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夜勤の夜  作者: 黒駒臣
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               *


「で、結局ダメになったんだよね。

 ね、ちょっと。聞いてる?」

 またあの咆哮が聞こえ、気を取られていた智子の手をかおるがつねる。

「いたっ」

 申し送り事項を記入している最中、隣でかおるが恋話を語っていたのだ。

 智子は「聞いてましたよぉ」と情けない声で手のひらを擦ったが、結婚する相手がいたというところまで聞いて、なぜ破談になったのかまでは聞いていない。

「つらかったけど、しょうがないよね」

「そう――ですね」

 智子はばれないように神妙な面持ちでうなずいた。

「で、きょう大部屋に入院した田中さん。彼みたいなのよね。ドキドキしちゃった」

「え、かなりのおじいさんですよ」

「もうっ智ちゃん、優しさ足りない。どこか雰囲気があればそれでいいのっ」

「先輩――前を向きましょう。まだまだ若いんですから。年下だけど、山尾さんどうですか?」

「山尾? ダメダメ、あいつ智ちゃんのこと好きだから。あんたこそ付き合ってあげなよ。好きな人いないんでしょ? 

 ま、まさか松橋先生のこと――」

「いやいやいやいや」

 智子は手と首を思い切り横に振る。

「そこまで否定しなくてもいいじゃない」

 へこんだ顔をして松橋がナースステーションに入ってきた。

 きょうは十分な睡眠がとれたのか、すっきりと目覚めた顔をしている。

「す、すみません。

 あの先輩――先生にも聞きたいんですが――地下から聞こえてくる声のこと知ってますよね――

 でもなぜ知らんふりするんですか?」

 智子は思いきって訊いてみた。

 二人の動きがこの前と同じく一瞬だけぴたりと止まったが、

「わたし巡回に行ってきます」

 すぐにかおるが懐中電灯を持って立ち上がる。

「先輩っ」

 もうもやもやしているのが嫌で、智子はかおるの腕をつかんで逃げるのを制した。

 こちらを見守る松橋にちらっと視線を送り、かおるが智子を見下ろす。

「知らなくていいし、気にしなくてもいいよ。あなたには関係のないことだから」

 今までにない冷たい声に智子はたじろいで思わず手を離した。

「でも――」

「気になるのはわかるけど、僕たちも気にしないことにしてるんだ。ボイラーの音だと思って、君も早く慣れて」

 かおるをフォローするように松橋が優しく諭す。

 まだ納得のいかない表情の智子に「とにかくあれについて、もう何も言わないで」そう言い捨てると、かおるは暗い廊下に消えていった。



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