ミア迷宮! サバゲー場?
うーん
別にダンジョン攻略が書きたかったワケでは無かったんですが……風呂敷広げ過ぎたか。
キリの良いところで話を戻さないと、エリスの機嫌が悪くなり、ラーナみたいに暴走し出すかも。
目を開け意識を戻すと、顔前にはウットリとした表情で目を瞑っているエマの顔が。
周囲からは先程までの騒音は聞こえず静まり返っており、バブリースライムはおろか、自分が召喚したゴーレムナイトの姿すら見当たらない。
しかもいつの間にか周りの深淵は無くなっており、本日四度目となる相変わらず何も無い、次なる小部屋へと移動していたのだ。
どうやら戦闘は終っていたみたい
だから皆の雰囲気から緊張感が感じられないのか
でも様子が可笑しくない?
何故か皆がこっちをじっと見ているし……
「菜緒……? お姉ちゃん……?」
不意に声が掛かる。一旦はその言葉を聞き流す、がその声が長年連れ添った妹だと分かり、さらにほんの少し前にその言葉で呼んで貰った事を思い出したので急いで目線を移すと、そこには息を切らせて立っている菜奈の姿が。
どうやら無事成し遂げれたみたいね
見た目にはあまり変化がない。でも旅立つ前とは明らかに変わっている、初めて見る自信に満ちた妹の顔。
先程までの迷いはいったい何処へやら。
たったあれだけの至って普通と思われる会話でここまで変わってしまうなんて。
それは私も同じか……
でもそのお陰で……
私もまだ色々と思うところはあるけれどもう迷いは無いと思う。
今は自分達姉妹の長年の悩みは解決したから。
今までの苦労……いやこんなの苦労とは言わない。
妹と一緒に努力し歩んで来た人生がやっと身を結び私達姉妹が無事、本当の意味で「個」として独り立ちする事が出来たのだ。
菜奈の表情を見ればもう自分がいなくとも、人として立派にやっていけれると自信を持って言える。
なのでもう昔の状態に戻る事はないだろう。
ただ新たな不安や心配事が無いと言えば嘘になる……が今は悪い方には考えず、素直に菜奈の姿を目に焼き付けとこう。
顔を見れば見るほど自然とこちらも嬉しくなり笑顔になる。
それと共に目の前にいるエマの不自然さにやっと気が付く。
しかも何故か口付けをしている状態で。
……そう言えば口移しでポーションを飲ませて貰っていたような
……だけどもう戦闘も終わっているし離れても良いと思うのだけれど
だからか……皆がこちらを見ていた理由は……
意外と冷静な自分に気付く。
以前であれば顔を真っ赤にしてアタフタしまくる状況。
だがとくに慌てることなく、しかも自分がゴーレムナイトにMPを送っていた状態の体勢でいることに気付いた。
一旦離れようと体を動かそうとしたのだが、何故だか口だけでなく体も離すことも叶わなかった。
というのも未だにピッタリとくっ付いているのは自分のせいではなくエマのせいだったからだ。
空いている両手を頭と腰に回し優しく撫でてあげる。
するとこちらへと戻ってきた様で、ハッとした顔になりやっと顔と手を離してくれた。
「ありがとう」エマの耳元で囁く
「え? う、ううん」
挙動不審なエマ。
自分が今まで何をしていたのかが理解出来ていないご様子。
手を伸ばし戸惑うエマの頬を優しく撫でてから妹の下へと向かう。
「貴方が倒してくれたのね」
「うん、そうだよ」
私にだけは分かるにこやかな笑顔。
「あの武器で?」
「そう、グリグリっとグチャグチャッと」
見せてくれたあの剣はMPを流すと四枚の刃が螺旋状へと形状変化し鍔から先が高速回転しながら突き出た刃の先端で敵の肉体を抉るという、とても痛そうな形状へと変化する。
さらに先端が弾丸でいう所の「ダムダム弾」と似た様な形状に変化、突出した刃先により柔らかい物から相当硬いのもまで難なくミンチに出来そうな気がする。
「すごかったぞーー! 剣がささったら、てきがビジャビジャのドロドロのグチョグチョになって○○○○がとび散ってあたりいちめん×××に……」
「ああああ姉様‼ それ以上の説明は要りません‼」
「そうなの~? ランランはてれやさんなのね~」
目をキラキラさせながらその時の状況説明をしてくれていたが、あまりの正確な内容に慌ててストップが入った。
「フフフ、ありがとう。貴方が頑張ってくれたお蔭で、私も含めみんなが助かって無事次へと進めたのよ」
「うん、私もそう思うよ」
「これからは思ったことをどんどんトライする。ここにいる人達は信頼できる人達。遠慮とは無縁の仲間達でお友達。失敗したり間違ったことをしたらちゃんと教えてくれるから安心なさい」
「うん。菜緒……お姉ちゃんにも今までいっぱい迷惑かけたね。ホントに今までありがとう」
「どういたしまして♪」
話している間、向かい合いお互いに手を握っていたが最後にはギューとハグし合う。
周りには「いったい何の事を話してるの?」と言った雰囲気が漂っているが、ラーナとエリーの二名だけは状況を察しているようで温かい目で見守っていてくれた。
「あらあら~もしかして難題解決~?」
「はい。二人共やっと乗り越えました!」
「うん!」
同じ顔、清々しい笑顔でラーナに向き直る。
この時ばかりは、それぞれの特徴であった「凛々しい」と「眠たそうな」目ではなく、紛うことなき姉妹であると疑う余地すら無い程の同じ輝いた目をしていた。
「と言うことは~」
三人は同時にエマをチラ見して、同時にニヤける。
「ふ、ふぇ⁇」
突然悪寒に襲われ身震いしてしまう。
だがそのお蔭で現実へと引き戻された。
「え、えーと敵は倒したっとことでいいの?」
周りに聞くと色々複雑な眼差しが自分へと集中しているのに気が付く。
「?」
全く状況が掴めない。
ってゆーか、そんなに見つめられると照れちまうぜ〜
「この子はいったい何ニヤけてるんだか〜はいこれ仕舞っておいて~」
と言ってアイテム? を手渡され、言われるままに収納しておく。
状況が呑み込めていないエマを放っておき、全員の状態確認をしていくリーダー。
今回も怪我をせずに済んだ。
菜緒に関してはMP回復ポーションを飲んでから間もなく終了したので減りは僅か。
菜奈も例の武器は敵の硬さにより変わるらしく「やわらかい物」に使用した場合は殆どMPは消費しないとのことで回復はせず。
エマは口に含んだポーションを僅かだがちゃっかりと飲んでいたのでこちらも放置。
戦闘中、最前線でひたすらクルクルと回っていた二人だが、こちらも殆どMPは消費していなかった。
どうやらファイター系が繰り出す技に関しては、エリー達魔法系の呪文と同じでMP消費量が決まっている様で減りが少ないようだった。
聞くと一回毎の技や呪文の威力はMP消費量が固定されている関係で状況によらずほぼ同じであり、私や菜緒みたいに「MP割増し」の様な要素が無い分、種類が豊富なのでその場に合わせ幅広く対応出来るメリットがあるみたい。
最後にリン。
彼女はここまで小まめに忍術を使用しており、結構な量のMPを消費している様に思われた。
尋ねると初めははぐらかされたので、専任担当であるランから聞き出して貰ったところ「てきからで奪っているからだいじょうぶ~」なのと「手作り秘薬もあるから気にするなー!」と暴露してくれた。
秘薬って何ぞや? と思いながらも実際に彼女のMP数値の確認をしたところ、ほぼ満タン状態で嘘は言ってはいなかった。
準備が整い次の部屋への扉を開ける。
「リミテーションシールド!」
「「「キャーー!」」」
バーーン‼︎
薄暗い中、いきなり正面から火球がこちらに向け真っすぐと飛んでくる。
咄嗟の事で思考が追い付かないところに菜奈が光り輝くシールドを発動させてくれたお蔭で被害が出ずに済んだ。
「な、何? 今のは⁈」
「攻撃された⁈ どこから?」
シューーーー
「チェストーー!」
今度はその光の盾を擦り抜け「何か」が目にも止まらぬ速さで飛んでくる。
風切り音を立てて迫ってきた「何か」を空中で体を回転させながら足で叩き落とすソニア。
その脇では表情を一切変えずに「何か」を平然と掴むラーナ。
「これは矢よね~」
見せてくれたのは何処にでもありそうな矢。
よく見ると中距離攻撃を想定している長さで、材質はマキのMPを使った具現化の矢とは違い木製で先端には金属製の鋭い鏃と至ってシンプルな構造。
そんな物が寸分違わずこちらに暗闇から突然降って来たのだ。
ってゆーか、アンタ達そんなものよく防ぐことが出来るわよね~
君達遊撃組は迫りくる矢の存在に気付いてそうだわ~
「一旦引き返しません?」
いつの間にか入ってきた扉に戻り、ヒョコッと顔だけ出して様子を伺っているラン。
その前ではこちらもいつの間にか刀を抜いた小さな忍者が彼女の前に移動し守る様に目だけをキョロキョロ動かしながら周囲警戒をしていた。
「いや……このまま進もう」
シェリーとシャーリーも武器を構えた状態で暗闇をジッと見つめている。
こちらは見えてからでも反応して叩き落とせそうで心強い。
「で、でも……」
「攻撃が止んでいる今が移動のチャンスだ」
「ならすぐ先に障害物がありそうだからそこまで行きましょう~」
エリーがマップを見ながら指差す先に、薄っすらとだが塀の様なものが見えた。
「それじゃ~遊撃組と菜奈ちゃんがフォローするから素早く進軍~」
先頭にラーナとソニア、次に菜奈。その後に順不同で付いて行く。
ランも恐る恐る扉から出て姉に寄り添う形で皆に付いて行った。
移動の間は先ほどのような攻撃は無く無事到着する。
目的の塀は床と同じ黒色大理石。違う点は光を発していない。
塀の高さは約三m。幅は全員が横並びでも隠れるくらい余裕があった。
ここで一旦小休止とし、マップにて部屋の中を調べてみる。
すると部屋の形は変わらず巨大な円形。中央部には手前側と奥側とを仕切る形で前の部屋と同じ深淵が横切り、そこに橋が三本掛かっているのが判明する。
さらに手前側、つまり私達がいる側と敵となる赤い光点が点灯している相手側の構造は全く同じで至る所に塀があり、敵味方ともそこに隠れる形で睨み合い、待機しているのが光点から見て取れた。
そして最大の特徴はこの部屋のスタート地点となる扉から敵陣奥深くまで幅十m程の一直線となる通路が幅二m程の橋を挟んで延びている点だ。
そして直線の先には、今までの部屋とは違い敵陣の最奥壁際に転送用魔法陣が堂々と表示されてあったのに気付く。
「何だか造りがサバイバルゲーム場みたいなの」
みたい、じゃなくまんまサバゲー場だな。
「魔法陣があるってことは敵を倒す必要はないってことですよね?」
多分そうなのだろう。
「逆にトラップ……ってことはあり得ないかしら?」
それもあり得る。
とゆーかあからさまに誘っている気がする。
ただなんにしても中央を横切っている橋を通らない限りは向こう側へは渡れない。
テレポートも同様にエリーがあの場に到達していないと話にならないし「仮に」テレポート出来たとしても、飛んだ瞬間敵の集中砲火を浴びてしまう可能性が高い。
さらに良く考えてみれば、ここまで到達出来ている冒険者パーティーなら一人や二人はテレポートが使える者はいるだろう。
だが状況に動きが見られないってことは、何らかの理由で手段としてのテレポートが選択肢には成り得ていないって事の表れだと思う。
ということでこの場で緊急会議を開く。
情報が少なすぎるので暫く様子を見るべきでは? との案で直ぐに全会一致。
この場で待機することにした。
そのまま待つこと数分。
何事も起きず静まり返る広大な空間。
光点によれば双方同じくらいの数がおり、どちらもたまに前の塀へと移動するだけで今のところ目立った動きは見られない。
とここで一つの光点が前方からあちらこちらの塀を通り抜け、最後方にあるこちらの塀へと下がってきた。
色は味方となる冒険者の白色。
結構な勢いで走りながら我々が隠れている塀の端に手を掛け、そこを軸にしてクルッとこちら側へと器用に滑り込んできた。
「はあはあーーな、何とか辿り着けましたからーー!」
到着早々地面に仰向けで大の字になり、両手突き上げ叫ぶ女性。
それを呆気に取られながらも見守る。
「えーーと、どうしたの〜? 私達に御用かしら〜?」
リーダーが遠巻きに声を掛けてみる。
すると、
「ちょ、ちょっとだけ待ってくだしゃい!」
あっ、噛んだ……
マリが切なそうにフォローを入れようとムズムズしたが、皆と同じ様に落ち着くまで黙って見守ることにした。
身長は然程高くは無く、体型もどちらかと言えばスレンダーな女性。
軽装な装備から判断するに盗賊ではなかろうか。
先程の俊敏な動きもシーフならではと納得出来る。
「ふーーお待たせーー!」
「それで〜?」
「えーーと……」
皆を順に見ていき、エマと菜奈に目が止まる。
「らっきー二人も揃ってるから! この素晴らしき出会いに祝福を~ってそんな場合じゃなかったから! 早速だけど共闘しましょう! うん、もう決まりだからね!」
興奮しながら一気に言い切ると二人に手を伸ばし握手を求め無理矢理手を握りブンブンと振り回し始める。
そんな彼女の言動に今一状況が呑み込めず、お互いに顔を見合わせて首を傾げた。
「と言うと〜?」
「貴方がこのパーティーのリーダーさん?」
戸惑いながらも笑顔を崩さず頷くラーナ。
「もう分かってるとは思うけどみんな攻め倦んでてね!」
元気良く説明をしてくれる。
「というワケで共闘ね!」
「ど、どういうワケ?」
「しかも奴らは賢いんだからなぁ」
「へ? 賢い?」
「そう!」
説明が苦手なタイプ? と思った途端、室内が僅かに明るみ始める。
明かりによる影から考察するに、どうやら塀の後ろ側、つまり敵陣側でファイアー系の魔法が放たれたと知る。
「上手く避けれるかな~」
ワクワク顔の女性。
何が起きるかを知っているようで、目線はスタート地点となる扉へと向けられていた。
そして間もなく自分達が隠れている塀の脇を大火球が通過した瞬間、扉が開け放たれそこにジャストタイミングで出てきた冒険者達に見事命中してしまう。
「あちゃーダメだったかーー!」
さらに追い討ちを掛ける様に矢が数本脇を通過し、生き残った者にトドメを刺して、入ってきた冒険者達を光へと変えてしまったのだ。
「彼らはここに来るのがちょーと早すぎたみたいだねーー!」
あらら〜といった表情。
「狙い撃ちされてる〜?」
「そうなのよ! この部屋の構造は攻める側となるアタイ達冒険者は、敵から丸見えの作りだから。しかも奴らにはこの部屋に入ってくる冒険者が分かるみたいで、今みたいにタイミング良く攻撃してくるから。で、レベルやジョブがこの部屋にそぐわない人達はああやって瞬殺されちゃうからね!」
なむなむ……ちゅーことは我々は合格ってことでいいんだよね?
「まあアタイ達としても有能な仲間が増える分には歓迎するから」
「でもマップ上では向こうとこっちの造りは同じに見えるけど~?」
「それは攻守で考え方が変わるってもんだから。我々の目的地はただ一つ。逆に奴らはノコノコやって来る欲の塊のアタイらのことをモグラ叩きすればいいだけだから!」
片手をグーにし、そこらじゅうを叩く仕草をして見せる。
成程。坂の上と下での有利差が有るってやつと似た感じか。
そう言われれば中央を突っ切っている大通り? に対し塀となる障害物の向きが微妙に傾いてたり、橋手前の空間が微妙に広かったり、この部屋自体が中央の境目に対し微妙に下りとなっていて、塀の裏側以外はどこからでも目視が可能な造りとなっていた。
「成程……で?」
「お? 流石魔術師さん! 前向きな反応で嬉しいなーー。では早速説明しちゃうから。この部屋の敵はぶっちゃけ遠距離攻撃しか出来ない奴らばかりなのさ。俊敏性もあまり高くは無いから」
「それなら攻めようがあるのでは?」
「ちっちっち! 先に言っとくから。アイツらはモンスターじゃないから。アタイらと同じ人間なんだからね!」
ドヤ顔で人差し指を伸ばし「甘いぜ~」といったジェスチャーをして見せる。
「……はい?」
「理由は知らないけど魔神ちゃんに忠誠を誓った奴が大半みたいだね。しかも厄介な事にモンスターとは違い賢いし連携もしてくるし終いには……」
「終いには?」
「……自爆までしでかすんだからね〜」
「「「じ、自爆!」」」
ドカーンと両手を広げる派手なリアクションで説明をしてくれた。
「だから下手に近付けないから注意してね!」
「ところで遠距離攻撃っちゅーことはウチと同じ……」
「そう、アンタみたいなエルフばりの格好のお姉さんと同じタイプの弓と魔法を使う奴らばかりが勢ぞろい~」
「なら接近さえ出来れば……」
「そう! 近付けさえ出来ればアンタみたいな切って切って切りまくる~の侍はんの独壇場ってとこだからね!」
「そこまで分かってるのに攻め倦んでいるってことは有効な手段が無かったってことだよね?」
「お、流石聖騎士さん! アンタ達二人が来てくれたお陰で睨み合いもやっと終わるってことなんだからね!」
ニヤリとペ〇ちゃんバリの舌だしスマイルで親指立ててグーを突き出す。
「「私達……?」」
顔を見合わせるエマと菜奈。
「そう! アンタ達二人のジョブは勇者以上に稀な存在なんだからね! だから君達全員共闘作戦強制参加決定ーーーーだからね!」
そうなの? ジョブなんて神様が勝手に決めたからあたしゃ知らんよ、菜奈もそうだよね?
諸事情により暫くの間「寝ながらポチポチ」が出来なくなりました。
気が休まる暇が全くなく疲れ果ててます……
なので投稿間隔がさらに空く可能性があるので事前にお知らせしておきます。
そう言えばもう直ぐ「あのワクチン」を打つんだった。
こんな体調で接種して大丈夫かな……
何も起きないことを祈るしかないよね……
でも最近「運」がないからな……
嫌な予感しかしない……




