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未来か過去か⁈ そんなの私には関係な〜い!  作者: 想永猫丸
それぞれの思惑と別離
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第百四話 名の意味? 決意の表れ!

 えーー修正中に「桜」ちゃんが妹の名前を間違えて発言しているのを見つけてしまいました。


「楓」では無く「椿」が正解です(見つけた所は修正済み。まだ他に残っていたら後日、修正します)

 決して二人いるとか何か企んでいるという訳ではありません。単なる作者のミスです。


「楓」は「椿」で、「椿」は「椿」でお願いします。


言い訳……

 当時「桜」の名だけは決めてあったのですが、もう一人をどうしようかと思い悩み、「桜」は日本を代表する木だからもう一人もそちら方面から選ぼうと思い、紅葉が綺麗な「楓」としたのですが「楓」は世界ではあまり珍しくない樹木と言う事で急遽「椿」に変えた経緯があります。


(桜の木も結構広く分布しているようですが、日本の桜の花は突出して綺麗だと思うので)


 因みに他で候補に上がっていたのは「撫子」。ただ「楓」と同じ理由なのと名には向かない気がしたので選びませんでした。


 次話までサラが主役です。あと今回は長文会話が結構続きます。予めご承知下さい。


2025/1/9 大規模修正と追記を行いました!


 探索部とは異なる薄暗くて落ち着いた雰囲気の通路を到着ロビーへ歩いて向かうと扉が見えてきた。

 この先はロビーとなっており、手前には警備兵が立っていた。

 速度を緩めず近付くと警備兵は正面を見たまま敬礼をしてくる。それに対し「整合部式」の敬礼をしながら通り過ぎた。


 開いた扉の先も通路よりかは明るいが基本的には同じ雰囲気のロビーであった。その広大な空間に出ると黒い制服を着た一組の男女がこちらを向いて立っていた。


「お疲れ様、サラ」


 男性が声を上げる。

 30m程の距離を考慮すれば聞こえたかどうか怪しい音量だったが、サラがその場で「整合部式」の敬礼をビシッと決めたところを見るに「伝わった」のだろう。


「お久しぶりです! 政宗(まさむね)中将!」


 敬礼を終え(手を下げ)てから返答。足早に二人に向かう。

 サラと同じ身長で警戒心などとは無縁そうな顔の優男風の男は、サラの反応を確かめてから軽い敬礼をした。


「7年ぶりかな?」

「もうそんなに経ちますか?」


 直前まで来ると笑顔で右手を差し出してきた。その手を躊躇わずに力強く握り返す。




 先刻、Cエリアでのサラ達の会話の中で「古巣」との単語が出た。

 古巣とは「巣立った場所」を指す単語で、基本的には繋がりは絶たれている状態をいう。だが今でも「整合部」に席を残しているし「対価」としての給料も支払われ続けているので、本来であれば古巣との言葉は適切ではない(現在のサラの身なりや言動が動かぬ証拠)


 勿論、発言をした天探女も()()()()は承知していたが、あの場で噓をつかずにエマ・奈緒(二人)のサラに対する印象悪化を最小限に抑えようと仕方なくあの言葉を使ったのだ。


 因みに天探女もサラと同じく、いやサラ以上に複雑な経歴(過去)の持ち主ではあるが、サラとは違い諸々の過去とは(本人は)手を切っているつもり(実際に接触はしていない)だし、現在は「見守る立場」にいるので、サラのような「(しがらみ)」は一切残っていない。

(その方針のせいでローナ姉妹に付き纏われているのだが……)




 政宗との和やかな挨拶を終えると中将の一歩後方にいた、中将の秘書を長年勤めている、サラとは旧知の仲である女性も右手を差し出してきた。


(あおい)も変わりないな」


 その手を両手で受け止める。


「サラもね。貴方見ない間にまた大きくなったんじゃない?」


 それに対して葵と呼ばれた女性も両手で応えながらサラの胸に視線を向け揶揄う様に言ってくる。


「もう少しで追い着けそうだ」


 自分よりも気持ち大きい山脈を敢えて見ずに葵の目を見ながら返事を返す。


「君達? 僕の存在、忘れてないかい?」


 呆れ顔で目を背ける政宗。


「中将も眼福でしよ?」


 そう言いサラを引き寄せ横並びに。そのまま政宗に向き直ると横並びにした偉大な山脈(連峰)を殊更強調してみせる。

 その茶目っ気タップリの仕草の美女に対しサラは苦笑を、政宗は頭をポリポリと搔いてみせる。


「はは、そういう言い方なら大歓迎だ。ところで身体の方はもういいのかい?」


 葵の術中に嵌らないよう視線に最大限の注意を払いながらサラに問う。


「はい。一時、腕と両足を失いましたが無事復帰しました」




 ここまではサラの現在の立ち位置を確認するための挨拶。


 人にとって七年という歳月は一言では済ませられないほどに長いし、それだけの年月があればあたりまえに考え方も変わるもの。

 さらに他の生物に比べて環境適応能力も高く、心の制御さえ可能なのだ。

 そんな変化を()()()()()()()のみで判断するのは無理があるし「欺く」前提で行動していたら見破るのは無理だ。

 だからこそ再会の(この)場に葵を連れてきた。サラと同期で気心の知れた彼女に見分けてもらうため。

 そして「もしもの時」は合図で知らせてくれるようにと頼んでおいた…………のだが全ては杞憂で済んだようだ。


 仮に変化が起きていたとしても整合部(こちら)からは何も出来ないが……




「それは大変だったね。着いた早々でなんだが僕の部屋で経過を聞かせてくれないかい?」

「はい」

「では行こうか」


 と内心安堵しながら向きを変えると二人の先を歩き始めた。

 葵が「さあ行くわよ」と笑顔を向けてきたので「ああ行こう」と目で応えると足並みを揃えて中将の後を追って行った。




 中将の執務室は古代の学校の教室程の広さ。入口のそばには秘書である葵の執務机。部屋の中央にはソファー&テーブルがあり、奥には政宗の机があるだけとシンプルな配置は昔と同じであった。


 中将に促され向かいのソファーに腰掛ける。

 変わらずの手際で葵は飲み物を用意。中将には紅茶を、サラにはコーヒーを置いた後は自分の執務机に戻り澄まし顔にて空間モニターの操作を始めた。


「それで今回呼び出された理由をお聞かせ願えますか?」


 ()()()()()()には変化がないように思える。変化が無いのなら自分には用はない筈。


「実は先日の件でね、荒れに荒れてね」

「……もしやBエリア基地(うち)の件で?」

「ああ、サラの所も、CもAもだがね」

「A? Aエリアで何があったのかご存知で?」

「まだ知らないのかい?」

「向かう途中でした」

「それは悪いタイミングで呼び出してしまったかな?」


「いえ、それよりも」


 何があったのか、情報を得るのが先。


「我等はいつも通り見ていただけなので、何がどうなどは分からないけど暫くの間、Aエリアの基地には探索艦の出入りが激しい時期があったらしい。その後は出入りもなく沈黙しているようだ」

「…………」


 探索艦の出入り? 今は沈黙? そんな予定は……


「まあCが襲われたのは分かるけど、Aエリアでの本部所属の連絡艦撃墜の理由。そこが僕達には分からないんだ」


「撃墜……でしたか」


 ()()()()がそんな選択を何故した?


「ああ探索艦によってね。その時の記録があるけど見るかい?」

「……いえ」


 証拠。つまり事実。

 政宗は自分の最終目的を知っている数少ない人物。お互いに信頼しているからこその場で嘘をつく意味がない。

 だからこそ分からない。生粋の探索部部員であるアトラスの心情が。


「そう? とにかくここ数週間、探索部を中心に事態が動き始めたモンだから、一部の者が「本当にこのまま静観していていいのか」って慌てだしてね」

「慌てだした? …………もしや中将が?」


「はは、流石はサラ。まさにその通り!」


 ニヤける政宗。


「裏からちょっと煽っただけで期待通りの反応をしてくれてね。そのタイミングで始まったCエリアへの大攻勢とその後の探索部から(調査部へ)の報復を見て、奴らは右往左往しだした」



 ──ダシに使われたか。まあ悪い気分はしないが、それより……



「報復……フフ」


 ナイスアシストに頬が緩む。

 この報復はストーリにはない事態であり双方にとって文字通りの「想定外」な出来事。



「それで「あの方」側につくか、探索部……と言うかサラ側につくかで揉め出してね」

「はい」

「これを好機と捉え、多数派である政府寄りの穏健派の切り崩しを始めたんだけど、既に半数近くが「あの方寄り」に鞍替えしていたことに気付いてね」

「……それは不味いですね」

「確かに不味い。で、僕達も巻き返す努力はしたんだが半数に持っていくのが精一杯だった」



 ──天探女(アメ)の推測が当たっていたか。



「そこで一発逆転を狙い、忙しいとは思ったが君を呼び戻したんだ」



 ──最悪の事態、いや今までが最悪だったのだから、事態が好転してきたと捉えるべきか。ただどちらにしても整合部の有様(ありさま)など()()()()()()()()



「そうでしたか。しかし……ここは相変わらず呑気そうで逆に安心しました」


 嫌味を込めて言う。


「いや〜恥ずかしい限りだ、全く」


 政宗に対して言ったのではない。それくらいは分かっているのに謝っている。


「いえ、中将閣下を始め、立派なお方も何人かは……」

「僕が? あいつらとなんら変わりはないよ」

「またご謙遜を」

()()()()()()()()、という点は一緒だろう? 違うかい?」

「…………」


 言葉に詰まる。


「ところで……エリー君とエマ君だったかな? 君の思惑通りに事は運んでいるのかい?」

「はいギリギリ。良くも悪くも」

「そうか。君の願いは叶いそう?」

「正直分かりません。まだ幾つか不確定要素が残っているので。……現状では予定の二割にも届かないかと」

「二割か……」


 この二割とは予定されている決戦のことではない。


「お話しを伺いするまでは五割近くあったのですが」

「それは整合部(うち)のせい?」

「はい。せめて今まで通り「中立」を称してジッとしていてくれたらあちらに集中出来るのですが。……正直整合部まで相手にしている暇はありません」


 そもそも進行中のストーリーに整合部は含まれていない。その前提で対策を講じているので今更()()()()()参加されても困るのだ。


整合部(うち)が敵に回ったとしての二割ってこと?」

「はい。整合部全体が敵に回った場合、情報部がどう動くかの予想も含んでの上です」

「情報部か……。でもあそこは武力も無いし直接の脅威になりえるのかい?」

「ここだけの話、現状なんとか()()()いるのは情報部の協力があってのこと。整合部よりは余程頼りになるし、信頼出来ます」


 こちらは決戦の話。

 情報部と自分との協力関係。本来は他部門の者に話すことではないが、相手が政宗なので敢えて言葉にする。

 この件を整合部所属の者に話すには少々酷かもしれないが事実なので致し方ない。


 整合部(力を持つ者)は怖がって動けず、情報部(持たざる者)は報復を恐れず動く。

 古巣は移籍の手配しかしてくれなかったのに対し、情報部は(非公式ながらも)いろんな便宜を図ってくれた。信頼に値するのは……言うまでもない。


「これは耳が痛い。ところで探索艦の性能を聞いてもいいかい? ウチの艦と比較してどうなの?」

「詳しくは(探索部)機密に該当するので話せませんが探索部(うち)の艦相手に足止め程度はできるかと」


 聞き耳を立てている者がいるかもしれないので口を濁した言い方に留める。

 唯一、両部の艦の性能を知っており性能差は歴然としている。例え1対1のガチンコ対決でも負けはない。

 ただし調査艦とは違い整合部の艦は有人である。搭乗者である探索者が感情面で折り合いが付かなければ何時まで経っても勝敗はつかない。それはそれでこの上なく鬱陶しいし時間の無駄でしかない。

 だからこそ奈緒には「躊躇うな」と助言を残してきた。


「それ程の差があるのか……それは「アリス(友人)」のお陰かい?」

「はい。本人から直接聞いていますので」

「彼女は()()にいた当時にはあまり有益な情報は流してはくれなかったんだね」


「当時の彼女は今の()()()()()()だったのでは?」


「そうだよね〜。その時の状況は僕は知らないけれど、もし今とあまり変わりないんなら僕でも見限っちゃうよね〜」


 アリスからは「短期間整合部にいた」としか聞いていない。


「中将、そろそろ本題に」


 いつの間にか政宗の後方に移動していた葵が声を掛けた。どうやら現状報告はここまでのようだ。


「え? あ~そうだね。サラ、君に戻ってもらった本来の理由なんだが、明日准将以上が参加する上級会議が開かれるので君にも参加してもらいたい、というか是非参加して欲しい」

「私が……ですか? ですが上級会議だと私の階級では……」

「そこ気にしなくていい。君にはオブザーバーというかメインゲストとして意見を述べて貰いたいんだ」

「今の状況に一番詳しのはサラでしょ?」


「…………」


 政宗の思惑。先程の説明から凡その想像は付く。だが……


「嫌かい?」

「い、いえ。中将の頼みとあらば。ただ私はその場でどのように振る舞えば良いのでしょう」


 整合部員としてか、探索部員としてか。


「ありのままの君でいい。何も考えず聞かれたことに対して心の赴くまま答えればいい。責任は僕が取るから」

「は、はあ」


 相変わらずこの人は……


「了承したと受け止めるよ? と言う事で葵君、後の説明は頼んだ」

「お任せを。では早速今晩泊まる部屋を案内するわね」





 葵の先導で中将の部屋から出る。

 葵とも久しぶりの再会。なので転送装置は使わずに歩いて向かうことにした。

 部屋から出ると葵が話し掛けてきた。


「サラ、中将は……」


 喉に詰まった言い方。


「ああ、分かっている。中将が私を第一に考えて動いてくれていることは」

「……サラ……」

「鈍感な私でもそれくらいは分かる」


 ()()()ギリギリまで呼び戻さなかった。そう()()()()


「……私が中将の秘書に選ばれた時にね、聞かれた事があるの」

「…………」

「中将がね「整合部の名の意味は知っているかい?」ってね」

「それで?」

「私が「世の乱れを正しい方向へ」って教科書通りに答えたら小声で笑い出したの。で「違うのですか?」と聞き返したら「正解は全く違う」って。その場では「我々は整合部の名に恥じない行動を取らないとこの部を創設した人達に笑われちゃうからね」とだけで結局は(答えは)教えてくれなかったの」


 整合部の名の由来。それは……


「……何故今その話を?」

「今回サラを呼び戻した事と関係があるのかなって思ってね」


「ある……あるな」


 それは政宗達の理想そのもの。


「そう……ならいつか教えてね」

「分かった」


 この話はここでおしまい、と葵は話題を変えた。二人は談笑しながら客室へと向かった。






 翌9時。

 サラがいる客室。


「サラ、準備出来た?」

「ああ、入ってくれ」


 葵が入ってきた。


「おはよう……ってそれで行くつもり?」

「中将は「ありのままで良い」と言っていただろう?」


「そ、そうね。ま、サラらしいかな」


 若干のあきれ顔。


「これは私の決意そのもの」

「分かった。もう言わない。それじゃ行くわよ」

「ああ、行こう」



 部屋を出て数分。警備兵に守られた重厚な扉の前に到着。

 扉の前で止まると前を見たままの葵が口を開いた。


「政宗中将からの伝言です」

「何だ?」


 サラも前を向いたまま。


()()()()()()議場内はほぼアウエーだからそのつもりで、と」



 ──だろうな。



 一度目線を下げてから葵に向き直る。葵も体をサラに向ける。


「承知した」


 その言葉に対し葵は手を上げて敬礼をする。

 それに対しサラは「探索部式」の敬礼で返した。


「よし、行くか!」


 掛け声と共に体の向きを変え、葵が見守る中、力強い足取りで議場へ。

 扉の先は10m程の薄暗い通路が続く。

 テンポよく歩みを進めると議場内の喧騒が徐々に大きくなってくる。そして場内の明かりが足元を照らす寸前まで来ると、先程から聞こえていた喧騒はお互いを罵り合う怒号であることが分かった。


 不機嫌なのを悟られないようにテンポよく明かりの下へ。

 そしてその身を現した瞬間、罵り合いがピタリと止まると、全員の視線が自分に向けられた。

 その予想していた反応に、怒りよりも諦めに近い感情を覚えたが(おくび)にも出さず、事前に説明があった中央のラインへと向かう。

 ラインに辿り着いた所で胸を張り、視線など気にも止めずに前だけを見据える。


 サラがいる空間は学校の体育館ほどの広さを有する議場の丁度中央であり、古代のソードラインを用いた対面式議会を模した会議場となっている。現在サラはその空間の中央に立っている。

 左右は雛壇状に座席が設けられており、数十名の上級将校が値踏みする様な眼差しで踏ん反り返って座っていた。


 15mほど先の正面には三名の男性が横並びでこちらを向いて座っている。

 さらにその三名の後方、2m程高い位置に奥行きがある薄暗い空間があり、男性? らしき人影が見えた。

 その男性? が気になり注視してみる。すると男性で整合部では見かけない服を着て目を閉じている様子が見えてくる。



 ──あの服、似た様な物を何処かで見た気が……



 周囲とは明らかに異なる雰囲気。いやそれよりこの場にそぐわない服装の方が気になってしまう。

 とここで正面にいる三人の内、中央の男性が声を上げた。


「それでは会議を始める」


 今回は「上級会議」なので、正面の席に座るのは整合部での最高位にあたる元帥となる。

 因みに現在整合部には三人の元帥がいる。


 サラから見て右手に座っている男性はサラの直属の上司である政宗中将が所属している「探索部寄り」の派閥の長の元帥。

 整合部にいた頃は雲の上の存在で会話も数えるほどしかしていないが政宗を通して思想は為人(ひととなり)は聞かされていたし、彼の助力がなければ探索部には移れなかったことから悪い印象は皆無。


 次にこちらを値踏みするような眼差しを向けている、左手にいる男性は所謂「あの方寄り」の派閥の長。

 最後に中央で背筋を伸ばして座っているのが議事進行役である「政府寄り」の派閥の長。

 この二人たは話したことはなく、見覚えがある程度の認識。


 この三人は通常時の意思決定の役割を果たしており、部員であれば誰でも知っている顔ぶれ。

 整合部の方針として、太古さながら何かを決める際には対象者を集めた会議を開きその場で昔ながらの「多数決」を用いている。なので進行役である議長の存在が重要となるが、その議長さえも参加者全員による投票で選んでいるので大抵は「派閥の原理」で決まる。

 なので最近までは最大派閥である政府の方針に沿った「政府寄り」の元帥が選ばれるのが殆ど。

 だがその原理が崩れたらしいので本来であれば「政府寄りの元帥」は左右のどちらかにいなければならないのだが……今回も定位置に座っていた。



 ──この人は無欲なのか、それとも無関心なのか。どちらにしてもこの元帥が議長を務めるのは最後だな。



 調べれば分かるが多分満場一致で選ばれたのだろう。

 そう思い、心の中で再度ため息をつく。


「お待ち下さい!」


 突然、雛壇左手から声があがり、サラ以外の全員の視線がその者に集まる。


「ここに我が整合部でない者がいます!」


 その者は座ったままサラを見ながら大声で叫んでいた。

 それを皮切りに周りの者からもヤジが一斉に飛び始め雛壇左側全てが先程入場して来た時と同じレベルの怒号へと変わっていった。


「静粛に!」


 議長役の元帥が「静かに」言うと怒号がピタッと止む。


「皆も分かっていると思うが、この者は我が整合部の部員でもある」


「ならなぜ()()()()()()を着ているのかの説明をまずさせるべきかと!」


「……ふむ。それも一理あるか。サラ大佐。説明せよ」


 サラに振ってきた。



 ──「せよ」だと? くだらん、こんな茶番……



 多分予め打ち合わせしてあったと思えるほどの陳腐な流れ。

 それでも今のサラは誰彼の為ではなく自らの目的の為、そしてこの先の仲間の負担を減らすために付き合わなければならない。


「今の私は探索部Bエリア主任として出席しているからです」


 議長に対して言い返す。


「なんと探索部だと! 議長、今この者は自ら部外者だと発言しましたぞ! 部外者が何故ここにいるのですか⁈」


 ここぞとばかり騒ぎ出す左側。


「その辺で止めよ」


 今度は「あの方寄り」の元帥が止めに入る。


「この者は資格があるからここにいるのだ。そうなのだろう?」


 背もたれにもたれ掛かりながら「探索部寄り」の元帥を見る。問われた元帥はサラを見ながら答えた。


「当たり前だ。この際、皆にも言っておくが、この者は今「探索部主任として」と言ったが、探索部の主任は整合部で言えば我等「元帥」の階級に当たる。以後、この者への発言は我ら元帥に対する言と同じ扱いとするように。まあ我が整合部に他部門への礼節を弁えぬ者は居らんと思うがな」


 打って変わり静まり返る議場内。物音一つしなくなる。


 探索部は組織上、主任の上は「長」しかおらず、その者が主任の任命権を持っているのと同様、整合部の元帥の上には「長」しかおらず任命権も「長」が有している。その仕組みは(階級などは別として)情報部や調査部も変わりはない(他にも普段は各本部の専用エリアに引っ込んでいるところまで同じ)

 だが同じなのはそこまで。担当部門での立ち回り方はそれぞれの性格の違いからか微妙に異なる。


「調査部の長老」は何をするにも何を決めるのも一々口を挟んでくると、部外者でも知っている程有名な存在。因みに女性である。


「探索部の長老」も女性でサラの第一印象は芯の通ったお淑やかな普通の女性。

 ただ余程「運が無い」のか、片手の指程度の回数しか会ったことがなく詳しい性格までは分からないが、本部勤務の者によれば頼もしく思慮深い人との好印象の評価しか聞えてこない。

 確かにこちらの要望を(本部長に)言っても、文句は言われるが拒絶されたことは一度もない。


「情報部の長老」は容姿や性格などが外部に一切伝わってこないので語りようがない。

 面識があるローナ姉妹も「長は長」としか言わないため性別すらも不明な状態。

 ただ「中立」の立場の情報部が裏では探索部に便宜を図ってくれたりと比較的良好な関係が築けていることから「長」はかなりのやり手なのだろう。


 最後に「整合部の長」だが在籍中には会ったことが無く、唯一分かっているのは男性というだけ。

 他の長達とは違い元帥クラスの者の前にしか姿は現さないと秘密に包まれた存在。

 なので「長」の立場は()()()()も相まって一部の者を除き「神格」に近い扱いなのだ。



 その「神」が選んだ元帥達。

 そしてその元帥達と同格の立場のである自分。

 元帥達は別として、ここにいる大将以下の者達はこの時点から私にヤジを飛ばせなくなってしまった。

 滑稽に映るその様子を見て、分からない範囲で()()()()



 ──私が元帥か。探索部はただ単に人が少ないだけで、元帥(主任)の下は大尉(探索者や科長)しかいないんだがな……



「議長、そろそろ本題に入ったらどうですか?」


 静まり返っていた議場内に絶妙なタイミングで声が響き渡る。

 元帥の発言の直後ということもあり、この発言に即座に反応出来る者は居なかった。


 因みに発言者はサラが良く知る人物、政宗中将。

 その馴染みある声を聞くと一度目を瞑り一呼吸で気持ちを落ち着かせてから目を開け議長を見据え直した。


「ふむ。それでは始めるとしよう」


「すいません議長」


 進行を今度はサラが止める。


「何用か?」

「私にも椅子を用意して貰えませんか?」

「…………」



 予想外の要望に、進行役の議長の動きが止まる。

 そこに左側の元帥が目を細めながら口を挟んだ。


「……必要か?」

「先程、私の立場は元帥と同等と仰られました。つまり左右の者は私よりも立場が低い者ということになる。その者達は座っているのに上位である私が立っているのはおかしいのでは有りませんか? それとも両脇の者共はただのギャラリーで、かの有名な整合部の者ですらないのですかな? それならそれでこの者共を今すぐこの場から排除すべきかと」


 臆せず堂々としたサラの挑発(リベンジ)的な発言で特に左手からの無言の威圧感がハンパ無く強まった。


「この者の言い分はもっともだ。どうする?」


 今度は右側の元帥が左側の元帥の顔をワザと覗き込む。それに対し左側の元帥はどちらとも目を合わせようとはしなかった。

 その様子を確かめてから「大佐に椅子を用意せよ。用意する椅子は我等元帥と同じ物を持って来させるように」と右側の元帥が一際大きな声で全員に聞こえる様に言う。


 これでサラの立場は元帥達と同等となった。


 そのやり取りを見たサラは今度は誰にでも分かる様に大きなため息をついた……



 ──世界の命運が迫っているって時にこいつらは……整合部の役目は既に終わっているな。



 冷めた目で周りを見渡すサラであった。


*ここの雰囲気・・二人も含めた全体の印象


*目ざわり・・目の前を飛びまわるハエと同レベル。大した存在ではないが駆除するにはそれ相応の苦労を要する。


*その程度・・サラの立場も言葉の意味も。


*部の体質・・現在の整合部は「公平・中立」を信条としており、現状を乱すものには「裁定者」として武力を行使する役割も兼ねている。これらの思想は(政宗の発言にもみられるように)「整合部」との名称になった200年程前から多くみられた。



「……」の修正はやっと半分といったところです。


あと1~2話はサラの話が続きます。


次回は遅くとも8/15までには投稿します。

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