第58話 学園生活(初日からトラウマ確定)午後の授業
俺は教室に入る前に隠密魔法を解いた。
バレたらまた噂されちゃうよ………。
「お、帰ってきたな。有名人の啓さん」
「…………それ、本当にやめてくれません? お前の仲間にお前の黒歴史ばらしますよ?」
教室に入ると、地球からの転生者にして俺の友人、拓哉が話しかけてきたせいで、教室の全員の視線が俺に突き刺さる。
物理的に痛いわけではないんだけどさ、精神的にダメージがくるのよ。
拓哉は「ひえ~、怖い怖い」等と言ってそそくさと逃げていった。
………黒歴史、バラしますか。
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ただいま授業中なんですけどさ、どっかのクソ勇者のせいでさ、クラスの奴らにさ、見つかってさ、質問攻めにされてさ、何て言うかさ、今の気持ちを一言で言いますね。
最悪だ。
「………………」
「おい! そこ! 居眠りしている暇があるなら、この問題を解いてみろ!」
そして空気も読まず俺に問題をふってくる教師。
………ダミー造ろうかな。
「……………」
「おい! 無視をするな!」
ちなみに、ハギは先ほどの出来事を知っているので何も言わない。
………っていうか俺、すっげー悪目立ちしてね? ちくしょうしかたねぇ。解いちゃるか。
「…………どの問題解けばいいんですか?」
「…………この問題だ」
どうやら怒る気も失せたらしいな。
だったら起こすなよ。
まあ、それはさておきだ。
「え~と、『この魔法陣の構成を答えよ』……ですか」
「ああ、そうだ。早く答えてみろ」
「はい、この魔法陣の書き方だと…属性魔法でしょうか……そうですね、風属性の中級魔法の魔法陣ですか? それも、暴発する魔方陣」
俺は少し考える振りをして答えた。
そういや、ハギには魔法陣の構成とか教えていなかったっけ?
「…………」
「先生、正解は?」
「…!………あ、ああ、正解だ」
どうやら正解だったらしい。
そして、ハギには古代魔法の魔法陣の構成しか教えてなかったな。後で教えておかんとな。
まあ人間はまだ古代魔法の魔法陣の解明は出来てないから、ハギは人類の一歩先を歩んでいるな。
「ちょっとケイ? あんな魔法陣知らないんだけど」
ハギが小声で話しかけてくる。
「すまんすまん、後で教えてやるから」
「……わかった。それと、さっきの問題解いたせいで、また注目されてるよ?」
「! ………【意識操作】」
俺は魔法でクラスメイトの意識を俺から授業に誘導。
後は休み時間をどう切り抜けるかだ。
「ねぇ、さっきの魔法なに?」
「………休み時間に教えよう」
「そこ! 静かに」
いや、静かに喋っていたでしょ?
ってか今日は午前中だけでも『校内探検』的な事をしていただけなかったかな? なにが『地図見て覚えろ』だ薄らハゲ。お前の子孫を全員ハゲにする呪いでも使うぞコラ。
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「へぇ~、そういう魔法もあるんだ」
休み時間、俺とハギは俺の使った魔法と魔法陣について教えるために生徒のいない場所……異空間 (先ほど作成した)の中にいた。
「よし、これでいいだろ? 空間から出てくれ。今からここを消すから」
「は~い」
ハギは俺が作った扉 (無難な奴)から空間をでた。
出る場所は廊下の隅のほうで、俺達の教室からは近い。
そして、ハギが空間を出たのを確認した俺は、この空間の時間を外の空間の10倍の速度で進むように設定した。
これで、外の世界で30秒がこちらの10分になる。
………ダミー造りを始めよう。
「ねえケイ、もうひとつ聞きたいことが……って、なにしてるの?」
………空間を閉鎖するの忘れてたぜ。
「あれ? なんかこっちの方が時間進むのはやくない?」
そして、なんで俺はハギを『魔の叡智』使いにまで昇華させたのかな………。
「いや、まあ………あれだよ」
「………言い訳はいいから、本当の事を言って」
「…はい」
どうやら、行動が予測されているようで。
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放課後
「キャハハハハ! ハハハハハ。いや~、まさかそんな事があったなんてな。本当に笑えるわ」
そう言って、拓哉は笑う。
そして、声が煩くて周りから視線攻撃を受ける。
それが、俺にも被弾する。
そんで、俺だけがダメージを受ける。と。
………よし、こいつの黒歴史を新聞みたいにまとめて書いて、町にばらまくか。
「あのさ、もう少し周りの視線を気にしてくれませんかね?」
本当に視線に耐えられなくなってきた俺は、ついにその言葉を言った。
どれだけ我慢したことか………これで黙らなかったら本当に黒歴史バラまくぞ。
「いやいや、そんなバカな事するやつに言われたくねえよっ」
「うるせー………お前の黒歴史バラしといてやるよ」
「げ!? それだけは勘弁!」
こいつに黒歴史の事を言うと、途端に大人しくなるんだよなぁ。
だから、面白いんだよなぁ。
「大丈夫だ。もう記事にはしてある」
「ええっ、ちょっと待て! お前ばらまく気か? 俺の黒歴史をバラまく気かーーー!」
やべぇ、こいつの反応すっげぇ見てて楽しいわ。
まあ、普段のこいつに関わりたいとは思わないけど。
「っていうか、何でお前達が俺達の家に来てるんだ?」
現在、俺の家には勇者組が来ている。
解せぬ。なぜ来た。
「ハロ~で~す。お邪魔して~す」
「お、お邪魔しています」
園部さんと五十嵐さんも、一緒に来ている。
俺の家ってあまり見せちゃいけないモノもあるんだけど……。
まあ、何重にも封印が施されているから大丈夫か。
「………うん、まあいいよ。今回も泊まるのか?」
「ああ、そのつもりだよ」
なんでだよ。
王城のほうがいい部屋あるだろ。
「夕食は和食じゃないけどいいか?」
「大丈夫だ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫です」
……なんで王城に帰らねーの?
「なあ、王城のほうがいい飯も部屋も用意してるだろ………」
そんな言葉を言いながら、俺は思い出す。
俺が【勇者】として転生した時の事を。
「いやいや、こっちのほうが飯もうまいし部屋もいいぞ? それに………な?」
「うん。こっちのほうがいいわ。それにね………」
「はい。私はここのほうが落ち着きます。それに、お城だと……」
「いや、もういいから。本当ごめん。あの屑共にこき使われていたのね」
なんか、ごめん。
夕食の雰囲気じゃないな。
「それにさ、あの女王がさ………」
「私と露はあの女に苛められてて……」
………あれぇ? なんか王族の愚痴言い始めましたよ? 拓哉と園部さん。
……ライアに聞かせるか。
「……そんじゃ、俺は夕食つくるから」
「う、うん。私も行く」
ふむ、やはりライアに任せるしかないと思ったハギと一緒に夕食の準備を始めた。
そして――
「それはもう少し薄く切ってもいいぞ」
「うん……これくらい?」
「ああ、良い感じだけど、薄すぎても駄目だぞ」
夕食作りが料理教室になった気がする。
「…………お手伝いします」
………ライアが来た。
なんか少し気分悪そうなんだけど………やっぱアイツ等ですか。そうだよな。
そんな訳で、俺が夕食作り、ライアがハギに料理を教えるということになり、勇者組は駄弁っている。
………勇者組を働かせたい。
それが俺達三人共通の思いです。