干物系アイドルちりんたん(26)
きっとこれからラブが生まれる?!どきどきわくわくちりんちりーん!こんな感じのギャグです。ラブが生まれるかもしれない期待を込めて、恋愛ジャンルでの投稿です…。合ってるかな。
「おっはりーんちりーん!みんな、目は覚めてるかなぁ??寝てる子も起きてる子も、目をかっぴらいてぇ!皆んなのアイドルゥーちりんたんだりん!」
「うおおお!まじちりんたん萌えー!」
テレビから聞こえる超かわいいまじエンジェルボイス。彗星の如く現れたすずの国のお姫さま、ちりんたん。俺の中で爆アゲ中のアイドルだ。ミルクティー色の髪、ふわふわのツインテールがくそかわ。まじいい匂いする筈だし。あー妄想でもいい匂いだわまじ天使。可憐なステップを踏むたびチリンチリンとなる鈴の音は最早福音である。
「みんな、今日は何の日か知ってるー?そうそう!ちりんたんがおはりーん!した日っ!みんなのアイドルゥーちりんたんのお誕生日だりん!」
「ちりんたんおめでとぉおお!」
ちりんたんが番組スタッフからサプライズでケーキを貰い喜んでいる。フォークでケーキを頬張る姿もマジ天使。尊い。
今晩はちりんたんのライブ映像を見ながらケーキを食べよう。無論、ケーキはホールだ。
ボロアパートの錆びた階段を降り、中古で譲り受けた原付に跨る。ちりんたんの聖なる誕生日は快晴だ。
よし、今日もバイト頑張るぞ。
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「みんな、今日は何の日か知ってるー?そうそう!ちりんたんがおはりーん!した日!みんなのアイドルゥーちりんたんのお誕生日だりん!」
我は高瀬千里。齢25のおなごである。
いや今日で26歳、立派なアラサーである。
21インチの液晶画面の液晶の中でぴょこぴょこ飛び回っているほうじ茶色頭の生物。
あれは紛れもなく数日前の私だ。
収録映像で自分の誕生日を祝ってもらい、喜んでる私。この当日の虚しさをどうしてくれよう。
私がテレビにでるようになったのは、2年前。それまでは昼間はOL、夜は路上ライブに明け暮れ、歌手になる夢を捨て切れずに燻っていた。
2年前のある日、私の声を買ってくれた事務所に拾われ、浮かれてぼーっとしている間になぜか電波系アイドルに仕立てられておりましたとさ。
当時23歳。最初は羞恥心もあったが、近頃は立派なアイドル根性が染み着きました。そう、私はプロ!なんでもやるりん!
話は戻るが今日が私の誕生日、しかし今は午後4時。毎日の芸能活動に疲れ果てた私はこの時間まで爆睡していた。だって1ヶ月ぶりの休みだもん。結局いつも通りの自分の出演番組を見返しては1人反省会という、いつもと変わらぬ休日である。
ギブミー、おしごと!
行く行くは女優も舞台もやりたい。
ちりんたんは野心家なのだッ!
1人反省会を終えると、窓の外はすっかり暗かった。コンビニでも行こうかなと伸びをすればバキバキと背骨がなった。
ゆるゆるのパーカーとジーパン、キャップを深めに被り、ビーサンを履いて玄関の扉をあける。
「あ、こんばんはっす。」
丁度隣人が帰ってきたらしい。
見た目は大学生くらいだろうか、明るめの茶髪に人懐っこい笑みを浮かべている。近頃の若者にしては愛想がいいじゃない。
完全オフの状態で人と会話するのはいつぶりだろうか。あ、なんか心に染みるね、その笑顔。
わんこ系大学生(仮)の持つ、ケーキの袋が目に入った。
「こんばんは。お祝いですか?」
「あ、はい、そうなんですよ〜!」
照れ臭そうに笑う、わんこ。
なかなかに可愛い。こりゃ彼女も可愛い系かよ。チッ。今からイチャコラバースデーパーティーですか!そうですか!ガッデム!
「ふふっ彼女さんですか?幸せものですね!」
「いえ、彼女ではなくって…その…」
「?」
顔を赤くしながらモゴモゴと口籠るわんこ。
ん〜?どうしたんだい?恥ずかしがらずにおねーさんに教えてごらん。
「あのっ…大好きな人っていうか、アイドルっていうか、そのお祝いを一人でしようかなーなんて!」
心を打たれた。尊い、なんて尊いんだ。お姉さん涙がちょちょぎれそうよ。引かれたと勘違いしたのか、シュンとするわんこ。可愛い。犬耳と尻尾が垂れてるよ。あんたって子は…!
「天使かよ。」
あ、口が滑った。
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ビールも買ったし、コンビニのチキンも買った。ホールケーキも準備オーケー!勿論チョコプレートには『ちりんたんおたんじょうびおめでとう』と入れてもらった。今晩は楽しい生誕祭だ。
スキップしながらギコギコ音を立てる階段を上る。カバンの中を漁りながら、家の鍵を探していると、お隣さんの扉が開いた。
珍しいなぁ、いつも深夜に帰って朝早く出て行くから姿を見たことはない。
扉の影から現れたのは、小柄でほっそりとした感じのお姉さんだった。
まつげぱっちりの大きな目。小さな鼻に、桃色の唇。うお、可愛い。激務っぽかったからてっきり男だと思ってたよ。
「こんばんは。お祝いですか?」
「あっ、はい、そうなんですよ〜!」
俺の持ってるケーキの袋を見て話しかけてくれたらしい。
…正直に言おう。このお姉さん、どストライクである。あー、俺にはちりんたんがいるのに!!
「ふふっ彼女さんですか?幸せものですね!」
「いえ、彼女ではなくって…その…」
「?」
どうやら彼女がいると勘違いされているらしい…!お姉さん違うんです!むしろ貴女の生年月日を教えて下さい。僕がお祝いしたい!
「あのっ…大好きな人っていうか、アイドルっていうか、そのお祝いを一人でしようかなーなんて!」
あー!もう終わった!
ドルオタ丸出しじゃねえか。いや、ちりんたんのファンであることには誇りを持っている。恥ずべきことではないけど、このお姉さんを目の前にしてカミングアウトしたくなかった!ほら、お姉さん、大きなお目目をまん丸にしているよ!あれ、というかその顔どっかで見たことあるかも。
「天使かよ。」
お姉さんが呟いた。
その声はさっき会話していた時より高い。それが地声なのか…、いやそれはむしろ問題ではない。この声は聞いたことがある。声だけではなく、顔もその髪色も見たことがある。いや見たことがあるとかそういうレベルではない。毎朝毎晩拝んでいるご尊顔である。
「ちっちちちりんたん……?」
喉からかすり出した声に、目の前のお姉さんが満面の笑みを浮かべた。まるで条件反射のように。お姉さんの足が華麗にステップを踏む。
「おっはりーんちりーん!みんな目をかっぴらいてぇ!みんなのアイドルゥ、ちりんたんだりん!」
そこにいたのは、ちりんたんだった。
メンズのキャップを被っていたとしても、ビーサンがクタクタだったとしても、間違いなく、彼女はアイドル、ちりんたんだった。
俺は彼女のプロ根性をまざまざと目にしたのである。
つまらないものですが、クスッと笑って頂ければ嬉しいです。感想などお待ちしております。