表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来か過去か⁈ そんなの私には関係な〜い!  作者: 想永猫丸
選択 結果 誰が為に?
141/215

ミア迷宮! 菜緒の目覚め?

「見えるぞ、わたしにも花粉が見える!」

……また嫌な時期がやってきました


今回は久しぶりのノア先生の出番です。

 ・・・・・・



「……全く、だらしがない、な〜」


 広い露天風呂の中央付近、満天の星空と空間モニターを眺めながら仰向けでプカプカと浮かんでいる少女。

 キラキラと星々の明かりが煌めく湯面には白い顔と適度な高さの山脈だけが浮いていた。


「イヤ、アレニ初見デ対処スルノハ、酷ト言ウモノデス」


 どこからともなく聞こえてくる声。

 その声に対し目を閉じ口だけを動かし話を続けるノア。


「……いやいや、初めから「名」が分かってるんだから、相手の特性をそこから推測して、だな」

「先生、ソレヨリ選考ハ進ンデイルノデスカ?」

「……合図(サイン)、待ち~」


 微妙に身体を捩らせて答える。


「ハーーラスボスマデニ間二合エバ良イノデスガ……デモ意外デシタネ」

「……意外? もしやアリスのことかい、な?」


「意外」という単語に反応、眼を僅かに開き薄目になる。


「ハイ。アノローナサン達モゴ存ジデハナカッタゴ様子」

「……情報部の長(あのおばさん)()()()()()()()()()ってところか、ね」

「オバサンッテ……マダ二十代ニ見エマセン?」


 僅かにニヤケるノア。


「……おう! 実はな昔私達も疑問に思ったことがあって、よ。で、みんなに内緒でミアと入れ替わって、仕事中に|情報部本部までコッソリ行って貰った事があって、な」

「アーーソンナ事有リマシタネ……ッテアノ時ハ地球ニ行ッテラシタノデスカ? ソレデ何ヲシニ? 理由ハ?」

「……勿論、あのお茶目な情報部の長(おばさん)の歳を調べに、だな」

「…………」

「……そう怒る、な。お主に黙っていたことは謝る、だでよ」


「ソレデ年齢ハ判明シタノデス?」


 突然目を見開き大きな声で、

「……おう! なんと!」

「……ナント?」



「……なんと‼」

「……ナント⁈」



「……あのミアが防壁突破出来なかったの、だ~」



「姉先生ガ? ソレハ一体……。確カ情報部ノシステムモ統一規格デ成リ立ッテイル筈。姉先生二トッテハ「ヘノ河童」レベルデハ?」

「……それが「長」に関わる部分だけは未知のパターンとコードが使われていた、らしい」


 またまた目を閉じ、水面に一枚の葉が浮いているかの如く、湯面に身を任せ始めた。


「未知……デスカ?」

「……そう、じゃ。この世界の最高峰である探索艦(おぬし)の制御プログラムとは全くの別モノだった、らしい」

「ソンナモノ、一体誰ガ組ンダノデショウカ?」

「……少なくとも「あの方達」ではない事だけは判明してたから、ね。だから大して気にせず、この事はミアの「暇つぶしの遊び道具程度」に留めておく事にしたの、ね~。ところがどっこいつい最近、誰の仕業か分かっちゃったの、よ!」

「最近? アノ方達? ソウ言エバ「研究所」デハ、高レベルノ防壁トウイルスガウジャウジャイタダケデ、未知ノプログラムハ見当タリマセンデシタネ。アトAエリア基地デモ見掛ケナカッタシ……」


 またまたニヤケ始める。


「……ふ、ふ、ふ、タイミングが悪かったの、ね~。もう少し早いか遅いかで、その「プログラム」に遭えたかも知れなかった、けど~」

「タイミング? 遭エタ?」

「……まだ分からんの、かい? 仕方ない、教えてシンエモン様~!」

「…………」

「…………」

「……ソレデ?」

「……フッ、答えはアリス名義のバイオロイド達の制御プログラムのこと、だよ」

「ソソソソソウナノデスカ⁉ トイウ事ハ犯人ハ……」

「……因みに見つけた時に再度ハッキング(トライ)したが時間も無かったし~失敗(見逃)したらしい、ぞっと」

「ナ、ナント……」

「……まあその時のミアの気持ちは理解できるから強く言わんが、な」

「浮カレテイル姉先生ノ様子ガ容易二想像出来マスネ」

「……でここで菜奈っ子の出番となるワケ、だな~」

「何故菜奈サンガ? エマサンハ?」

「……(未知数)のエマ、ミア(実績)は菜奈っ子ってとこか、な。菜奈っ子に関しては持ち前の才能とヤツが下地を作ってくれてたお蔭と、既に実績を()()()()()()ので実は当確寸前、てな感じ~」

「奴トハ?」


「……天探女(アーちゃん)

()()ガ、デスカ?」


「……………………」


 その言葉で明らかな不機嫌状態へと変わった。


「アッ! 失礼シマシタデス。主任ガ?」


 慌てて訂正するアシ二号。



 ノア姉妹にとってその言葉は禁句扱い。

 事実であり、否定するつもりは毛頭ない。


 自分達を()()()()()親を責める気も全くない。


 それは天探女(彼女)の「思い」を知っているから。


 もし彼女の「思い」を否定してしまったら、自分達がここにいて良い理由が無くなってしまうから。


 だからと言って生みの親と慣れ合うつもりも毛頭ない。


 今はもう彼女の「思い」ではなく、自分達の意思で行動しているから。


 だから今は対等な関係。

 今が一番心地良い。


 この状態にしてくれたローナ姉妹には大変感謝している。


 そしてアシ二号の発言を怒ることはしない。


「アシシリーズ」は大切な友人であり、自分達の分身。


 親は違うが自分達と同じ「生み出された者」で同じ境遇。


 自分達の都合で生み出された存在。


 だから怒ることは出来ない。


 ただ、たまにキズ~なところは「気を利かせ過ぎる」という点。

 今のような発言も親子関係を心配してでのこと。



 でもこの辺は直して欲しいな、っと




「……まあそっちの事はもう良い、ね。今回の勝負はほぼミアの勝ち、だし。私がエマを押したのは彼女の可能性が0では無い、から。それに何度も言うがこの件は本当はクレアが適任だったのよ、ね」

「ソノ為ノ準備モ進メテマシタシネ」

「……過ぎたことをクドクド言っても仕方ない、ぞ。それよりも何名かの数値、おかしくない、かい?」

「ハイ、確カニ。エマサン、エリーサン、ソシテクレアサン程デハアリマセンガ」


「……イレギュラーな事ばかり起こってまう、の~。いやいやこれも予定の内なのかも、ね。まあ最後は成る様にしかならん、かもかも?」


 そのままの体勢で息を吐き、考え事をする為、静かに湯の中へと沈んで行った。




 ・・・・・・




 ドスンドスンドスン


 スタート地点へと戻された十二人。

 仲間達は全員残らず落とされた。

 落されてから少しの間、深淵の中を落下したが、無事振り出しに戻って来れた。

 落ちている間、落下の感覚はあったが行き着く先が分かっていたので然程の恐怖心は湧いてこなかった。

 あんなにビクついていたのを後悔するくらいに。

 寧ろ落とされたことを喜んでいる素振りの者さえいる程だ。


「一瞬で増殖して逃げ場なく押し出されたなの!」


 そう、小さなスライムが大きく震えだしたと思った瞬間、一瞬で島を覆いつくす程分裂していき弾力のある皮膚? で深淵へと有無を言わせずに押し出されてしまったのだ。


 攻撃された訳でもなく、呪文を使われた訳でもない。単なる力押し。

 だから私達もダメージらしいダメージは追ってはいない。

 落下に対する耐性が無ければ心を折られるほどの体験となるだろうが、生憎と我々探索者は暗闇と無重力空間には慣れている。

 よって立ち直りも早かった。


「あれどうやって倒すの?」

「呪文レジスト、矢は刺さらん」

「次は斬撃か打撃を試してみるか」

「矢が刺さらない時点で効果は期待出来ないかも~」

「押し寄せる瞬間、全員空中に避難するとか?」

「どうやって~? 私が投げ飛ばすの~? 出来なくもないけど~」

「上方向にも増えまくってましたよ?」

「逃げても倒さないと先へは進めないですぅ」


 そりゃそうだ。結局は戦うしか選択肢は無いよね。


「他の冒険者の方はどうやって倒したんですかね?」


 そう、ここはまだ一階。

 あの数の冒険者が押し寄せている迷宮。

 なので誰かしらはここを通過していると思う。

 まさかこのルート、我々が一番最初ってことはないだろうし。

 今の我々なら倒せない相手じゃないし、何かしらの攻略方法がある筈だ。


「先ずはここで作戦会議を開こうと思う」

「ええけど、ここじゃ不味くない?」


 そうか、ここスタート地点だったわね。


「おなかすいたのだ……」


 悲しそうな瞳の可愛いらしい忍者。

 あーー分かった分かった! そんな仕草でボソッと言わないで!


「よし休憩ーーーー!」






 キャンピングセット内にて円卓を囲みながらの作戦会議。


「エマの落とし穴(手品)は?」

「だから手品じゃないって! あの増殖速度だと焼け石に水程度かも」


「菜奈のシールドは?」

「あれは防ぎたい対象を指定しないとダメ。しかも物理攻撃系を防ぐ能力はまだ取得出来てないよ」


「ラーたんの力技で」

「暖簾に肘鉄~てな感じで~ダメージ通らない気がする~」


「他に案のある人は~?」

「はい!」「ハイなの!」


 シャーリーとソニアの二人が背筋を伸ばし元気よく手を上げた。


「新しい技を試したいんです!」

「私もなの!」

「どんな技?」


「流星旋風アタック!」

「暴風脚輪舞(ロンド)なの!」


「……えーーと名前からしてどっちも風を利用した?」

「「はい!」」

「それで倒しきれればいいけど……」


「あの~~」


「「はい?」」

「技名へのツッコミは別として、あの狭い空間で風を巻き起こしたら私達にも被害が及びませんか?」


「「……‼……」」劇画調タッチで驚く二人


「あ、菜緒のマッチョは?」

「盾替わり?」

「そう!」

「二体迄なら……でも長時間、召喚しているのは厳しいかも」

「で、風で防いでゴーレムで防いだとして、もし敵が二人の攻撃を耐えきったらどないするの?」


「その時は私が戦うよ」突然菜奈が手を上げる

「いける?」


 笑顔の姉の問い掛けに力強く頷き返す。

 今まで菜奈が自分から率先して言い出すことが無かったし、過保護とも思えるシスコン姉が止めることもせず信じて任せる様な発言をしたことにより、皆は目が点になり僅かな時間、間が空いてしまう。


「ところでどうやって倒すの?」

「これで」


 姉に聞かれ自分の剣を取り出し皆に見せてくれた。

 菜奈の剣だが、柄の部分を合わせた長さが約1m程。長さだけであればよくあるロングソードと変わらない。

 その剣を鞘から抜き目の前に掲げて見せる。


 細身で片刃の洋剣が四本、刃の無い部分で合わさっており、切るというよりも刺す方に向いている気がする剣。当然その形状に合わせて鞘も十字型となっていた。


「でも剣じゃ……」

「エマちゃん、この剣はこんな使い方も出来るんだよ」



 ういぃぃィィィィィィ



「「「……うぉぉぉぉーーーー」」」


 一斉に歓声が上がった。


「MP消費するけど」







 三十分程休憩を兼ねた作戦会議を行い、再度バブリースライムが待ちかまえている手前の小道へと、エリーのテレポートにてやって来た。


 今回の隊列はラーナを先頭にシャーリー、ソニア、菜緒、菜奈、ラーナ、エマ、エリー、リン、ラン、マリ、マキ、シェリーの順となり、順次突入する予定。


 前回は敵との距離が約半分を切った段階で敵が一気に増殖。

 予想もしない行動、さらに退路がない状況だったので、何も出来ずにそのまま場外へと寄り切られてしまった。


 前回の反省を踏まえ、シャーリー&ソニアの二人は敵が動き出すであろう距離をレッドラインとし、その手前で待機、技の準備を始める。


 その後方でラーナと菜奈に守られた菜緒がゴーレムナイトの召喚準備に。

 菜緒の左脇ではエマが万が一に落とし穴を作れるよう、ステッキを構えて待機。


 その二人の後方に今回は出番が無い残り者達が集まり見守っている。


「準備はいいですか?」


 頭上で槍をクルクルと回しているシャーリーからの合図。

 その隣では逆立ち状態で高速回転をしているソニア。


 因みに右側にいるシャーリーの槍の回転は時計回り。

 左側のソニアの足の回転方向は反時計回りとなっていた。


 その二人の姿は床からの光に照らされて、舞台の上で演武でもして居るかのように幻想的に見える。

 だがその先にいるピンク色の小さなスライムが視界に入るとすぐに現実へと引き戻される。


「それじゃ行動開始~」


 ラーナの合図で二人が進み、技を発動させると目に見える程の竜巻が二個発生する。

 その状態のまま二人同時にレッドラインを越えた瞬間、バブリースライムが震えだし前回同様一気に増殖を開始、ピンクの波と化し、こちらに押し寄せてきた。


「出でよ、ゴーレムナイト!」


 光る「薄い本」

 床に大きな魔法陣が現れ、煙と共に腕を組んだマッスルゴーレムが背中合わせで二体、顔を敵に向けた状態で現れる。

 全身が現れると敵に背を向けお互いの腕を交差させた状態で「フロントラットスプレット」のポージングを披露する。


 急いでゴーレムの影に隠れるラーナ達。


 その間に前方の二人に襲い掛かるピンクの波。

 先端が二人に到達すると波が綺麗に左右へと分かれて深淵へと流れ落ちて行く。



 だが……



 予想通り二人を乗り越え迫り来るピンクの大波(ビッグウェーブ)

 八割方は深淵へと落下しているが残りの二割が彼女達を乗り越え仲間達へと迫り、容赦なくゴーレムナイトの背に激突し始めるバブリースライム。


 シャーリー達のお蔭で波の高さがゴーレムナイトの身長を超えるまでには至らずに済んでいるが、スライム()圧のせいでジワジワと押され始める。


 そこにラーナが加わりゴーレムナイトの足を押すことにより何とかその場に踏み止まれた。


「どうする? このままじゃジリ貧ちゃう?」

「そうなのだが……少々目のやり場が……」

「ひ、左に同意……」


 出番のないシェリーとマキの二人が顔を赤らめながらある一点に目線をチラチラ向けていた。


「?」


 その視線の先には……


 丁度私達の目線の高さがゴーレムナイトの大腿四頭筋の高さとなっており、正面を向く限り否応なく「ある箇所」が視界に入ってしまうのだ。


(注:因みにゴーレムナイト君たちはしっかりと「穿いて」いるので誤解無きよう)


「エマ、これ見て~」

 エリーが脇に来てマップを見せる。


「あ! 奴は後方には分裂していない?」


 全く動かない赤い光点が壁から二m程の距離に一つ、その光点から無数の泡が前方(我々)に対してだけ高速分裂し移動している様子が映し出されていた。


「この僅かなスペースに菜奈を送り込めれば」


 魔法陣を書き上げる僅かな合間、あのスペースを見ることが出来ればトンネルを繋ぐことが出来る。


「見れればいいのよね~?」


 ゴーレムナイトの足を抑えているラーナが聞いてきた。


「え? う、うん」

「菜緒ちゃん、少しだけ手を離すわよ~」

「え? あ、はい」


 薄い本にMPを多めに流す。するとゴーレムナイト達の筋肉がピクピクっと反応、ラーナの援護無しでも波の勢いに負けなくなった。

 だが引き換えに目に見えて菜緒に余裕が無くなっていく。


「エマちゃん、必ず受け止めるから~頑張ってね~」

「え? えーーーー」

「う、うわーーーー」


 有無を言わせず上へと放り投げられる。

 続いてエマよりもさらに上へと放り投げられる菜奈。


 遠去かる妹の姿を笑顔で眺める菜緒。

 だが直ぐにゴーレムナイトへと向き直り、()()()()()()に、腕にさらなる力を入れていく。


「キャーーーー…………あ、見えた!」

「いそいでかきかきするのだーー!」


 いつの間にかリンが背中に張り付いていた。


「よよよよよーし! 任せんしゃい!」


 全く安定しない空中であったが何とか書き終えトンネルを開通させることに成功する。


 そこに菜奈がタイミングよく落下してくるが、微妙に方向が合っていない。


「まかせるのだーーにんにん!」


 エマの背にいたリンが消えたかと思った瞬間、菜奈の背中に小さな忍者が現れ張り付くと、背中から黄緑色の渦巻き模様の風呂敷? がパラシュートのように広がり、ゆっくりと位置を調整しながら落下、二人揃って穴へと無事に滑り込むことに成功する。


「だ、大成功や!」


 マップには敵の真後ろに二人の光点が現れた。


「ぎ、ギャーーーー!」


 あーれー落ちるーーーー


「お待たせ~~」


 空中でお姫様抱っこをされる。

 地上に落ちる前にラーナがジャンプし、迎えに来てくれたようだ。


 そのままショックもなく無事着地を果たす。


「んんんん……」


 着いた早々、辛そうな菜緒の声が聞こえてきた。

 見るとゴーレムナイトへと向けられた手がピクピクと震えている。

 さらにMPがかなり減っている様でかなりの量の汗まで掻いていた。


 このままだとMP切れでゴーレムナイト(堤防)が決壊、そのまま流されてしまい、ここまでの努力が全て水の泡と化してしまう。

 なので何としてでも菜緒に踏み留まって貰わないと!


 あ、そうだ!


 アイテムボックスからMP回復ポーションを取り出す。


「菜緒飲んで!」


 蓋を外し小瓶の口を顔に近付けると僅かに口を開いた、が上手く飲めずに? (こぼ)してしまう。


 焦るエマとは対照的に、菜緒はこぼれたポーションの事などは気にする素振りを見せず、だが物憂げな眼差しをエマへと向けた、が直ぐにゴーレムナイト達に視線を移し、掲げている手により強く力を入れることに専念し出した。


「ど、どないする?」

「ま、不味いやん!」

「くっ! ここまでか……」


 菜緒の必死の様子に、もう限界が近いと悟った周りの者もオロオロし出す。


「エマちゃ〜ん♪」


 脇からラーナが可愛らしく覗き込む。

 呼ばれたエマと目が合うとニコっと笑みを作る。

 ホンの僅かな間、見つめ合ったが目で何かを訴えて来るだけで何も言わない。


「な、菜緒! 頑張って飲まなあかん!」

「こ、このままだとMP切れに!」


 見つめ合う二人を余所(よそ)に仲間達はさらに菜緒に詰め寄っている。


 一方、ラーナの言いたいことが分からずに戸惑っていると、斜めに傾いた頭をさらに傾げて「ん~~」と軽く声を出し、手に持っているポーションに視線を移していく。


「あ、そうか! その手があったか!」


 その声を聞き満足そうに笑顔になってから頷くと、エマの背中に手を回しソッと優しく押し出してくれた。


 ラーナが言いたかった事にやっと気が付き、慌てて手に持った小瓶の中身を口に含むとそのまま菜緒の顔に自らの顔を近付ける。

 すると必死の形相は変わらず、そして目線もゴーレムナイトに向けたまま顔を僅かにこちらに向けてきた。


 間近で見る顔。

 普段から欠かさず手入れをしているのが分かる程の綺麗な肌としっとりとした唇。

 目を閉じその唇にそっと自らの唇を重ねてから口に含んだポーションを流し込む。



 一方の菜緒は、初めに小瓶から直接飲ませてくれようとした際に「(菜奈)がいない今なら遠慮する必要もないし、少しぐらい我儘してもいいのでは?」と思い、初めは敢えて飲めないフリをして見せた。

 そうする事でエマが「定番の手段」を使って飲ませてくれるのを期待しながらゴーレムナイト達に意識を戻す。


 だが、ここで自ら選んだ判断の迂闊さに気付き淡い期待が揺らいでしまう。



 ──あっ……こいつは()()()()だったんだな、と



 ここは欲を掻かずに諦めて素直に飲むか? と思い始めたところに助け舟が現れ事無きを得る。

 だが悲しいことに意識の大半は既に前方へと向けてしまった後で、自分が期待し仕向けた行為だというのに、口の中に薬液が流れ込み、それを無意識に飲み込んでしまうまで、どこか他人事感覚でいたのだ。


 不思議な感覚の液体が喉を通過したことにより我に返った途端、幸福感よりも後悔の叫び声が心の大半を占めているのが良く分かる、が同時に胸の奥底から今まで感じた事のない、とてもとても小さい、だがとっても温かい「何か」があることに気が付いた。



 ……この温もり……もしかしてこれが……私の……



 直接見ることは叶いそうにない。だが胸の奥深くに「何か」があるのだけはハッキリと分かる。



 (そう、それが貴方の「思い」であり力の源)



 誰かが心の中で語りかけてきた。



 ……そう……これが私の「思い」……



 (良く見つけれたね。その「思い」を大切に育ててね)



 ……大切に……出来るのかな?……



(フフフ、それは貴方次第。でも「過去」と決別出来た貴方ならきっと大丈夫)



 …………はぁーー



 大きなため息を一つ、ついてから目を開けた。


なんか菜緒の扱いがぞんざいな気がする……


今話でやっと各部門の長の性別が出揃いました。

探索部=女性

調査部=女性

整合部=男性

情報部=女性

何故こうなったかは……秘密です

(その内、誰かが色々とネタバラしてくれると思います。気長にお待ち下さい)


 余談ですが、この部屋ではパーティーメンバー誰か一人でも落ちた場合、全員強制的に深淵へと落とされる仕組みとなっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ