折口おもろいランドの方が良かったかしら?
「この市には娯楽は無いの?」
折口市市長であるウチの姫様「白雪ヒメ」は切れ目の目尻をさらに細め、身長150cmの倍はあろうかと思わせる肘掛け椅子に踏ん反り返って不満げに言った
「えーまずは3丁目にパチンコバンチ、5丁目にはパチンコギャラード、折口商店街にパチンコサムソ・・」
50代にしてはガッチリした恰幅の父親兼大臣が淡々と言うや姫様がすかさず制し、
「パ・チ・ン・コ屋さんだらけじゃないのよーー!!」
腰くらいまである艶やかな黒髪ストレートを怒りにまかせブンブン振り回す
ああ・・・麗しいロンストをそんなに振り回すなんて・・後で直すのがメンドウくさい・・
「だからね!!つくるの!!娯楽を!!」
そんなめんどくさい事を言い出したのが4時間前の事でした・・・
日が傾き17時前だというのに市長室の大窓は暗闇が一面を覆う。公務中はフォーマルスーツ姿である姫様が市長である通常業務をすっぽかし、机の前ですっぷし見た目にも高そうな万年筆を片手に自分なりの娯楽を書き出しているところである・・・
「・・じょう・・・ケート・・・ランド・・」
何か生きているか死んでいるかギリギリのかすれ声で姫様が何か言っている
「市長、決まりましたか?」
大臣がえらく仕方がない様子で聞いてみた
「・・・・・・・・・・・・・・・ふふふ・・これよ!!これなんだわ!!!」
突然の大声に大臣はおろか周りのメイドや執事である僕も驚いた
姫様は世界の自信を一身に背負ったが如く椅子から降り、机の前に踊り出ては大股で仁王立ちし、我々の目の前に一枚の紙を差し出し
「競馬場!!スケート場!!迷路型複合施設!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一瞬の静寂・・そして
「折口競馬場!!ビワスケート!!折口おもしろいランド!!」
?????
「姫様・・説明を・・」
さすが大臣だ、一旦姫様を泳がせるつもりである
コホンっと可愛らしい咳ばらいをし、
「折口競馬場!!あの大東京競馬場の1.5倍規模の大型地方競馬場!!駅近アクセスに周辺にある大型ショッピング施設アオンと提携し、一定以上の馬券購入でアオン商品の割引サービス!!アオンの商品購入で競馬場施設を割引&入場無料化!!・・・完璧すぎる地域密着型競馬場。やだ・・才能怖すぎ」
「・・うむ・・」
大臣がひとしきり聞いたのち口を開く
「では、その土地はどうするのでしょうか?あの周りの土地は大地主が持つ土地です。市が介入はおろか私たちの資金でさえどうすることも出来ないのです」
すぐにムクれる姫様は「なんとかしなさいよ・・」と弱腰
「無理でございます」
大臣お辞儀をし即答
立地の良い土地はやはり大地主の力が強く残り2つの案も見事に却下された。
全て却下された姫様はとてもご立腹のようで・・
「なら何ならできるのよ!!」
市長室の大窓から見える真っ黄色な満月を見上げ、その窓の反射から微笑んでいるように見える大臣が
「一つ、妙案が・・」
ーーーーその週の日曜日ーーーー
眩しいほどの晴天。時間はお昼を過ぎるのに少し肌寒いのは季節が冬に近づこうとしているからなのか、ウチの屋敷の庭・・広さで言うと小学校の運動場程の大きさの場所では地域の子供達や保護者様達数百名以上を集め「白雪市長の歓迎パーティー」が行われていた
まあ、パーティーとは名ばかりの出店やバザー、舞台では劇、ダンス・・まあ何でもアリの折口市年末イベントを市長主導で進められていた
「んーこんな感じで良かったのかしら?」
紺の短パンと長袖体操服にフリフリエプロンを着用している姫様が出店のヤキソバを作りながら呟いていると・・
「おねーちゃん、ヤキソバおかわりいい?」
出店の向かい側から可愛らしい低学年の女の子が訊いてきた
姫様は満点の笑顔で
「さあっ!!ジャンジャン持っていきなさいよ!!」
いつも以上に騒がしい屋敷を背に・・市長の仕事は始まったばかりです