第95話 今回の誤解はそのままでもいいと思う。
私はケイと別れ、近くの雑貨屋さん等を覗きみる。
実は小物とか好きなんだよね。
まあそれをケイに言ったら「趣味があるっていいよなー」と言われた。
そういえばケイの趣味って知らないかも。
思えば、私はあまりケイの事を知らない。
まだ出会って数ヶ月しか経ってないし、師弟関係で定着してるから、なんかこれ以上関係性に進展は無さそうな予感しかしないし。
「………ダメダメ。前向きに前向きに」
昔――私の遠い前世、ケイに言われた言葉を思い出す。
――どうせ暗い事なんて考えていてもつまらんだけだ。もっと明るい事を考えてみろ。その方が、人生楽しく生きられるしな。
ケイはあの言葉をどういう思いで言ったのかな? 最近、私は思うようになった。
そして、最近はよく前世の事を思い出すようになった。
なんでかなぁ?
そんな思考に暮れていると、いつの間にか知らない道を歩いていた。
ってかどこ見て歩いていたの私。結構日陰だし、裏路地感のある怖い雰囲気なんですけど。
思考の暮れてるなんて、やっぱ弟子は師匠に似るのかな? と、考えてしまったが、今はそれどころじゃないでしょ! と、頭を振って雑念を追いやる。
「ここ………本当にドコ?」
現在道を引き返しているけど、まあほぼ考え事をしながらの歩行だったので覚えている訳もなく、完全な迷子になった。
それどころか、今自分がどこら辺にいるのかも分からない始末…………。
「ここ………魔法はご法度なんだよねぇ…………」
ケイには負けるけど、学園での魔法成績は学年二位なのだ。
でも、そんな私でもバレないように魔法を使うのは無理。
多分『隠蔽』スキルとか使った技だろうから私も使いたいけど、さすがに練習無しだとキツイなぁ…。
どうしよう? そう悩んでいた時、突如近くから悲鳴があがった。
「………助けた方が………いいかな?」
私は一応声のした方角へと進む。
いや、だってねぇ? まあ現場見て助ける助けないは決めよう。うん。
悲鳴の聞こえた場所は私が来た道から絶対に大幅に逸れている道だけど、帰る道もどうせ分からないので構わない。
…………………助ける助けないはその状況とか様々な判断してからだよ? 私何回もケイから「無闇に事件に首突っ込むな」と言われているんで。
あ、ライアお姉ちゃんからも「もう少し考えて行動しましょう」って………まあ困ってる人がいたら助けたくなるのは仕方ないと思うけど。
そんな事を考えて移動していれば、すぐに悲鳴のあった場所に着いた。
私は『隠蔽』スキルを発動させる。
これだけはケイと会う前からお母さんお父さんに鍛えられていたからかな? 確か5歳くらいの時にスキルレベルMAXになってたんだよね。
まあ、その『隠蔽』スキルでも、ケイからはバレるけどさ。
私はきちんと『隠蔽』のが発動しているか確認して、様子を窺う。
ちなみに『隠蔽』スキルは自身を『見えない繭』で包むような感覚がある。
ケイに教わった事だけど『隠蔽』を使っていると、陽炎のような光の屈折が起こり、よーく観察すれば、すぐに分かるらしい。
最近は『隠密』のスキルも習得したから、両方かける技術を習得しようとしているけど、まだ出来ない。
なら、見つかる確率の低い『隠蔽』を使おうという考え。
そもそも『スキルの同時発動』って、ほぼ才能なんだよね。
ケイは息するように使っているけど、『魔法の同時発動』は――あ、魔法なら同時発動が出来る。
二つまで。
一応ケイに『スキル同時発動』のコツを聞いてみた所「魔法の同時発動とは違うんだよなぁー。俺も最初は苦戦したわ。まあ魔法より簡単だから難しく考えるな」と言われた。
確かにイメージしなくてもいいのは分かるけど…………って違うでしょ。
私は現状を思い出す。
現在事件現場覗いている最中なんですけど。怪し。
とりあえす、普通に聞き耳をたてる。
「――止めて! ボクは何もしてないよ!」
「うるせぇ! ごちゃごちゃ喚くなゴミ虫がよぉ!」
――うん。私、暴力系はちょっと無理です。
さて、私は行きますか。
私は『隠蔽』しながら、その場から離れる。
ちなみに『隠蔽』は足音などの『音』を消すのは得意分野なので、走って離れてもよかったけど、体力的な意味で無理でした。
■■■■
さて、気をとりなおしてどうしよう?
私は道の端で空を見上げる。方角を知るために。
まあここはケイとライアお姉ちゃんにみっちり鍛えられたので、世界中何処にいても方角がわからない場所はない。
「えーと………あっ」
空を見ていたら、誰かにぶつかった。
誰だろう? もしかして、お婆さん? 目が見えないのかな?
「す、すまない………ぶつかってしまったな」
「え、ええ………だ、大丈夫れす」
ちなみに私も交流関係が昔からまあそれは無いので、ほぼ身内とか親しい関係の人とじゃないと緊張してしまう。
さっきも噛んだし。
そして私がぶつかったのは高身長で素肌が色白で顔も整っててたぶん女性なら誰もが想像するような身体をしている金髪翡翠眼美人さん。
服装からして………冒険者かな? 赤いドレスのような防具がめっちゃ可愛い。
「怪我はないか? 調子は悪くないか?」
「は、はい、だ、大丈夫です」
あれ、結構過保護で超絶美人なお姉さんに私の中でランクがアップした。
いやまぁ………嬉しいですけどね?
お姉さんは私に手を差しのべる。
実は腰が抜けた。
お姉さんが美人過ぎて。
「………大丈夫そうだな………怪我はないか?」
「そ、それ、二回目です」
すいません。挙動不審で。
私はお姉さんに支えられながら立ち上がる。
あ、いい臭い。香水かな?
あと、お姉さんは結構抜けている場所がある。
「ああ、すまない。けど、何も無いならよかった…………」
お姉さんはホッとしている。
私? 緊張しまくってるに決まってるじゃん。
「ところで、何故キミはこんな場所にいるんだ?」
お姉さんの質問に、ドキッとした。
主に「あ、聞くんですか」という意味で。
まあ話題がないもんね。
……………本当のこと言うのが恥ずかしい!
「え、え~と……………道に………迷ってしまって…………」
恥ずかしい。恥ずかしくて最後の方ゴニョゴニョだったのですけど。
それでも聞こえたらしく、お姉さんは「そうか………」と言う。
「実は………私も迷ったんだ」
少し詳しく話を聞くと、どうやらお姉さん――アグリピナさんはギルドのお使い終了後、この路地で迷ったらしい。
お互いに自己紹介と迷った理由を言って、私達は同時に笑ってしまった。
それはお互いの状況が似ていたから。
数分笑ったら、少しは元気も出てきた。
それはアグリピナさんもおんなじだったようで――
「――ふぅ………そろそろ戻る道を探そうか」
「そうですね」
さっきので緊張が解れたのか、普通に会話が出来る。
もしかして、狙ってやったのかな?
凄い。私達には出来ない芸当だよ。
「それにしても………ここはどこら辺なんだ? 方角さえわかればなぁ………」
え……本当?
私、それ、出来るんだけど。
「あの、アグリピナさん………私、方角はわかりますよ」
「え、マジ?」
あの、その「え? 君できるの? 凄いねー」って視線止めて! 私は子供じゃ無いんですけど!? 体型は子供にしか見えないけど、外見で年齢を勝手に予想しないでください!
私は内心誰にも聞こえない叫びをする。
いや、本当にやめてください。
「は、はい。あの――あっちが北で…………」
私はアグリピナさんに方角を教える。
ちなみに時計は持っているので、時間は分かる。
ケイが作った時計は私以外がつけると爆発するらしい。
「――成る程。じゃあこっちだ」
私はアグリピナさんに手を引かれ歩いていく。
あ、すべすべだー………って言いたいけど、私は子供じゃない! 立派な高校生――あれ? じゃあ子供だよね? それ。じゃあ幼女じゃないから!
まあそれを言えればいいけど、さすがに言えない。
申し訳なさで雰囲気がぶち壊されるよ。
なので今は、認識を改めないでおく。
アグリピナさんはどんどん路地を歩いて行く。
そのしっかりした足取りは、頼りがいのあるお姉ちゃんを連想させる。
「お、出口が見えてきたな」
アグリピナさんが前方を指さす。
確かに、あの賑わいは大通りの賑わいだ。
「アグリピナさん。ありがとうございます」
「いやいや、気にするな。私だって迷ってたんだ。ハギが方位を教えてくれたから、私達は脱出できたんだからな」
アグリピナさんはいい笑顔で言う。
うぅ、笑顔が眩しい。
アグリピナさんは手を放す。
「それじゃあ、私は急ぐんで」
「はい」
私はアグリピナさんに手を振る。
アグリピナさんも手を振りかえす。
私は見送り、また雑貨屋巡りを再会する。
さて、ハギさんの回も終わって次はケイとハギ合流――と、書きたいのですが、ここで拓哉さんと三章初期に出てきた人………人? 人じゃないので『奴』のお話を書きます。お楽しみに。
まずは拓哉くん回からですけど。甘ったるい拓哉くんの日常をお楽しみにしていて下さい。
それでは、ホラーになる可能性も大いにある拓哉くんの日常を今から書きます!(何も考えていないです)
長い後書き失礼しました。
予定では金曜日投稿です。