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おじさんはケービーン

作者: おん

 公園の遊歩道を歩きながら、海老名しんは考えていた。

 アイツ、怒ってるかな。


 あ、思ったより、機嫌悪いかも。

 モニュメントの前で、生田蛍はふてくされた表情をしていた。


「おーい、蛍! お待たせ」

「遅いよ! また遅刻!」


「そんなに怒るなよ、いつものことだろ?」

「だから怒ってるの。ううん、呆れてるよ、もう」


 二人は、言い合いながら歩き出す。

 周りには色とりどりの花が美しく咲いていた。



***



「センパーイ、休憩終わりっすよぉ。起きてくださーい」


 と、鶴川はるひが小走りでやってくる。


 木陰のベンチに横たわり眠っていた秦は、体を起こし、

 顔の上に乗せていた制帽をかぶる。


「夢か」



***



 ショッピングモール駐車場の入口付近。

 秦と鶴川は、警備員として車を誘導している。


「ツル、髪切った?」

「……三週間前に」


 鶴川は、秦を不満そうな顔で睨む。


「マジ? いやあ、俺の平凡な日常を揺るがす程の変化じゃないからさあ。

 坊主にするぐらいしてくれないと」


「怒りますよ」


 毎日同じようなことの繰り返し。そうそう特別なことなんて起こらないもんだ。

 そんなことを秦が考えていると、駐車場向かいの住宅街から喧騒が聞こえてきた。


「なんか向こうの方、騒がしくないか?」


 鶴川は秦に近寄って声を潜める。


「殺人事件があったらしいっすよ。パトカー何台か停まってるって聞きました」

「へえ! ちょっと見に行ってみようかな。ここ頼むよ」


 誘導棒を鶴川に強引に渡すと、秦は軽い足取りで駐車場を出ていく。


「えっ、ちょっと! センパイ! また隊長に言いつけますよ!」



***



 ショッピングモール駐車場にある警備室では、

 警備隊の隊長である栗平が、猫に話しかけながらエサをあげていた。


「お前、また美人さんになったんじゃないかぁ?」


 鶴川が大きな足音をたてて入ってくる。


「栗平隊長! 海老名さんがまた勝手にサボりに行っちゃったんですけど!

 あたしに仕事押し付けて!」


「まったく、しょーがねえな、アイツは」

「何であの人辞めさせないんです? 他の隊員に示しがつかないじゃないっすか」


「エビちゃんはなぁ、まあ、普段はあんなだけど。アイツはやるやつだ。

 なんか、そう思う。俺は信じてる」


 鶴川は、自信に満ちた表情の栗平を疑わしげな目で見た。


「まあまあ、はるひちゃん。エビちゃんの分も頑張ってきてよ。

 後で美味しいお菓子あげるからさあ」


「やったー! はるひ頑張りまーす! ってなりませんよ!

 あたし幾つだと思ってるんですか!」


「えー、23、だっけ?」

「まだ今月は22です! ていうか女性に年齢の話するなんてサイテーっすよ!」


 鶴川は怒って警備室を出ていってしまった。

 もの言いたげな目を出入り口に向ける栗平。


「はるひちゃんが先に言い出したんじゃーん……ねえ?」


 ぼやきながら猫を抱き上げる。


「俺に優しいのはお前だけだよ……最近、娘も冷たくてさぁ。パパ寂しいよぉ」



***



 その頃、秦は事件現場と思われるアパートの入口前にいた。


「うわ、野次馬けっこういるな……」


 野次馬の周りをウロウロしていると、

 秦の制服を見て、人々が道をあけた。


「通りまーす」


 秦は何食わぬ顔でバリケードテープをくぐり、アパートの敷地内に入る。


「この制服って便利だよなー、だから取り扱いが厳重なんだな。

 俺たちより丁寧に管理されてるもんな……」



***



 アパートの裏庭に出る秦。


「さすがに部屋ん中は入れねーしな」


 秦は窓から部屋の中を覗き、動き回っている警察官に気づかれないように観察する。

 質素な中にも、幼い子供がいたことがうかがえる室内。   


「何だアレ? すげーな」


 非常に難易度の高そうなジグソーパズルがたくさん飾られている。


「あれぜんぶボクがつくったんだよ」

「はあ? あんなん子供にできるワケねーだろ……って、うわあっ!」


 秦のすぐそばに子供が立っていた。


「おっ、お前、いつからそこに!?」

「おじさん、ボクみえるの?」

「俺はおじさんじゃねーよ! じゃなくて! ……あれ? お前もしかして……」


 子供の姿をじっと見つめる秦。

 この感じは……。


「もしかして……幽霊?」


 子供が目を丸くして驚く。

「すごい! そう、ボク、ユーレイなの!」


 秦はフラッ……と気が遠くなるのを感じた。



***



 ファストフード店で、秦と蛍は向かい合って座っている。


「えーっ、ユーレイが見えるの?」

「シーッ、大きな声出すなよ! そんな大げさなことじゃねーよ」


「だって、ユーレイだよ? ユーレイ!」

「つっても、ほとんど生きてる人間と変わんねーよ。

 ちょっと薄い色してて、俺以外には見えてないらしい、ってだけ」


「きっと秦くんは、心がキレイなんだね。他の人には見えないものが見えるんだもん」

「何だよ、それ」


 相変わらず、恥ずかしいことを言うヤツだ。

 秦は照れくさくなって、顔を背けた。



***



 子供が秦の顔を間近で覗き込んでいる。


「うひょわああああああ!」

「おじさん、うるさくしたらメッ、なんだよ!」


 と言いながら人差し指を口元に当て、

 シーッ、とジェスチャーする。


 しまった、昔の思い出に意識が逃避していたようだ。

 頭を軽く振り、秦は子供に向き合う。


「ねえ、おじさんって、ママのおともだちでしょ?」

「はあっ? ママ? ていうか俺はおじさんじゃない」


「だってママのむかしのしゃしんに、うつってたよ」

「ま、待ってくれ、お前のママの名前は?」


「いくたほたる」

「……生田、蛍。……蛍?」


 とんでもない衝撃だった。

 秦は愕然とした気持ちで固まってしまう。


 その時、窓の外にいる秦に大声が降ってきた。


「おい! 何だお前は? そこで何してる?」



***



 警察署のロビーの入口から、

 栗平が刑事と一緒にいる秦の姿を確認し、やってくる。


「あ、渋沢さん? どーも、どーも。ご迷惑おかけしましたぁ。

 好奇心旺盛なんですよぉ、この子。もう35なんですけど。童顔でしょ?」


「私より年上じゃないか。おい、二度と勝手に現場に入るな……入らないでくださいよ」


 秦はボーッとした表情で黙っていた。

 その後ろに幽霊の子供がずっとついている。


「やっぱりおじさんじゃん」


 ロビーの壁には、たくさんのポスターが貼られていた。



***



 外に出ると辺りは真っ暗で、秦には街灯の明かりがやけに冷たく感じられた。

 警察署の駐車場に停められた栗平の車に乗りこむ。


「何があったんだ?」


「殺されたの……俺の昔の知り合いなんです。息子が一人いて……その子も一緒に殺されたらしくて。

 アイツとは高校の同級生で、でも俺が卒業前に引っ越していって、それっきりだったんですけど。

 アイツ、シングルマザーだったらしくて。俺にはもう、何が何だか」


 栗平は運転席から静かに助手席の秦を見つめていたが、

 そのまま何も言わずに車を発進させる。


 後部座席には幽霊の子供が両足をブラブラさせて座っていた。



***



 翌朝、ショッピングモール駐車場のベンチ。

 秦は制服姿で缶コーヒーを片手に、ボーッと座っている。


 幽霊の子供が、隣に座り両足をブラブラさせている。


「おい、お前、いつまでくっついてくるんだよ? ひょっとして俺、とりつかれちゃったの?」

「ボクのことみえるの、おじさんだけなんだもん」


「だから俺はおじさんじゃない。お前のママと同い年だよ」

「ふーん」


「お前、名前は?」

「いくたやまと」


「大和か。かっこいいな」

「そーでしょ、そーでしょ!」


 ニコニコして秦を見上げる大和。

 秦は苦笑いをうかべる。


「褒められるとすぐ調子乗るとこ、そっくりだなアイツに」


 不意に、大和が遠くを見て何かに気づいたような顔をし、指をさした。

「あっ! わるいひと!」


「は? 悪い人?」

「ケーサツでしゃしんみた! おじさんもケーサツでしょ? つかまえなきゃ」


「俺は警察じゃなくて警備員。そしておじさんでもない。写真って……まさか指名手配犯?」

「ケービーン?」


「似てるやつがいたってだけだろ。

 そんなちょっと見ただけのポスターの顔写真なんて、覚えられるわけないだろ」


「ボク、おぼえられるもん! いちどみたらねえ、わすれないの」

「うそつけ……いや、そういえばあのアパートにあったパズル……まさか本当にお前が?

 瞬間記憶能力ってやつ?」


「おじさん、はやくおいかけないと、にげられちゃうよ」

「おじさんじゃ……おい! ちょっと待て、待てって……うわあっ!?」


 大和が秦の体に乗り移り、勝手に走り出す。

 そして秦の声で言った。


「いそいで、おじさん!」


『うそだろぉーっ!?』


 秦の叫びは声にならなかった。



***



 ショッピングモール施設内に入ると、男と目が合った。

 秦の制服を見た瞬間、男は慌てて走り出す。


『げっ、何で逃げるんだよ、本物じゃねーか!』


 大和は慌てて、秦の体で男の後を追いかける。

「ダメだ、おいつけないよぉ……」


『あーもう! しょうがねえな! 分かったよ!

 分かったから、俺から出てくれ! 俺が追いかける。警備員なめんなよ!』


 大和が体から離れると、秦は物凄いスピードで走り出した。


 男が階段を駆け下りていく。

 秦は、階段脇の手すりの上を足で滑り降りる。


 開けた空間に複数の不思議な形をしたモニュメントが存在している。

 モニュメントと床の間にできた空間を、秦はスライディングしてくぐり抜ける。


 男が店先のワゴンを秦に向けてひっくり返すと、

 秦はそれを、ひらりと飛び越えた。


「おじさん、すごーい!」


 男に追いつく。


「くそっ!」

 立ち止まって振り返った男は、ポケットからナイフを取り出し、

 カバーを投げ捨てて向かってくる。


 秦は男に突進した。

 予想外の動きに怯みつつ、男がナイフを突き出す。


 ナイフを持った男の手を掴んで秦は自分の後ろに向かって引く。

 男はバランスを崩し、秦にもたれかかってきた。


 秦は男の手に膝を思いきり叩きつける。

 ナイフが吹っ飛び、床を滑っていく。


 秦は男の腕を掴んだまま更に引き、その背中を掴み、床にねじ伏せる。

 そのまま背中に膝から乗り上げ、腕をねじりあげて固定した。


「確保ぉ! 応援呼んでくれ! あと警察!」


 と、秦は遠巻きに見ている人々に叫んだ。



***



 人込みから離れて、秦は床に座り込む。

 激しく息を切らしている。


「いやー、まだまだいけるもんだな……ゴホッゲホッ、ウエッホォッ!」

「おじさん、だいじょうぶ? おみずのむ?」

「だから俺はおじさんじゃなくて……まあいいか、もう」


 秦は手足を広げて床に寝転がった。


「あー、俺も年とったなあ……」

「おじさん、すごくかっこよかったよ!」

「そりゃどーも。しっかし、お前の記憶力、確かだったな。すごいよ」


 大和は満面の笑みでピースサインをした。



***



 その後、警備室では秦の功績が称えられていた。


「いやー、エビちゃん、お手柄だったな!」

「センパイ、実はデキる人だったんっすね!

 それにしても、よく指名手配犯だって分かりましたね」


「あのね! ボクがみつけたんだよ!」


 と、再び大和が秦の体に乗り移り、

 ニコニコして自分の顔を指さしながら言った。


『あっ、おい、お前また勝手に!』


「は? え、センパイどうしちゃったんですか急に。

 さっきまであんなにかっこよかったのに……」


「はるひちゃん、コイツ、ちょっといろいろあってさ。

 きっと情緒不安定なんだよ。俺たちで温かく見守っていこうな」


「ジョーチョフアンテーってなぁに?」

 秦の体のまま、子供らしい仕草で可愛らしく首をかしげる大和。


 それを見た鶴川の顔が引きつる。

「うわ、きっつ……」


「おいおいー、エビちゃん今日はえらく可愛いじゃないか。キャラチェンジか?」

「いやいや、隊長。全然可愛くないですよ、目ぇ大丈夫ですか」


 周りの人間をよそに、部屋の隅に猫を見つけた大和は、嬉しそうに近寄っていく。

「うわぁっ、ニャンコだ! ニャンコ! かわいいーっ! ニャン、ニャン」


 その瞬間、鶴川は、世にも恐ろしいものを見たような表情をした。


『もうやめてくれぇーっ!』

 秦の絶叫は誰にも届かなかった。



***



 夕暮れの公園のベンチで、秦は大和に言い聞かせる。


「いいか、もう勝手に俺の体に乗り移ったりするんじゃねーぞ!」

「はーい」


「気のない返事するとこもお前のママにそっくりだな」

「ママとおじさんは、こいびとだったの?」


 二人から少し離れたベンチに、

 高校生の男女が仲睦まじい様子で寄り添っている。


 秦はそれを、眩しそうに見つめる。



***



 高校の制服を着た秦と蛍は、

 二人とも前を向いたままベンチに並んで座っている。


「明日だね」

「そうだな」


「元気でね」

「お前もな」


「寂しくなるね」

「……そうだな」


 秦は蛍の顔を覗き込む。

 蛍は静かに泣いていた。


 その手に触れようとして、秦は少し躊躇した後、やめる。


「泣き顔ブッサイクだな。……お前はずっと笑っとけよ」



***



 秦にとって今でも忘れられない、懐かしい思い出だった。


「俺たちは、手をつないだこともなかった」

「おじさん、ママのこと、すきなんだ。ボクとおんなじだね」


 秦は、ゆっくりと俯く。


「お互いの気持ちは分かってたんだ。でも、二人とも変に意地になって、相手が言うのを待ってた。最後まで。

 そのまま、俺は引っ越していって。社会人になってこの街に戻ってきたんだ。

 どこかで偶然会えたら……って期待していた気持ちはあった。俺から連絡することはできなかった。

 アイツにはもう他に大切な人がいるかもしれないし、幸せを邪魔することになったらいけないし。

 ……なんてのは勇気を出せない自分への言い訳だった」


 地面にポタッと雫が落ち、その部分の砂が黒くなる。


 涙をごまかすように、秦は言った。

「お前、また俺の中に入ってるのか?」


「ううん、はいってないよ」

「そうか」


「おじさんは、こころがキレイなんだね。ボクのことみえるし、

 ボクがはいることもできる。ほかのひとにはできない。

 ほかのひととちがうってことは、こころがキレイだからなんだよって、ママがいってた」


 その瞬間、秦の脳裏に蛍の言葉が蘇った。


『秦くんは、心がキレイなんだね』


 彼女の表情と声が、秦の胸に鮮やかに迫る。


「……そうか」


 秦は嗚咽をこらえきれなかった。

 両手で顔を覆い、むせび泣く。


 大和が、そっとその背中に手を当てた。



***



 その夜、秦は自分の住むマンションの部屋に大和を連れ帰った。


「お前、昨日の夜はどうしてたんだ? 幽霊って寝るのか?」

「ねないけど……よくおぼえてない。そとにいて、きづいたらあさだった」


「外って……これからは俺んち来いよ」

「でもべつにボク、さむくないよ」


「お前がよくても俺が嫌なんだよ。こんな子供を冬の夜に放っておけないだろ、

 たとえ幽霊でも。心がギュッとするわ」


「じゃあ、きょうからここがボクのおうち?」

「そうだよ」


 大和がペコリと頭を下げる。

「これからよろしくおねがいします」


「ちゃんと挨拶できて偉いな。アイツ、一人で子育てなんてできてたのかって

 ちょっと不安だったけど、心配することなかったな」


 と、笑いながら秦は言った。



***



 ワンルームの室内には、筋トレ用具がいくつか置かれている。


「これなぁに?」

「筋肉を鍛えるための道具。通販番組とか見ると、つい買っちゃうんだよな」


「きたえるの、すきなの?」

「まあ、趣味……って程でもねーけど、休みの日はやることないからさ。

 外走ってくるか、筋トレするか、寝てるくらいしか」


「だからあんなにスゴイうごきができるんだね!」

「確かに仕事柄役に立つし、筋肉は裏切らないからな」


「きんにく、えらいね」

「そうだぞ、筋肉は偉いんだ」


 二人の間に不思議な連帯感が生まれた。



***



 冷蔵庫を覗く秦。


「そういや、幽霊ってメシ食うのか?」

「おなかすいたっておもわない」

「じゃあ俺の分だけでいいな」


「おじさん、じぶんでつくるの?」

「毎日じゃないけどな」

「おじさんのごはん、ボクもたべてみたかったなあ」


 秦はバナナとリンゴを小さくカットし、ミカンの皮をむき、皿に並べる。


「フルーツだけ?」

「こっからがメインだ」


 大量の納豆がフルーツの上にかけられる。


「よし、完成!」


 大和は唖然とした後、


「やっぱりボク、ユーレイでよかった」

 と顔をしかめて言った。



***



 タオルで髪を拭きつつ、秦がバスルームから出てくる。

「ふー、いいお湯だった」


 大和の姿が見当たらず、部屋の中を見回す。


「あれ? 大和、どこ行った?」

 キョロキョロしながらクローゼットの扉を開ける。


「うわああっ」


 秦は大声を出して飛び退いた。

 大和がクローゼットの隅で膝を抱えていたからだ。


「な、な、何してんだよそんなとこで! 驚かすなよ!

 心臓が口から飛び出るかと思ったわ! いや、ちょっと出たかも」


「ねむくはならないんだけど、こういうところで、こうしてたほうがおちつく」

「何だよそれ、幽霊の習性? ホラー映画って割とリアルなの?」


 大和は秦の言葉に答えず、目を開けたまま静止している。


「おい、何の前触れもなく省エネモードになるなよ。それ怖いからやめて」

「おじさんってユーレイこわくないんじゃないの?」


「俺が見たことあるのは、お前みたいにパッと見フツーの人間と変わらない姿だけだから。

 よーく見ないと区別つかないぐらいだし。『いかにも!』みたいなのはダメなんだよ」


「ふーん?」



***



 夜が更け、布団で眠っている秦。


 何かの気配を感じ、ぼんやり目を開ける。

 すると暗闇の中、大和が秦の顔を覗き込んでいた。


「ひいいいいっ」


 秦は驚いて飛び起きる。


「お、お、お前っ! 枕元に立つなよ! シャレになんねーだろーが!」

「だって、することなくてヒマなんだもん。だからこうやっておじさんのかおみてた」


 目を開けたまま静止する大和。


「だからそれやめてっ!?」



***



 おじさんと幽霊の二人暮らしが馴染んできた頃。


 ショッピングモール駐車場の警備室で、

 秦と栗平が、夜勤の合間にコーヒーを飲みながら休憩している。


 栗平は数枚の写真を秦に見せる。

 そこには学校の制服を着た女の子が写っている。


「俺の娘、かーわいいだろー?」

「はいはい、ベリーキュートですね。でも隊長、娘さんとうまくいってないんでしょ?」

「ぐうーっ、きっと今はお年頃で素直になれないだけなんだよ」


 その時、写真を後ろから覗き込んでいた大和が突然、


「このひと、こうえんでラブラブだった!」

 と秦の体に入って言った。


『大和! ダメだって言ったろ!』

 秦は慌てて大和を体から追い出す。


 一方、早口で秦に詰め寄ってくる栗平。


「何!? 彼氏がいるってことか? エビちゃん、見たのか? いつ? どんなやつだった?」

「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください」


 秦は大和をこっそり睨み、小声で尋ねる。


「公園でラブラブって?」

「おじさんが、こうえんでないたとき。ベンチにすわってたよ」


 秦が記憶の中の風景を探ると、

 公園のベンチで仲睦まじく寄り添っていた高校生の男女が浮かんだ。


「ああー、あの高校生カップルか」

「相手も高校生なのか? 健全なお付き合いだろうな?」


「いや、さすがにそこまでは知りませんよ……。

 隊長が直接、娘さんに聞いたらいいじゃないですか。親子なんだから」


「今の状態でそんなこと聞いたら『パパにはカンケーないでしょ!

 ウザイ! キモイ! もう話しかけないで!』って言われちゃうよぉー」


 栗平が机に突っ伏して泣きまねをする。


「隊長……」

 秦は気の毒そうに言い、そっと席を立ち、栗平に気づかれないように警備室を出ていく。


「……あれ? ちょっと! エビちゃん!? おーい?」



***



 ショッピングモール屋内へと歩く秦。


「いやー、ちょうど巡回の時間で助かった。付き合ってられるか」


 隣で大和は肩を落としていた。

「ニャンコ……ニャンコいなかった……」


「そういや、最近あの猫見ないな。もともと野良なんだよ。隊長がエサやるから居着いてるけど。

 今では皆に可愛がられて、いろんな名前で呼ばれてるんだ」


 大和はメロディーにのせて呟く。

「ニャンコ、ニャンコ、ニャンニャン」


「何だその歌。…………俺に入ってそういうの歌うなよ、大和。

 いや、俺に入るのもダメなんだぞ、いいな?」


 ニャンコの歌はしばらく続いた。



***



 施設内の中央広場では、

 大きなクリスマスツリーがイルミネーションに彩られている。


 その下で、男子高校生がツリーを見上げてキョロキョロしていた。


 秦は近寄って声をかける。

「どうしました?」


「あっ、警備員さん! 猫が、子猫がツリーに登っちゃったみたいで。

 上の方から鳴き声がするんですけど、よく見えなくて」


 秦も男子高校生にならってツリーを見上げる。

 確かに、子猫の鳴き声が聞こえる……ような?


「よし、登ってみるか。本物の木じゃないし、いけるだろ」

「大丈夫ですか?」

「おう、任せとけ」


 秦はツリーの土台に近寄ると、真下から見上げてみる。

 中心にやや太いポールが立ち、その頂点から吊り下げられた数十本の電飾が

 円錐形に広がってツリーに見える作りになっている。


 突然、大和が声をあげた。

「あっ、ニャンコいた!」


 足元を警備室の猫がウロウロしている。


「あれ? 何だ、お前こんなところにいたのか。もしかして上にいるの、お前の子供か?

 待ってろよ、俺が見てきてやるから」


 秦は少し離れて助走をつけ、ツリーの囲いに足をかけて飛び上がった。

 ポールに飛び移ると、するすると登っていく。


「おじさん、おサルさんみたい!」


 上の方まで登り、耳をすませる。

 鳴き声がする方を注視すると、電飾に子猫が引っかかっていた。


「うわー、ちっちぇなぁ。コイツは軽いから電飾を登れちゃったんだな」


 秦は片手で子猫をそっと抱き上げると、

 そのままポールを一気に滑り降りた。


 男子高校生が走り寄ってくる。

「ああ、よかった! 警備員さん、ありがとうございます!」


「君が見つけてくれたからだ。ありがとう」

 と言いながら、秦は子猫を母猫の元へ帰す。


「僕、猫飼ってるから鳴き声に敏感なんです。

 今日、ホントは彼女とクリスマスツリー見にくる予定だったんですけど。

 何故かこのショッピングモールは嫌だって断られちゃって。

 彼女も僕と同じで猫が大好きだから、ここにいたらきっと喜んだだろうな」


「ねえ、おじさん」

「何だ?」


 大和に声をかけられ、秦は小声で返す。


「あのひと、さっきのしゃしんのひとと、ラブラブのひとだよ」

「隊長の娘さんの彼氏? マジかよ……噂をすれば何とやら、だな」


「じゃあ、僕はこれで。本当にありがとうございました」

 と立ち去ろうとする男子高校生。


 秦は慌てて呼び止めた。

「あ、待って待って! 君の彼女に伝えてくれる?」


「彼女にですか?」

「そう。『君のお父さんの職場の猫に、めちゃくちゃ可愛い子猫が産まれたよ』って」


「はあ……、分かりました」

 と、男子高校生は不思議そうに言った。



***



 駐車場のベンチで夜風にあたる秦と大和。


「隊長と娘さん、仲直りできるといいけど」

「ふたりともいきてるんだから、なかよくすればいいのに」


「まったくだな。でも、そう簡単なもんじゃないんだよな、家族ってのはさ」

「……」


 考え込むように大和は黙ってしまう。

 沈黙に耐えかねて秦は尋ねた。


「……大和っていつまでここにいられるんだ? お前も俺を置いていっちゃうのか?」

「わからない。ボクはなんでここにいるんだろう。ママはいないのに」


「アイツより大和の方が先に殺されたらしいから、思い残すことがなかったんじゃないか。

 天国でお前が待ってると思って、急いで成仏したのかもな」


「ボクにはおもいのこすことがあるってこと?」

「さあな。俺に聞くなよ。お前のことはお前が一番よく分かってるんじゃないのか」


 大和は、心の中で呟いた。


 ボクがおもいのこすこと、たぶんあるけど。

 でもそれは、いまはもうできないことだ。



***



 ある日のショッピングモール駐車場の警備室。

 休憩時間になった鶴川が入ってくる。


「隊長。今日のシフト、海老名さん日勤で入ってませんでしたっけ」


「ああ、エビちゃんなら、自転車泥棒を捕まえたんで、警察まで状況説明に行ってるよ」

「またですか! 何なんですか、最近のセンパイは」


「今日も、『あれぇ? あのじてんしゃ、さっきとちがうひとがのってるよぉ』ってさ」

「でた、必殺・子供返り」


「見た目は大人、中身は子供ってか?」

「最悪っすね、それ」


 警備室に二人の笑い声が響く。



***



「ぶええっくしょおおおい! ああー」

「うわあ、おじさんのくしゃみだ」

「おじさんだからな」


 警察署のロビーで、秦は手持ち無沙汰に署内を観察していた。

 その姿を見かけた渋沢が、秦のところまで歩いてくる。


「またあなたか。最近ご活躍のようで」


 秦は小鼻をふくらませる。

「ちょっと特殊能力に目覚めてしまって」


 渋沢は秦をうさんくさそうな目で見た。


「渋沢刑事、そうやって眉間に皺寄せてると老けて見られますよ」

「老けっ……」


 渋沢が眉間を指で押さえる。


「ここだけの話なんですけど」

 と、秦が声を潜める。


 つられて耳を傾ける渋沢。


「実は、俺、幽霊にとりつかれてるんです」

「…………は、はあっ?」


 渋沢が動揺する素振りを見せると、

 秦は顎に手を当てて、面白そうにその様子を眺めた。


「おやあ、渋沢くんはオバケが苦手なのかな?」

「ななな何を。非現実的にも程がある! 私は目に見えないものは信じない質なんです!

 何で急に馴れ馴れしくなったんですか!?」


 頬をふくらませる大和。

「ボク、怖いユーレイじゃないよ」


 その時、秦のそばを、警察官に連れられた女が通り過ぎた。

 大和が女を目で追う。


「おじさん、あいつ」

「ん? あいつ? あの人がどうかしたのか?」


 小声で会話する二人。


「あいつのて、ボクのくびギューッてしたのとおんなじだよ」

「なっ……!」


 女は派手なネイルをしている。


「渋沢くん、あの女、殺人事件の犯人!」

「急に何ですか。何を根拠に?」

「俺にとりついた幽霊、その事件の被害者なんだ」


 渋沢は顔を激しく引きつらせる。


「ホントだよ! つめ! つめみて!」


 大和を体に乗り移らせた秦に詰め寄られ、渋沢が後ずさる。


「どっ、どうしたんですか。からかうのやめてください」

「ボク、あいつにころされた!」


 大和が秦の体で、渋沢の腕に縋りつく。


「わわわ、分かりましたから! ちょっと離れてください! 担当の警察官に話を聞いてみます」



***



 それから数日が経った。

 公園のベンチで秦は、放心したように空を見上げて座っている。


「ドラマと違って現実なんてあっけないもんだな。強盗目的、か。あんなアパートに。

 そんなことでお前たちは……」


 秦は涙を流す。


「俺が、もしあの時アイツに、蛍に気持ちを伝えていたら、こんなことになってなかったのかな。

 それでなくとも、こんなことになる前に、連絡できていたら。

 シングルマザーやってるアイツの助けになれていたかもしれない。もし……」


 俯いて頭を抱える秦。

「今更、後悔したってもう遅いんだ。俺はいつもそうだ。また遅刻だ……」


 大和が、少しの沈黙の後、ポツリと喋り出した。

「ボクもね、いまはもうできないこと、あるんだ」


 秦は顔を上げて隣に座る大和を見る。


「ママとケンカして、ママのこと、キライっていっちゃった。ホントは、だいすきなのに。

 だから、キライはウソだよ、ごめんね、って、いいたかった……のにっ……」


 しゃくりあげながら涙をボロボロ流す大和。

「でもっ、ボクも、ママも、しんじゃった。ママ、ボクのこと、イヤなこだとおもってるかなぁ……」


「……親ってのは、そんなことで自分の子供を嫌いになんてなれるわけねーんだよ。

 まあ、俺子供いないけど」


「じゃあわかんないじゃん、おじさん」

「でも、お前よりずっと長く生きてるからな、分かるんだよ。そういうもんだ。安心しろ」


「うええええうううううー」

 大和が大声で泣き出す。


 思わず秦は吹き出した。


「あっはっは。おっまえ、ママより泣き顔ヒドイなぁ。ずっと笑っとけよ。笑った顔はそっくりなんだから。

 ……つっても、俺はもう、アイツがどんな顔で笑ってたか、どんな声で俺を呼んでいたか、思い出せなくなってきてるんだ。

 だから、お前の能力、イイよな。ママの笑顔、ずっと覚えていられるもんな」


 大和は、秦の言葉が心にしみ入るのを感じた。


 いままで、そんなふうにかんがえたこと、なかった。

 そのことばのおかげで、ボクはじぶんのこと、まえよりすきになれるきがした。

 でもそれを、おじさんにいうのは、なんだかはずかしかったので。

 ボクはたくさん、なくことにした。


 子供の泣き声は、しばらく秦の隣で続いていた。



***



 渋沢が警察署の廊下を歩いていると、若い警察官に後ろから声をかけられる。


「渋沢さん、聞きましたよ! 例の事件の犯人、捕まえたそうじゃないですか。

 それにしても覚せい剤所持容疑で任意同行の女が殺人犯だったなんて、何で分かったんですか」


 思い出し笑いをした後、渋沢は言った。

「……幽霊のお告げだ」


 笑いだす警察官。


「何ですか、それ。渋沢さんでも冗談とか言うんですね!

 でも、そっちの方がイイですよ、いつもみたいにしかめっ面してるより。老けて見えますもん」


「老けっ……」


 渋沢は顔を両手でペタペタと触り、首をかしげた。



***



 年が明け、少し落ち着いた頃。


 休憩時間に鶴川が警備室に入ってくると、

 秦と栗平が何やら話しているのが聞こえてきた。


「もうそんな時期ですか」

「今年もよろしくな」


「何ですか?」

 鶴川が二人に声をかける。


「大凧祭りの臨警だよ」

「えー、センパイって臨時警備やるんっすね」


 意外そうに秦を見る鶴川。


「大体は嫌がるけどな。エビちゃん、これだけは文句言わないよな」

「イイじゃないですか、大凧。俺、あれが空高く上がってんの見るの好きなんですよ。

 ツルも参加してみれば?」


「おお、そうだよ、はるひちゃんも参加しな!」

「大凧祭りですかぁ。子供の頃、見に行ったことありますけど、屋台に夢中で。

 あんまり覚えてないんですよね」


「俺が毎年撮ってる写真、あるぞ」

「隊長、カメラが趣味なんだよ」

「へえー、見たいです!」


 栗平が、棚からアルバムを持ってくる。

 思い思いに写真を眺める秦と鶴川。


「たくさんありますねえ」

「けっこう懐かしいのもあるなあ」


「あっ、ママだ!」

「えっ?」


 大和が、一枚の写真を指さす。

 写真には、秦たち警備員の後ろに、ベビーカーを押す帽子をかぶった女性が写りこんでいる。


「隊長! この写真、借ります!」


 秦は写真を持って警備室を飛び出した。



***



 ショッピングモール駐車場のベンチで秦は、手にした写真を見つめる。


「まさか……俺たち、こんな近くにいたことがあるなんて。

 このベビーカーに乗ってるの、大和だろ? 5年前くらいか?」


 大和が、秦の写真を持っている手に触れる。

 すると秦の目の前に、大和の記憶の映像が映し出された。


「これは……大和の記憶?」

「しゃしんみたらね、あたまのなかにうかんできたの」



***



 澄み渡る青空。

 大凧祭りの会場となっている川沿いの広い空き地は、家族連れで賑わっている。


 蛍は喧騒から少し離れて、気持ちよさそうにベビーカーを押して歩いている。


 突然強い風が吹き、彼女のかぶっていた帽子が飛ばされる。

 蛍は慌ててベビーカーのタイヤにロックをかけ、帽子を追いかけた。


 どこからかボールが転がってくる。

 ボールはベビーカーに軽く当たり、止まった。


 そこに反射ベストを着けた秦が走ってくる。

 ボールを拾い、ベビーカーを覗き込んでニカッと笑って言った。


「ボール止めてくれてサンキューな!」


 秦は振り返って大声で叫ぶ。

「おーい! ちゃんと周り見て気をつけて遊べよー!」


 ボール遊びをしていた子供の元へ走って戻っていく秦。

 その直後、蛍が帽子を持って戻ってくる。


「ごめんねえ、お待たせ。あら、なーに、大和。ずいぶんご機嫌じゃない」


 赤ん坊の大和が、ベビーカーの中でキャッキャッと笑っている。



***



 秦と大和は、手を触れ合わせたままベンチに座っている。


「ボクとおじさん、まえにあったことあるんだね」


 秦は、目を潤ませて言った。

「ありがとうな、見せてくれて」


「おじさん、またないてるの? なきむしだなあ」

「うるせ。年とると涙もろくなるんだよ」


「ホントにおじさんは、ボクがいないとダメダメだね」


 そう言うと大和は、腕を伸ばして秦の頭を撫でた。

 穏やかな日差しが二人に降り注いでいる。


 だから、ママにはそっちでもうすこし、まっててもらおうとおもいます。

 ごめんね。


 大和は空を見上げて心の中で語りかけた。



***



 大和の記憶には、いつかの情景がある。


 アパートの部屋の中を西日が照らしている。

 真っ白でとても小さなジグソーパズルの最後の一つをはめる大和。

「できたあ」


 蛍が大和の頭を撫でる。


「すごーい! またこんなに速く完成しちゃったの? 大和は本当に記憶力がいいわね。

 あなたの力はね、きっと誰かの役に立つ時がくるわ。

 どこかで大和のことを必要としてくれる人が待ってるの」


 不思議そうな表情をする大和を、蛍は柔らかく微笑んで抱きしめた。



***



 いつものように秦が施設内を巡回していると、

 携帯している無線機に連絡が入った。


 栗平の声が聞こえてくる。

『えー、こちら警備室。海老名隊員、取れますか、どうぞ』


 秦は胸ポケットに着けたマイクで応答する。


「こちら海老名です、どうぞ」

『こちら警備室、先ほど中央広場にて、お客様のスーツケースが紛失したとの連絡がありました。

 周囲を警戒し、異常を発見した場合、直ちに報告してください、どうぞ』


「こちら海老名、了解しました。これから中央広場へ向かいます、どうぞ」

『無茶はするなよー、以上』


 急ぎ足で来た道を引き返す。


「置き引きか? 大和、さっき中央広場を通った時の風景、思い出せるか?」

「うん!」


「スーツケースって言ってたな……隠せるようなもんじゃないし、

 広場にあったのを持ってるやつがいたら、そいつが犯人だな」


「えっとねえ、さっきはね……はじっこのベンチのとなりに、あおいの、あったよ。あんまりおおきくないやつ」


「青い小さめのスーツケースだな。大和、お前も周りよく見て探してくれ」

「りょーかい!」


 右手をビシッとこめかみに当て、敬礼のまねごとをする大和。

 秦は柔らかく微笑んだ。


「それは帽子かぶってる時にやんだよ」



***



 警備室に鶴川が制帽を脱ぎながら入ってくる。

「まーた何か事件が起きたんですか?」


 手にしていた無線機を置く栗平。


「今エビちゃんを行かせたから大丈夫だろ。

 前と違ってエビちゃん、生き生きしてるよなぁ。燻ってた情熱が爆発したみたいに。

 たまに子供みたいな時あるのは、その反動かもなあ」


「あたし、最近センパイのアレが一周まわって可愛く思えてきたんですよね。

 ギャップが癖になるっていうか……」

「えっ!?」


「……隊長、隊内恋愛ってアリですかね?」

「えええっ!? えっ、ちょっと、はるひちゃん……えっ?」


「そうだ、隊長、また美味しいお菓子くださいよ。

 後でセンパイにも持っていってあげて一緒に食べよーっと!」


 機嫌よさそうに部屋から出ていく鶴川。


「ええーっ……」


 栗平が呆然としているところに、猫が子猫を連れてやってくる。


「おっ! お前、子供見せに来てくれたのかぁ?

 聞いてくれよ、今度、俺の娘がお前たちを見てみたいってここに来るんだぞーっ、楽しみだな!」


 と、栗平はデレデレと猫の頭を撫でながら言った。



***



 ショッピングモール施設内に流れている音楽に合わせて、

 歌を口ずさむ秦。


「もーっ、おじさんもマジメにさがしてよ」

「大和だって、時々よく分かんない歌、歌ってるだろ」


「おじさんは、キンチョーカンがたりないとおもう」

「なんか最近、お前、難しい言葉使うようになってきたよなあ」


「ボクがいるからって、ラクしようとしてるでしょ!

 ホントにしょうがないなあ、おじさんは」


「そう言うなよ、追いかけて捕まえるのが俺の役目だろ?

 役割分担だよ、適材適所ってやつ?」


「よくわかんない」

「信頼してるってことだよ、相棒!」

「アイボー? ……あっ!」


 大和が前方を指さす。

「あれ!」


「よしきた!」

「おじさん、ゆだんしないでよ」

「はいはい」


 秦は制帽をしっかりとかぶりなおす。


「俺たちから逃げられると思うなよ!」



(了)

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