菜奈の悩み! ラーナの驚き?
今話のような話は非常に書きづらいです。
ワイズ兄弟と別れた後「帰還記念&歓迎会&作戦会議」と称した怪しい催し物に行く前に今までの事、そしてこれからの事をエリーと話し合っておこうと再び合流した。
というのも前回地上に降りた時は「消失」が起きた直後の不安定な時期。一応纏め役であるサラがいたが、各々の相方もおらず人数が少なかったので「あの程度」で済んだが、今回は殆どの者がペアが戻ってきた事により人数が倍近く増えているし、纏め役のサラもいない。
こんな状態で地上に降り羽を伸ばしたら、姉妹で落ち着いた会話なんか出来るワケない。
さらにサラがいたとしても、任務外に関しては「我関せず的」な持ち主な為、実際にはあまり役には立たない。
なので前回の反省を踏まえ出来る事は先にやっておきたい。
その後の事は野となれ山となれだ。
ただ不安材料ばかりではない。
今回はエリーがいる。
というのもこういう状況で今、ラーナを抑えられるのは私達姉妹しかいないのだか、実はエリーに対してとある事情により彼女はいい子を貫き通しているのだ。
対してエリーもあまり強くは出ずに嗜める程度の文句しか言わない。
これには訳があり、活動開始直後は妹には妹を、姉には姉とペアを組ませ訓練を兼ねて探索を行っていた為、エリーには常にローナの影がチラついていたのだ。
一緒にいる時間が増えるという事はそれだけ情報が漏れる可能性が高くなるという事。
ましてやエマとは違いエリーはそこそこの世渡り上手。
逆にラーナはプライベートに関しての隠し事は下手ときた。
下手に手を出してそれがローナに伝わり姉の気分を損ねようなものなら、ラーナといえども立派な「お仕置き」が待っている。
なのでエリーの前では「良いお姉ちゃん・聞き分けの良いお姉ちゃん」を演じ、手を出す場合は極力自然を装うことでボロを出さないようにと注意をしていた。
後輩育成がエマ達に引き継がれると手隙となり、ローナの外出が増えていくにつれ、隙を見付けてはラーナのタカが外れ気味となったが、どうしてもエリー=ローナのイメージが付き纏った為にエマほど親しくはなれなかった。
それは今でも同じらしくエリーの言う事は結構素直に聞く。
なので私が苦労せずに済むにはエリーに期待するしか無い。
話し合いの場所はそこそこの広さがある芝生の公園。
空は長閑な青空で暖かい陽射しが注いでいる。
公園の中央には一本だけ大きな広葉樹が植えてあり、木漏れ日を感じながら菜奈を中央に据え三人ならんで芝生の上に直接腰を下ろす。
ここに来る途中菜緒が「積もる話もあるだろうから私達は暫く離れていようか?」と言ってくれたが「遠慮しないで一緒にお話ししましょう〜」とエリーが押し切ろうとしたが「それなら菜奈をお願いします。私はラーナさんに会いに行ってきますので」と切り返され、途中で別行動となったのだ。
「ここも久しぶりね〜」
「うん」
三人して脚を伸ばし空を見上げると、空には雲がプカプカと浮いているのが見えた。
「そういえば昔、こんなシチュエーションがあった様な……」
「えーーもう忘れちゃったの〜?」
「なんだっけ?」
「あ・め」
「あめ? ……あ! 雨ね!」
「「フフ……ハハハハ」」
二人で大笑いを始める。
声に驚き菜奈が左右を何度も見る。
「小さいころにね、遊んだあとに施設の庭で日向ぼっこしてたら二人とも寝ちゃってね」
「そうそう。その日はたまたまお天気スケジュール確認し忘れちゃってね~」
「気付いたら雨降り出して急いで帰ったけど」
「二人とも着くまでにはビショビショ~」
「しかもあたしゃ途中で転んじゃって泥だらけ」
「泣きながら走ってたわよね~」
「そうそう!」
楽しそうに思い出話をする二人。
いつの間にか菜奈を挟んで向かい合い身振り手振りで話していた。
そんな二人を初めは笑顔で聴いていたが、段々とうさ耳が垂れてきて元気がなく膝を抱えて俯き加減になる菜奈。
それにエマが気付き菜奈の手に自分の手を重ね笑顔で問い掛けた。
「菜奈。あなたの話も聞かせて?」
だが返事をする事なく更に顔を下げてしまう。
そこにエリーが頭に優しく手を添えて撫で始めた。
「どうしたの~」
微笑みながら様子を伺うが何も答えない。
「悩み事はね、一人で抱え込んでちゃダメ。一人で考えてもいい答えなんて出てこないからね~」
「…………」
「お姉さんに教えて。何を悩んでるのかを」
僅かな間の後、俯いたまま僅かに聞き取れる大きさの声でポツリポツリと話し始めた。
「菜緒は私といても……楽しくはない……かもしれない」
「そんなこと……」「(しーー!)」
エマが反論しようとした瞬間、エリーが人差し指を口に当て「静かに!」の合図を送ってきた。
「なんでそう思うの?」
頭を撫でながら優しく問い掛けるエリー。
「今まで菜緒に……いっぱい迷惑……掛けてきたの」
終いには完全に膝に顔を隠してしまう。
「あらあら〜ここにも歩く迷惑が一人いるわよ〜?」
「いや〜照れるぜ〜ってそうなの⁈」
「はいな」
「私が原因で……両親が言い争いが絶えなくなって……それで……」
「それで?」
「それ以来ずっと……迷惑掛けてばかり」
「ウチの子と一緒だわ」
「そうなの? エマちゃんも?」
えっ? といった表情で顔を上げエマを見る。
「そうなの? エリ姉?」
他人事の様にエリーを見る。
「そうよ〜」
菜奈に微笑んだ。
すると少しだけ表情が和らいだ。
「その後は……自分の時間が無いくらい……ずーと私に付っきりで……面倒見てくれた」
「うんうん」
「迷惑ばかり掛けてた……だからエリーさん達みたいな姉妹らしいこと全然……していない」
「ふ~~ん。でも貴方達に会ってから数時間しかたってないけど、私には十分普通の姉妹に見えるわよ?」
「どうなんだろ……これって普通なのかな?」
「そうよ。ご両親は何で喧嘩を?」
「私が言いたいことが……上手く言い出せなくて……生体強化も受けれず……それで両親がお互いをお前が原因だと……言い争いを始めて」
「あらあら〜」
「それを菜緒が見かねて……色々なところに話つけてくれて……私を連れだしてくれた」
「なるほど」
「今みたいに……話せるようになったのは……ローナさん達が私達の前に現れて……ラーナさんがつきっきりで……面倒見てくれてから」
「へーー? ローナ達? 良く分からないけど逆に大変だったんじゃないの〜?」
「そんなことない! ローナさんもラーナさんも色んな事、沢山教えてくれたしいっぱい叱ってくれた」
「あの人達が?」
「うん」
「あらあら~。それで?」
「それでも菜緒は……私の事が心配で……気を使ってあまり自分の事まで手が回っていなかったと思う」
「そうなんだ~。それは今でも変わらないの?」
「ううん。その後にあの人の所に……連れてかれて暫く経ってから……やっと」
「あの人?」
「Cエリアの主任」
「ウチ? Cエリア? ……えーと確か天探女主任さん? って難しい名前の人だったかしら?」
「うん。あの人と一緒に住むように……なってからやっと一人で……行動出来るようになった」
「へーー」
「ねえねえ! その時にはあの子達はいたの?」
「……ミアノアのこと?」
「そうそう!」
「いたよ」
「あいつら何してたの?」
「二人はいつも一緒にいて……主任と遊んでた」
「遊んでた? 何して?」
「お互いにイタズラし合ってた……かな?」
「へ?」
「それにちょくちょく菜緒が……巻き込まれてキレてた」
「へーー菜緒がねーー」
「一つ聞いてもいい? あの子達って昔は主任の所にいたの?」
「そうなんよ! それがビックリ! あの二人は何と主任のお子様だったんだわさ!」
「へーーそうなんだ」
「あ、あれーー? 何故か薄い反応? あまり驚かんね?」
「そう? 誰と誰が親子でも別にいいんじゃない?」
「ま、まあそうなんだけど」
まああの主任の事は知らないから驚かないのもしようがないか……
「それで菜奈ちゃん」
「何?」
「菜奈さんは菜緒さんのことは好き?」
「好き? 一番好きなのはエマちゃん」
「おーー言い切っちゃうんだ〜。それで何でエマが好きなの〜?」
「私を認めてくれた……普通に接してくれたの」
「それはエマの特技よね〜誰とでも親しくなれるのは〜。それで菜緒さんのことは?」
「菜緒も好き」
「その事を本人に言ったことはある〜?」
「……ない」
「なら一度言ってみなさいな。多分凄い喜ぶと思うな〜」
「そういえば……泣いてた」
「泣いた?」
「うん。少し前に「菜緒は大切なお姉ちゃん」って言ったら……泣きながら抱きついてきた」
「うんうん。それでお姉ちゃんは何で泣いてたと思う?」
「分からない」
「分からないかー。それじゃ~菜奈さんが泣く時はどんな時~?」
「悲し時……嬉しい時?」
「悲しい時か嬉しい時ね。ならその時の菜緒さんの気持ちはどっちだったと思う〜?」
「幸せそうな顔してた……だから嬉しい?」
「アッタリーー!」
「でも……何で嬉しいの?」
「お姉ちゃんって呼んで貰えたから、かな」
「そんなことで?」
「考え方は人それぞれだけど、私にはそういうのって言葉にできる唯一の「絆」だと思ってる」
「絆?」
「そう。私達には肉親はいないし他に親族もいないの。「お姉ちゃん」って言ってくれるのはエマだけで、呼ぶ方も呼ばれる方も唯一無二の存在でしょ? 心の拠り所はお互いの存在だけ。気持ちは一緒かも知れないけれど、その事を伝えてあげないと人って分かり合えないモノでしょ?」
「うん……そうかも」
「でね、その一番簡単な方法が……」
「……お姉ちゃん?」
「そう! 菜緒さんだって同じだと思うし言って貰えたらまたまた泣いて喜ぶわよ~」
「本当? どうして分かるの?」
「フフフ。どうしてだと思う?」
「……同じ……だから?」
「分かってるじゃない! それなら大丈夫。菜奈さんのお姉ちゃんはとても立派な人のようだから心配しなくても大丈夫よ~」
「うん、分かった」
「一人で言える?」
「うん!」
「そう、その笑顔よ〜」
「あ、ちょっと待った!」
「「?」」
「菜緒姉は重度のシスコンなんよ」
「あらあら、それはちょっと……不味いわね~」
「そうでしょ? 絶対勘違いしまくると思うわ」
「シスコンって?」
「えーーと……」
「菜奈さんが大好きだってこと。独り占めしたいってくらいにね」
「それはダメ。私はエマちゃん……のもの」
ジト目でエマを見るエリー。
それに対し冷や汗を流しながら目を逸らす。
「もうこうなったら纏めて面倒見てあげなさいな。私も応援してあげるから」
「ちょちょちょちょ何をーおっしゃるのかなー⁇」
「菜奈さんもお姉ちゃんがエマと仲が良かったら嬉しいよねーー?」
「うん!」
「はい決っまりーーーー! 良かったわね、菜奈さん!」
「不束者ですが……姉共々……よろしくお願いします」
「……なんかエリ姉に誘導されているような気がする」
今度はエマがエリーにジト目を向けた。
「でもエマも大変よね~この流れならノアちゃん達とラーナさん達も黙ってはいないだろうし~」
遠い空を見上げながら呟くエリー。
「!」ハッとするエマ
「クレアとランさんとシャーリーさんとソニアさんも……いるよ」
「ひいーふうーみー……もしかして十人? あ、貴方どこまで手広く……信じられない」
自らの発言内容に青ざめるエリーと未来を想像してしまったが為に同じく青ざめるエマ。
「これが有名な「は〜れむ〜」ってやつなのね~」
「そんなのイヤーー! ……あ、そうだ! 因みにそこにエリ姉も一緒に住む計画なんよ?」
「嫌よ」
「な、なして?」
「どうせ育児の面倒を見させる気なんでしょ? 一人二人なら楽しそうだけど十人もなんてお断り」
「そ、それ違……」
「それとも実の姉にまで手を出すつもり?」
「それも違うの……」
「菜奈さん」
「?」
「エマが言う事聞かなかったらこんな感じで弄れば大人しくなるからね〜」
「分かった」
「それとエマ」
「は、はい?」
「細かい話は今晩ゆっくりとしましょうね」
「いいの? それで」
「ここに戻ってきた時にラーナさんからCエリアまでの貴方の状態を聞いた。だからCエリア以降に心の変化が無ければ後はお互い「気持ち」の確認だけ」
「分かった。私は……」
「それは夜~今は菜奈さんとのお話の時間~よね~?」
・・・・・・
別行動の菜緒はとある部屋へと入ると、そこにはソファーに座ったラーナと、必死の形相で空間モニターと睨めっこをしているノアが待っていた。
「遅くなりました」
軽く挨拶をし対面のソファーへと腰掛ける。
「お疲れ様~突然押し掛けた上に突然の任務押し付けて御免なさいね〜」
「正直疲れました。ラーナさん達とは違い、我々探索者は皆、率直タイプで「駆け引き」には慣れていませんし、自制するのが大変でした。それよりもご報告の前に優先してお伝えしておきたいことがあるのですが」
「なーにー?」
「実はAエリア滞在中に椿が現れました」
「え、えーー? それ本当?」
「はい。アリスさんによって艦が自閉モードにされていた時なので、残念ながら記録等は残ってはいないのですが」
「アリスちゃんか……彼女については情報部も実はあまりよく知らないのよね。出生から経歴と何調べても怪しいところはなかったし、サラ主任が信頼してるみたいだったから、エリスちゃん程はマークを厳しくしてなかったのよね〜」
「アリスさんについては早めに報告書を提出します。それよりも椿の「真の計画」が分かりました」
「真の計画? お姉さんを取り戻す? じゃなくて?」
「それも計画の一つ」
「それも⁇」
「彼女は結果が出るのを待っているんです」
「どういう意味?」
「それは……」
「……………………」
「本人が言っていた言葉と、計画の全容に気付いているアリスさんが漏らした情報との辻褄があうパターンはそれしか無いので確実だと」
「ならその結論を受け入れるかどうかは……」
「勿論決めるのは椿本人です。エマ達でもアリスさんでもありません」
「私達の行動も織り込み済みってこと〜?……気が遠くなる〜」
「結果的には。ですが寧ろ結末は近いと思いますが?」
「私達やサラ主任の予想とはだいぶ違ってきたので、これらの判断は姉さんに委ねます。それまではここだけの秘密とします〜」
「それとクレアが「覚醒」を果しました」
「は、はいーー⁇ 今なんと?」
「ついでにもう一つ。私達姉妹ももう直ぐ「覚醒」することになる、らしいです」
「なななな、なんですとーーーー‼︎」
目玉が飛び出る程、驚くラーナであった。
菜緒に関しては明るく済ませましょう!
次回は10/22(木)までには投稿します。
短いですが久々の温泉編の予定です。




