第45話 不審者
帰り道、俺はハギに叩き起こされて、バレないようにこっそりと、ハギもこっそりと帰路についていた。
その理由は俺が悪目立ちしすぎたからであり、ハギが普通に目立ち過ぎたからである。
その事については、俺もハギも反省している。
しかし、予想外の出来事というのは起こるものだ。
不審者が俺の家の前にいるのだ。
それも3人。男、女、女の3人である。あ、勇者じゃん。
我が家の入り口を陣取っているかのようだ。
勇者と分かった理由は鎧だ。
あんな金ピカな鎧は勇者しか着けないからな。
俺達を見つけた男の勇者が、こっちへ来た。
しっかり目以外は隠しているのね。
しかし俺は『幻惑魔法』で隠れた。
そして、何も対処をしていないハギだけが捕まった。
「おい! 出てこい!」
勇者はハギの首にナイフを突きつけている。
まあ、普通の人だったらそれで怖がるだろうけど、一応ハギは俺の弟子だ。
俺の『1ヶ月でできる! 知力・武力・魔力の育成』という名前が適当すぎる鬼畜修行に何とか耐えたあのハギだ。
今更刃物でどうこう言ってちゃ破門だ破門。
『それじゃあ、人質を解放してくれないか? でないと――』
俺は声を変えて勇者に迫った。
勇者はどこから声が聞こえているのか分からず困惑している。
まあ困惑させてるのは俺だけど、ここまで模範的な反応してくれる人がいると嬉しいな。
「殺すぞ」
俺はそのまま背後から男に寄り、声を戻して勇者の首筋に『魔力変換』で創ったナイフを置いた。
これは『精霊神』になってから使えるようになった『技能』で、魔力を想像した物質・形状に変換する魔法だ。
勇者が動揺する気配を感じる。
「動くな。そのまま人質を解放しろ」
「くっ、卑怯な!」
「卑怯? 人質をとったお前が言える言葉じゃあないよな。それとも、人質は卑怯ではない。とでも言いたいのか?」
いや、俺は人質が卑怯だとは思わんよ? それも立派な『生き延びる為の術』だと思うし。
まあでも、お陰で勇者が一瞬だけの隙を作った。
今がチャンス。
「あ……」
俺は勇者を空間に強制的に拘束してハギを助けだした。
それと同時に『幻惑魔法』を解除する。
どうせ名前も顔も知られているだろうしな。隠すだけ無駄ってもんよ。
「それじゃあな」
「ま、待て――」
俺は勇者の言葉を無視して『転移魔法』で家の敷地内に転移した。
■■■■
「――はあ、そんな事が」
「ああ、たぶん狙いは俺かハギ、または屋敷だ。ここ数日の間は警戒体制を強化する方針だ」
俺は帰った後、ライアに俺の書斎に向かわせた。
そして、先ほどの事を伝えた。
「まあここの異様は理解しておりましたが、まさかそのような強行手段に出るとは………」
「いやまあ、勇者程度じゃあこの家の鍵は開けられねぇよ」
「そうですが、ハギにこの事は……」
「ああ、言っていないし、後の面倒を考えると言わないほうがいいんだけど……」
俺はライアからの「お前は面倒を私に押し付ける気しなねぇだろ?」という俺の図星をつく視線を無視して、書斎の扉を見ながら言う。
そこからは少しだけ、素人では分からないであろうくらいの少量の魔力が感じとれる。
「聞いているんだろう? ハギ」
そう言うと、ハギは『幻惑魔法』と『隠密』をといて、書斎の入り口に姿を現した。
ライアは驚いている。
「バレちゃってたか………ねえ、さっきのどういうこと?」
ハギの表情に、恐怖が見えた。
はぁ、説明面倒。ライア、後は任せた。