倒れ込んでしまう。
「ちょ、どしたの?」
「少しの間ダケ……このままデ」
無い胸の谷間に顔を埋めて黙り込み、ピクリともしなくなる、と同時に辺りも急に暗くなり始めた。
困惑するエマ。突然の変わり様に身も心も付いて行けず、頭が真っ白になってしまう。
だが直ぐに冷静になると、エリスの体と頭に手を回し、力強く抱きしめていることに気付く。
音もなく、身動き一つせず抱き合う二人。
暗闇の中、時だけが静かに過ぎてゆく。
だが、辺りが徐々に明るくなり始め、地平線から薄日が差し込み始めたところで突然エリスが起き上がり深呼吸をしてから一言発した。
「ヨーシ今日も一日頑張るゾーーイ!」
いつもの笑顔に戻っていた。
・・・・・・
半日ほど前のある区域
宇宙空間に巨大な二つの白色球体の姿があった。
その物体の先、目視可能な距離には更に巨大で真っ黒な建造物の姿が。
その先には同じ様な黒い建造物が二つ、更に青々とした惑星と煌々と輝く星の姿が。
その白い球体は、その場に出現した時点では漆黒色をしていたのだが、直ぐに白へと色を変え、何故かその場から動かずにいた。
『そこの探索艦、航行規則違反だぞ』
すると男性の声で通信が入る。
「長に面会したいんだけど?」
理由も言わず軽い口調で端的に要求のみを伝えた。
『何? 事前予約もエリアマスターの紹介も無しでか? 確認を取るが少々時間を要するので動かずに待機…………え? は、はい了解です。ではそのまま専用ドックの一番・二番にお回り下さい』
急に口調が変わった。
「了解〜♪ さあ行くわよ♪」
「……流石だ、な」
「長の対応が?」
「……どいつもこいつも、だぞ」
「そうね~ウチの長と張り合えるかもね~♪」
到着後、暫く停止していたが許可が出たので再度動き出し、巨大な建造物の傍をフワフワ〜と進んで行くと、黒い壁に二つの白い物体が潜り込んでゆく。
黒い流体の壁を抜けた先は、Bエリア探索艦用ドライドック。
この専用ドックは、各エリア基地のモノとは違い、探索艦に関わる全ての事柄、つまり一からの建造、さらに修理・補給・試験等を全てを行うことが出来る機能が備わっている。
その為、ほぼ何も無い基地のドックとは違い、様々な種類の機材がほぼむき出しの状態で整然と壁を覆いつくしていた。
仮にだがこの場を妹が目撃したならば、目を輝かせて小躍りしてしまうのは確実だろう、と姉は心の中で勝ち誇ると同時に良いお土産話が出来たと、別の意味で心を弾ませる。
この空間は今は入ってきた二人にとっては初見となり、その一つ一つに重要な役割があると分かってはいるのだが、何の役に立つのかすら想像もつかないのは言うまでもないし、ハッキリ言って全く興味を引かれない代物ばかり。
それに二人がここに来た「目的」はここではない。
興味が無いというだけであり、実際にはここに来た「目的」と関係も無くはない。
それはここがただの通過点でしかないからだ。
その「目的」とは、聞いたことがある程度で今まで殆ど興味が無かった、いや調べることが出来なかった、そう探索艦の「脳」を司る部分が製造されている区間。
つまり「艦AI」の製造と修理を一手に行っている「工房」と称されるモノがある部署。
それがこの建造物の中の何処かに存在している。
このドックはそこで製造された艦AIが搭載され去って行く場所。
さらに修理の為に艦AIが戻ってくる場所。
ただそれを行っている場所というだけ。
艦AI自体は今、自分達が乗っているモノにも搭載されているので、今更調べる必要もない。
このドック、普段見慣れている基地のドックとは明らかに違う目的と環境。
唯一の共通点を上げるとすれば、白色で統一されているという部分だけ。
各機材も白色となっており昔ながらのこみこみした暗い雰囲気は一切感じさせない。
このようなドックは合計四エリア分存在しており、各四つ、計十六設けられてあり内部の機能はどこも変わりはない。
さらに型式に関係なく全ての艦の修理が可能となってはいるが、通常の業務では故障や破損があり得ない探索艦は、日々の補給やメンテナンスは各基地のドックにて事足りてしまう為、「新規建造時」以外ではこの設備が稼働することはない。
なので普段は出入りも無くひっそりと静まり返り、新たな役割が起こるまで静かに待機するだけだったのだが、ここ数週間で初となる出来事が多発することとなる。
然程長くはない部の歴史上、このドックに入った探索者は今回二人の来訪者で合わせて四名。
初めの二名は探索部初となる修理で。
それはDエリアとBエリアの探索艦の大規模修理で訪れた。
こちらは共に艦AIの損傷も無かったので、必要機材の構築と試験で無事事なきを得た。
そして残り二名。
今回修理以外で訪れた初部員として。
二人はアナウンスがあるまでジッと待つ。
その甲斐あって、停止と同時に連絡が入った。
『長が直接お会いになられるそうです。下艦後、待機室から長が居られる「奥の院」に直接移動して下さい』
「あらそう? ……了解♩」
可能性が低いと思っていた返答が入ると一瞬考える、が直ぐに了承をする。
「……順調すぎない、かい?」
同行者も多少驚いているようだった。
「多分大丈夫♩ で、どうだった?」
「……予想通り同じだった、ね」
「そうやはり……ならそっちは艦で待機してて♩」
「……らじゃ〜」
短いやり取りを何故か小声で話す二人。
敢えて暗号通信にしていないにも関わらず。
さっそく下艦の準備に取り掛かろうとしたところ、何故か数秒間だけだが動きを止めてしまう。
その僅かな時間、何かを思考していたようだが、着替えず宇宙服を着たまま穴へと移動し艦外へと向かう。
出ると正面に当たる壁面に転送装置があり、そこに直接降り立つと待機室へと移動していた。
ここからは引力が働いており、部屋の反対側にある転送装置まで歩いて移動するようだ。
因みにこの待機室は3×5m程と基地とは比べるまでもなく非常に狭く、置いてある備品も簡素な椅子とテーブルがワンセットのみ。
四方八方、壁で囲まれており、扉や空調機器すら何もない空間。
その空間を冷めた目で眺めながら次なる転送装置へ。
ここで転送装置の説明を少々。
転送装置は有線と無線の二種類あり所謂「使い所」が決められてある。
有線タイプは対象物そのものを専用の機器を使い瞬時に原子レベルまで分解、専用の「道」を使い光速度移送をし、転送先で寸分違わず元通りに再構築するという仕組み。
物を移動させるだけなので情報の劣化や損失などは起こりえない。
一方の無線タイプは途中に障害物がある場合は必ず損失が発生する為、基本的には真空空間、つまり宇宙空間のみとなる。
だが何も無さそうな宇宙空間にも分子レベルの物質は至る所に存在しているので、使用条件が限定されてしまう。
当然だが生物は原則禁止。
生物以外は「劣化」しても差し支え無い物のみが対象となる。
ただ無線タイプは使えるが使われることはまずない。
何故なら広大な宇宙空間に進出した人類は、無尽蔵の資源とエネルギーを、さらに短・中・長距離用の移動手段も獲得しており、敢えて危険な無線転送を使う必要が全くない。
例えば星系内にある、惑星から隣の惑星へと転送装置を使うとしよう。
その場合、どうしても「光の速度以下」でしか物を送れない為、何千万kmと言う距離を何時間も掛ける必要が生じる。
当然辿り着くまでには「光の粒子」を始め「水素分子」やらに妨害されまくる。
それなら「反重力推進装置」や「跳躍装置」を使えば時間もかからず安心確実、さらに「ウラシマ効果」も発生する事無く物を届けることが可能との理由で使うことはほぼないのだ。
その転送装置は人が利用する場合、脳内チップ経由で情報のやり取りを行っており、目的地を示すことなく利用が可能。
またドック⇔待機室の様に予め行き先や利用できる者を限定しておくことも勿論可能。
出てきた場所はどこにでもある様な応接室。
広くも無ければ豪華でもない、どちらかと言えば質素とも思える部屋。
造り、備品、装飾品、見える物全てが「長」という者には相応しいとは思えない空間。
情報部研究施設にある自分専用の部屋も質素だが、あちらは滅多に使わないし戻れない可能性も考慮して最低限の物しか置いてはいない。
だからと言って寛げなければ本末転倒となるので、大して豪華でもない、だがお気に入りの品を厳選して仕上げてあるのだが、ここにはそう言った「拘り」が一切感じられないのだ。
さらにもう一つ、明らかにこの質素な空間にそぐわないモノを感じる。
今までいた場所とは明らかに違う雰囲気に支配されていることを。
その部屋の中央に背の低いテーブルが一つ。
そのテーブルを挟んで左右に一脚ずつ、一人掛けのソファーが置いてあり、そこに探索部の制服ではない服を着た女性が一人、ティーカップを傾けていた。
あの服、どこかで見た事が…………ある
人物よりも注目を引かれたのはどこか特徴のある服装。
色や柄は違うが似た様なモノを何度か見たことがある。
喉まで出かかっているのだがどうしても思い出せずにいると、その女性は持っていたティーカップを静かに戻し、ゆっくりと顔をこちらへと向けると口を開いてきた。
「お待ちしてました。ローナ」
その女性は僅かに笑みを浮かべると「対面の席へどうぞ」と手で合図を送ってくる。
それを見て心の中で舌打ちをする。勿論表情には一切出さずにだ。
「それじゃお言葉に甘えて♩」
あくまでも自然体でソファーへと腰掛ける。
座ると若干背もたれに寄りかかりながら女性を真正面から見据える。
見た目は二十代の大人しそうな女性。特に特徴が見られない黒髪ショートの色白で背は妹のラーナくらいだろうか。
体格も起伏に富んでいる訳ではなく、外見上はどこにでもいる様な女性。
ただし彼女から滲み出ている何処か達観した全てを見透かしている様なオーラを感じとったので無意識の内に身構えていた。
「初めましてよね? 何とお呼びすれば?」
「単に長で構いませんよ? それよりここまで辿り着けたのだから少し話をしませんか?」
「いいえ♩」
直感が確信へと変わり膠も無く断る。
すると「長」は軽く微笑むだけでそれ以上は勧めてこなかった。
これは情報部の長とは違うタイプ。
ハッキリ言って苦手なタイプ。
逆にサラとは間違い無くウマが合いそう。
「それでここに来た目的なんだけど♩」
早速切り出そうとしたところ、急に手で静止される。
「目的は……そうね……ここにいる「彼女」よね?」
「……話が早くて助かるわ♩ 確か「レベッカ」と言う名だったかしら?」
いきなり正解を言い当てられた。
まあ消去法でいけばレベッカしかいないと容易に想像がつく。
なのでワザと間を開けた上で目的の名を素直に打ち明けた。
「彼女に会って何をしたいの?」「何も。ただ挨拶しに来ただけ♩」「なら直ぐに帰るのよね?」「訂正♩ 根掘り葉掘り話をするつもり♩」「ならお断りします」
「「…………」」
やはり……立場とかは抜きにしても絶対に信念は曲げないタイプ。
さらに一見相手にペースを合わせている様に見えるが、決して自分のペースを見失わない強い信念の持ち主。
しかも裏表が無く、腹の探り合いも忌諱するようだ。
「はぁーー了解♩ 少しだけ話に付き合います♩」
ここで問答をしている時間はない。
なので出方を見ることにした。
「何か飲みますか?」
「では冷たいレモンスカッシュを♩」
「フフ、早速準備させますね〜」
するといきなり笑顔に変え空間モニターでオーダーを出し始めた。
*探索艦用とは別に、補給部門・その他の艦用のドックは別に存在してます
今年も私にはGWというものが存在しません。
なので次回の投稿はかなり遅くなると思われます。
多分5/8(土)になると思います。




